Theme:窓越しに見えるのは
窓越しに見えるのは、火柱に黒い煙。逃げ惑う人々。
俺は窓越しに空を眺めて小さくため息をつく。
お前が願った平和な世界は、まだ来ていない。
お前も何処かでこの景色を見ているのだろうか。
繰り返される過ちに悲しんでいるのだろうか。
すまないな。まだ、願いを叶えられなくて。
お前が今も横にいてくれたら、弱気になりかけてる俺を冗談交じりに勇気づけてくれたのだろうか。
「らしくないですよ、隊長」
ふと、そんな言葉が聞こえたような気がした。
思わず周囲を見渡すが、当然お前はいない。
「そうだな」
弱気になっていても仕方ない。
いつかお前とまた逢えるときに胸を張っていられるよう、俺は俺が為すべきことを為すだけだ。
窓越しに見えるのは、作戦の目標地点。
「ランディングポイント確認。全員、降下用意」
俺はヘリ内で指示を出した。
お前が願う平和な世界を創る一歩になると信じて。
Theme;落下
アラームが鳴る前に、私は汗をびっしょりかいて目を覚ました。
しばらく大きく息をついていると、ようやく冷静になってきた。
まただ。またこの夢だ。
最近いつも見る夢。深い深い縦穴をどこまでもどこまでも落下する夢だ。
この夢のおかげで、私はこのところ寝不足だった。
夢占いでは、落ちる夢は凶夢とされることが多いという。
精神の不安定さを暗示していたり、困窮や事故などの急激な没落への警告だったりと解釈されるらしい。
そうは言われても、不慮の事故だったら何の対策もできないではないか。
夢占いを全面的に信じているわけではないが、それでも不安ばかりが募っていく。
いつ事故が起きるのだろう。
それとも急病だろうか。
不安で満足に眠れず、浅い眠りのなかで落下を繰り返す。
私の精神はだんだんと疲弊していった。
また深夜に目を覚ましてしまった私は、少し汗を流すことにした。
ランニングシューズを履いて、寝静まった街を走る。
落下中の奇妙な浮遊感がまだ身体にまとわりついている気がして、それを振り払うように走る。
…そうやって周囲が逸れた次の瞬間、衝撃を感じると同時に私の身体は宙を舞っていた。
ああ。これが夢の暗示だったのだろうか。
しかし、あんな夢を見なければこんなことにはならなかったのではないだろうか。
どちらが正しいのかわからないまま、車にぶつかって跳ね上がった私の身体は、覚えのある浮遊感に包まれていった。
Theme:終わりなき旅
「生命は終わりがあるからこそ輝くんだ。ずっと旅をしていたら、故郷が恋しくなることだってあるだろう?」
エルフのくせに冒険者をやっている変わり者の相棒は、そんなことを言っていたっけ。
「そんなものかな。寿命が決まってる俺からしたら、不老不死なんて羨ましいけどな」
確か、そんな言葉を返したと思う。あいつは少し寂しそうに笑い返した。
旅は、生命は、いつか終わるからこそ美しい。
終わりなき旅をずっと続けてきた相棒は、今、目の前で旅の終わりを迎えた。
俺がこの手で、あいつの旅を終わらせた。握った短剣にまだあいつの体温が残っているように感じる。
この温もりもいずれ消えてしまうんだろうけど。
「こんな終わり方でも、それでも美しいって思うか?」
問いかけてみても答えは返ってこない。
相棒の身体の下に描かれた魔方陣が輝きだす。
誰かの生命を犠牲にして、終わってしまった生命を呼び戻す禁忌の魔術。
これを使えば俺の婚約者を終わりから連れ戻すことができる。
彼女の終わりを受け入れられなかった俺は、終わりに焦がれるあいつを贄にした。
「やっぱり俺は終わりは好きになれないよ」
言葉が終わると同時に、彼女の瞼が静かに持ち上がっていった。
Theme:透明
いつも穏やかな笑顔を絶やさないあなたは、今日も柔らかく笑う。
透き通るような、美しい笑顔。
あなたの周囲はいつも澄んだ空気が流れているように心地よく、人が絶えることはない。
だけど、本当のあなたを知っている人は一体どれだけいるんだろう?
あなたは決してネガティブな感情を現すことはない。
存在しているはずなのに、決して見せないようにする。
本当のあなたを知ることは、海に落としたガラス片を捜すようなものだ。
あなたには自分の本当の気持ちがまだ見えているのか、私は心配になってしまう。
せめて、私が本当のあなたを見失わないようにしよう。
どんな深い海からも、消えてしまいそうに透き通っているあなたの心を見つけ出してみせるから。
Theme:恋物語
これは、私と貴方の物語。
きっと、悲しい結末を迎える恋物語。
私はずっと貴方の隣にいる。
貴方も私をずっと隣においてくれる。
これまでも、そして、これからも。
隣同士。肩を並べて、貴方の望みに向かって進む関係。
主とその腹心の近臣。
それ以上でも以下でもない。ずっと変わらない、そんな関係。
だって、貴方はそれ以上を求めてないこと、私はわかってるから。
それでも構わない。腹心貴方の隣に在れるのなら、それで。
例え貴方が誰かと手を携えて、私の知らない景色を見るとしても。
それでも構わないと思っていた、はずだった。
私は貴方の大切な人の手を振り払った。
悲痛な叫び声が、貴方が最後に聞いたその人の声になった。
貴方はその人の手を取り、泣き崩れた。いつもの冷静さをかなぐり捨てて。
私はそ知らぬ顔で、泣きじゃくる貴方をそっと抱きしめる。
悲しい結末でもいいと、思っていたはずなんだけどな。
ごめんね。我慢が出来なかったよ。