踊りませんか?
「踊りませんか?」そう声を掛けられ
一瞬身を固くする。
そこに居たのは 冷徹と噂される
侯爵子息だった。
私は、差し出された手に視線を置き
こわごわとその大きな手に自分の細く白い手を置く
そうして広いダンスホールまで手を引かれ
広い空間に誘導される。
オーケストラの楽団の人達が自分の担当の
楽器を構え そうして曲が始まる。
最初はバイオリンの音色から始まり
高らかに響き周りの人達がターンや
ステップ そうしてくるくると回り
曲に合わせて それぞれのダンスが
思い思いに始まった。
何故 侯爵が私の手を取ったのかその
怜悧な青い瞳の中にわずかな皮肉が
混ざっており口元も意地悪く口角を
上げていた。
「笑みが引きつっていたぞ あまり不自然に笑っていると口元に皺が増えるぞ!」
「あら侯爵様 女性の容姿を揶揄するのは
失礼に当たりますよ 寛大な私で無ければ
気分を害する所ですわ!」
「よく言う早く帰りたいと表情に出ていたぞ 俺が声を掛けなければ しつこい
令息の話しを切り上げられず いつまでも
聞いているハメになっていたぞ!」
令嬢は、ムッと口元を引き結んだ
それは、事実なので言い返せない....
しかし声を掛けるにしてもいきなり
何の脈絡も無くあんな冷めた目で話し掛けたら他のご令嬢なら怖くて逃げたして
しまうだろう
「貴方こそ女性をダンスに誘うなら
もう少しにこやかにスマートに誘えませんの あんな真顔でまるで戦地に立つ兵士の
様に威圧し過ぎですわ!」
令嬢は、不満を露わにする。
「ああ それは、すまなかった.....
他の令嬢は、可愛らしい方が多く自然と
口元が緩んでくるんだが お前の吊り上がった高慢な表情を見てるとどうも笑う気に
なれなくてな....」
令嬢は、その言葉に怒りが頂点に達し
令息の足をステップを踏む振りをして
わざと踏もうと画策するが
令息は、彼女の行動などお見通しの様に
軽やかなステップを踏んでそれを回避する
高慢令嬢と皮肉屋令息 彼女と彼は、
社交界のダンスパーティーに参加する
たびに言葉の応酬を繰り返している
その応酬が始まる合図は必ず....
「踊りませんか?」と言う令息からの
問い掛けから始まる。
そうして手袋を放る様に令嬢が令息の手に
まるで挑戦を受けるかの様に体を震わせ
武者震いをさせて 戦場と言う名のダンスホールに赴く
組み手をする様にお互いの手を重ね
ダンスの曲が終わるまでにお互い皮肉の
言い合いを始める。
それは、最早 お互いだけの恒例行事に
なっている....
それに 果たして 令息と令嬢が気付いて
いるかどうかは 最早 神のみぞ知る所と
なっている....。
10/5/2024, 12:41:58 AM