泡になりたい
君の体を持ち上げるとまるで泡みたいに
軽かった。....
「きっと私の体は、この炭酸水の泡みたいに最期には、消えてなくなるの....」
白く枯れ木の様な手を炭酸水の泡がポコポコと上がって行くグラスの滴をなぞるみたいに同じく白く細い指をグラスに添える
僕は、君の手からグラスが落ちない様に
君の手を強く支える。
そうして炭酸水の泡をじっと見て君は、
呟く....
「でも何もかも消えて無くなるより
儚く存在を主張して無色透明になって溶けて消えていける方が普通に死ぬよりきっと
幸せって思えるの...」
そう言って君は、窓の外に視線を向ける
枕に頭を預けながら.....
そして君が居なくなって一年
僕は、炭酸飲料の泡を見ると君を思い出す
本来は、積極的で活動的の君の事だから
重い体を脱ぎ捨てた君は、.....
きっと君があの日呟いた綺麗な泡になって
無色透明な心持ちで僕達の周りを楽しく
揺蕩っている事だろう....。
ただいま、夏。
照りつける太陽 じめじめした湿気
茹だるような熱光線 今やすっかり
嫌われ者になってしまった夏...
緑の木々の青々とした緑も 夏の虫達を
捕まえる子供達の笑い声も今やすっかり
なりを潜め日中は、太陽の光をうけて
熱くなり誰も近付かなくなった公園の遊具
そんな自分の季節の光景を見て夏は、
すっかり落ち込んでしまった。
(僕は、人間達に嫌われてるんだ....僕は、
もう居ない方がいいのかもしれない...)
そんな自分自身の存在にすっかり自信を
無くしてしまった夏は、季節の枠から
出て行こうと荷物を纏め旅に出ようとしてた矢先 夏を呼び止める声がして夏が
振り向くと.....「ちょっと ちょっとどこに
行くんだい 困るよ勝手に居なくなっちゃ!」
夏は「え?」とポカンと口を開ける。
「君が中々来ないから海である僕の所に
人が来ないじゃないか!!夏は、稼ぎ時だって言うのに....」そんな言葉に重ねる様に
更に声が聞こえた。
「僕だって困るよ!花火である僕はこの
年に一回の夏祭りの為に作られたって言うのに....夏が来なかったら僕の出番が
無いじゃないか....」
夏は、呆気に取られその場に固まる。
「「ほら早く行くよ」」そうして夏は、
海と花火に両手を取られ季節の枠に
強制的に戻されたのだった....
そうして海水浴や夏祭りを楽しむ人間達を
見下ろしながら夏は、思う...
(人間は、夏の暑さに愚痴を零し夏なんか
来なければ良いと文句を言うくせに
決して家の中で時を過ごす事を良しとしない....変なの....)そんな事を夏が考えていると右隣に居る春がクスクスと笑い出して
「夏が来ると人間は一番興奮して盛り上がるわね」そんな春の言葉を受け取ると
左隣に居る秋が「良いなあ....楽しそう」と
羨ましそうに呟く
その秋の隣に居る冬も「我の季節にも冬祭りと言う物があるが防寒の為に着込んで
居るからか体を縮こませて静かに粛々と
厳かに祭りが始まる雰囲気があるが
夏祭りは、また一味違って人間達が活き活きしているなあ」
そんな冬の言葉を聞いて夏は目を丸くして
そうして思わず
「あれ?夏どうして泣いてるの?」
左隣に居る秋が夏に気付いて声を掛ける。
他の皆も気付いて心配そうに夏の顔を覗き込んだ。
そんな心配顔の皆を誤魔化す様に夏は、
敢えて偉そうに「今年の夏は、一段と暑いから目に汗が流れて拭いても拭いても
追いつかないや」と夏空を見上げて
誇らし気に言ったのだった。
そんな夏の姿を見て他の季節達は、
楽しそうにクスクスと笑ったのだった。
『おかえり、夏』
『ただいま!』。
ぬるい炭酸と無口な君
照りつける太陽に立ち向かって行く様に
全身汗だくな君 ぬるくなって炭酸が
飽和状態のコーラを喉仏を上下させ
ごくりと言う音を立て黙って飲み干し
また走り出す君の姿を私は、口角を緩く上げ目元を細めながら優しくフェンス越しに
見守るのだった....。
風鈴の音
チリリンと耳元で涼しげな音が聞こえる。
ふと視線を横に向けるといろいろな模様の
風鈴が軒先に飾られていた。
金魚 水草 波模様 どれもこれも夏を
思わせるデザインばかりだった。
しかしその風鈴に見入っていたのは
体感時間にしてほんの数秒だった
私の足を進ませたのは、頭上で照り返す
灼熱の太陽だった。
気が付けば私の肌に大量の汗がまとわりつく 私は、急いで走り出し
自宅のエアコンが付いているリビングと
冷凍庫に入っているアイスを求める様に
思考を切り替える。
最近の異常気象のせいで夏の気温は、
どんどんと上がり地域によっては40℃になる所も少なくない
気付けば風鈴の音で涼を感じる者より
直接的な冷たさ 涼しさを求める者が多く
なった。
私もその例に漏れず..... 冷たさを求めてしまう傾向にある。
昔の夏を私には、想像する事しかできないが..... 穏やかな暑さの中で緑の葉の匂いに
囲まれ風鈴の音に耳を澄まして自然の涼を
感じる人が今よりきっと多い事が今の私には、少し羨ましく感じた....。
空恋
「あなたに会いたい...」 空に願うは、
それ一つきり 恋焦がれ 恋焦がれ
待つ日々は、苦しく 切なく あなたを
思うばかり.....(by織り姫)
君の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない...
待つ日々重ねて君思う.....
君に触れられる日を待ちわびて
恋焦がれ 君思う....(by彦星)
二人の願いは、人々の願いに導かれ
夜空にきらきらと輝く白い星の光になって
二人が分断された岸と岸に乳白色の
架け橋を架ける。
その瞬間 二人は、駆け出し
手に手を取って抱き締め合い 自分達の
体温をお互い確かめ合う....
そうして離れていた月日を補う合うように
お互いの温もりを交換し合うのだった...。