虹の麓には宝物があると
君は笑って指を差した
遠い遠い景色の向こう
きっといつか一緒に行こうと
虹の麓には花畑があって
君は俯き泣いていた
遠く遠く川の向こうへ
君と共には行けなくて
‹君と見た虹›
「はい始まりました夜空最速選手権。
司会は私、いつでもあなたを見守る満月と」
「実は固定化されてません、実況の北極星で
お送りします」
「さて選手達も続々と登場しております。
それぞれ意気込みを伺いましょうか」
「ではエントリーナンバー1番、
夜空を走ると言えばこの方、流星選手!
今回は流星群の皆様とご参加ですね」
「空を飾るに相応しい姿、見せ付けて行きます!」
「流石は流星選手、激しく燃えております」
「流星選手は燃え尽き症候群のハンデが
ありますからね…」
「表彰台にたてるかの問題がありますか…。
気を取り直してエントリーナンバー2番、
一晩に世界中、計算上は光速を超えると噂
サンタクロース……のトナカイ選手!」
「こちらもチームでご参加ですね」
「最速のトナカイを決めに来た。他は知らないな」
「なんという自信!他の選手には目もくれない」
「例年は協力して重いソリを引いておりますが、
単独走になることが吉と出るか凶と出るか」
「エントリーナンバー3の飛行機選手は
少々到着が送れている模様です」
「最速選手権でこれは幸先の悪いスタートですね」
「スタート時刻に間に合わない場合は
強制失格となりますので皆様ご承知おきを」
‹夜空を駆ける›
口に出してはいけなかった
言葉にしてはいけなかった
思うことだけは許された
ばれないから許された
世間の一般をなぞらえた
自分の定義を調整した
興味の矛先を確かにずらし
手段と目的をすり替えた
してはいけないことだった
許されない筈のことだった
世間の風向きを静かに押した
作り上げた自分で圧した
伝えたいことがあった
とうに意味の無い事だった
伝えたいひとがいた
とうに届かない事だった
間に合わないことに気付いても
とうに止められぬ事だった
‹ひそかな想い›
触れた指先は冷たくて、
そしてただ硬かった。
整えた爪先唇は、
美しいまま変わること無く。
撫でた髪は荒く短く、
抜けはしないが伸びもしない。
あの人に似せた人形を、
あの人の代わりの人形を。
その魂を宿せぬままに、
その名呼ぶことも出来ぬままに、
ただ沈黙貫く人形を。
ある朝瞬き微笑んだ、
見知らぬ表情の人形を。
‹あなたは誰›
机の中の封筒を本棚に差した
写真立て裏の封筒を鉢の下に置いた
下駄箱の封筒を引き出しに仕舞った
皿の上の封筒をポストに入れた
栞代わりの封筒を額縁に挟んだ
新聞から落ちた封筒を靴の上に投げた
‹手紙の行方›
その道の先にあるものが
誰もが羨む名声なら
その道の先にあるものが
誰もが賛する発明なら
その道の先にあるものが
誰もが頷く和平なら
その道の先にあるものが
その道の先にあるものが、
そんなものでなくても
ただ一つ私だけを導く星ならば
ただ私だけに光って見えるとしても
私はこの道を行くだろう
‹輝き›
例えば君が駆け出す瞬間、
ゴムとアスファルトの擦れる音
例えば君が振り向く瞬間、
高く風切り落ちる音
例えば君が立ち止まる瞬間、
閃光目眩む爆発音
例えば君が、
例えば君が、
例えば君が生きてる瞬間、
何より守りたい鼓動の音
そのためならば、
そのためならば、
誰も何も己も全てを
代わりに殺してしまえるから
‹時間よ止まれ›