(入道雲)(二次創作)
絵具をそのまま零したかのような青空に、真綿のように真っ白な雲が浮かんでいる。木陰の涼しい場所を陣取って仰向けに寝っ転がっていた牧場主シャリザーンは、一言、呟いた。
「パンティーしたい」
「頭沸いてるのか」
冷ややかな声が耳に届くが、肝心な姿は見えない。とはいえ、どうせ近くにはいるだろうと踏んで、シャリザーンは続ける。
「つれないな。マイスイートハニーなら、『はっはっは!良き哉良き哉』と褒めてくれるのに」
「おお、そなたこんなところにいたのか」
イオリがやってきて、シャリザーンの隣に腰を下ろす。冷ややかな声の持ち主は、そのまま音も立てずに気配を消した。近くにいるかもしれないし、いないかもしれない。後者だな、とシャリザーンは判断した。何故ならば、今からイオリと甘々な時間を過ごすからである。
「え、てかハニー、僕を探していたの?」
「うむ。書の整理もひと段落ついたゆえ」
イオリの顔を下から見るのも乙なものだ。真正面から見ることが多く、次点が横。どの角度から見ても整った凛々しい若君の魅力を余すところなく味わえる。最高だ、と声に出さずに呟く。青い空、真っ白な入道雲、涼しい木陰、愛しい伴侶。大親友の儀を交わして正解だった。
「やっぱこんな晴れた日はパン(のパー)ティーしたいな」
「そういえば、ドウセツから米粉を譲り受けておった」
「コメコ?」
小麦粉でなくてもパンが焼けるとは初耳だ。降ってわいた有益情報に、シャリザーンは思わず跳ね起きた。イオリによれば、作り方自体もドウセツが教えられるとのこと。
「へぇ!お米パンティー、いいかもね!」
そうと決まれば善は急げだ。牧場主は、一路、庵を目指して駆け出す。やや遅れてイオリも立ち上がり、後を追った。
「…………」
あとは、意味のわからない会話をただ聞かされたマツユキが残るのみであった。
7/2/2024, 9:05:02 AM