苦痛を染めた赤色より
呪いを染めた黒色より
赤染めの頬に零れる
黒染めの瞳から零す
色の無い雫が似合う
可哀想は綺麗で可愛い
‹透明な涙›
鳥となり風となり
きっと君の所へ帰るよと
約束してから数千年
舞い降りる羽の一枚も無く
ずっと風は止まったまま
‹あなたのもとへ›
そっと そぅっと こっそりと
赤くまろい頬に触れた
そっと そぅっと こっそりと
白くやわらかい手に触れた
そっと そぅっと こっそりと
小さな命の輝きに触れた
そっと そぅっと こっそりと
沈黙のまま光を消した
‹そっと›
切って 貼って 断って 繋いで
失敗は置いといて たまに材料にして
好きなように好むように
上手くいくように成功するように
混ぜて 分けて 裂いて 縫って
零して壊して失敗したら 次の材料にして
組み入れて 取り出して
取り替えて 入れ換えて
楽しく必死で 夢中に魅入られた
無邪気に笑うこどもみたいに
狂科学者は未来を謳う
犠牲の一つも悼まずに
‹まだ見ぬ景色›
きっと行こうねと結んだ約束
不確かな将来への切符
絶対行こうねと指を切る
積み上げた先の未来の話
見えない程離れてしまっても
聞こえない程別れても
願掛けの証は捨てられず
きっと行こうねと夢見た世界
絶対行こうねと望んだ光景
君は目の前で手を差し出した
共に行こうと震える声が
ああ叶わないのだと知っていた
知っていたから地に伏した
現ではもう叶わないから
いつかまた だけの祈りの言葉
いつかまた此処で会えたなら
この世界で出会えたなら
次こそきっと 今度こそきっと
‹あの夢のつづきを›
ふわりふわふわ白が降る
はくり空で閉じた口内は
仄かな甘味にただ噤む
道を白く染める粉を
ぎゅっと握る目が合った
「あったかいね」
「そうだね」
突付けば直ぐに崩れる白玉は
風に舞う先透明に溶け落ち
悴まない指先もまた
透明にべとついた
「帰りたいね」
「……そうだね」
冷たく凍える世界だった
天地程異なる厳しい世界だった
それは間違いなくそうだった
それでもどうしてもこの世界を
常春のお菓子の国を愛せない
‹あたたかいね›
鍵束を持っていた
酷く重くてやけに軽い鍵束だった
銀に金に黒やピンク
大も小も無機も豪奢もごちゃ混ぜな
様々の沢山の鍵が連なっていた
開けてご覧と声がした
穴の空いた扉があった
鍵穴は真っ暗なその中で
どの鍵も使えるから
だから好きな鍵を使ってご覧と
声がした
何を開けるかも分からぬ鍵で
何処へ開くかも分からぬ扉を
開けてご覧と声がした
選んで進めと
声がした
‹未来への鍵›