「なんかこう、美味しそうじゃない?」
「正気か?」
「枯れ葉だと水分吸われそうじゃん」
「それは比較対象が悪い」
濃い緑に色付いた葉をくるくる回す。
徐に口をもごつかせる、悩ましげな顔色を横目に
図鑑を捲った。
「うーん不味い」
「良かったな、コレも食え」
「ナニソレいじめか?」
「甘かったら即効毒だったぞ。
一応中和しとけ」
「……まじで?」
「ほぅ、疑うか」
‹夏草›
呼吸の度に心音がなる
痛いくらいに胸がなく
もういいよ もういいかな
細い思考の糸ゆれる
けど
胸打つ力が 吹き込む吐息が
此処に居てくれと願うから
‹ここにある›
冷えたコンクリートを駆け出して
熱い砂浜に歓声が上がる
潮に涼む子供たちへ
日陰のままに声を掛けた
隣に引っ繰り転がる体は
疲労困憊眠りについて
引っ掛かるだけのサンダルが
心無さげに揺れている
‹素足のままで›
ぎりり関節のきしむ音
それでもどうか、と手を伸ばす
ばきり表皮のわれる音
それでもどうか、と口を開ける
朝日を背に振り返った貴方は
待ち焦がれた様に腕を開いた
ばちり接続のゆがむ音
それでもどうか、と足を踏み出す
ぎちり接続のくるう音
それでもどうか、と足を踏み出す
貴方に証明したかった
伝えたいことがあったから
ばつり、頭にアラーム音
ばつり、視界の機能停止
それでもどうか、と足を踏み出す
それでもどうか、と足を踏み出す
貴方を抱き締めてそして
ずっとそばにいる約束を
し
すると決めたから
警告音 警告音
機体の寿命は疾うの昔
それでも、それでも、どうか貴方に
ただひとつの約束を
‹もう一歩だけ、›
1枚の写真があった
何処かの国のお祭りのような
笑顔さざめく人並みの中
1人焦ったような顔があった
知っている顔の人だった
そんな場所にそんな時代に
居る筈の無い人だった
瞬く間にコマ送りの様に
人混みの奥へ消えていく
二度と相見えること無い人に
心底心底安堵して
お焚き上げの火へ放り込んだ
‹見知らぬ街›
暗い空に光が走る
目を閉じて数を数えた
光と音の速度差を
意味もなく測っていた
君もまた
恐怖ではないと嘯いて
寧ろ楽しげに口噤む
きっと君も
一緒に同じ数を数えて
‹遠雷›
「かわいい」
「でしょ。一目惚れしちゃった」
深い夜色の爪先を、鍵盤の上に踊らせて。
無形の旋律は楽しげで、ひどくさみしいようだった。
「かえってこないの」
「ごめんね」
口と目は笑っていた、でもかなしいようにみえた。
空の楽譜がとじていく、その終わりも見届けず。
「あなたの味方でいる。それだけは誓えるわ」
「空の上のかみさまに?」
「あなたと過ごした夜の日に」
「そんなものに?」
「あら、あなたの隣以外で寝た事あったかしら?」
「無いけど」
夜の色が指を包む、薄明るい昼の部屋の中で。
そばにいてほしいと言いたかった、
でも好きだから言えなかった。
‹Midnight Blue›
ヒトがゴミみたいな群衆が犇めいている。
若干の安堵と共に歩幅を合わせた。
「よく転覆しないよなアレ。定員オーバーじゃん絶対」
「な。増便するとか大きいの用意するとか出来なかったのかね」
「俺等の時すら酷かった筈なのにな……」
「本当ソレ。アレばっかりはもう一週くらい早めりゃ良かったと思ったわ」
「あの一週楽しくなかった?」
「もっと早くにお前に話しとけば良かったってコト」
土の地面は裸足に痛く、結わえた手首は罪人の如く、それでも道は遠ければ、さいごとよく似た赤黒い空を見た。
「そういや先刻ちらっと聞いたんだが、アッチに行くと空飛べるらしい」
「マジ?!今言うソレ!?うーわ最後まで待ってた方が良かったって話?」
「早く行けたとしてあの群衆に潜れる?」
「嫌過ぎたわすまん、最適解だった」
「だよな」
時々天へと登る光を少し眩しく、下り坂を降りていく。今は会話する余裕のある道も、あの群衆に混ざれば無茶が過ぎた話。
「俺等が飛ぶ頃どうなってると思う?俺は新しい生物と生態系が出来てるに一票」
「星ごと太陽に突っ込んどいて?」
「ソレに適応してどうにかしてるだろ、多分」
「俺むしろ壊滅したが為に宇宙遊泳になる方考えたわ」
「なにそれ浪漫やべえ、めっちゃ良いな」
「だぁろ。……と、」
足音が一つぴたりと止まった。此処では初めて合った視線が、少しの寂しさを湛えていた。
「お前はソッチか」
「ね。そんな罪に差があったかな」
「あー……飛び降り前の遺書分でちょっと軽減されてた」
「まぁじ?書いとけばよかった」
「書く相手いたか?」
「あんた宛てに!」
「全部話しただろばぁか」
「そうだけども!」
足音が一つ止まらない。歩く速度で確実に遠くなっていく。
「先終わっても待ってるからな、今度こそ一緒に飛ぼうぜ」
「今度『も』一緒にだろバカ!すぐ追い付くからな!」
星が滅ぶほんの少し前に飛び降りた、それでも咎は軽くないらしい。
地獄の道行きで空を見た。二人で一緒に飛び降りた、焼けた空の色によく似ていた。
‹君と飛び立つ›
精一杯に考えた
その名にどれほど祈ろうか
その道行きの幸いを
その名にどれほど祈ろうか
一度たりとも呼べなかった
その名にどれほど祈ろうか
それでも確かにここにいた
大切な大切な君のこと
‹きっと忘れない›