(二次創作)(嵐が来ようとも)
オリーブタウンの南の大地で牧場を営むシャリザーンは、今やいっぱしの牧場主となっていた。たとえば花畑や休憩できる机&椅子、数々のオブジェが並んだ第一エリアは観光農場になっており、かたや第二エリアには広々とした牧草地に家畜たちがゆったりと過ごしている。最奥の第三エリアには馬鹿みたいに広い畑と各種メーカーが並んでいた。
「で、いつ家を建てるんだい?」
雑貨屋のジャックに尋ねられ、シャリザーンは何度か繰り返した答えを提示する。
「いやあ、もう少し牧場が軌道に乗ったら、かな?」
「もう十分だろ!」
ジャックが怒ったような呆れたような声で天井を仰ぐ。先に述べた通りの規模まで作り上げておきながら、シャリザーンの家はまだテントのままだった。もちろん、ジャックに伝えた答えは嘘ではないのだ。駆け出しの頃、資金が少しでも溜まれば種を買い、家畜を買い、自分のことは後回しだった。そのうちに、テントで寝泊まりするのに慣れてしまい、今更家を建てるのも、となり今に至る。
それに――。
「家建てたら、今度は結婚しろとか言われそうでさあ」
ぽつりと零したこちらが本音だった。
シャリザーンはとかくモテる男だった。男女問わずとてもよくモテた。ペンダントだってたくさんの人から貰っている。目の前のジャックもその一人。家を建てれば誰かと住めるようになるわけで、これを機に誰かを選ぶような流れになるのが、もう今から面倒なのだ。
「そんなん、俺と大親友になれば済む話だろ」
ジャックはこともなげにそう言うし、そう悪い提案ではないのだが、他の15人を切り捨てるのも忍びない。そもそも、誰かに嫌われるのが嫌で、角が立たないように振舞っていたらこうなったのだ。結局、嵐が来ようと槍が降ろうと、当分の間はテント生活をズルズルと続けるしかないのだ。それが、芯を持たぬままにモテるだけモテた、ある働き者の末路なのだ。
7/30/2024, 6:28:36 AM