『楽園』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
甘い香りが鼻腔を擽る。
穏やかな日差し。足元に咲いた花々が風に吹かれ、鮮やかな花弁を空に舞い上げていく。
誰かが、この場所を楽園だと言った。今では誰もがここを楽園だと信じている。
訪れる者を拒まない、暖かな庭園。傷つき、彷徨った果てに辿り着いた安息の地。
いつまでもここにいたいと、皆口を揃えて言う。自分もそう思っている。そして、あの子たちもそれは変わらなかったはずだった。
「まだ気にしているの?」
不意に声をかけられ、振り向いた。自分と同じく古くからここにいる彼女が、微笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「楽園を追放された子たちは誰も戻らない。今までだってそうでしょう?」
「そうだけど……」
追放、という言葉に胸が苦しくなった。そっと胸に手を当て、あの子たちを思う。
何の前触れもなく、ある日突然いなくなってしまった子たち。楽園のどこを探しても見つからず、きっと楽園から追い出されてしまったのだと誰かが呟いたことから、いつしかいなくなることを追放されたと囁くようになった。
ここを追い出されてしまう理由は誰にも分からない。だなら余計に、どうしてという疑問が頭の中でぐるぐると渦を巻く。
また明日と、昨日別れたあの子との叶わない約束が、ただ悲しかった。
「いつまでも気にしてたって仕方ないよ。それよりも遊びに行こう?」
そんな自分とは違い、彼女は気にする素振りもない。
冷たいわけではなく、受け入れているのだと気づいたのはつい最近だった。
「追放される時が来ても、後悔のないように楽しもう?」
彼女のような考えを持つ人は案外多い。ここに長くいる人ほど、すべてを受け入れる考えに至るように感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。
自分だけが取り残されていく。
漠然とした不安を抱きながら、それを隠して差し出された彼女の手を取った。
ふと、目が覚めた。
何故だか落ち着かない。目を閉じていても一向に眠気は訪れず、密かに息を吐いて体を起こした。
仕方がない。少し外の空気を吸おうと、ベッドから抜け出した。
「――あ」
当てもなく歩き続け、そうして辿り着いたのは庭園の入り口だった。
緑のアーチがあるだけで、門扉はない。外から来る者を拒まない、優しい入り口。
今も開いているはずなのに、閉じているように見えた。
どうしてか気になって、一歩近づく。目を細めて入り口を見つめて、また一歩近づいた。
「もう、いいの?」
声がした。
振り返ると、こちらを見つめる彼女の姿。ただ静かに、立っていた。
どういう意味だろうか。首を傾げるものの、彼女はそれ以上を語る様子はない。
もう一度入り口に視線を向ける。先の暗がりを見つめ、込み上げる思いに従って頷いた。
「いいよ。もう十分」
「そっか」
近づく足音。するりと手を繋がれて、視線を向けた。
「じゃあ、また始められるね」
「――うん」
思わず首を振りそうになり、必死に踏み止まる。繋いだ手を強く握って頷いた。
「次も一緒にいてあげる。だから前を向きなさい」
厳しいけれども優しい声音。
何をまた始めるのかは分からない。ただそれか怖くて、不安で動けなくなりそうな自分に、彼女は大丈夫だと目を合わせて微笑んだ。
「また、手を引いてくれる?」
「引くよ。離すと、きっとまた迷子になって泣いてしまうもの」
「手を離したりしない?」
「ちゃんと繋いでいるわ。あなたが離したいと思うまでは側にいる」
甘やかす言葉に、小さく笑う。
繋いだ手に視線を向ける。しっかりと繋がれた手。愛しい温もり。
気づけば不安も怖さもない。彼女の目を見返して、今度は迷いなく頷いてみせた。
「じゃあ、行こうか」
そう言って彼女は前を向く。同じように自分も楽園の入り口に向き直った。
ゆっくりと歩き出す。立ち止まらずにアーチを潜り抜ける。
「――っ」
その瞬間、空気が変わった。
甘いだけの香りに、冷たさが混じる。水を含んだ土。腐った果実。生きた獣の生臭さが鼻をつく。
踏みしめた地面は固く冷たい。剥き出しの地面の荒い感触が足から全身に伝わってくる。
見上げた空は曇天。ただ暗いだけの空に、温もりは感じない。吹き抜ける風の冷たさに、小さく体が震えた。
生々しい景色。楽園の中とは違い、ここには生の厳しさが広がっていた。
思わず立ち止まる。
彼女は何も言わない。静かに自分がまた歩き出すのを待っている。
強く手を握り、一度だけ後ろを振り返った。口を開いたままのアーチ。戻ろうと思えば戻れるはずなのに、何故かもう引き返せないのだと感じる。足が戻ることを許さない。
「――お姉ちゃん」
そっと彼女を呼んだ。溢れた言葉に息を呑み、彼女を見つめ笑う。
「また、お姉ちゃんになってくれたんだ」
「そうね。また少しだけ先に行って、あなたを待ってるわ」
目を合わせて笑い合った。
彼女がいれば怖くない。繋いだ手から伝わる温もりがある限り、自分はまた世界を楽しむことができる。
どちらからともなく歩き出す。道の先は暗がりが広がっているが、怖いとは感じない。
その先に待つものを知っている。甘いだけではない、厳しい世界。
「楽園から追放されたって、皆思うんだろうな。そんなことないのに」
ふと、自分たちがいなくなった後のことを考えた。最近来たばかりの子たちは、そのことにまた怯えてしまうのだろう。
追放されたのではない。自分から出て行ったのだと伝えてあげられないことが、少しだけ心残りだった。
「案外、追放されたっていうのは間違いではないかもね。ここで怖くなって引き返しても、楽園の中には入れない。二度と戻れないことは変わらないんだから」
確かに。振り返った時に感じたことを思い出す。
もう戻れない。今更泣いて後悔しても、先に進むしかない。
「後悔してる?」
「してない。少し怖いけど、一緒なら大丈夫」
前を向いたまま、そう答えた。それは偽りのない本心だ。
「そっか」
それ以上お互い何も言わず、ただ歩いていく。
道の先。微かに光が見えて、無意識に繋いだ手に力を込めた。
この先がどんな世界であれ、自分は一人ではない。
だからきっと、大丈夫だ。
20260430 『楽園』
『楽園』
美女と過ごすダンスホール
南の島でバカンス
静寂に耳を傾ける夜
楽しみ方は人それぞれ
つれづれなるままに
楽園
真っ青なアドリア海と空の青を背景に建つ
真白い聖ヤコブ大聖堂は息を呑む美しさだ
クロアチア スプリットから北のシベニク
世界一の石造建築の教会は大理石と石灰石でできていた
その北側の入り口は「楽園への入り口」と呼ばれ、2頭のライオンが上方のアダムとイブを力強く支えている
混じり気のない澄んだ色の中そのアダムとイブに魅せられ私の起源に想いを馳せた時間
今瞳を閉じても確かに見える私の楽園
「あなたを楽園に導いてあげるわ!」
そう、こちらへ手を差し出したのは、
この学校で一番目立つ女の子だった。
輝かしいプラチナブロンドの髪は、
魔法師としての素質の高さを示すものであり。
対する僕は、掃いて捨てるほどいる茶髪。
特別さのカケラも無い、モブにすぎない。
しかし、今、この瞬間から、
そうではなくなってしまった。
「パートナーを彼にする…と?」
眉を顰めた男が呟く、
彼は優れた魔法師で、
血統を重んじる大貴族である。
魔法と血筋に対する誇りは相当なもので、
その感情に感化された魔力は、矢の形を取り、
こちらへと向けられていた。
もし、彼女が頷こうものなら、
躊躇なく放つつもりなのだろう。
「ええ、その通りよ」
力強い肯定の言葉。
瞬間、煮え立つ様な魔力が、放たれた。
空気を震わせるほどの過剰な魔力。
いくら彼女が天才でも、あの威力は危険だ。
きっと対策があるのだと信じて少女を見て…
ニコリと微笑む。
彼女と、目があった。
試す様な視線───。
その手は、腰の杖を抜こうとすらしていない。
僕が契約するに足りるか…
その判断のために、
自らの命を賭けようって言うのか…?
無意識に奥歯を噛み締める。
平穏を求めてやって来た学園だった。
辺境では魔物が人を襲い、
村には魔族が現れ、
必死になって友を逃す人々を見て来た。
それが託した希望が、これか?
平和にかまけ、血の濃さを競うバカ。
力を手にしながら、振るうことすらしない愚か者。
その作劇に付き合わされているこの瞬間も、
何処かで、誰かは悲劇に追われている。
だから───。
足に力を込める。
少女との距離を一瞬で詰め、拳を振るう。
「はへ?…!?きゃああ!?」
「は?おい、待っ!?」
吹き飛ぶ少女。
手ごたえが変だ、障壁でも張っていたらしい。
殴り飛ばされた彼女は、空中で逆さまに浮かびながら、コチラを見て目を白黒させている。
狼狽える男。
投げ返された魔法の矢に困惑しながら、相殺するのに十分な魔力をその杖に纏わせる。
なんだよ…やれば出来るんじゃないか…。
思わず笑みが浮かぶ。
つまらない日々だった、
むしろ苦しい平穏だった。
けれど今日。
僕が仮初の楽園に来た意味が、
ようやく───ハッキリした。
楽園
私の楽園はベットだ。ふかふかの大好きな布団と、自分好みの硬めのマットレスで眠る。とても贅沢な時間。牛になるのにも構わず、ご飯の後暇があればベットに潜ってしまうほど、私はベットが好きだ。
嫌なことがあった時に、ベットに泣きながら飛び込むのもよくあることだ。その時、ベットは慰めてはくれない。励ましてもくれない。だけど、ただ黙って私の体を受け止めてくれる。気づけば眠りについて、嫌なことは気づけば全て消えている。
私を支えてくれる存在、それがベットなのだ。
#楽園
楽園
そんなところがあれば
何一つ我慢しなくて良いのかな
好きなものをどれだけ食べても良いし
好きなことをどれだけしても良いし
好きな人をどれだけ犯しても良い
嫌いになるくらいに
楽園
放課後。俺は、夏目の部屋を訪れていた。
部屋の壁のうち、三面が本棚となっている。まさしく本の森。ただ、整理整頓が苦手だから、脱ぎっぱなしのカーディガンとか、プリントの束とかがその辺にある。
「鏡介、今日のおやつは林檎だよ」
夏目は、皮も剥いていない、そのままの林檎をを手に持っていた。
机に目をやると、カゴに鮮やかな赤い林檎がいくつか入っていた。
「美味しそうだけど、なんでまるまる一個?」
俺も林檎を手に取る。
「それは俺の趣味だね」
そう言って、機嫌良く、なにやらハミングをしていた。
「なんか、今日は一段と陽気だな」
「ふふ、物理的に音楽が風に乗って飛ぶところを見る事ができてね」
何言ってるんだか。
「そうかよ」
「信じてないね。まあ、雪人の楽譜が飛んだだけなんだけど」
「そういうことか」
同じクラスの雪人(ユキト)と漣(レン)は、たしか吹奏楽部だったな。俺以外で、こいつと話してくれる、数少ないクラスメイト。俺を待ってる間に会ったのか。
「禁断の果実とは、何故林檎なのか」
夏目は、手に持ったリンゴをまじまじと見つめた。こいつ意外と厨二病なところあるからなあ。
「お前、リンゴ本当に好きだよな」
「うん。この深い紅色も好きだし、フォルムも好きだよ。林檎といえば、神話だしね。もちろん味もね。林檎ジャム食べたいな、生は生で、歯応えが好きだけど」
夏目は、林檎を一口齧った。果汁が滴る。爽やかな香りが、部屋に広がった。
「アダムとイブが口にしたのは、本当に林檎だったのか」
夏目は舌で唇についた果汁を取った。
「禁断の果実といえば、林檎じゃないのか?」
「実は、聖書では明言されてないんだよ。ジョン・ミルトンが『失楽園』で林檎と明言していたり、絵画が林檎として描いたものが多かったり。その影響で広まっただけで」
「そうなんだ」
知らなかった。てっきり林檎だとばかり。
「楽園追放。人は、してはいけないと言われるとやりたくなる。その結果、楽園を追い出されるわけだけどね」
夏目は、林檎をまた一口齧った。
「人間は、エゴで動いている。俺でも、知恵を欲しただろうね」
「お前はそうだろうな」
「鏡介もあるでしょう?そういう経験。駄目と言われると、途端にしたくなる」
「まあ、あるけど」
人間誰しも、そんなものだろう。
「ちなみに俺は、よく無断で親の書斎に入って本を読んで、怒られていたよ。知的探求心は止められなくてね。まあ、内容的にまだ読ませたくないものもあったのだと、今ならわかるけどね」
反省している様子が一切見えない。確かに、今なら読んでも大丈夫でも、小さな子供にはショックの強い話や、怖い話はたくさんあるのだろう。
「小さい頃から夏目は夏目だな」
「ふふ、そうだね。結局、そんな本も読んだからこそ、今の俺がある。鏡介は?何かない?」
夏目がずいっと顔を近づけて、俺に尋ねる。好奇心に、目を輝かせていた。
「まあ、小さい頃。親に食べちゃいけないって言われたお菓子を食べて、怒られたとか」
「可愛いね」
「笑うなよ」
「それなら、今日はお菓子じゃなくて、禁断の果実を食べてみたらどうかな」
俺は、手に持っていた林檎に目をやる。その鮮やかな赤が、今は不思議とどこか、毒々しく見えた。
一口齧った。サクッという食感と共に、爽やかな甘い香りが鼻を抜けた。
「これで共犯者だね」
夏目が林檎を掲げる。
「今日は、このまま暴露大会と洒落込もうじゃあないか!」
二人で林檎を軽くぶつけ、乾杯をした。
真っ暗な視界からまぶたをゆっくりと開けると、そこには俺を見つめる整った顔があった。
さらりとその顔を柔らかな髪が流れ落ちる。
「なんだここは…天国か?」
言った瞬間にぱちりと勢いよく頭を叩かれる。
「いた!!何すんだよ」
「ふざけた事言うなよ。いきなり倒れたから何事かと思うじゃないか!!!」
倒れた…?だれが??
落ち着いて現状を確認してみる。
ここはソファの上で…コイツの膝に。
………ひざまくら!?!?
「やっぱりここは天国じゃないのか!!」
ごろりと寝返りを打ち彼の腰に抱き付く。
「お前!人が心配してんのにふざけんな離れろ!!」
シャツを引っ張られてるが力いっぱい抱きついて離さない。
だってこんな役得なかなかない!!
「やーだー!!」
「おいこら冗談やめろ」
「絶対離さない」
シャツなんて伸びたってどうだっていい。
いまこの瞬間を逃すものか。
しばらくジタバタ俺の下でもがいてたけど盛大にため息を吐いて諦めたみたいだった。
「お前…もう具合はいいのか?」
「んーあぁ…ただの寝不足ー。仕事が立て込んでて寝たから大丈夫よー」
目の前のお腹にすりすりしてると小気味よく頭を叩かれた。
「ひどい…病人よあたし…」
「誰が」
ちらりと恨めしく見上げると冷たく笑われた。
「もういいなら離れろよ。重いんだよ」
「いやだよ。こんな事滅多にないもん」
「ふざけんな」
言葉とは裏腹に優しくあたまを撫でる気配がする。
「あんま無理すんなよな」
小さく聞こえたその声に視線をあげるとその顔は違う方を向いていてほんのり耳が赤く染まってる。
「やっぱりここは天国だなー」
思わず緩んでしまう頬に声だって弾む。
「またバカなこと言ってる」
呆れてこちらを向いたその顔に、手を伸ばして軽くキスをした。
(楽園)
ふわふわ あしがかるくて
たのしいだけ
なみだなんて でてこない
かわいいおはなと ちょうちょたち
あの子も みぃんな笑ってる
46「楽園」
#楽園
楽園ってどこにあるの?
雲の上?海の底?それとも他の星?
いくら探したって見つけられない。楽園なんてないのかな。
もしかして、楽園は自分自身なのかも。
楽園は幸せな場所だけど、苦痛もある、全てあるところなのかな。
楽園
楽園て、もっとキラキラしているものだと思っていた。一面に花が咲き乱れて薄い風に揺れて。苦しみも悲しみも飢えることもなく。
まさかこんなところが楽園だなんて。
私は疲れた身体を引き摺って、岩だらけの土の道を歩いていた。赤茶けた崩れやすい土。疎らな草。木なんてほとんど生えていない。照りつける太陽、乾いた大地。喉が渇くのも通り越して、いつからか汗も殆ど掻かなくなった。道の先はまだ進む。振り返っても道だけが続く。
疲れた。
道の端でとうとう座り込んだ。
暑い。痛い。ヒリヒリする。
見ると右腕の外側が赤く腫れていた。
せめて日陰があればなあ!
リュックを下ろそうとすると、肩紐が皮膚に擦れて痛い。
長袖を着るべきだったか……
覚えているのはそこまでだった。
は、と目が開いた。
あれ、屋根だ。あれ、ベッドだ。あれ?あれ?あの道は?
シーツに擦れて腕が痛い。痛い。
あの時の日焼け。ならばあの道は夢じゃなかったのか。
手首のあたりに何か巻かれている。針、管、辿ると、点滴……?病院……?にしては室内が雑多だ。カラフルなまちまちの色の壁に、カラーボックスがある。カーテンも襞が伸びて所々擦り切れている。ここは……どこだろ……?
しばらくして、カーテンが開いた。
浅黒くて目が大きな女の人だ。
「〜〜〜〜」
知らない言葉で話しかける。
「 」
声を出そうとして、気がついた。
あの言葉は、なんだ?私はどんな言葉を発すればいいんだ?あれ、声が出ないぞ?
「あ……あ、あ……あ……」
口を開いて声にならない声を出す私を見て、険しい顔で女の人が引っ込んだ。
あれ?なんか、おかしくないか?
やがて、カーテンが開き、恰幅のいい女の人が顔を出した。白い服に首から聴診器、ドクターかな?
「あ…あー、あー……あ……」
あれ、口の端からなんか出た。
涎……?と思って拭った手に違和感があったんだ。涎って、液体だよね、水分だよね、ならばこの、硬くてツルツルしたこれは、モゾモゾ動く、この正体は。
あー……あー……あー………
もうね、どうでもよくなったんだ。私はこの木の汁を吸ってさえいれば、もう満足なんだから。フックの効いたこの腕と、硬い殻があれば、例え暑くても耐えられる。硬いこの羽を広げれば、ほら、中に薄い羽根が。これでどこまでも跳んで行けるんだから。
「−−−木下涼子 日本国長野県出身、ブルキナファソにて熱中症で意識不明のところを発見、入院中に逃走、医師と看護師とによれば甲虫に変身したとの報告、現在彼らは入院中、本人は行方不明」
やあやあ、久しいねえ
僕のこと覚えてたりする?
忘れるわけないだろ
お前と会ったの数日前だぞ
んで、今日は何の話だよ
今日はねえ、楽園についてだよ
こんなに全面的に出していいのかー
って話になると思うけどね
たまには良いんじゃないかな?
まあ、良いか
俺は楽園なんて信じちゃいないぜ
あの園芸にゃ、手を出したくないからな
てか、みんなで楽園を創るより
宴を開いた方が良くない?
んんん、そりゃあよ
お前が訊きたいだけだろうが
アルコールに犯された脳に
妙な戯言を、な
でもソレで救われる人間もいるかもだし?
白状した方が楽でしょ
君だって僕の吐露で救われてる癖に
〖楽園〗
ドレスコードは「オールホワイト」
履物も、髪飾りも白でお越しください
参加資格・「夫婦であること」
というお茶会の招待状を送って
着々と準備を進めていた夫婦。
スコーンの焼き具合は最高。
ジャムもバターも拵えたし、
種類豊富に揃えた紅茶も準備完了。
お花やろうそくをテーブルに置き
大変満足そうな笑みを零す夫婦の2人は
月に一度のお茶会を今か今かと
楽しみにしていました
結婚して間もない夫婦もいれば
大きな愛に満ち溢れた老夫婦もいる
年代問わず夫婦を招いて
幸せな空間に身を置いて
幸せをチャージして帰ってもらう
それが私たちの開くお茶会。
ほら、あと十分で始まるんだから
皆さんのお出迎えに行かなくっちゃ
貴方もこちらへいらっしゃい
"ふたりで"お出迎えするのよ!
ー禁物ー(楽園)
「お母様、あれはどうしてここに居るのです?」
「雇ってるの。あなたと年も近いでしょう。友達として接しなさい」
「友達は信用ならないと、お父様から教わりました」
「ふふ。対等な関係はそうかも知れないわね。だけど、あれはお金で雇っているのよ。安心して大丈夫でしょう」
あの頃、中性的な体つきをしたそれは、綺麗な顔をしていた。
「名前は?」
「マリと申します」
髪も、結んでいたのに、背中の真ん中辺りまで落ちていたから、結構長かったと思う。
「どうしてここに来たの?」
「家が、苦しくて」
「好きな食べ物ってある?」
「好き嫌いはあまり」
綺麗な声だと思った。
よく響く、中性的な声。
「お父様には会った?」
「はい。お会いしました」
「どうだった?」
「お優しい方だと思いました」
「……」
「坊ちゃま。旦那様がお呼びです」
「え?分かるの?」
「はい」
長いまつ毛に隠れた瞳は、どこか遠くを見つめている。
いつでもすまし顔で、僕の後ろに立ってついてきた。
「旦那様!お辞めくださ」
「黙れ!お前は重罪人だ!息子をたぶらかす悪魔め!」
「お父様。どうかもう一度、考え直してみてください」
「えぇい!煩わしい!今のお前は信用できんのだ!」
「でも!」
「「でも」では無い!いつからか知らんが、いつの間にか子供を作って!あちらとの結婚もこれでパァだ!」
マリはしばらくして、処刑された。
お腹の子と共に。
お腹の子は自分の子ではない。
それを証明するものはどこにも無かった。
誰も疑わなかったのだ。
――――――――――――――――――
私は駄目な人間なんです。どうして忘れてしまうのでしょうか
お題「楽園」
ここには何もない。
何も見ず
何も聞かず
何も言わず
何も知らず
触れるものにも感触はなく、
ただ、トクントクンという、規則的な音だけが、聞こえている。
暑くもない
寒くもない
痛みも、痒みもない
刺激はない
もぞもぞと動いても、何もおきない。
悲しみもない
怖さもない
怒る事も迷う事もない
まだ何も知らない
広くも狭くもないぬるさの中で、ただ穏やかに、漂っている。
飾る事もなく、繕う事もなく、何者でもない僕は、僕でしかない。
僕はどこにもいない。
ただ一人、ここにいるだけ。
違う
今、気づいた。
もう1人いる。
問いかける。
あなたは誰?
あなたは誰?
僕は僕
私は私
君はなんでここにいるの?
それはあなたと同じじゃないかしら?
痛…
何、この感覚…
ごめんね。私の足がぶつかっちゃったみたい
もう…
僕にはないんだから、気をつけてよ
ごめんってば…
…ねぇ、あなたはこの先、どうしたい?
この先…?
わからない
何ができて、何ができないのかも…
君は?
私は誰かを愛したい
愛?
愛って何?
愛っていうのは、たぶん、いてほしいって事だと思うわ
じゃあ、僕たちも愛されてるかな?
たぶんね
愛…
僕にできるかな…?
むしろ、誰も愛さないなんて、そっちの方が無理だと思う
あなたの事も愛してあげるわ
本当?
約束だよ
うん
約束
…なんか、ゆらゆらしない?
そうね、そろそろ時間みたい
時間?
そう
もうここにはいられないのよ
…やだ
僕、ずっとこのままでいたい…
そういう訳にはいかないわ
物事にはみんな、終わりがあるのよ
なにそれ?
終わりがあるなら、なんで僕達はいるの?
それは誰にもわからないわよ
あなた自身で見つけてみればいいんじゃない?
…じゃあ、さっきした、愛してくれるって約束、ちゃんと守ってくれる?
もちろんよ
いっぱい愛して、いっぱい可愛がってあげるわ
嬉しい
ありがとう
ふふ…
どういたしまして
…じゃあ、私の方が早いみたいだから、一足お先にね
うん
じゃあ、また後で
また後で
私は今日も、夜空を見上げながら、家路につく。
こんな時間まで居残りなんて、いっそ勉強なんかなければ、苦しむ事もなかったんじゃないだろうか。
雲が半分にかかった様な空は、星明かりもまばらだ。
本来なら二つ一組で見える星座も、今宵はどこか寂しげに思えた。
それでも、私は温かな明かりが灯る、自宅の前まで辿りつく。
沈んだ気分を切り替えて、私は朗らかな声で家のドアを開けた。
お母さん、お父さん、ただいま
私は、私を愛してくれる家族の元にかえった。
赤茶けた土の上を、ちろちろと紅火が絶えず燃えている。
空は暑い。
赤い太陽が、ギラギラとひび割れた大地に照りつける。
血縁主義とは、無能の楽園だ。
有能なものは貴賎なく生まれた順によって、実力以上に蔑まれ、無能なために自身を万能だと思い込む傲慢なものは貴賎なく、そのただ一つの才能、自信過剰で、面の皮厚く血縁者と名乗り、利権を貪る。
つまり、今、私が住んでいるこの国は、無能の楽園なのだ。
いや、私のこんな思いも、一度口にすれば、負け犬の遠吠えと呼ばれるべき、情けない言葉なのかもしれない。
間違いなく私は、かつていたその楽園から、追放された身なのだから。
王族の遠縁の貴族の第一子として生まれた。
求められる素養のハードルは高かった。
必死に努力し、考え、教えを乞い、統治者として相応しい実力をつけるために、今まで生きてきた。
それが私の人生だった。
順調に行けば、私は、父の財産と血脈を継ぎ、政略的な血縁を受け継ぎ、広げながら庶民の娯楽として目に晒されながら、厳しく甘美な統治者としての生を全うするはずだった。
それなのに、私は今、庶民すら頼らない、赤茶けた裸の大地に踞り、獣のように飢えを凌いでいる。
謀反があったのだ。
牙も持たない、鋭い爪も、毛皮の鎧すら持たないはずのニンゲンは、ある日突然、大群で現れた。
父は無惨に首を盗まれ、母は鎖に繋がれ連れ去られた。
私は、大勢の庶民への見せしめだ、として、こうして裸の灼熱の土地へ放り出された。
窮屈で不満ばかりだったあの土地での暮らしも、手放してみると、途端に懐かしく、楽園のように感じるものだ。
私が無能だからその価値に気が付かなかっただけで。
しかし、その楽園もまた、私たちのような無能にとっての楽園にしか過ぎなかったのだろう。
今や、あの緑の豊かな地は、爪や牙などの自前の武器すら持たない、無能の生物たちの楽園となった。
そうして、私は獣のように土塊に塗れ、獣のように飢えを満たす。
それが楽園にどんな破滅をもたらすか、誰も知らぬ間に。
今日も私は、手の中から零れ落ち、ニンゲンの手に堕ちた楽園を呪いながら、飢えを凌ぐ。
かつて地獄に住むと教わった、悪魔のように。
妖怪のように。
化け物のように。
獣のように。
無能の楽園は、今も無能たちが、それとは知らずに栄え続ける。
いつかまた、楽園は別の無能の手へ渡るのだろう。
《楽園》
楽園か 地獄か選べと言われたら お前は楽園、俺は地獄を
2026.4.30《楽園》
『楽園』
お行儀よくリビングのソファに座り、彼女が真剣な表情でタブレットを睨んでいた。
見ているのはおそらく、バドミントンの試合映像だろう。
そんな彼女の隣でタブレットを覗き込む俺は、今、猛烈にかまってほしい気分だった。
大変申しわけないとは思いつつ、ソファに彼女を押し倒す。
「お、わっ!?」
ことん、とタブレットが床に落ちたことにかまうことなく、俺は奥ゆかしく膨らんでいる双丘に顔を埋めた。
はぁぁぁ。至福。
ここが、まさに楽園である。
「ぐえぇ」
苦しそう、というには、彼女はどこかわざとらしい声を漏らした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫くない。重いからどいて」
ペシペシと俺の頬を軽く叩きながら抵抗を見せるが、このふくよかな感触を手放すのは惜しい。
「このおっぱいランドの居住権は俺にあるので無理ですね」
「人のおっぱいを不当に占拠するな」
「手にピッタリ収まるサイズ感がたまらないですよね。まさにシンデレラフィットです」
「あのさ、会話をしてくれる?」
彼女の手のひらがグーに握り込まれ、こめかみをグリグリされた。
……ちゃんと痛い。
「てゆーか、なにがシンデレラフィットだよ。ふざけんな。そのデカい手のひらじゃスッカスカでスペース持て余してるだろうが」
「そんなことないです。いい感じに揉み込めます」
「揉むなっ!」
「なんでですか!?」
「私のおっぱいだからだろうがっ!」
「だからいいんじゃないですか! 最高です!」
「図々しくタダ乗りしやがって……」
あきれ果ててため息をつく彼女だが、さすがにその言い分はあんまりである。
「失礼な。ちゃんと愛情は払っているじゃないですか」
「あん?」
不服に歪むかわいい桜色の唇に、ちゅむちゅむと自分の唇を押しつける。
ちゅっちゅ、ちゅっちゅと彼女が反論しようとするたびにキスを重ねていった。
そんなことをしているうちに、さすがにお怒りゲージが頂点に達したのか、彼女が大声をあげる。
「やかましいな!? さっさと立ち退けっ!」
楽園ってどんなところだろう
自分にとって都合のいい場所が
多分楽園であって
人それぞれ違うから
こんな所とは
言えないよね
「楽園」
私の頭の中に浮かぶ「楽園」は、柔らかな光が差し、水が泉から湧き、草花が生い茂る、植物園のようなものだ。しかし、実際の楽園は、もしかしたら、yogiboが置かれ、サブスク付きのテレビやスナック菓子が並んだ、究極のダラダラ部屋かもしれない。
それはそれでよさそうだ。