『暗がりの中で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
こんな随筆を読んだ。
私の少年時代には《蠟燭の時期》とでもいうべき時代があり、深夜、電灯を消した闇のなかで小さな蠟燭をつけ、そのゆらめく黄色い焔を顔の下からあてながら鏡を覗くと、思いがけぬ深い陰翳にくまどられた《自分の顔》のなかから思いもよらぬ種類の《他のかたちの自分》の邪悪な顔がいわば見知らぬ遠い宇宙人のごとくに現れてくる奇怪な啓示に、その時代の私は飽きることなく耽っていたことがあるのであった。私はつねづね闇のなかの鏡は、それ自体すでに《魔の道具》であると思っていたけれども、闇のなかの小さな蠟燭の黄色い焔が私達の隠れた本性をおぼろに照らしだす別の種類の魔の道具であることにも尽きせぬ不思議な深い魅惑を覚えたのであった。
作者は埴谷雄高、随筆の読解は難しい。
難しいけど志望校が出題してくるからしょうがない。少なくともこの18年生きてきて私にはロウソクの時期なんてものは無かった。そしてもう世間は、私が少年少女でいることを許してくれない。
無い経験に自己を没入させるのはちょっと大変だからか、やっぱり平均点は低かった。
これは前回の冠模試で出た問題だ。明日が2回目の冠なのを考えるとベストタイミングなので驚いた。
本来は教科書に向かうべき時間だけど、おかげで1回目の問題冊子を振り返ることが出来たので有意義だったとそう思うことにする。
この文章に強く惹かれてしまったのは、作者の表現力なのか、独特の雰囲気からなのか……
こういう文章を、いつか書けるようになれたらなと、強く願う。
夜の散歩
「来い」
夜半過ぎ、遅くまで書類を読み込んでいた私の下へ来たのはヴァシリーだった。彼は一言だけそう言うと、私に向かって手を差し出す。
断る理由が無いから、その手を取った。彼はぐいっと腕を引っ張って私を抱きかかえると、そのまま部屋の窓から外へ出た。
季節は夏から秋へ。変わり目ということもあってか、夜は冷え込むようになった。それを配慮してからか彼は私を抱えた時、部屋にあった毛布を引っ掴んで私ごと包む。
「何も無いか?」
「大丈夫。ありがとう」
「今日は新月らしい。何も見えないが、それはそれで楽しいだろう?」
「ふふ。うん、とても」
生活棟の屋根から屋根へ。空を飛ぶようにヴァシリーは走っていく。時折感じる浮遊感が心地よくて、私は終始にこにこ笑っていた。
「楽しそうだな」
「そう?」
「笑っているのが見えるからな」
「そういえば、夜目が効くんだった」
そうして、地面に降り立ち歩き始める。生活棟を抜け出して、街へ出る。いつもなら賑わう街はしんと静まりかえっていて、別世界に来たような気さえする。
「……静かね」
「そうだな」
「何だかあの時を思い出すわ」
「出会った時の話か?」
「ええ。こんな風に暗くて、誰もいなくなってしまって。……あの時はすごく、怖かった」
「………それは、今もか?」
顔をあげると、ヴァシリーは静かにこちらを見ていた。しかし、気遣うようなその視線は何処か子供のように幼く感じる。
彼なりに案じてくれているのかもしれないと思い、私は笑う。
「大丈夫。今は、怖くないよ」
「そうか。……俺は、お前の苦しみが分からない。知ることも出来ない。悲しみも何もかも」
「そうね」
「だが、こうして居場所になることは出来る。お前が望むなら、俺の隣がお前の帰る居場所だ」
「!」
「不思議なことだが、お前が少しでも見えなくなるとどうしているのかと考える。次は何を教えようか、何をして遊ぶか、そんなことを考えている」
「………」
あのヴァシリーが他人のことを考えている。そのことにただ驚いて、目をぱちくりとさせていると、不機嫌そうに彼が睨む。
「何だ、その顔は」
「あなたが誰かのことを考えるのって、珍しいって……」
「失礼な娘だ。教え子のことくらい考える師は幾らでもいる」
「それでもあなたほど気まぐれな師はいないわ」
「お前のように豪胆な教え子もおらんな」
そうしてまた彼は歩き出す。
気の向くままに、飽きるまで、この暗がりの中で。
私たちは散歩をする。
きっと、彼が飽きる頃には私は夢の中だろう。
[暗がりの中で]
ゆっくりと静かに近づく足音
何かに触る音
しんと静まり返った部屋に聞こえる呼吸
その時、扉が開く!
「パパみっけ!!」
小さい頃 悪いことをすると
よく外に出された
令和の今じゃ きっと考えられないかな
田舎の少し山の方
街灯もなくて
少し離れた場所からは 草の匂いがして
頬を伝う涙がしょっぱくて…。
暗がりの中を
まばらな民家と星の灯りをたよりに
あの小さい町を見下ろせる
ガードレールを目指して歩きだす
ごめんなさい…
絶対に言わないんだ
体育座りしながら
母への恨み言をつぶやく
トントン…
後ろから肩を叩かれて
ゆっくり振り向く
我慢してた涙が ワァっと流れた。
少し呆れ顔の母の胸に飛び込んで
また 溢れた感情がいっきに流れる
ごめんなさい…
そう言った僕の頭を撫でてくれた
町の灯りと月に照らされた
あの頃の 母の顔を思い出す…。
- Mother... -
「暗がりの中で」
本当にあなたのことを
想っている
遠くから 遥かな遠くから
細く かすかに でも
決して途切れない想いは
明るい昼間には見えない
青空の中では
人々の笑顔の中にはみえない
私の心が見えるのは
あなたが打ちひしがれて
希望を見失って
人々の嘲笑と攻撃にさらされて
心が暗がりの中に
ポツンと置き去りにされたと
感じた時だけ
暗がりの中でないと
本当のまごころはみえないものだから
暗がりを恐れないで
顔を上げて
そう
私をさがして
「暗がりの中で」
漆黒の世界で、影のように走っていた。
向かってくる漆黒の化け物を、背丈よりも大きい鎌を使って切り倒す。
そんなことを暫く続けていると、目の前に漆黒の狼の群れが、何かを追いかけていた。
視線を移すと、同年代ぐらいの女性が狼達に襲われていた。
鎌を振りかぶり、襲っている狼を倒す。
「え、あ、あの」
困惑していた
恐らく、俺の転移に巻き込まれたであろう女性に話しかける。
「すまない」
「俺の不注意のせいで、あんたを巻き込んでしまった。」
「責任は取る 俺の後に着いてきてくれ」
間髪入れず喋りかけ、出口の方に向かって走り出す。
後ろから女性の困惑する声が聞こえる
「あ、貴方いったい」
「俺は、鎌森風真。高校2年」
「あ、同い年だ。えっと、出雲雫です。」
暗がりの中で、ぎこちない自己紹介が行われたのであった。
お題『暗がりの中で』
月明かりも届かないような
暗がりの中で
独り
膝を抱えて蹲る
私の前で立ち止まったり
話し掛けたり
手を差し伸べたりは
しないでください
あなたたちの
優しさや温かさは
十分にわかっています
今はその優しさで
知らぬふりして
行き過ぎてくれませんか
生きる事に疲れた
身体と心を
少しのあいだ
休ませてください
この暗がりの中でしか
涙を零せる場所が
ないのです
今夜だけは
気配を消して
独りになりたいのです
# 暗がりの中で (315)
息子が学校へ通えなくなって2年が経つ。
苛立ったり 落ち込んだり 涙したり
息苦しい真っ暗なトンネルの中
進んでいるかもわからない。
そんな”暗がりの中で” 決意表明!!!
迷いながらも進んでいると信じて歩いて行く!
倒れこんで嘆いていても仕方ない。
いつか明かりが見えて それぞれの道が続いている。
Theme:暗がりの中で
この百物語ももう折り返しですか。
深夜になって、ろうそくも半分消えて、この部屋も暗くなってきましたね。
正直言って、ちょっと怖いです。暗いところって苦手なんですよ。
そうですね。心霊の話ではないですが、僕が暗がりが怖くなったきっかけの話をしましょうか。
その日、僕は研究論文のための実験で、遅くまで大学に残っていました。
昼間に機材トラブルがあって、機械を使えるのが遅くなっちゃったんですよね。
データを取って分析が終わる頃には、日が変わりかけていました。
僕は荷物をまとめて帰ろうとしました。
エレベーターに乗ってスマホをいじっていたら、かご室がガタンと大きく揺れて転んでしまいました。
そして、エレベーターはそのまま止まってしまったんです。
こんなことは初めてだったので、かなり動揺したのを覚えています。
ようやく冷静になった僕はエレベーターの非常ボタンを押しました。
すぐにコールセンターのようなところに繋がり、救助に来てくれるという話になりました。
それで安心したんでしょうね。それまでの怖さが消えて、この珍しい状況が面白くなってきました。僕はゼミ仲間や友人に「エレベーターが故障して閉じ込められちゃったよ」とLINEを送りました。
皆の反応は色々で、心配してくれたり、面白がったり、中にはわざわざエレベーターに関する怖い話を送ってくるやつもいましたね。
皆と会話していると、突然電気が消えました。明かりはスマホの画面だけ。
びっくりはしましたが、スマホを通して皆と繋がってることが心強くて、僕はさほど恐怖を覚えませんでした。
「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」と友人の一人から冗談めかしたメッセージを受け取った直後、スマホのバッテリーが切れてしまいました。
今度こそ、僕は本当に暗がりの中でひとり閉じ込められてしまいました。
途端に僕は怖くなりました。さっきまで笑い飛ばしていた「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」という言葉が頭の中で繰り返されます。
宙に浮いた真っ暗な棺桶。
そう思うと、足ががくがくと震えて息が荒くなり、過呼吸のような状態になりました。そんな自分の状態がますます恐怖を膨らませます。
思わず叫んだ自分の声が、まるで他人の声のように聞こえて。
この世界にたったひとりぼっちになってしまったような気がして。
「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」…そんなことを耳元で囁かれたような気がして。
どれだけの時間が経ったか、僕はその後救助されました。
明かりを見た途端、一目も気にせず思わず泣き出してしまいました。
五感のどれかが機能を失うと、それを補うために残りの機能が鋭くなるそうです。
視覚が閉ざされたと判断した僕の脳は、きっと聴覚や嗅覚などをいつもより働かせたのでしょう。そのときに想像力も強く働いてしまったのかもしれません。
自分自身で恐怖を造り出してしまう…暗がりにはそんな力があるのかもしれませんね。
では、次の方お願いします。
#暗がりの中で
暗がりの中では
大きな闇は
見ることが出来ない
月夜の中
優しい光だけが
私に微笑んでくれる
帰宅途中の暗がりの中で拾ったのは君の尻尾だった
私の元を飛び出し人になった君の
きっとどこかで
新しい愛を温め合っているのだろう
途方に暮れる私は
これをどこかに捨てるだろう
きっと
「暗がりの中で」
暗がりの中で天使と悪魔が喧嘩する
「んもう!明日から頑張るんだぞ?」
頬を膨らませて譲歩したのは天使だった
わたしは「ちょっとだけよぅ♡」と言いながら
深夜の冷蔵庫からプリンを取り出した
ダイエットの天敵は
気持ちを明るくさせる天使なんだよね
#暗がりの中で
向こうの光が見えるから、目を閉じたくなるのだ。一つの光もない、真っ暗闇だったならば、目を開けようが閉じようが、何も変わらないし、分かるはずもないのだから。
/お題「暗がりの中で」より
"暗がりの中で"
「ご馳走様でした」
今日一日の業務と明日の準備を終わらせ、夕食を済ませる。窓の外を見ると、外はすっかり夜の帳が降りて真っ暗。卓上のデジタル時計を見ると、《PM 9:45》と表示されている。
「……」
僅かに体を強ばらせると、スロー再生されているような動きで、そー…、と腕を伸ばし、卓上の引き出しを開けて中から懐中電灯と電池を数個取り出し、電池を白衣のポケットに入れる。懐中電灯を持つ手が震えて、気を抜いたら落としそうだ。
「…。すぅー…、はぁー…」
深呼吸すると、ぐっ、と喉を鳴らし、懐中電灯を握る手に力を入れて手の震えを止める。
「…行くか」
意を決して椅子から立ち上がり、廊下に出て懐中電灯のスイッチを入れて灯りを付けると、誰もいない暗闇に包まれた廊下を歩き出す。
《夜の見回り》だ。
ここに居着いた時から毎日やっている事だが、やはり慣れない。
入院患者なんていないのだが、居着いた場所が廃病院で、元は普通の病院だった場所なので、何だかやらないと落ち着かない。
けれど、俺はホラー全般が苦手。放射線科医だった時は、夜勤を任される度に変な疲労を感じた。勿論消灯後の病棟は自前の懐中電灯をつけて、びくびくと震えながら歩いていた。
と、まぁ…ただでさえ夜の総合病院の病棟すら、自前の懐中電灯を持って震えながら歩いていたのだ。夜の廃病院なんてとてつもなく怖い。あの時以上に懐中電灯が必要。途中で電池が切れたら、朝になるまでその場から一ミリも動けない。だからいつも懐中電灯の電池は、これでもかって位多く備蓄して懐中電灯と同じ引き出しに仕舞っている。白衣のポケットにも、見回りの時に電池を引き出しから何個か取り出して入れている。
「うぅ…」
懐中電灯で進む先を照らしながら恐る恐る進み、部屋の中を照らして異常がないか確認する。錆び付いたブリキの玩具のように首を動かす。異常なしと分かると「ほぅ…」と息を吐き、反対側の部屋を照らして先程と同じように見る。異常なしと息を吐いて、廊下の先を照らして進む。ずっとこれの繰り返し。
やっている事はいつも同じなのに、毎回終わるとどっと疲れる。
「そ、そうさ〜…今がゴールじゃ、ないんだよぉ…♪」
歌ってちょっとでも気を紛らわせながら進む。その歌声は当然震えているし、テンポもだいぶゆっくりだ。
──うぅ〜…早く終わらせてぇ……。
300字小説
妖の仁義
闇夜の暗がりの中から聞こえてくるのは妖の声。会いたい人の声を真似て、おびき寄せ、喰ってしまうのだという。それでも良い。もう一度、母さんの声が聞きたい。
新月の夜、僕は妖の居るという山に向かって叫んだ。
「お母さん!」
呼んだ僕の声に応えたのは……。
「うるせぇ! お前の母ちゃんはとっくにあの世に逝っちまったんだよ!」
しゃがれた怒鳴り声だった。
「折角のご馳走、逃がしてしまって良かったのかよ」
「けっ! あんなしょぼくれた餓鬼なんか喰っても美味かねぇよ!」
『妖でも痛いものは痛いものね』
猟師の罠に掛かった俺を助けてくれた優しい女性。
足に残った古傷をさする。
「……アンタの代わりにアンタの息子は俺が見守ってやるよ」
お題「暗がりの中で」
暗がりの中で呟く。
「助けて」
その声はあまりにも小さすぎた。
誰にも届かなかった。
もちろん君にも。
「辛かったね」
「僕がそばにいるから」
その言葉だけでもほしかった。
その言葉さえあれば他にはいらなかった。
なんて、さすがにわがままだろうか。
君という光がこの暗がりにさすことはなかった。
暗がりの中で君は一人、蹲っていた。
無機質な部屋の隅を埋めるように、頭から毛布を被って何かを呟いて。
私はそっと荷物を下ろし、その隣一メートルの距離を開けて座り込む。
暗い部屋に、私達二人の呼吸音だけが響いていた。
君は時折、私の知らない過去に取り憑かれる。
その度に、私は君との間の確かな距離を見るのだ。
伸ばせば届きそうな掌を、私は掴むことができない。
縮まることのない一メートルを前に、今日ももどかしさを募らせて。
私はただ、唇を噛む。
【暗がりの中で】
「暗がりの中で」
気分が理由もなくガクンと落ちる時がある。
まるで、落とし穴に落ちたように突然に。
落ちた先は自分がどこにいるかも分からなくなる暗闇。
そんな暗がりの中で唯一その場を照らすもの。
学校とか、友達とか、自分の好きな物とか、その他色々。
それがどんな色でもいい。
たとえ自分の嫌な色でも、それが照らしてくれるのなら、
私はここの暗闇から抜け出せる気がするから。
『暗がりの中で』
暗がりの中で、君の声がする。
「人間なんて嫌いだよ。」
君は言った。
「どうして?」
と僕は聞く。
「面倒だから。」
と君は答えた。
「何が?」
と聞くと、
「人間関係が。」
と返ってきた。
暗がりの中の君との会話。
僕は君の声しか知らないし、
君も僕の声しか知らないはずだ。
これは君との会話であり、僕の自問自答でもある。
ここは、僕と君だけの世界。
同時に、僕だけの世界。
他には何も無い、静かな空間で、僕と君は言葉を交わす。
「嫌いな人間関係ってどんなの?」
「この先ずっと続いていくであろう関係。家族とか、恋人とか。」
「友達は?」
「友達は平気。どうせ学校卒業したら終わるんだから。」
僕は幸せにはなれない。幸せを避けているような自覚はある。
明るい場所に、身を置きたくない。
暗闇で、雨の音でも聞きながら、身を固めて、静かに、息を殺す。
そんな風でいい。僕の日常はそんな風でいい。
周りとは当たり障りのない関係で、少し離れたところから、光を眺めていられればいい。
結論。
結局僕は、人が嫌いだ。
でも、
僕の中で自分が叫ぶ。震える声で、およそ叫びとは言えないような叫び声で。
「でも、何か変わるかもしれないよ。
だって、僕のこと、気にかけてくれる人もいるんだから。ちょっと自信もってみようよ。優しい人を突き放すのはやだよ。
大丈夫。きっと大丈夫だよ。」
「何が大丈夫なんだよ。」
暗闇の向こうから、君の声が聞こえる。
知ってる。本当は分かってる。強がってるだけだって。
それでも、君はきっと一緒に居てくれるから。
きっと。たぶん。きっと。
みんなが寝静まった暗がりの中で1人泣く、
こんなの妹と弟に見せたらなんて言うだろうね。