夜空の向こうに星がある
夜空の向こうに朝がある
夜空の向こうに光がある
夜空の向こうに君がいる
‹夜空を越えて›
昔、うさぎのぬいぐるみを持っていた。
さらさらでふわふわであったかくて大好きで
冬も夏も抱き締めて眠っていた。
いつ手放したのかは覚えていない。
多分どこかで捨てられてしまったのだろうけど。
そんなことを不意に思い出して、薄情だなと思った。
兎汁を啜りながら、薄情だなと思った。
‹ぬくもりの記憶›
凍傷も火傷も同じ事だと
確か母が言っていた
ぐずついてどろどろになるか
とどこおってぼろぼろになるか
気を付けなさいと言っていた
どちらも深くは死んでしまうと
確か母が言っていた
頭を抱えてうずくまる
腹を抱えてうずくまる
少しは風が凌げそうで
少しは静かな夜だった
この身体が凍ったとて
この身体が焼けたとて
きっとこの子は生き延びる
だって母が言っていた
私をそう生んだ母が言った
腹に当てた指は白く
熱いか冷たいかも分からない
それでも私はこの子に言う
生き延びろとこの子に言う
この身体を壁として
この身体を餌として
生き延びろと私は言う
私もそうして生きていた
‹凍える指先›
白い道を駆けていく
果てなく果てなく駆けていく
白い原を翔けていく
果てなく果てなく翔けていく
白い心を懸けていく
果てなく果てなく懸けていく
白い祈りを掛けている
果てあるように掛けている
この地にいつか花咲くよう
白く白くかけている
‹雪原の先へ›
ふわりと白がくゆって消える
そっと身を屈め耳澄ます
囁きにも満たない息が
静かに熱を染めるだけ
ふわりと白がくゆって消える
そっと抱き上げ耳澄ます
微風にも満たない息が
静かに肌を撫でるだけ
‹白い吐息›
昼間に灯す意味は無いと
消された導に惑って消えた
見上げる事に意味は無いと
消された神話に学ばず消えた
大事に持ち続ける意味は無いと
消された優しさに零れて消えた
絶望の中で意味は無いと
消された希望に閉ざされ消えた
此処までおいでと誘うのに
とびきり良いもので照らすのに
みんなみんな消されて消えた
誰かの悪意に消されて消えた
‹消えない灯り›
窓の灯りの一つ一つに
温かな晩餐が有るのなら
玄関の灯りの一つ一つに
出迎える声が有るのなら
光落とす足跡の一つ一つに
寄り添う温もりが有るのなら
星降る夜の一つ一つに
祝福の祈りが有るのなら
‹きらめく街並み›
炎に水に晒してみても
黒光に白光に照らしてみても
何にも読めない便箋が
綺麗に畳まれ封筒へ
その時が来れば分かるからと
大事に封され箱の中
案外早々のその時に
意味を初めて知ったけど
手紙を読めないままの方が
きっときっと幸せだった
‹秘密の手紙›
酷い雷が鳴り響く夜に
雪が降るかしらと窓を見る
酷い風が吹き付ける朝に
雪が降るかしらと戸を開ける
酷い雨の撃ちつける昼に
雪が降るかしらと外に出る
酷く酷く寒くて寒くて
一片も動けないような痛みの中で
雪が降った事を知る
冬が来たことをやっと知る
‹冬の足音›