『楽園』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『楽園』
『楽園(ラストライト)』。
それは、俺達天使族の中でもごく少数の人が行く、悲しく、美しい領域。
『楽園』は、苦しみ、悲しみ、絶望し、全てを諦め、心が壊れた、また、壊れそうな天使族の中でも選ばれた者が行く場所。
天使族は、心が壊れると消える。事実上の死だ。寿命もあると言えばあるが、数100年は余裕で生きれる。天使が死ぬとしたら寿命か、心が壊れる事だろう。
楽園に行けば、救われると言われている。どのように救われるのか、どう言う場所なのか、それはわからない。
「何故、俺なんですか?」
最初に出た言葉は、質問だった。喜びでも、他の感情でも無い。ただ、純粋な疑問。
「俺より優秀で、そして俺より心に傷を負っている人は沢山います。なのに何故、俺を楽園に?」
「本当に言っているのですか?」
天使族の王、女神様が俺に呆れたような目を向けて来る。
俺も詳しくは知らないが、女神様が楽園へ連れて行くという噂だ。だからだろうか、俺は今ここに呼ばれている。
「それは、どう言う意味でしょうか?」
「そのままの意味です。貴方の心はもう崩壊寸前、いや、かなり崩壊していっています。そして、他の人を楽園に送ったら貴方はこの先も苦しむことになります」
確かにそうだ。ここで提案を受け入れなければ俺はまだここで生きて行くことになる。でも——
「まだ、俺には余裕があります。崩壊しているとは言ってもまだ時間があります」
「貴方はそんな事を言えるような状態ではありません。貴方、もう何も感じないのでしょう? 味覚も、嗅覚も、聴覚も、何も」
女神様の言っている通りだ。俺は何も感じない。楽園に連れて行ってやると言われた時も、何も感じなかった。
「それは、貴方の心が枯れて、壊れて行っている証拠です」
真剣な顔をして、女神様は言う。何故俺にそこまで言ってくださるのかはわからない。でも。
「私以外の人を楽園に連れて行ってあげてください」
「まだ言いますか!」
女神様が声を荒げる。それは、今まで見た事がない、初めて見る姿だった。
「貴方は心優しい天使です! 私や、同じ種族の天使達も貴方に助けられました! 貴方は苦しまなくて良いのです!」
「それでも、俺は行きません。他の人を連れて行ってあげてください。俺は大丈夫なので」
なんと言われようと、俺の覚悟は決まっている。揺るぎはしない。
「貴方の心はもう限界です! 残っているのは3割ほどでしょう?! こら、待ちなさい!」
女神様の声を無視し、その場を離れる。それと同時に、乾いた笑みが出て来た。
女神様は3割と言ったが、もっと少ないだろう。このままだと、あと少しで俺は壊れる。でも、やる事があるから。
「な、小夜。俺は約束したもんな。一緒に人間を見に行こうって」
この選択をした事で、もう俺は助からないだろう。次に楽園が開かれた時、俺はもういない。
あの女神様からの誘いは、俺にとっての最後の光だったのかもしれないな。
現世と常世の狭間。
そこには常世へと繋がる泉があるという。
泉の周囲には四季折々の花が咲き乱れ、木々には種々の果実が実る。その光景は桃源郷を思わせる程のものであるのだとか。
そして、その泉には美しい雌雄の龍が棲んでおり、雌の龍は短くも激しい雨を。
雄の龍は長く静かな雨を降らせると言われている。
そんなお伽話を、どれだけの人が信じているのだろう。
「かえりたい」
抱き抱えられ、子供にするかのように髪を撫でられながら思わず口にした言葉に、背後にいる彼女が呆れたように溜息を吐いた。
「今更現世に帰った所で、もう誰もいないわよ」
何を今更、と。
心底呆れた様子の彼女の声音に、そういう意味ではないと胸中で呟く。
かえりたい。彼女達に出会う前の時間まで。
彼女達に出会い“隠されて”から、もうどれくらいの年月が過ぎたのか。
今更帰ったところで、待つ人は誰もいないことは痛いくらいに理解している。
今は変えられない。変わらない。
それならいっそ、彼女達に出会う前であるならば。
あの時に、
『なかないで。これかしてあげるから、ね?』
雨に濡れながら泣きじゃくる彼女に声をかけ、傘を差し出さなければ。
人としての生を謳歌できたのか。
それともやはり、今と何も変わらないのか。
結局、今更どうしようもない事を考えては、意味のないその思考に落ち込んだ。
「翠雨」
「…なに?」
目の前の彼に呼ばれ、不貞腐れたように小さくこたえる。
宥めるように髪を撫でるその手に、子供扱いされている気がしてさらに気分が降下した。
「諦めろ。最初に手を差し伸べたのは翠雨の方だ。今更なかった事には出来ないし、させる気もない」
「……わかってる」
「分かってない。時雨の約束に応じたのも、俺の与えたモノを食べたのも。全部、翠雨の意思だ」
「………」
今更なのは、重々承知。
彼女の再会を願う約束に応じて縁を結び。
彼がくれた団子を食べて黄泉竈食ひ〈よもつへぐい〉をした。
差し出された2人の手を取り、新しい名前を受け入れもした。
いくつもの選択肢を間違えた結果が、今なのだから。
「まったく、一体何が不満なのよ?老いや病とは無縁だし、飢える事だってない。それって人間にとっての理想じゃないの?」
彼女の声音に苛立ちが混じり始める。
望まれていると思ってした事が一向に望まれず、反抗されているのだから当然ではある。
だからといって、おとなしく全てを受け入れる事はまだ怖かった。
「生殖行動だって、五月雨がーーー」
「時雨」
「なによ」
目の前の温もりが離れ、代わりに背後から別の温もりを感じ、所有権が彼から彼女へと移った事に気づく。
途端に機嫌を直したらしい彼女に抱きすくめられ、先程まで彼がしていたように髪を撫でられた。
「翠雨は今、拗ねているんだろう。置いていってしまう事が多いから」
彼の言葉に、背後で笑う気配がする。
「そういえば、翠雨は昔から寂しがりだったわね。だったら早く素直になってしまえばいいのに」
背後から顎を掬われそのまま上を向かされれば、機嫌よく笑う彼女の唇が額に触れた。
「意地を張っていないで、素直にわたし達の名前を呼びなさい。そうしたら常世にも連れて行けるわよ」
「そんなところ、別に行きたくもないし」
「生意気」
顎を掬っていた彼女の手が、今度は鼻に触れそのまま摘まれる。
軽い息苦しさと痛みに反抗していると、不意に聞こえたのは何かを思案する彼の声。
「強がるのも悪くはないけれど、そうだな」
彼女の手が離れ、そして、
「“翠雨”」
強い意志を持って、彼が、名を呼んだ。
彼らから与えられた、彼らの“所有物”である証。
望めば全てを奪える、不可視の鎖。
その鎖を引かれて彼女から離れると、静かに彼の前に膝をついた。
「待つのは嫌いじゃない。でも、限度はある。覚えておいて」
瞳を覗き込まれながら囁かれる警告。
それに頷いて応えると、彼は静かに笑って鎖を緩めてくれる。
そしてそのまま抱き上げられ、屋敷に向かって歩き出した。
気づけば、空はすでに茜色に染まっている。
もう帰る時間なのかと、今だにぼんやりとした意識の端でそんな事を思った。
「翠雨」
名を呼ばれて視線をやると、いつの間にか隣には彼女の姿。
少し困ったように笑って、耳打ちをされた。
「五月雨はね、普段は静かだけど粘着質だし、怒らせると面倒なのよ。だから、さっさと覚悟を決めて、その魂にわたし達を刻みつけなさい」
命令口調でありながらも、決して強制ではない言葉。
感情の起伏が激しい彼女なりの優しさなのだろう。
だから、その優しさに甘え、今だけは聞こえないふりをして目を閉じる。
最後の選択肢は、もう少し選ばないままでいたかった。
現世と常世の狭間。
常世へと繋がる泉に、美しい雌雄の龍が棲むという。
龍に見初められた者は、楽園を模した檻に誘われ。
寵愛を受ける代償に、人としての名を奪われる。
もしも龍が飽く時が来れば、その魂だけは解放されるやもしれぬ。
しかし、
雌雄の龍の名を一度でも口にすれば。
その魂は二度と解放される事なく、永久に龍のものとなるであろう。
それは、昔から伝わる雌雄の龍の言い伝え。
1人の少女の為に、常世から狭間へと棲家を移し。
少女の好きな花を集めて楽園という名の箱庭を作り上げた。
優しくて恐ろしい、雨の神様のお伽話。
20240501 『楽園』
なにもかもがあったのだ。
暖かな日差しも、柔らかな薄曇りも
緑咲く大地も、さざめく海も
鮮やかな星々も、心弾む歌声も
丁度良い服も、沈み混む寝床も
気の置けない親友も、健康的な身体も
なにもかもがあった。
なにもかもがあったのだ。
「それでもお前は行くというの」
零れた果汁が染める袖
蕩けるように甘い芳香
詰るような、責めるような
それが精一杯の抗議と知っていて
「それでも行かなきゃならない」
白み始めた水平線
遠く聞こえる鐘の声
小さく引かれた袖の先が
同じ色に染まりゆく
………
小煩いアラーム、半端に日差しの落ちる床
草葉も人のざわめきもなく、風だけが吹き荒ぶ音
何もかもがないこの場所で、
一人きりのこの場所で
「夢なんかじゃなく、お前の場所まで辿り着くとも」
花を編んだ指飾り
揃いの白こそ誓いの証
<楽園>
ごくたまに、救急車のサイレン音を聞くと過呼吸になる
ときどき、自分の頑張れなさの全てに嫌気がさして泣き叫ぶ
よく、誰かに見られていると感じたら無性に全身が痒くなる
そんなおかしな行動をとる自分を、客観視している自分がいる。そしてそいつが、わたしの耳に語りかけてくる
「気持ち悪い」
「なに悲劇のヒロインぶってるんだよ」
「そんなことしてもなにもかわらないだろ」
わたしの楽園は誰にも見られずただひたすら
ありのままの自分を、おかしくなりかけた自分を晒せる場所なんだろう
「楽園」
妙に眠たい昼下がり。駄菓子をつまみながら課されたことをなんとかこなしている。
そこに自称マッドサイエンティストのあいつが話しかけてきた。桜餅の催促か?
「桜餅も食べたいけどさ!!!キミに聞きたいことがあってね!!!本来ならもっと上司とかに聞くべきことなんだけど、こういうのはキミに聞いた方がいい気がしたんだよ!!!」
ふーん。というか、あんたにも上司がいるのか……?結構意外だな。で、聞きたいことっていうのはなんなんだ?
「ボクが決めていいものかどうかはまだわからないんだが、宇宙を吸収した例の彼女の処遇をどうしたものか、と思ってね!!!」
なるほど……。本当に自分が答えてしまっていいのか?
「うーむ。確かにそれはそうなんだけど、ボクとしては感情を持ったニンゲンのキミに、彼女がどんな気持ちだったのかを改めて一緒に考えて欲しいんだ!」
「ボクが今までに取得したデータによると、彼女はおそらくかなり……『歳をとった』というか、とうに現役から退いた宇宙管理士だった存在なのだよ。」
「それから、なんらかの理由で悲しみ、怒りを持ってこの宇宙に入り込んだ!!!そして構造色の髪の彼に出会ってどういうわけか宇宙ごとエネルギーを吸収した!!!」
「ボクからしたらたまったもんじゃないよ!!!……まあそれはともかく、これ以上彼女にエネルギーを吸収されないためにボクらは彼女の作ったあの空間を事実上凍結状態にしたのさ!!!」
「そうしたら彼女は怒り狂ってボクに最大限の怨念を突っ込んだんだよ!!!……考えてもみれば、ボクは彼女にとっての『楽園』を奪ってしまったわけだからね。」
「仕方ないっちゃ仕方ない……のかなぁ?!!ボクとしては納得いかないけどね!!!」
「まあとにかく、これで話の大筋はわかったかい?!!」
なんとなくはわかった。
「それはよかった!!!……だが、ボクからすれば妙な点が幾つかあるんだよ!!!」
妙な点?まあそもそも自分としては規模が大きすぎて最初から理解の範疇を超えているから何とも言えないが……。
「まずひとつ目!!!そもそも彼女が宇宙にいること!!!お年を召した宇宙管理士は『眠り』につくはず……なのに彼女は目を覚まして宇宙を吸収なんてことさえしてくれている!!!」
「そしてふたつ目!!!彼女が力を残したままでいること!!!役目を果たした宇宙管理士は権限を封じられるはずなのになぜか彼女が空間を作ったりエネルギーを吸収したり出来ていることだ!!!」
「みっつ目は!!!『眠り』についた宇宙管理士はあるべき場所に安置されているはずなのに!!!なぜか宇宙にいる!!!これは他の管理士たちとみーーーーっちり話をつけないといけない案件だよ……!!!」
「それからよっつ目!!!現行の制度上、ちゃんと公認宇宙管理士の資格を取らなければ、また許可を得なければ宇宙ならびに特殊空間の管理はできない!!!にもかかわらず彼女は好き勝手やっている!!!」
「キミには何にも分からなかったかもしれないが!!!とにかく異常事態が起こりまくっている……ってことさ!!!」
なるほど……。こういう事情を加味して、未知の存在こと元宇宙管理士?の少女をどう扱うかを考えなければならないんだな?
「話が早いね!!!キミならどうする?!!」
そうだな……。自分なら……って言われてもわからない。
強いていうなら、役目を終えた宇宙管理士を管理するところに話を聞くくらいのことしか思いつかない。
「その先の話をしたいのに〜!!!」
そんなこと言われても困る!
何せ色々と入り組んでいそうな問題だから。
「……わかったよ!とりあえず、アーカイブ担当の管理士の所に向かおう!!!もちろん、キミも一緒にね!!!」
全く……。さらに厄介なことになりそうだ。
゚*。,。*゚*。,。*゚*。,。*゚*。,。*゚*。,。*゚*。,。*゚*。,。*゚
なんと!!なんとなんと!!!
「読みたい❤︎」の数が1000を突破したよ!!!
すごいね!!!
読んでくださる皆様!!!読みたいと思ってくださる皆様!!!
本当にありがとうございます!!!
あまりこういうことは言わない方がいいのかもしれませんが!!!喜びと感謝を共有すべく書かせていただきました!!!
改めまして本当にありがとうございます!!!
これからもどうぞよろしくお願いします!!!
楽園
美しい花々が咲き誇り
夜空には満天の星が広がる
それが私の思う楽園である
作者の自我コーナー
楽園というのは苦しみのない幸せな生活ができる所を指すらしいです。そんな所ありますかね?
どんなものでも与えられ続けたら飽きてきませんか?
刺激が欲しくなりません?当たり前に与えられるものになんて、ありがたみがないでしょう?それとも、新鮮に毎回幸せだと思えますか?
わたしは思えないと思います。退屈は嫌いです。
退屈は苦痛です。あれ?矛盾してますね。
よって、私は楽園なんて存在しないと考えます。
別に必要もないです。『幸せなんて小さなスプーンで掬えるくらいで充分なんだ』と思います。
引用元 AquaTimez『真夜中のオーケストラ』
(二次創作)(楽園)
澄み渡った青空に、柔らかく差し込む日差しは暖かい。馥郁たる花の香りに混ざり、瑞々しい風が頬を撫ぜる。ハルトは、両手を大空に向けて伸ばすと、思い切り息を吸い込む。何より、誰もいないのがいい。
ここはエリアゼロ。ゼロの大穴の内部である。
この地に初めて足を踏み入れてから、一年が経つだろうか。その後も、ネモに続き二人目のチャンピオンランクのアカデミー生になったハルトには、たくさんの冒険があった。たとえばキタカミでの合宿に呼ばれ、オーガポンと出会ったり。たとえば遥か離れたイッシュ地方のブルーベリー学園で学内リーグを制覇したり。友達も知り合いも増えて学校生活はますます楽しくなったが、たまに、こうして一人になりたい時はエリアゼロに足を運ぶようにしていた。
連れているのはミライドン一匹だけ。
オモダカから、自由に出入りする許可は貰っている。それはハルトにしか許されていない。人々の目からしばし離れ、羽を伸ばせるここは、ある意味で楽園だ。
「ミライドン、ピクニックでもする?」
「アギャ」
肯定と受け取り、手慣れた様子でテーブルを広げる。野生のポケモンたちは人間に興味はないらしく、驚異にはならない。何者も邪魔しない至福の時間だ。
だが、急に第三者の声がしたのだ。
「おや、サンドイッチかね」
白衣を纏った長髪の女性が、こちらに寄ってくる。どうやらハルトより先にここに来ていたらしい。当然、無許可だろうが、ハルトはそれを咎める力がなく、代わりに名前を呼ぶだけだ。
「オーリムさん。来てたんですか」
「上層であれば、一人でも安全だからな」
それは理由になってないのだが、オーリムはテーブルの上のサンドイッチに目をやっている。ハムだけを挟んだ単純なジャンポンプールを拵えたところだ。
「上のパンは?」
「弾け飛びました」
半ば冗談、半ば真実だ。手から離した瞬間落ちたそれは、ミライドンの口の中で咀嚼されている。
「結構なことだ!」
呵々と笑い出す彼女が、ハルトは少し苦手だった。
失ってから気づくこと(テーマ 楽園)
その日、職場で残業をしながら、私は後輩の谷にぼやいた。
「学生の頃はさ。」
「?」
谷は、『いきなりなにをいいだすのこのひと』と言いたげな目をした。あるいは、『さっさと手を動かせよ』とでも言いたげな目だ。
「試験とか、体育祭とか、嫌なこともあったわけで。」
せめて手を動かしながら続ける。
「体育祭とか、嫌だった系の人っすか。」
「意外か?」
「いや、全然。イメージ通り過ぎてつまらないくらいっす。」
「・・・。まあ、あれだ。嫌なことはたくさんあったけど、今こうして毎日残業して働いているのと比べると、楽園だったなって話。」
「そりゃ、そうっすよ。学生の時は、金を払う側、お客さんっすから。今は金をもらう側。仕事する側なんで、比べられないっすよ。」
このくらいの話は脳細胞も使わないのか、谷は手を止めずに話に付き合ってくれる。
「だが、楽園だとは思っていなかった。むしろ、成績が低くて留年しそうでどうしよう、と思っていたくらいだ。」
谷の手が止まった。
「体育祭嫌な系なのに、成績も留年を心配するくらいひどかったんすか?」
「意外か?」
「意外っす。先輩、成績はいいガリ勉タイプだと思ってたっす。・・・灰色の学生生活?」
「そこまでではなかったぞ。部活動を四つくらい掛け持ちしてな。放課後は楽しかった。・・・まあ、つまりだ。あの頃はそう思っていなかったが、今からすると楽園だ、と言うことは、だ。」
「ということは?」
「残業している今も、高齢者になったら楽園だったとか、思い出すのではないか、という話。」
谷は手を動かしつつも、なんとなく上の方を見る。
何やら考えているようだ。
「・・・。私は、今も、別に嫌で嫌でしょうがないってワケじゃないっすよ?残業は多いっすけど、それなりに満足してます。」
私は谷を穴が開くほど見つめてしまった。
「マジ?」
「そりゃ、もっと早く帰れりゃいいな、くらいは思いますけど。文句ももちろんあります。ただ、こう言うのも含めて、悪くない日常っていえるのではないかな、とも思ってるってだけっす。」
(おこがましかった。)
谷の姿が何やら高貴に見えた。
「案外、楽園に楽しんで住めるのは、谷みたいな感性を持つ人じゃないとだめなのかもな。どこに住んでもグチグチ文句しか言わないなら、楽園なんてどこにも存在しなくなるだろうし。」
「あれっすよ。足るを知る。」
「そうかもな。」
私は無駄口を叩いたことを反省し、後輩の人生観に感化されて、黙って手を動かすことにした。
幸せの定義は様々ですが、
楽園は幸せの象徴ではないでしょうか。
天使が楽園を作り、
人々はその恩恵に感謝と幸福を感じます。
やがて満ち足りて溢れます。
どうなると思いますか?
人々は死にます。
楽園は悲鳴で溢れ、
天使の柔和な笑みは内臓と共に潰れます。
セロリを食むような柔らかい音は
頭蓋に噛み付く音です。
何故かわからないようですね。
答えを教えてあげましょう。
人間は皆、罪を持って生まれたからです。
七つの大罪には人間が持つ
全ての醜悪な欲望が現れています。
手の内に収まりきらないものでも手に入れようとし、
溢れた幸福を追って争いが起こるのです。
しかし、その欲と裏腹に命は非常に虚弱です。
手中の糸を引っ張るように、
命を手折ることは限りなく簡単です。
刻一刻と迫る死から、逃げたいと思いますか?
際限ない幸福に身を委ねていたいですか?
我を忘れて踊り、歌い、泥のように眠りたいですか?
束の間の幸せも、ささやかな思い出も
全てかけがえのないものとして受け入れたいですか?
ならば私の胸で眠りなさい。
罪を認め、生まれ変わり、償うのです。
今この時、命潰えていないことに
価値を見出せるように。
ーそう言って、手を広げた貴方は笑った。
“音速の貴公子”アイルトン・セナ。
3度のワールドチャンピオンに輝いた比類なきF1ドライバーの彼は、30年前の今日、34歳の若さでレース中に事故死した。
岡山の国際サーキットでパシフィックグランプリを走ってからわずか2週間後のことだった。
セナが泊まった温泉地湯郷の旅館には、いまも100点を超える写真が展示されている。ながい月日で色あせてしまっていたけれど、このたびデジタル復元によって当時の美しさを取り戻したそう。
旅館スタッフに囲まれ、左手をポケットに入れて悠々と歩く姿はカッコいいのひと言に尽きる。
残念ながら、F1マシンの速度を私が体感することはない。同じように、1万メートルの深海も、アポロ宇宙船の寒さも知ることはできない。辿り着けないそこは私にとって“楽園”と同義だ。
「生きるならば、完全な、そして強烈な人生を送りたい。僕はそういう人間だ。事故で死ぬなら、一瞬のうちに死にたい」
時速370キロとも言われるF1の最高速度。敬虔なカトリック教徒のセナはレース後、「(カーブを走っている時)神を見た」とコメントしたことがある。
ある意味、楽園を垣間見たということか。
(楽園)
《楽園》
やりたいことが見つからない。
あれもこれも楽しいけれど、本当にずっと追いたいのかと聞かれれば違う。
絵も。歌も。劇も。創作も。
楽しいだけで、今後夢に変わるものではない。
そんな私は、そんな私には何が最高と思えるのだろう。
どこへも行けない思いを持て余して、どこにも行けないまま。
人としての欲求を枯らして生きる意味は。
その人生の先に、楽園は拡がっているのか。
わからない。
わからないが、信じていればたどり着けるのではないだろうか。
楽園とはそういうものでないのか。
誰か、教えてくれ。
そう、僕は、言葉を波に放った。
この世の楽園に生きる
ストーリーの中で生きることと
愛に生きること
自分の人生をストーリーと捉えれば
過去の波瀾万丈な体験は
すべて人生を面白くするためのものだったし
これから起こるすべてのことは
世の中を面白くしていくためのもの
世界中を愛していれば
自分だけのことを考えるのではなく
世界中の人々を思いやって行動できる
人々の喜びが私の喜び
人々の悲しみが私の悲しみ
お題「楽園」
「救いようの無い楽園」
ハンバーガーを食べる。健康を気にする。
サラダを食べなきゃいけない。
野菜がとれない日はマルチビタミンの錠剤でカバー。
必須栄養素を欠かしてはいけないから。
見たい動画が消化しきれていない。
明日は仕事だから、日付が変わる前には寝ないといけない。
大学時代の先輩から飲み会の誘いがあったのに返信出来ていない。
特にお世話になった先輩だから、なるべくなら予定を合わせたい。
押しのVチューバーが初イベントを行っている。
チケットをとれるなら是が非でも取りたい。
動画を見ながら歯を磨く。推しの新曲を聴きながら風呂に入る。
せせこましくインプットを続けながら寝る体勢に入る。
唐突にスマホの通知音鳴る。
付き合いたての彼女からの連絡。
今週日曜日の予定、どうしても合わせることが出来ない、と
眉間に皺を寄せつつ、深呼吸をして「大丈夫だよ」と返信。
こちらだって同じ様な内容を送ったことがあるじゃないか。
それと同時に、ほんの少しホッとした自分もいる。
日曜日には先輩との予定を入れることにしよう。
30歳を越えて、仕事に責任を与えられるようになった。
人間関係にも余裕が出来て、給料も多少はあがった。
でも正直、適当にこなしてほどほどの生活をしたい。
何にせよ時間がない。
結婚はまだか、と職場のお局さんからちょくちょく言われる。
結婚や家庭を意識すべきなのだろうなと思う。
片手間に合コンに行ったりマッチングアプリを触ってみたりした。
何人かの女性と会ってみて、一番自然に会話できる相手と付き合うことになった。
互いに選考した結果「合格した」ということなのだろう。
形式的に毎週会っているが、この先のことは分からない。
ふと、中学高校時代の将来の夢はなんだっけと回想に耽る。
映画監督、プロ野球選手、バンドマン、様々な一縷の可能性が降っては流れ、塵のように僕の奥深くに積もっている。
でもそんなことは良いのだ。
彼らの裏側が苦悩とコンプレックスに満ちていることを、なんとなく想像できる。
叶えたものと等価の、失われた時間・快楽があることを知っている。
僕は消費者で良い。
絞られた才能の汁を、ちびちびとススって気持ちよくなりたい。
それで良いと思っている。
思っているけれど、ふと自問自答する。
それで良いのか。一度きりの人生を、そんな風に消化するのか。
「別にいいんだよ」
即答する。早く眠りにつかなければ。
アフリカの飢えた子供達を想う。
新薬開発の犠牲になる実験動物を想う。
今、僕が甘受している状況は奇跡に近いものだ。
漠然とした不安や焦燥が、就寝前特有の感情だと思いこむことにする。
過去のことを考えてはいけない。将来のことを考え過ぎてもいけない。
僕は目の前の人生を、きちんと考えて生きている。
明日の朝は早い。ポジティブにいこう。
瞼をとじる。明日のことは、明日の自分がなんとかしてくれる。
なんて贅沢な悩みだろうか。悩むべきですらないのかもしれない。
だって僕は、とても恵まれているのだから。
楽園があるならとびこんでしまいたい。
けど楽園ってなんなのだろう。
楽で心地よければそれに越したことはないが、
そのさきにはなにがある?
楽園なら、なんでもかなう?
でもそのさきはどうなるのだろう。
あたまのなかに色んな楽園が渦巻く。
どこにも飛び込めないまま、また日が過ぎ去る。
#楽園
また一人、此処を去ろうとする者がいた。
まだ子供で、ちょっとした好奇心だったのだろう。
高い壁をよじ登って、暫く外の景色を眺めている。
どうするだろうか、去るか、戻るか。
私は、どちらでも構わない。
また造れば良いと、長椅子に寝そべり深く息を吐く。
やをらと目を壁へ向ければ、既に子供の姿は壁上には無かった。
テーマ「楽園」
悲鳴、火、硝煙の匂い、逃げ惑う人々。
名ばかりの楽園は今この瞬間地獄と化した。
「ここも、駄目だった……」
隣にいた誰かがそう呟く。
その通り。
楽園なんて最初からどこにも無かったのだ。
テーマ『楽園』
きみといるここは。
この地球という場所は。
楽園なんだ僕にとって。
生きる価値のある場所に
君が変えてくれたんだよ。
ずっと誰かに褒めてもらいたくて。
あなたが褒めてくれる今は
世界全てが愛おしい。
どんな人でもおおらかに包み込んで
愛せる気がするの。
あなたのおかげで僕、神様みたいに
心穏やかにいられる。
ありがとう。
─楽園─
蛇は黄色い眼をしていた。
りんごは真っ赤だった。
ちっともおかしいと思わずに、僕は知恵の実を齧った。
僕の罪と無知の証は、ここに刻まれている。
何かを飲み込むたびに、りんごが上下して主張する。
僕が楽園にいた頃、全ては調和していた。
誰がりんごを断れる?
誰が蛇の眼を潰せる?
僕の眼は何色をしているだろう。
君にりんごを差し出す僕の眼は。
好きなときに好きなものを好きなだけ食べたり飲んだりできるゴロゴロしている人を楽園にいる人というのなら、その人の寿命は短そうだと思う。