そろそろかと見渡して、そうして初めて首を傾げた。
集まる面子は雰囲気の違いこそあれど、
おおよその面影はみんなあったから。
アイツは、と声が上がった。
見ていない、とあちこちから返される。
企画立案も実行リーダーも
今日の集合すら旗振った、
たった一人が見当たらない。
もう始めようよ、と声が上がった。
帰れなくなる前に、と口々に。
元より集合時間は遅かった、
これ以上延ばせば夜になる。
何かでうっかり遅れたか、
やがてそのうち来るだろうと、
用意していたシャベルを取った。
記念樹の根本、小さな石碑、
昔にタイムカプセルを埋めた場所。
掘り返そうと刺した土は
不思議な程に柔らかく、
金属でも植物でもない塊に、
鋭利に柔らかく刺さっていった。
‹隠された真実›
金属を打ち付け合う音が、どうにも好きになれなかった。どうしてか体が鈍く痛むような気がした。
硝子を叩き鳴らす音が、どうにも好きになれなかった。どうしてか頭が酷く痛むような気がした。
涼し気で美しいと皆が喜ぶ、ソレがどうにも昔から苦手だった。
忘れてしまって良いんだよと、何処かから声がした。
‹風鈴の音›
例えばソラを行き遠く神秘を目にするように
例えばソラを行き遥か星々を触れるように
例えばウミを行き深く暗闇を覗くように
例えばウミを行き広き煌めきに踊るように
例えばマチを行き長閑な日々を愛でるように
例えばマチを行き雑多な人々を見守るように
例えば天に例えば地に
あついばかりのおもたいにくを
抜け出せたならいつか
捨てられたならいつか
‹心だけ、逃避行›
水と砂埃に烟る道
青く抜ける空と沈黙の緑
私の好きな冒険譚
地続きに似た冒険譚
光と闇に大翼が舞い
魔法と刃を打ち鳴らす
僕の好きな冒険譚
どこか遠くの冒険譚
‹冒険›
拝啓
やぁお久し振り、元気にしてたか。
靴を先に贈っていたが、ちゃんと届いているかい。
錦木の件だが、例の事象以外は一先順調だ。
現場の方も早々に戻って片付け中なところ。
手が空いたら連絡を入れる。君はそのままで頼んだ。
‹届いて……›
皆で歩いた帰り道に、赤く燃える街の異様な事。
皆で繋いだ祭の夜に、灯火の消え散る恐怖の事
皆で続けた光の朝に、重奏で響く悲鳴の事。
皆で逃げ出したさいごの日に、
なくしてしまったもののこと。
大事な事ほど変わり果て、
忘れたい事ほど妙に鮮明、
思い出のページだけはしたくない、
皆と皆と、居た日々の事
‹あの日の景色›
素敵な人と出会えるように
大切な人と共にいれるように
家族友人といつまでも
君に一目だけでも会いたい
逢いたい愛したい
居たくて痛い
ひとといるのはいたいから
一人で生きたい独りで居たい
静かに平穏に十全に
‹願い事›
恋をしてみたいのだと
憧れた目でそう言った
きらきらでふわふわで幸せで温かなのだと
夢見る目でそう言った
どんなひとがいいだろう
容姿か心か得意か趣味か
あるいはそういったすべてか
そうしたらきっと恋をして
ぽかぽか幸せになれるんじゃないかと
ぼくたちにそんな機能はないのに
そんな機能はないのに
冷たい水槽でうっとりとうたう
その唇が艶めいて見えた
‹空恋›