Saco

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ただいま、夏。

照りつける太陽 じめじめした湿気


茹だるような熱光線 今やすっかり
嫌われ者になってしまった夏...

緑の木々の青々とした緑も 夏の虫達を
捕まえる子供達の笑い声も今やすっかり
なりを潜め日中は、太陽の光をうけて
熱くなり誰も近付かなくなった公園の遊具

そんな自分の季節の光景を見て夏は、
すっかり落ち込んでしまった。

(僕は、人間達に嫌われてるんだ....僕は、
もう居ない方がいいのかもしれない...)

そんな自分自身の存在にすっかり自信を
無くしてしまった夏は、季節の枠から
出て行こうと荷物を纏め旅に出ようとしてた矢先 夏を呼び止める声がして夏が
振り向くと.....「ちょっと ちょっとどこに
行くんだい 困るよ勝手に居なくなっちゃ!」

夏は「え?」とポカンと口を開ける。

「君が中々来ないから海である僕の所に
人が来ないじゃないか!!夏は、稼ぎ時だって言うのに....」そんな言葉に重ねる様に
更に声が聞こえた。

「僕だって困るよ!花火である僕はこの
年に一回の夏祭りの為に作られたって言うのに....夏が来なかったら僕の出番が
無いじゃないか....」

夏は、呆気に取られその場に固まる。
「「ほら早く行くよ」」そうして夏は、
海と花火に両手を取られ季節の枠に
強制的に戻されたのだった....

そうして海水浴や夏祭りを楽しむ人間達を
見下ろしながら夏は、思う...

(人間は、夏の暑さに愚痴を零し夏なんか
来なければ良いと文句を言うくせに
決して家の中で時を過ごす事を良しとしない....変なの....)そんな事を夏が考えていると右隣に居る春がクスクスと笑い出して
「夏が来ると人間は一番興奮して盛り上がるわね」そんな春の言葉を受け取ると
左隣に居る秋が「良いなあ....楽しそう」と
羨ましそうに呟く
その秋の隣に居る冬も「我の季節にも冬祭りと言う物があるが防寒の為に着込んで
居るからか体を縮こませて静かに粛々と
厳かに祭りが始まる雰囲気があるが
夏祭りは、また一味違って人間達が活き活きしているなあ」

そんな冬の言葉を聞いて夏は目を丸くして
そうして思わず

「あれ?夏どうして泣いてるの?」
左隣に居る秋が夏に気付いて声を掛ける。
他の皆も気付いて心配そうに夏の顔を覗き込んだ。

そんな心配顔の皆を誤魔化す様に夏は、
敢えて偉そうに「今年の夏は、一段と暑いから目に汗が流れて拭いても拭いても
追いつかないや」と夏空を見上げて
誇らし気に言ったのだった。

そんな夏の姿を見て他の季節達は、
楽しそうにクスクスと笑ったのだった。






   『おかえり、夏』

    『ただいま!』。

8/5/2025, 12:41:24 AM