笑って見送ってと君が言う
歌うように晴れやかに
新しい門出を祝うみたいに
そうしてきっとこの先も
微笑みと共に思い出してと
そんな僕には難しい
難しいことを言う君が
誰より楽しそうに笑うから
僕も必死に唇を
目を全霊に弛ませて
さようならという声が
決して震えないように
さようなら僕をあいしたひと
さようなら僕のあいしたひと
同じ場所にはいけないことを
恨んでくれすらしないのだ
‹LaLaLa GoodBye›
例えば空を指さしたときに
星に当たらない可能性はどのくらいか
例えば深海を指さしたときに
魚に当たらない可能性はどのくらいか
例えば樹を指さしたときに
葉に当たらない可能性はどのくらいか
例えば画面を指さしたときに
一切知人に当たらない可能性はどのくらいか
例えば引き金を引いた時
誰も傷付かず弾が遠く消える
そんな平和に帰着する
可能性はどのくらいか
‹どこまでも›
何もかも違うヒト同士でも
きっと分かり合えることもあるさと
それは例えば道が交わるみたいに
一緒に歩いて行けるのさと 言った君
古来辻は異界と繋がるから
そういうこともあるかもしれない
なんて言えば化物扱いするなと怒る正義感の強い君
空白の席に誰も気付かず
時は当然に進んでいく
多分違う道へ踏み込んでしまったのだ
僕と同じで
‹未知の交差点›
誕生日の日に君はいつも
一輪の花を贈ってくれた
本数の裏読みはされたくないと
一輪と決めて贈ってくれた
生花 鉢植え プリザーブド
鮮やかに咲き誇る花を、いつも
君が旅に出て初めて巡る
誕生日に封筒が届いた
クリアカードが一枚だけ
茶色の秋桜の押し花を一輪
其処に込められた言葉の意味を
問える先は見つからない
‹一輪のコスモス›
わたし あきっぽいの、と彼女が言う。
毎日違う色のアクセサリを揺らすのは
確かに昔の有名曲みたいで
わたし あきっぽいの、と彼女が言う。
感情も表情もくるくる移り変わるのは
確かに空の色によく似ていて
わたし あきっぽいの、と彼女が言う。
離れた手が人並みに消えていく
……私は今、誰と話していたのだったか
‹秋恋›
不平等で無定形で
論も証拠も証明もなしに
さも当然みたいな顔で
万能通貨に扱って
さも被害者みたいな顔で
全部他人に転嫁して
そんなのだからそんなのだから
「本物を得られない」なんて
至極当然の馬鹿をいう
‹愛する、それ故に›
ヒトが忙しなく行き交っている
イヌは大口を開けて尻尾を巻き
ネコのカタチの姿は一つもなく
赤々とした警告灯は眩しく
打ち捨てられた鉄硝子が
足元で削り崩れている
吹き飛ぶは紙か布か果たして
何処かにぶつかり潰れたようで
いよいよ世界でも終わるのだろうかと
無くなって久しい耳跡を撫でた
‹静寂の中心で›
「『あの葉が落ちたら』なんて有名な話だが、
どうやら僕もそうらしいよ」
「遂に頭にまで馬鹿が回ったか?」
「本気だよ。秘密にしていたが、
僕には未来が見えるものでね」
「ならばいよいよ医者にかかるべきだな。
其処に植わってるのは常緑樹だぞ」
「知っているとも。僕ですら葉の更新を
お目にかかったことはないね」
「ならば枯れ落ちるまで此処で寝ていると?」
「其処まで時間は掛からないさ。
処で次に来るのは来週だったかい?」
「そうだが。何だ、其処までに植木の入れ替えを
するという落ちか」
「いいや。まあ、此処で会うのは最後だろうね」
「……馬鹿馬鹿しい」
「おいお前聞いたか、あの火事」
「知らん」
「一人って」
「知らん」
「いやだから」
「知らんと言っている」
「……わかったわかった。何処行くんだ」
「奴に頼まれていたモノがある」
「そうかい。ま、一つだけ。
ソレは司法で捌くもんだよ」
‹燃える葉›
光に照らされるが真実で
闇に隠れるのが偽証なら
薄い月明かりに影翳す
君の名前を何と呼ぼう
‹moonlight›
今だけ今日だけ一生一度
いつだって約束は空言だけで
君だけ此処だけ今生限り
口遊む誓いは反故より軽い
笑って許すも本気で怒るも
一度だって反省しないけど
一回一回さいごの一回
甘えた振りして震える指を
冗談と払ってやれないくらいには
‹今日だけ許して›