美佐野

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(二次創作)(楽園)

 澄み渡った青空に、柔らかく差し込む日差しは暖かい。馥郁たる花の香りに混ざり、瑞々しい風が頬を撫ぜる。ハルトは、両手を大空に向けて伸ばすと、思い切り息を吸い込む。何より、誰もいないのがいい。
 ここはエリアゼロ。ゼロの大穴の内部である。
 この地に初めて足を踏み入れてから、一年が経つだろうか。その後も、ネモに続き二人目のチャンピオンランクのアカデミー生になったハルトには、たくさんの冒険があった。たとえばキタカミでの合宿に呼ばれ、オーガポンと出会ったり。たとえば遥か離れたイッシュ地方のブルーベリー学園で学内リーグを制覇したり。友達も知り合いも増えて学校生活はますます楽しくなったが、たまに、こうして一人になりたい時はエリアゼロに足を運ぶようにしていた。
 連れているのはミライドン一匹だけ。
 オモダカから、自由に出入りする許可は貰っている。それはハルトにしか許されていない。人々の目からしばし離れ、羽を伸ばせるここは、ある意味で楽園だ。
「ミライドン、ピクニックでもする?」
「アギャ」
 肯定と受け取り、手慣れた様子でテーブルを広げる。野生のポケモンたちは人間に興味はないらしく、驚異にはならない。何者も邪魔しない至福の時間だ。
 だが、急に第三者の声がしたのだ。
「おや、サンドイッチかね」
 白衣を纏った長髪の女性が、こちらに寄ってくる。どうやらハルトより先にここに来ていたらしい。当然、無許可だろうが、ハルトはそれを咎める力がなく、代わりに名前を呼ぶだけだ。
「オーリムさん。来てたんですか」
「上層であれば、一人でも安全だからな」
 それは理由になってないのだが、オーリムはテーブルの上のサンドイッチに目をやっている。ハムだけを挟んだ単純なジャンポンプールを拵えたところだ。
「上のパンは?」
「弾け飛びました」
 半ば冗談、半ば真実だ。手から離した瞬間落ちたそれは、ミライドンの口の中で咀嚼されている。
「結構なことだ!」
 呵々と笑い出す彼女が、ハルトは少し苦手だった。

5/1/2024, 10:25:53 AM