『子猫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
君と出会ったのは学校の帰りで
ほんとはそのまま通り過ぎようとしてたんだ
でも、
雨が降ってきて
このまま通り過ぎるのは少し嫌で
せめてもって傘を置いたんだ
もうできることはないからって帰ろうとしたら
さっきまで何も言わなかったのに君は、
弱弱しく声をあげた
その声を聞いたらもう仕方ないって思ったんだ
自分は学生でバイトして生活をしている
忙しい毎日で余裕なんてない
けど
このまま帰ったらきっと後悔する
なら少し無理をしてでも連れて帰ろう
そう思ったんだ
最初は慣れないことも沢山でお金もかかるし嫌になりそうだった
バイトも新しく入れたりして
正直少しだけ後悔したんだ、連れ帰ったこと
あの日もバイトで疲れながら帰った
それで家に入ったらさ
君がすやすや寝てるんだ
その顔見たらさ
なんだか安心しちゃって思わず笑顔になった
せっかくだしって抱きしめたら
迷惑そうな顔をするものだから
思わず笑えてきて頑張ろうって思えた
その後もなんやかんやあったけど
それなりに楽しく過ごせてるよ
【子猫】
『歪んだ世界』
あの子は変わった。
丁度、大学に入って2回目の紅葉を見た季節だった。初めは化粧が濃くなったなと感じるだけだった。おかしいなと思い始めたのは、いつも出ていた一限に出ていなかったことからだ。LINEの返信も遅くなった。
「ねぇ〜、みさとぉー。今日、ランチ行かない?」
『え、いいけど。』
講義が終わったあと、あの子から電話が来た。
カフェに行くと、彼女はヒラヒラと手を振った。久しぶりに会ったあの子の眼は、闇に堕ちていた。
「久しぶりぃー。」
『久しぶり…。』
気まずいながらも、久しぶりに沢山話した。話をしてくれるのが嬉しかった。
「あぁ〜。やっぱみさとおもしろー笑。
あ、あのさ話変わるんだけどさ…お金貸してくれない?」
巻いた黒髪を指でいじりながらあの子はそう言った。
『え?なんで、?』
「いやぁ、明日締め日でさ。担当NO.1にしたいから。」
『…は?』
「あ、担当って、ホストね。…あたしの担当見る?ちょぉかっこいいんだよねぇ。」
「将来、、結婚するの。だからお願い。貸して。」
『…いくら?』
「じゅぅまん…だめかな?」
お願いって手を合わせてお願いされた。
締め日って…きっとホストのことだ。
目の前で目をキラキラさせて見つめる彼女。
キラキラした瞳と相対的にあの子の顔が歪んでいく。私じゃダメなんだろうか。
【可愛い子猫】なんていわれなきゃ、あなたの心は満たされないのだろうか。それほどまでに、あの子はこわれていたのだろうか。
「私がやらないと、、、。」
目の前で全部がぼろぼろになった子猫は、暗転したであろう世界で、笑っていた。
穏やかなあの子の日常はもう、狂っているようだ。
【子猫】
てんとんとん、と三味線の音色が響く。
それを頼りに辿り着いたのは、古ぼけた屋敷とその濡れ縁に座り無心に三味線を奏でる女性の姿だった。
「来ましたか」
手を止める事なく、視線も向けずに女性は呟く。
「クガネ、様?」
「いいえ。妖はこの障子戸の向こうへ居ります」
問う言葉には否、を返し。
女性はただ、ちんてんとと、と三味線を鳴らし続けていた。
「貴女は誰?何故ここにいるの?」
「私の名など知った所で詮無き事。主の命により、妖を鎮め抑えるため、此方に参りました」
女性の言う妖とはクガネ様の事だろうか。ならば彼女は、少なくとも敵ではないのだろう。
そう思いながらも一歩だけ前に出て。親友を隠すようにしてさらに問いかけた。
「貴女は敵?それとも味方?」
「異な事を仰られますね。それは貴女方次第に御座います。私の音の妨げとなるのであれば私は貴女方に刃を向けねばなりませぬし、そうでないのであれば争う理由なぞ御座いません」
てんてんしゃん、と三味線を奏でる手は止めぬまま。
ですが、と女性はそこで初めて、此方を見上げた。
「私も限界が近う御座います。此処へ訪れたのが主でも原初の方々では無い事が残念ではありますが、貴女方に後を託すと致しましょう」
澄んだ琥珀色の瞳に射貫かれる。
その眼差しをどこかで見たような錯覚を覚えながら、改めて女性を見据えた。
「その為に聞きたい事があるならば、私の知る範囲ではありますが答えましょう」
聞きたい事。
分からない事はたくさんある。分かっている事などないのに等しい。けれど何から聞くべきかと考えていれば、背後に隠した親友が前に出て、女性に問いかけた。
「クガネ様は、何を求めているの?」
ただ一つの親友の問いに、女性は僅かに目を細め。
口元だけで笑みを浮かべてみせた。
「妖は己を認識する事が出来る者を求めて居ります。己が消えて無くならぬように。己の在り方がこれ以上歪まぬように…望みに応え続ける為に」
「望み?」
「妖の元で絶えず母と謡っていれば、自ずと見えてくるものもあります。妖は篝里《かがり》様の望みに応え続けていただけに過ぎません」
篝里の望む事。
それは何だろうか。穏やかで誠実であったという少年が、私欲を望むとは考え難い。
心当たりのないそれに、だが親友は全てを理解したのだろう。そっか、と小さく呟いて、さらに一歩前に出た。
「篝里さんは、一族《あたし達》を守るように望んだんだね」
酷く静かな。
悲しげな、寂しげな声だった。
「その通りで御座います。どうやら貴女方が招かれたのは、必然であったようで。なれば私も悔いなく役目を終えられます」
ふわりと。淡く微笑みを浮かべて。女性はほぅ、と吐息を溢した。
見れば、彼女の左手は爪が割れ剥がれて血に染まっている。
随分と長い間、一度も手を止める事なく三味線を弾き続けていたようだ。限界が近いと言ってはいたが、もうすでに限界は超えてしまっているのかも知れない。
「もう一つ教えて。クガネ様のためにあたし達が出来る事は何?」
「敢えて言葉にする必要はないでしょう。貴女方なれば必ずや為す事が出来ます故に」
てんてとと。
音色が僅かに歪む。
これ以上引き留めているのは酷だろう。
親友の隣に立つ。ありがとう、と告げれば最後とばかりに三味線の音が高らかに響いた。
「最後にいいかな?」
「はい。何でしょうか」
「貴女の名前が知りたい」
きょとり、と。
随分と幼い眼差しが、此方を見つめ瞬いた。次いでくすくすと鈴を転がすような笑い声を上げて、女性は謡うように言葉を紡いでいく。
「私には名などありませぬが、主はかつての私の名を呼ぶ事を好んでおります。陽光《ようこう》、と。その名で宜しければ告げましょう」
ばちん、と。
弦が弾け、音色が止まった。
「畜生の身では、主の命全てに応えられぬのは致し方なき事か。此度の生も些か疲れるもので御座いましたが、楽しめました。私の事はどうぞ捨て置いて、貴女方は為すべき事を為されて下さいませ」
かたり、と三味線が落ちる。
女性の姿が時を戻していくように小さく、幼くなっていき。
やがては人の形を失って。
「猫?」
そこには、小さな黒い子猫の姿があった。
動かない猫を抱き上げる。まだ暖かく、僅かに息がある事に安堵した。
しかし。
「曄《よう》。取りあえずここを離れるよ」
「分かった。でもどこに」
障子戸の向こう側。
どろり、と何かが動く気配がする。
衣擦れの音。畳を摺るようにして歩き、誰かがゆっくりと近づいてく。
「…り……かが、り…?」
声がした。ひび割れた、歪な声。どこか不思議そうに何度も名を呼んでいる。
かたり、と音がして。障子戸が音を立てる。
かた、かたり、と。音を立てながら僅かに開いた戸の隙間から白く細長い指が伸び、竪框《たてがまち》に手をかけた。
「行こう。さっきのすすきの場所まで戻ろう」
片手に子猫を抱いたまま、親友と手を繋ぎ走り出す。
木々の間を通り抜ける直前。振り返り見た、屋敷の濡れ縁には。
落ちた三味線を拾い上げ、弦に指を這わしながら。
此方を見る、長い黒髪の背の高い男が静かに立っていた。
20241116 『子猫』
子猫
「子猫が来てるよ」
「…きみの仲間?」
「違うよ、本物の猫。…何でほっとしてるの」
「また変身されたらちょっと困るな」
「…僕に困ってる?」
「いや。困ってないよ」
かれと出会った時、初めて生きている猫を見たと思った。
畑に出ようとしたら玄関の前にいて、かわいらしいけれど何とも胸を締め付けられるような鳴き声を出す。
かれは畑仕事の間中ずっとついてまわり、水筒の水には見向きもせず、搾りたてのミルクを自分の掌からせっせと飲み、抱えられてうちへやって来た。
身体を拭いてやり、やっと一段落。再びコップのミルクを匙ですくって出したが、今度は知らん顔。そしてあろうことか、昼餐後の最大の楽しみである赤葡萄酒に興味を示し、酒杯にしがみついて離れない。
猫とはひたすらミルクを飲み、丸くなって眠る赤ん坊のような生き物で、ただ時々とても素早い、と話に聞いていたのだが、こんなに力が強いのだろうか。
諦めて人差し指を酒杯に浸し、そっと差し出すとカプッとやられた。のけぞった瞬間に
「危なかった。」
という声がして、テーブルの上にかれがいた。つまり、幼くはないが大人でもない、自分と似たかたちだがはるかに若い身体をもつ生き物(ただし背中に何かが生えている)である。
かれは堂々と赤葡萄酒を飲み干し、「美味しかった。ありがとう」と言った。見た目より低くて、とても綺麗な声だった。
それきり、この「子猫だったはずのもの」はうちに住み着いている。背中に生えた翼のようなもの(この大きさでは飛べないと思う)に怪我をしていたので、さすがに追い出せなかった。
不思議なことに、かれが来てから雨がふんだんに降り、迷い牛と迷い馬(とても気立てがいい。しかも馬は鞍付き)がやって来て、祖父の遺した「マシーン」(スクラップやそこらの植物を放り込むと、そこから精製した肥料や何かを出してくれる。これがなければ多分、三日以内に死ぬ)の不調が治まり、ミツバチを見つけた直後に偶然、養蜂の知識を持つ頑固な爺さんを助けて道具をもらいやり方を教わり…と、何故か良いことしか起こっていないので、今のところ無理なく養えている。むしろ貴重な赤葡萄酒が二人分買えて、気兼ねなく入浴できるくらい水が潤沢に手に入る状態になった。
夜になると危険なキメラが出ると聞いているが、かれは言葉も通じるし、見世物小屋から逃げてきた訳でもないらしい。ただ背中に触れるとひどく痛がるので、「治るまで此処にいるといいよ」と言ってある。
「子猫はどこ?」
「今、馬小屋に入ろうとしてる」
そろそろ冷えてくる。本物の猫を迎えに行こう。
捕獲して綺麗にし、温めたミルクをたっぷりやると、喉を鳴らして眠ってしまった。かれに言われるまま、寝床とトイレを作る。時々、妙に物知りである。子猫は新しい寝床で丸くなって眠っている。
「僕の時より優しい」
「そりゃ、この子は貴重な酒を強奪したりしてないからね」
ささやかな晩餐をこしらえ、二人で赤葡萄酒を飲んだ。
風呂上がり。
「少しは良くなったかな」
「痛いー。痛い痛い」
仕方ない。
「…まだ此処にいていい?」
「もちろん。どうして訊くの?」
「…本物の猫も来たし」
「あの子はきみじゃないから大丈夫だよ」
寝床に入ると子猫がやって来て、かれにくっついて丸くなった。
「きみが子猫の面倒をみて、ぼくがきみの面倒をみるっていうのはどう?」
「僕の労働だけ増えてる」
でもいい考えだね、とかれは言った。
「あのね、明日窓に小鳥が来るよ」
「それは楽しみだな」
お話の中でしか知らない光景だ。
きみが誰でも、どうでもいい。ひとりの時より幸せだし、子猫にも誰かが必要だろう。
子猫がもぞもぞと動いて小さく鳴いた。
「灯りを消そうか」
「うん」
おやすみなさい、また明日。
「はぁ……」
情けない空気が漏れる。ここに来るまで通算5回目。
自分の喉からじゃなければ聞き逃すのに。
なんなら誤解もため息ついたことに対してため息つきたくなる。
サクラチルとはよく言ったものだ。何もこんな時に散らなくてもいいっての。水分が入った花びらは、綺麗さ儚さは見る影もない。ただ、靴裏に引っ付いて鬱陶しいだけ。
面接に落ちたことは予想以上にメンタルに響いているようだ。抑え方も分からないけれど。
「人生の、こんな初めの方からつまづいてどうすりゃいいってんだ」
零れた言葉にも覇気がない。
どうにもベッタリとした不安が拭えなかった。
そんな時。
みー。
気の抜けた声。
探すつもりはなかったが、視線を上げた先でつと目に留まる。街路樹の真ん中くらい。枝の上にふわふわな毛玉、黒ぶち模様がてんてん。サイズから見るに子猫だろう。
「なんであんなところに」
興味を引かれた。可愛らしいからか、それとも何かを得ようと必死だからか。
みゃおみゃみゃ鳴きながら必死に手を伸ばすその姿に、誰かを重ね合わせてしまう。上の方を見ると風船が引っかかっている。なるほど。事情は理解した。けれど子猫の力じゃ身の丈に合わない願いだろう。なにせするする登れるような筋肉だってまだ付いていないはずだ。諦めた方がいい。冷静な誰かが呟く。疲れきったような声で。まぁ外野の、しかも心の中からの声なぞ届かないだろうが。
今の位置では届かないとわかったのか、子猫は幹へと爪を立てしがみつく。見てるだけで危なっかしい。ぷるぷる震えている体が、今にも地面へと叩きつけられないかとハラハラする。目を離してしまえば自分と関係の無い出来事。凄惨な場面を見なくてすむ。こんな気分の時に追い打ちをかける、そんな光景は。
けれど、全くもって自分はその場に縫い止められている。何故か。あの子猫に見張るだけの答えがあるからなのは分かっている。
子猫は順調、とはとても言えないが徐々に目標のものへと近づいていた。頼れるのは自分の爪だけ。ガリ、ガリ……なんて現実では聞こえていないけど、それぐらい世界が静かに感じられる。その光景に瞬きすら忘れてしまう。噴火の直前のように体の中が煮えたぎるようなそれでいて凍てついているような。
風でその姿が揺れる度、途中で止まる度心がざわめく。しがみついて耐えた時、枝で休む時握っていた拳から力が抜ける。それはドラマであった。自分が傍観者でしかないのも含めて。
何時間も経ったように感じる。実はそれほど経っていないのかもしれない。
だが、遂に子猫は木の天辺まで登りつめた。諦めない姿勢が遂にその手を届かせたのだ。
「やった……!」
他人事に関わらず、思わずガッツポーズ。
何となく勇気を貰えた。
だから、そこで終わっていればただそれだけの話だったのだろう。
背を向けようとした瞬間、一際強い風。
「あの子は……っ!」
思わず息を呑む。
それは、もうダメだった。
手が届いたところで、全てを無にする、それは。
猫が木の上から踏ん張りも効かず、ただ地上へ落とされる。掴んだ風船は話していなかった。だがそれがなんだと言うのか。
「くそっ」
間に合わない。分かっている。
だがそれでも、と走り向かう。
間に合え!
祈り虚しく、子猫の方が地表に着く方が早い。
思わず目を閉じてしまう。もうこれ以上、何も見ない。見たくない。
闇に包まれた視界で、嫌に軽い音が響く。
嫌な。
みー。
恐る恐る目を開けると、とぼけた顔の子猫がきちんと着地をしていた。
そこでようやく気づいた。
自分は本当にただの部外者。
子猫が頑張っていたのを自分に重ねたのも、落ちたのを助けようとしたのも、人間の自分のエゴであった。
何も何も。自分が気にする必要すら無かった。
「なんだよ、全く」
だから。
子猫のことを安堵するのはきっと間違いなのだろう。
落ちて、風船も得て、命も失っていない。
そんなことを安堵するのも、きっと。
「しゃあねぇ、これから頑張るか」
桜色の絨毯を踏みしめながら、家路へ急ぐ。
熱を忘れないように。
子猫…
人生初の子猫は10歳の時
兄がいきなり連れ帰って来た
ウサギみたいに短いしっぽ…
メス猫の子猫に「タマ」と
当時ではありふれた名前を付けた
ちなみに、子犬なら「ポチ」だww
余談だか、近所の犬·猫の最近の
名前は、しずく·そら·くるみ·えいと
……人の名前も変わったが
ぺットの名前も様変わりした
我が家は、アニメの主人公の
名前をもらったから誰しも
「あ〜!あのキャラね」と
すぐに覚えてもらえる…
一昔前は、道路を子猫や子犬が
歩いていたなんて日常だった
けれど、今やぺットショップの
中でしかお目にかかれない
野良猫や野良犬が一匹も居ない
今の状況は人が作った訳だが
果たして、動物たちの本心は
いかばかりなんだろうか?
動画を見ていたときにオススメに出てきた子猫の動画。
試しに見てみると、小さくて、もふもふで、にゃ〜とかわいい声で鳴いている。
「かわいいなぁ」
癒されるなぁ。と見ていてふと思う。
「あれ、子猫って…」
そうか。キミみたいなんだ。
小さくて、ふわふわで、俺を見上げてかわいい笑顔を見せてくれる。
「電話しよ」
キミの声が聞きたくなり、電話をかけるのだった。
子猫を拾った
捨てられてたから
少し触っただけでも壊れてしまいそうな子猫が私によって来る
かわいい声で泣く子猫を見て
何故こんな子猫を捨てるのだろうかと思った
《子猫》
保全させていただきます。
いつも読んでいいねを下さっている皆様にはいつも本当に感謝しております。
この場をお借りして、御礼を申し上げます。ありがとうございます。
最近は書けておらず、本当に申し訳ありません。
落ち着いたらまた書いていきたいと思います。
その時は、どうぞよろしくお願いします。
サンリオのキティちゃんは
子猫かと思ったら
そも猫ではないらしい。
まあ、イラストのならともかく
ピューロランドで、頑張るキティちゃんに
子猫感はないな。
(子猫)
子猫はふわふわしててかわいくて好き
元気いっぱいで弾かれたボールのように部屋を駆け回り、こてんと寝てしまう。
エネルギーに溢れた子猫はとってもかわいい。
【子猫】
猫は、子猫のうちだけではなく大きくなっても可愛がられる。
どんどん美しさを失っていく人間とは真反対で、羨ましいなと思ってしまう。
ここはきわめて治安が良くない。現に僕は本日3回目のカツアゲに遭っている。
「ジャンプしてみなって、おチビちゃんよお!」
怖いけどヘタに動いたらもっとひどい目をみるだろう。僕はもう鳴りもしないポケットを思いながらぎゅっと目をつむった。そのとき、
「おい、つまんねーことしてんじゃねえ」
ゴンッバキッ
「ひえ……」
それはあっという間だった。目を開けるとつい先ほどまで僕を嗤っていた男は情けなくも気絶していた。そして、そこに立っていたのは学ランを着た屈強そうな男の子であった。
「お前、大丈夫か」
振り返った彼はそう言った……と思う。実際のところ僕はお礼も言わずに逃げ出していた。彼があまりに背高でガッチリしていたものだから。
あの子が獅子なら僕は子猫であった。
そして弱きものは往々にして、爪をとぐことだって許されたりはしないものだ。
子猫。
小説。
俺に唯一懐いてくれた猫がかわいくって、スーパーでちくわを買ってきては、食べさせるということをしていた。
となりの家のわるばばは「ちくわなんて辛いもんやるな!」とか「放し飼いにするな!」とかガミガミ怒るけど、俺はいつも聞き流している。
俺から逃げなかった猫なんて、はじめてだ。
俺はあばれる猫の腹に顔を押し付ける。どくどくどくどく、人間よりずっと早い心臓の音がした。
うすいお腹。
あっという間に死んじゃうんじゃないだろうか。
わるばばに相談すると、「……動物病院で定期検診を受けさせるんだよ」といわれる。金ない……とメソメソしていうと、また怒られた。
俺が地元に帰ったときは、わるばばがちくわの面倒をみていてくれたらしかった。
人類はびっくりするほど猫にやさしい。
俺と顔を合わせるたび「へっ!」とガンをつけてくるわるばばが、ちくわにはめろめろで、猫なで声を出している。
「ちーちゃん、そこにいるのよ。お兄ちゃん帰ってくるからね」
と、わるばばの声がしてから、扉が開いた。
俺の顔を見て、わるばばが「へんっ!」と唇を歪めた。
「これ、おみやげ」
ちくわを世話してくれたお礼を兼ねて渡すと、わるばばはじっと警戒の目で俺を見てから、俺から紙袋を受け取った。目の前にあっても、おみやげを買ってきてもらえたとは信じきれていないようだった。
実家に帰れ、っていったのはわるばばなのに。
中を覗き込んでから、「こんな量ひとりで食べきれるわけなきゃろーが……」といった。
たまに顔も見せんなんて、親不孝モンや! と、わるばばにいわれたことがある。
ほかにも、ごみを分別しないだの、夜遅くにうるさいスポーツカーで帰ってくるだので、俺はわるばばに嫌われている。
「|子乃《ねの》さん、明日は買い物は? 車を出してあげる」
「いらね、んなもん」
わるばばめ。
子乃さんはそっぽを向く。
俺はボロボロで古びた子乃さんの家に、この夏、エアコンを設置してあげた実績がある。
「こたつは出した? 俺がまたやってあげるよ」
「あんたがこたつに入りたいだけで、しょっ」
といって、子乃さんはおみやげも受け取らず、扉も閉めず、部屋の奥へもどってしまう。
「子乃さん、ぽっくり逝っちゃいそうなんだもんー。ねー。交通事故とか、餅つまらせるとか、凍死とか」
「うるさいわねっ」
子乃さんは黙ってやかんを沸かしはじめた。
俺はまごまごと靴を脱ぎ、家に上がる。子乃さんのお茶の準備を手伝った。
ちらっと見えた部屋の奥は、こたつが出ていた。
きっと、あの中に猫がいるんたろう。
今朝、道端で子猫を見つけた。
捨て猫だろうか、近くに転がっていた空の段ボールからそう推測する
目は空いている、足取りもしっかりしている。
いつ頃からここにいたのか分からないが、子猫の体調は安定しているようでひとまず安堵した
警戒させないように、ゆっくり手を出してそっと持ち上げる
たんぽぽの綿毛のように軽くてふわふわなその身体の奥で、しっかりと鼓動する命の重さがあった。
すると、急に地面から足が離れたことに驚いたのか
子猫の身体がぐにゃんと捻れた、落としたら大変だ、いくら猫でもまだ産まれたばかりなのだから
慌てて抱え込むように抱き直すと、逃げる選択肢を潰された子猫は小さな歯で僕の手を噛んだ
「いたっ...!」
子猫だがちゃんと痛かった。
ズゴ……
派手な音を立ててドリンクを吸い込んだら、リュウガが鼻にシワを寄せた。
「もう捨ててこいよ、それ」
顎で示されたアイスコーヒーは、もう飲みきってしまって氷しか残っていない。溶けた分を未練がましくチョビチョビ飲んでいるのが、リュウガは嫌で仕方ないらしい。その度に文句を言われている。
「やだ」
「じゃあ俺が捨ててくる」
あ、と手を伸ばしたが間に合わず、リュウガはカップを持ってゴミ箱の方へ行ってしまった。これでテーブルに残されたのは英検の問題集だけ。タイムアップか。
「ほら、帰るぞ」
戻ってきたリュウガはイスに座らなかった。カバンを持ち上げ、また顎で私を促す。偉そうだからやめてと頼んでも、どうもクセらしくてやめてくれない。いつも何でも顎で指示する。付き合ったりしたらこういう小さい1個1個が許せなくなるんだろうと思うと、どうしても彼氏を作る気になれない。世の中のカップルは、どうやって解消しているんだろう……。
「ほらって」
問題集を勝手に閉じられ、やっと観念した。仕方ない。いつまでも帰らないわけにはいかないんだから。
外は思いのほか暖かかった。日中しっかり晴れたおかげだろう。それでもリュウガは、手に持っていたパーカーを差し出した。黙って受け取り、羽織る私。寒がりの私を気遣ってくれるリュウガの優しさを特別だと勘違いしてはいけない。こいつは誰にでも優しい。
「おいー、遅いって」
ふざけてるくらいに足を進めない私の方へ振り向いて、リュウガは数歩戻ってきた。
「ほら、行くぞ」
ぎゅっと握られる手。あまりに驚いて振りほどこうとしたけど、リュウガのいつもと変わらない顔を見たら恥ずかしくなってやめた。ただ本当に急かしたかっただけなんだろうから。慌てたらみっともない。
「指、冷たっ」
リュウガは私の指先を確かめるみたいに握り直し、そのまま自分のブレザーのポケットに突っ込んだ。
え。
優しさにしては行き過ぎてませんか。
狼狽える私をよそに、リュウガは反対の手でスマホを操り、明日の模試の日程を確認し始めた。何時に起きなきゃいけないとか、昼休みは何分だからパンをサッと食べるのがいいとか、帰りは何時になるとか。しまいには明日の天気と気温まで。
「今日は早く寝ないとな」
やっとポケットにしまわれるスマホ。こっちのポケットに収納された手をどうしたらいいのか、確認すらできないまま私はいつも通りに相槌を打つ。
いやでもこれ普通……ではないですよね。
数学の大西の自虐ネタについて語ってる場合ではない気がしつつ、2人で爆笑する。
……普通?優しさ?あり得る?いや、……でも。
リュウガと恋愛の話をしたことはない。部活を引退しても帰る方向が同じなことが変わらないだけで、元選手と元マネージャーという肩書を外れない仲を継続してきたつもりだった。
ポケットに手……。もしもこれがそういうことだとしたら、いつどの瞬間からなのか謎でしかない。お互いに付き合ってる人がいるのか、好きな人がいるのかさえ話したことがないのに。私に彼氏がいたら、こいつどうするつもりなんだろう。
ぐるぐる回る頭の中。
温い風が優しく頬を撫でていき、リュウガのリードに引っ張られるようにして私達は目的地に辿り着いてしまった。
「……」
足元を見つめる私。
「俺も見に行こうかな」
リュウガが私の手をそっとポケットから出して言った。温もりを失った指先には冷たく感じられる風。名残惜しさに握る手のひらに、みぃのふわふわの感触がよみがえる。
「……犬派のくせに」
「どっちかならね。でも別に、猫も嫌いじゃないし」
カバンを担ぎ直し、リュウガは玄関の方に顎をクイと向けた。偉そうなんだから、ほんとに。
みぃがいなくなって半年。新しい猫なんて欲しくないのに、ママが勝手に貰ってくると決めてしまった。見せられた写真はまだ小さなぽわぽわの子猫だった。きっと夢中になってしまう。でもそれは、みぃにすごく申し訳ない気がして。会いたくないんだ、あの子猫に。
「んー、可愛いんだろうな」
項垂れて最後の粘りを見せる私。
「じゃあ俺が」
リュウガはまたサッと手を伸ばし、インターホンを勝手に押した。
え、ちょっと待って。普通にママと話してるんだけど。緊張とか遠慮とかないもんなの?
「ほら、行くぞ」
また顎で。
開いてしまったドア。リュウガに引きずられるようにして連れ込まれる。
「ほらー、可愛いでしょう」
ママは胸に小さな子猫を抱いていた。みぃとは違う毛色。みぃよりずっとか細くて不安そうな鳴き声。しっぽを精一杯太くして、全力でリュウガと私を威嚇してる。リュウガが屈んで指を出すと、シャッと手を出して引っ掻こうとするのが、可愛くて可哀想で。よしよし、大丈夫だよって抱き締めてあげたくなった。
「はは、似てるー。すげー可愛い」
みぃのことはよく話してたし、いなくなった時は散々泣いて画像も見せたから知ってるはず。
「似てないよ。全然違うじゃん」
キッと睨んだら、リュウガは顎で私を示した。
「ほら。似てる」
……
リュウガは事も無げにまた子猫に指を差し出す。唸り声を上げられても、引っ掻かれても、リュウガはニコニコと子猫を構った。
「じゃ、帰ります」
子猫のストレスが気になり始めた頃、リュウガはそう言って外に顎をクイとやった。言われなくても見送るってば。カバンを玄関に置いて外に出ると、リュウガは静かにドアを閉めた。
「可愛いな。やっぱ好きだわ」
そう言って私を見つめる目。
「猫……のこと?」
間の抜けた質問にリュウガは目を見開いた。
「お前、大丈夫?」
「いや、だってさ……」
「だって、なんだよ?」
なんだよって、なんなのか私にも分からない。焦って絞り出す、さらに間の抜けた返答。
「……犬派のくせに」
でもリュウガは、ニッと笑ってくれた。
「言ったろ?猫も嫌いじゃない」
「……いつから?」
「んー。……はっきり思ったのは半年前、かな」
急にドキドキと激しく高鳴る胸。こういうのって、もっとなんかこう、……よくわかんないけど想像と違う展開に理解が追いつかない。どうしよう。
「みぃの時?」
「そう」
きゅう、と胸が痛んだ。柔らかくて温かかったみぃ。新しい猫なんか飼ったら、みぃの居場所はなくなっちゃうのかな。
「みぃちゃん、見つかるといいな。あの子と仲良くなるかも」
リュウガ……。みぃを忘れなくていいんだって、そう言われたみたいだった。
「で?嫌なら、諦めるけど。嫌じゃないだろ?」
……また。優しいくせに偉そうだ。だけど、分かった。小さな1個なんかどうだっていいよ。きっとそんなものは乗り越えていける。1個を難なく超えていく、他の1個。このドキドキがそれを証明してる。理屈じゃないんだ、これはきっと。
「嫌じゃない」
「じゃあ笑ってよ」
リュウガの声に、私はプイと後ろを向いた。なんとなく素直になれなくて。
「猫だな」
少し呆れたようなリュウガのからかいがくすぐったくて気持ちいい。猫か。そう言えばあの子猫をまだ撫でてない。ふわふわの感触を思い出したかったけれど、手に残るのはリュウガの温もりだった。私はそれを慈しむように、そっと両手を握り締めた。やっと冷えてきた風が、火照る頬を冷ますように駆け抜けていった。
《子猫》
わたしは子猫ほど弱くもないし可愛くもない。
だけど、あなたに見てもらうためにか弱いフリ、頑張るメイク。
周りの女の子はそんな私のことを【ぶりっこ】なんていうけれど、何の努力もしていないあなた達にとやかく言われたくない。
そして今日も子猫のように振る舞う。
▶15.「子猫」
14.「秋風」
13.「また会いましょう」
:
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
「今夜も来てくれたのね、お人形さん」
「ああ、会いたかったよ。私の子猫」
「ふぅん、それじゃ始めましょうか」
彼女は手招きをして微笑んだ。
出会いは彼女がまだ少女だった頃。
「相変わらずいいカラダしてるわねぇ」
「ありがとう、博士が聞いたら喜ぶよ」
たっぷりとした黒髪をくしゃくしゃにした女の子が、
木の下でうずくまっていた。
そこは花街の近くだったから声をかけた。
「あ、ここ汚れてる」
「手が届きにくいんだ」
-迷子なの?
青い瞳が人形を見上げた。
いつかの日に見た子猫のような色の取り合わせ。
-いじめられたの。黒髪は不吉だって。
「傷はないわね。よくできてる」
「いつも助かるよ」
-私は子猫みたいでかわいいと思うけれど。はい、飴あげる。
✕✕✕には美醜や吉兆の判断はつけられないが、人間の評価基準がどうなっているかはある程度把握している。ついでに買い物のおまけにもらった飴を渡した。
-お母さんがよく言ってた。私の子猫ちゃんって。飴もらうわ、ありがとう。
「服を着たら旅の話を聞かせてちょうだい」
「もちろん、報酬だからね」
木の上ではないけど。泣いていた子猫との縁。
大雨で早足の帰り道。
ダンボールの中で縮こまってた子猫に足が止まったのは、なんとなく自分と重なって見えたからだ。
自分の存在をアピールして助けを求めようともせず、ただただ刺すような雨の下、小さくなっていた。
なにもかもを諦めて、苦しみに打たれて、死ぬことしか頭にはない。
俺はその日、何を思ったのか、気づいたらその子猫をそっと抱き抱えて足早にアパートを目指していた。
─子猫─ #116
図書館で書棚を見つめ、次に何を読もうか選び難くて、頭を悩ませていた時のこと。
「やっ、青春してる?」
視界の左下からぬっとその人は顔を覗かせた。少しつり目がちな大きな目で俺を見上げている。猫柳リン先輩。俺と同じ文芸部の先輩だ。
「放課後に図書館にこもって本を読み漁る行為が青春に該当するなら、してますね」
「ノンノン、そんな青春度の低いことではダメだよ、大神くん。というわけで、わたしと一緒に青春探し、しないかい?」
左手を腰に当て、右手の人差し指を左右に振って、何だかよくわからない勧誘をしてくる。てか青春度って何だ。
この人は、いつも唐突で気まぐれだ。昨日は部室で俺が話題を振ってもたいして構わずに本の世界に浸っていたのに、今日はこれなのだから。
「青春探しって何すか」
「青春っぽいことを校内で探すのよ。大神くんもわたしも、次の部誌に載せる作品、ちょっち停滞中でしょ。青春探しして、いいインスピレーションを得ようってことよ!」
「俺が書きたいのミステリーなんすけど……」
「ミステリーにだって青春要素は必要だと思わないかい?思うね?というわけで行くよ、大神くん!」
俺の腕を掴んで、猫柳先輩はズンズン歩き出した。
俺よりふた周りは小さい身体で、なかなか歩き出そうとしない俺を引きずって歩くのだから、かなりパワフルだ。
俺はそのパワフルさに観念して、猫柳先輩の後に続くことにした。
陸上部のタイムの競い合い、サッカー部の得点時のハイタッチ、野球部のノック、窓から聞こえる吹奏楽部の音、化学部の実験、美術部の静かな空間に鉛筆が走る音……このあたりが青春度が高い、青春っぽいこと、らしい。
猫柳先輩の基準がいまいちわからない。この人、学校で起こってて、自分の生活から遠いことなら、だいたい青春だと思っているんじゃなかろうか。
「いやー、いっぱい青春見つけちゃったね!」
「はあ、よかったっすね」
先輩は満足げに笑った。俺はあちらこちらに連れ回されて疲れきっていた。
「それで、部誌のインスピレーションの方はどうなんすか」
今回の目的について俺が訊くと、猫柳先輩は首を傾げる。
「んーーー、まあまあ?」
この人目的忘れてたな、と俺は思った。
黄昏の頃、共に学校を出た。
「じゃ、また!」と俺に挨拶をしてあっさり1人で歩き出した先輩は、数歩行った後、急に立ち止まり、振り返った。
「今日は付き合ってくれてありがと。大神くんのおかげで最高の放課後にできたよ」
猫柳先輩は、それだけ言って、また俺に背を向けて歩いていってしまった。最後に見た顔は、優しく微笑んでいた。
俺は校門前で一瞬立ち尽くしてしまった。不意の笑顔に驚いた。いつもは、あんなふうにお礼なんて言わない人なのだ。それなのに……。本当に気まぐれな人だ。
俺が構ってほしい時には構わない、急にやってきては小さな身体の割にすごいパワフルさで俺を振り回し、不意にデレてくる。
子猫のようなあの先輩が、明日はどんな様子でいるのか、俺は今から楽しみだった。