なにもかもがあったのだ。
暖かな日差しも、柔らかな薄曇りも
緑咲く大地も、さざめく海も
鮮やかな星々も、心弾む歌声も
丁度良い服も、沈み混む寝床も
気の置けない親友も、健康的な身体も
なにもかもがあった。
なにもかもがあったのだ。
「それでもお前は行くというの」
零れた果汁が染める袖
蕩けるように甘い芳香
詰るような、責めるような
それが精一杯の抗議と知っていて
「それでも行かなきゃならない」
白み始めた水平線
遠く聞こえる鐘の声
小さく引かれた袖の先が
同じ色に染まりゆく
………
小煩いアラーム、半端に日差しの落ちる床
草葉も人のざわめきもなく、風だけが吹き荒ぶ音
何もかもがないこの場所で、
一人きりのこの場所で
「夢なんかじゃなく、お前の場所まで辿り着くとも」
花を編んだ指飾り
揃いの白こそ誓いの証
<楽園>
5/1/2024, 12:51:53 PM