(答えは、まだ)(二次創作)
あとで書く
(台風が過ぎ去って)(二次創作)
そよ風タウンに来て初めての台風が過ぎ去って、牧場主ハルカの脳裏に浮かんだのは「絶望」の二文字だった。
「そんな……」
昨日は確かに酷い風雨だった。飼い始めてまもない鶏を撫でて落ち着かせる他にやることがなく、一歩も外に出ずに過ごした。雨の日でもハルカの歩みは止まらないが、ただ立っているだけで流されるような風力には流石に太刀打ちできない。そうして台風一過の晴れ空の元、ようやく確認できた畑はひどい有様だった。
苗が変色している。
中には無事だった苗もあるが、殆どは強すぎる風に浮かび上がり根が露出したせいで、駄目になっていた。防風柵の存在を思い出したのも、今更になってからだった。赤い風車で作れたのに。
「…………」
資金はほぼ底を付いている。前回のバザールで、夏野菜が目新しくギリギリまで買い込んだ。ああ、これからどうしたらいいのか……。
「おい、何をしている」
「…………」
誰かが牧場に来ているが、ハルカは畑を見たまま動かなかった。こちとら絶望に忙しい。
「ハルカ。ハルカ!」
「…………ロイド?」
あんまり呼ぶので仕方なく顔を挙げれば、行商人のロイドだった。さて彼がここに来るとは珍しい、いや、初めてではないか。疑問は顔に出ていたらしく、ロイドは呆れていた。
「米の苗、頼んだのお前だろう」
「え?」
確かに取り寄せを依頼したが、自分の記憶が確かならばミゲールに頼んだはず。
「あー……まあ、その、心配だったんだよ。この街の台風、初めてだったろ」
つまりミゲールの店に届いた商品を、強引に届けにきたらしい。礼を言って苗を受け取り、荒れ放題の畑に近付く。流れでついてきたロイドが眉を潜めた。
「これは、酷いな……」
「防風柵を立てなかったのが悪いのよ……」
ただ、米の苗の存在は不幸中の幸いだった。収穫まで時間こそ掛かるが、ご飯にしてバザールに並べるとよく売れる。
「うん、なんか大丈夫な気がしてきた!」
一人でに立ち直った牧場主をロイドだけが見ていた。
(ひとりきり)(二次創作)
夢に見た牧場生活を遂に始めた。
新米牧場主ナナミはもう、幸せの絶頂にいた。心配性の父により、あくまでも実験的な許可とはいえ、叔父フランクはウェスタウンの南に立派な牧場を準備してくれた。というより、ずっと放棄されていた地らしく、この時ばかりは前の所有者にキスをしたいぐらい嬉しかった。小さいながらも設備の整った家、荒れてはいるが栄養豊かで鍬を入れればすぐにふかふかになる耕作地。作物の種を植えて、いずれ牛や鶏を飼って、と夢は否が応にも膨らんでいく。
それに気付いたのは、その日の夜だった。
「私、独りぼっちだ……」
引っ越してきて、フランクやウェスタウンの人々に挨拶も済ませて、心地よい疲労感とともにベッドに入った瞬間、気付いた。昨日まで、両親と妹との4人暮らしだったのに、今やこの地にひとりきり。言いようのない寂しさが、じわりじわりとこみ上げる。
「……だからね」
とナナミは微笑んだ。
「恋人が欲しかったの。もっと言えば、家族が欲しかったの」
あれから一年。牧場は賑やかになった。牛も鶏も、馬も羊もいる。最近は猫を飼い始めたぐらいだ。でも、ナナミは誰かと一緒にいたかったし、大切な人と一緒に暮らすことを欲した。
「それで、私というわけか」
ナナミの昔語りに耳を傾けていたフォードが、ふう、と息を吐く。
「別段、私でなくとも、相応しい男は他にいただろう。ウェインや、ユヅキ、ヒナタ、あとはルデゥスだったか。家族が欲しいだけなら、彼らの方が……」
「家族が欲しいだけなら、ね」
「?」
「最初はそうだったんだけど、私、フォードが欲しくなったんだよね」
本当に、ただ人恋しいだけなら、フォードを選ぶ必要は無かった。三つの里の人たちは皆ナナミに親切だったし、ナナミを好いていた。そんな中、恋に疎いと公言しているフォードを選ぶ筋は無いはずだった。
「しょうがないよね。私結局、フォードを好きになっちゃったんだもん」
だから指輪を渡しに来た。拒まれたらどうしようという大きな不安を忍ばせながら。
(雨と君)(二次創作)
伝票の整理に勤しんでいたロイドの耳に届くのは、途切れない雨音だけだ。そよ風タウンの人々は、傘を持つのを良しとしない。天候に関わらず強い風の吹く日が多いこの街で、傘は大して役に立たないからだ。よって、雨や雪の日は、往来を行き来する人の量も減る。誰かが訪ねてくる可能性が限りなく下がるため、溜まっていた仕事に向き合うのに持ってこいの一日なのだ。
(こんな日に外を出回るのはあいつぐらいだ)
雨が降ろうが槍が降ろうが仕事は待ってくれない――人生の中にはそんな日もあるだろう。尤も人生において毎回雨の日に出歩く稀有な存在もいて、それこそが牧場主ハルカだ。体が濡れるのも気にせず、ぴょんぴょんとその辺を跳びまわっている。ほら、今日もまた――窓の外に彼女の姿を認めたロイドは、予想通りのタイミングに吹き出した、のだが。
(動いてない?)
次の瞬間、取るものも取り敢えず、ロイドは外に飛び出していた。当然、旅人の服はぐっしょりと水を吸い重くなるが、足取りを鈍らせる程ではない。果たしてハルカは、土の一点を見つめて立ち尽くしていた。
「ハルカ!」
「えっ、ロイド?」
「雨の中走り回るのもどうかと思うが、何で今日はまた突っ立ってんだ。忙しくないなら家に戻れと――」
ハルカがぐい、とロイドの腕を引っ張る。強引に自身の隣に並ばせてから、一点を指した。先ほどから彼女が見つめている先、そこには。
「ピンクダイヤモンド?」
「さっすが鉱石流光の主、石には詳しいじゃん」
何でも、この周辺の土地ではたまに土が盛り上がっていることがあり、鍬を入れると色々な物が出土するらしい。その殆どは石かメダルの類だが、時折宝石類が出てくることもある。そして今日は、最も高価と言われるピンクダイヤモンドを見つけ、思わず足を止めたのだとか。
「だって、雨の日にこんな綺麗なものが見つかったんだよ?嬉しくない?」
「お前が熱を出さないか心配が勝つ」
「ごめんなさい……」
しゅんと項垂れる牧場主だが、きっとまたやるだろうなとロイドは踏んでいた。
(信号)(二次創作)
「うわっ、モノホン!?」
仕事帰りのチリは、信号待ちで人混みに紛れるひときわ見慣れた人影を見つけた。先端にモンスターボール型タッセルが付いた氷色のマフラーで隠れた口元に、すっと伸びた立ち姿。間違えるはずがない。
「グルーシャやんか!」
声を上げるなり、チリは待ちきれずに駆け寄ってしまった。ちょうど青信号が点滅し始めたタイミングで、無謀にも見えるタイミングに群衆が振り返る中、本人はというと少し眉をひそめてこちらを見ていた。
「……危ないから信号は守って」
「ええねん、ギリオッケーやったし」
「見てる方はヒヤヒヤするんだよ」
むっとした顔でそう言いながらも、グルーシャは歩道の端に寄ってチリを迎える。パルデア四天王と最強のジムリーダーの組み合わせに、先程とは異なる色の視線が刺さるが、その程度でチリの勢いは鈍らない。
「てか、なんでこんなとこに?誰かと待ち合わせ?あ、まさかデート?チリちゃんというものがありながら!」
「ただの買い物」
「ほんなら一緒に寄ってこ。アイスとか食べてこ?」
「……夕飯前に冷たいもの?」
「氷のジムリーダーが何寝ぼけたこと言うとるん」
人混みの中でも声が大きいチリに、周囲の視線が集まる。グルーシャは観念したように肩を竦め、チリの手を取る。
「取り敢えず行こうか」
「アイス食べる気になった?」
「ここにずっといたらメディアにあることないことすっぱ抜かれるでしょ」
「なんなら先手打ってツーショット写真でも撮っとこうか?」
チリはワルそうな顔をしながらグルーシャに手を引かれている。背の高い彼女はどうしても耳目を集めるが、慣れているため歯牙にも掛けない。普段は人のあまり来ないナッペ山で過ごすグルーシャから見ればやや迷惑なのだが、なんだかんだ楽しそうなチリに釣られたのか、その口角は少し上がっていた。