心の深呼吸
はっ はっ はぁ はぁ
息が出来ない 呼吸が苦しい 息苦しい
息を吐いても吐いても楽にならない....
押しつぶされる期待 焦燥
潰されそうな重圧や不安感
僕は、頑張っている 十分頑張っている
けれどまだまだ足りない 実際には、
まだ全然頂点にすら届かない
全力疾走しているみたいに息が苦しい
ねぇ....僕は、いつまで頑張れば良いの?
立ち止まりそうな足を必死に前に動かす
止まりそうな足を....
本当は、もう....止まりたいのに....
そんな僕の心の心象を見透かした様に
ぽんと肩を叩かれる。
「おはよう!」何気ないその一言が僕を
不意に緩ませる。
君は、そんな僕の心の中など知らぬ様に
軽やかに僕の前を駆けて行く
そうしてその穏やかな優しい風に吹かれて
あんなに頑なだった僕の足は、自然と
止まった。
そうして僕は、立ち止まり心の中で深呼吸をして君を追いかける様にまた走り
出したのだった....。
吹き抜ける風
バシュという小気味良い音と共に
私の目の前に一陣の風が吹き抜けた様な
気がした。
弟がサッカーゴールにボールを蹴り込んだ
音が私には、まるで風が吹き抜けた様に
感じたからだ。
中学からサッカー部のエースだった弟は、
高校になっても続けていた。
「ったく良くやるよなこのサッカー
バカが!」とつい私は、弟に悪態をついて
しまう....
私自身には、好きな物も得意な事も何も
無くて見つからないのでこれは唯の
やっかみ 八つ当たりだ日々を充実して
生きている弟につまらない嫉妬を抱く
そんな自分は、凄く性格が悪いだろうと
自覚もしながら....
そんな私のつまらない皮肉に弟は、
ぶっきら棒に返す。
「お前暇ならパス出ししろ!
一々ボール置くの面倒くさい....」
「何 弟のクセに姉に命令してんだ!
姉を働かすとは、良い度胸だ金取るぞ
この野郎!」
「こんな簡単な作業も出来ない奴に金なんか払うかよ!」
私は、弟の言葉にカチンと来て
「ほらよ!」と無造作にボールを弟の近くに放った。
余りに雑に放った為 弟の居る場所から少しずれたが弟は、気にせずボールを足で
受け止めまたバシュとボールをゴールネットに蹴り上げる。
そうしてまた風が吹き抜けた様に
ボールは、ゴールネットに収まった。
(クソ何であいつ私の弟なのにあんなに
格好良いんだろう....)
弟は、学校では、友達が多く異性からも
好意を持たれる事が多く告白されるのも
一回や二回じゃ効かないらしい....
対して私は、コミュ障で家族以外の人には
緊張して中々話せず去年までは、所謂ぼっちだった.....
今年 高2になってやっと仲良い友達が
何人か出来たものの今度は、集団での
お喋りに気後れしている自分がいる....
(何で私は、何もかも上手くいかないんだろう....) 自分が情けないと思いつつ
弱味を見せたくなくて周りに虚勢ばっか張って悉く失敗する....
そんな事をウジウジ考えていると....
「おい....何やってんださっさと投げろ
練習にならねェだろう」と弟が鋭い目付きで睨んで来るので私は、そんな弟の表情に
何故か涙目になって えいやと両手で
次のボールを思いっきり投げる。
途中投げる時に涙で目を瞑ってしまい
ボールの軌道を一瞬見失ってしまった....
(まぁ弟の事だからどうせまたゴールを
決めるだろう...)と思っていた私は、
目を開けると弟がサッカーボールを両手で
持って私の目の前に立っていたのに気付かなかった。
弟が鋭い目付きで私をじっと見下ろす
何だろうと思っていると....
急に弟の大きな手が私の頭の上に載っかる
そうしてわしゃわしゃと弟が私の頭を髪の毛ごと優しく撫でた。
「わぁ何だよお前 急に....触んな
髪の毛がボサボサになるだろう....」
そうして私が頬を膨らませて弟を睨むと
弟は、私の顔からバツが悪そうに視線をそらしぼそっと言う
「姉ちゃん....俺....来週のサッカーの試合
頑張るから....暇なら見に来て....その....
友達も連れて来て良いから....」
私は、その言葉にキョトンとして
一瞬 幻聴かと弟を見上げるが弟はもう
私に背中を向けていてその表情は、
見えなかった。
私は、弟の背中を見ながら 頬をフッと緩ませ弟の横に並び自分より大きい弟の背中を叩きながら....「仕方ねぇなあそんなに
お姉ちゃんに応援に行って欲しいのか
可愛い弟め!」私は弟の腕にぐりぐりと
自分の肘をぶつけ....
「可愛い弟の為にお姉ちゃんが一肌脱いで
応援に行ってやるよ!!」
私は、さっきまでのもやもやを忘れ弟に
晴れやかな笑顔を向けたのだった....
しかし....そこで終われば良いものの...
弟の「お前寝坊すんなよ」と言う一言で
台無しになり私は、弟の脛をげしげしと
蹴ったのだった....
「お前さっきのデレはどこ行ったあああー
一瞬でツンに戻るんじゃねェェー」
そんな私の叫びも無視し弟は、何事も無かったかの様に家路への道を歩き続けるのだった....。
秋風🍂
秋風さん 秋風さん 今年もたくさんの
秋の実りを運んで来てくれてありがとう
秋風さん 秋風さん今年も色とりどりに
色づいた葉っぱさんたちが木々を染めて
綺麗だよ!
秋風さん 秋風さんいつも私達を優しく
見守ってくれてありがとう!
今年もどうかよろしくね!!
moonlight
月明かりと一緒に街灯の明かりが揺れる。
星々も瞬いて、夜空のスポットライトの
様に道々に光を灯し導と差す。
それは、月の道 揺蕩う朧月夜
寝静まった夜に主張する様にゆっくりと
この街を柔らかく包んでいる。
優しい揺り籠の様に.....。
コーヒーが冷めないうちに
「コーヒーが冷めないうちにどうぞ」
そう言って正面のソファーに座る
貴婦人にコーヒーカップに入っている
コーヒーを勧められる。
私は、そっとカップの取っ手を持つと
ゆっくりとコーヒーを啜る。
猫舌の私は、もう少し冷ましておきたかったが そんな事は、お首にもださず
なに食わぬ顔で貴婦人に穏やかな笑顔を
向け「ありがとうございますとっても
美味しいです」と辺り触りの無い感想を述べる。
そうして、暫くの沈黙が続き貴婦人が
ソーサーからカップを持ち上げコーヒーを
啜るとおもむろに切り出した。
「それで主人は、帰らないと貴方に仰っているのね?」
貴婦人のその尋ねに対し私は、正直に
「はい...」と顔に苦笑を浮かべながら
述べた。
それに対して貴婦人は、はぁと呆れた
様に溜息を吐いて眉間に皺を寄せ続ける。
「全くあの人は良い歳して夫婦喧嘩で
私に言い負かされた位でヘソを曲げて
貴方にも迷惑を掛けて信じられないわ!」
夫人は、片手を額に当てて呟いた。
それに対して私は、再び苦笑して
「先生も奥様を思ってした事ですので
そこら辺はご勘弁をお願いします」と私は、深く頭を下げた。
それに対して夫人は、顔を少し俯けて
「分かっています!私とあの人の結婚記念日ですもの....奮発してくれるのを嬉しく思わ無いわけないじゃありませんか....唯...」
夫人は、落とした視線を自身の左手の薬指に注ぐ....「それでも....この指輪を
アンティークショップに返そうなんて何の気なしに言う物だからつい語気を荒げてしまったの....」
夫人は、淋しそうに顔を歪める
「その指輪は、本物の指輪では、無いですよね...」私は、夫人の機嫌を損ね無い様に
確かめる様に言葉を発した。
「ええ....でも....あの時は、あの人もお金が無かったから....石も軽いイミテーションで
リングもプラスチック製のこのおもちゃの
指輪を安く買うのが精一杯だったの....
きっとあの人にとってあの頃の自分は
劣等感の塊できっとコンプレックスなの
でしょう....」夫人はそこで言葉を切り
また黙り込む
私は、コーヒーカップを持ち上げやっと
猫舌の私でも飲める温度になったコーヒーを今度は、口の中で味わう様に飲む
そうして私がコーヒーカップをソーサーに
置くと夫人は、また話し出した。
「それでも私は、嬉しかった 値段なんて
見てくれなんて関係ないあの人が私の為に
買ってくれて真心を込めて贈ってくれたのが限り無く嬉しかったのです....
それなのにあの人は、そんなおもちゃの指輪はやめて本物の指輪を嵌めて欲しいんだ
なんて言うからもちろんそれも嬉しかったですよ....だけど....」夫人は、左手の薬指の
指輪を右手の人差し指で弄りながら幼い
少女の様に唇を尖らせる。
そうして少し拗ねた様に「これを手放す
なんて出来ません」と夫人は、きっぱりと
断言する。
私は、そんな夫人の様子を見てやれやれと
肩を竦める。
そうしてコーヒーを飲むフリをしながら
廊下に続くドアに呼びかけた。
「だそうですよ先生 愛されてるじゃないですか」私がドアに向かってそう呼びかけると控えめにドアが開かれ話題に上がっていた本人が眉を下げてすまなそうに私の向かいの夫人を見た。
夫人も自分の主人のその姿に目を丸くする。
そこからは、もう説明は、不要だろう....
コーヒーが冷めないうちに片手間に済ます
事は出来なかったが温くなったコーヒーと
反比例するかの様に二人の温度は、沸騰したばかりのコーヒーの様に周りの体も暖かくなる様な出来たてのコーヒーの温度を
部屋中に維持し広い部屋に満たし続けていた。