ストック

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Theme:暗がりの中で

この百物語ももう折り返しですか。
深夜になって、ろうそくも半分消えて、この部屋も暗くなってきましたね。

正直言って、ちょっと怖いです。暗いところって苦手なんですよ。
そうですね。心霊の話ではないですが、僕が暗がりが怖くなったきっかけの話をしましょうか。

その日、僕は研究論文のための実験で、遅くまで大学に残っていました。
昼間に機材トラブルがあって、機械を使えるのが遅くなっちゃったんですよね。
データを取って分析が終わる頃には、日が変わりかけていました。

僕は荷物をまとめて帰ろうとしました。
エレベーターに乗ってスマホをいじっていたら、かご室がガタンと大きく揺れて転んでしまいました。
そして、エレベーターはそのまま止まってしまったんです。
こんなことは初めてだったので、かなり動揺したのを覚えています。

ようやく冷静になった僕はエレベーターの非常ボタンを押しました。
すぐにコールセンターのようなところに繋がり、救助に来てくれるという話になりました。
それで安心したんでしょうね。それまでの怖さが消えて、この珍しい状況が面白くなってきました。僕はゼミ仲間や友人に「エレベーターが故障して閉じ込められちゃったよ」とLINEを送りました。
皆の反応は色々で、心配してくれたり、面白がったり、中にはわざわざエレベーターに関する怖い話を送ってくるやつもいましたね。

皆と会話していると、突然電気が消えました。明かりはスマホの画面だけ。
びっくりはしましたが、スマホを通して皆と繋がってることが心強くて、僕はさほど恐怖を覚えませんでした。
「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」と友人の一人から冗談めかしたメッセージを受け取った直後、スマホのバッテリーが切れてしまいました。
今度こそ、僕は本当に暗がりの中でひとり閉じ込められてしまいました。

途端に僕は怖くなりました。さっきまで笑い飛ばしていた「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」という言葉が頭の中で繰り返されます。
宙に浮いた真っ暗な棺桶。
そう思うと、足ががくがくと震えて息が荒くなり、過呼吸のような状態になりました。そんな自分の状態がますます恐怖を膨らませます。

思わず叫んだ自分の声が、まるで他人の声のように聞こえて。
この世界にたったひとりぼっちになってしまったような気がして。
「そこがお前の棺桶にならなきゃいいけどな」…そんなことを耳元で囁かれたような気がして。

どれだけの時間が経ったか、僕はその後救助されました。
明かりを見た途端、一目も気にせず思わず泣き出してしまいました。

五感のどれかが機能を失うと、それを補うために残りの機能が鋭くなるそうです。
視覚が閉ざされたと判断した僕の脳は、きっと聴覚や嗅覚などをいつもより働かせたのでしょう。そのときに想像力も強く働いてしまったのかもしれません。
自分自身で恐怖を造り出してしまう…暗がりにはそんな力があるのかもしれませんね。

では、次の方お願いします。

10/28/2023, 11:32:13 AM