「此処が暗いというならば」
「君は光の中にいたのさ」
「此処が明るいというならば」
「君は闇の中にいたのさ」
「この薄明が安心するなら」
「この薄闇が心地良いなら」
「それは否定されることでもないさ」
「生きやすい場所で息をするのさ」
‹暗がりの中で›
「お茶言葉って無いのかしら」
カチリと鳴るティーカップ
胡乱な視線の先で笑う瞳
「四つ葉のクローバーにも枯れた薔薇にも
花言葉はあるでしょう?
それなら、茶葉にだって有って良いと思わない?」
「はぁ、そうね」
摘んだクッキーを舐めた指
壁に並んだ紅茶缶を一つ
「じゃ、あれ何て付ける」
「特別な時間」
「……あれは」
「あなたと一緒にいたい」
「本体の言葉パクってくんなよ」
「ふふふ」
ついと輝く小さなスプーン
別々の缶から混ぜられた茶葉
「それなら、あなたはこれに何て付ける?」
随分昔に作ったブレンド
ミルクでも砂糖でもレモンでも
どうにもならない香りだけの苦い茶色
好みの違う二人分を
無理矢理一つにした歪を
くるり乾いた皿に混ぜながら
「まあ、一つしか無いだろ」
冷たい指先から奪った葉々を
クリームに掛けて一口に仕舞う
喉を引っ掻く小さな痛みを
幸福そうに見つめていた
‹紅茶の香り›
好きなんて愛してるなんて
そんな感情だけじゃどうしようもないよ
本当なんて真実だなんて
そんな言葉だけじゃどうにもならないよ
開けたいならきちんと言って
あの日確かに決めた一言を
君が確かに本物だと証明したいなら
‹愛言葉›
初めての握手は熱くって
びっくりしたのを覚えている
寒い日の握手は冷たくて
びっくりしたのを覚えている
暑い日の握手は乾いてて
びっくりしたのを覚えている
別れの握手は凄く強くて
びっくりしたのを覚えている
再会の握手は酷く繊細で
びっくりしたら君が笑った
‹友達›
最初から素直になれていたならば
一緒に逃げてくれたかな
‹行かないで›
生まれ落ちた日に温もりを
成長と痛みの夜に希望を
冒険へ踏み出す昼に輝きを
夢現に揺れる夕暮へ変化を
やがて遠く旅立つ光へ自由を
駆けて翔けて全うするその生へ
遥かな蒼より祝福を
‹どこまでも続く青い空›
「祠壊したの?」
「掛布替えよとしたのに引っ掛かって壊れた」
「あらら、ばちぼこ怒ってない?」
「ばちぼこ怒られた。でも直したら良いって」
「……ちなみに今なんの作業中?」
「ロウソク。どうせならかっこいいドラゴンで
飾る夢を叶えたいんだって」
「……純和に?」
「純和に。」
「あと御神体はリボンでドレスにしたいって」
「純和に」
「純和に。」
‹衣替え›
泣き喚いて
喉裂いて
有らん限りの声で
枯れ崩れる程に
叫んだ所で
前を向いた君には
どうせ届きやしないのだ
‹声が枯れるまで›