『もう一つの物語』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
私が今いる高校と別の場所を選んでいたら
今のような幸せは訪れたのだろうか
それは誰にも分からない
人はずっと選択肢を選んできた
最適な答えだったかは分からないけれど
自分で選んできた道を責任をもって毎日生きている
友達もそれぞれの選択を選んで、選んだ先に私と関わるという選択肢が追加されたと思うと
運命ってすごいなと思う
これからどんな選択をしていくか分からないけれど
自分の物語が素晴らしい結末を迎えられるように
いい選択を選んでいきたい
"「ヒーロー」が輝ける物語の裏には、
想像も出来ないくらい悲しい「ヴィラン」
のもうひとつの物語が存在するんです。"
誰もが「ヒーロー」は生まれた時からあいされ、「ヴィラン」は生まれたことすら憎まれる。
やはり、世界は残酷ですね。
カタン。
夜、飼い猫と遊んでいると、隣の部屋から物音がした。
物置代わりにしている部屋なので、なにか落ちたかと思い何気無く物音の方を見る。
「ヒイッ」
思わず小さな悲鳴をあげる。
電気のついていない物置部屋。
そんな暗がりの中で、何かが蠢いているのが見えたからだ。
もしかして幽霊……?
そうなら大変だ!
私は幽霊が大の苦手。
わざわざ出なさそうな新築アパートを借りたって言うのに、まさか先客がいたとは!
すぐに逃げないと!
「なーんてね」
多分、物音の正体は飼い猫のクロだ。
名前の通り真っ黒な毛並みで、暗がりに溶け込むのはお手の物。
こうして脅かされたことは、一度や二度ではない。
「クロ、遊んでないで出てきなさい。」
「にゃー」
ほら、返事した。
クロはお利口なので、呼ぶと寄ってくるのだ。
今もトテトテと、後ろから歩いて来る音が――
後ろ!?
驚いて後ろを見ると、そこには驚いた顔をしたクロが!
じゃあ隣の部屋にいるのは……
本当に幽霊!?
「なーんてね」
実はもう一匹飼い猫がいる。
シロだ。
名前のとおり、真っ白な猫。
クロみたいに闇に紛れるなんて器用なことできないんだけど、その代わりかくれんぼが得意だ。
よく見れば蠢いているのは、毛布の下にいる。
そしてシロは、毛布をかぶる遊びが大好きなのだ。
きっと今回もシロのイタズラだろう
「シロ、おいで」
「ニャオ」
ホラこの通り。
白もお利口なので、私の膝の上から返事を――って膝の上ぇ!?
そうだった。
私はさっきまで、シロと遊んでいたんだった。
え、じゃあ今も蠢いている『あれ』は何?
我が家のイタズラ好きの猫は、二匹ともここにいる。
もう他には猫はいない……
つまり毛布で蠢いているのは……
ヒィィィ。
私が硬直していると、我が愛猫は蠢く毛布に走り寄った。
「クロ! シロ!
ダメよ、離れなさい!」
けれど呼んでも帰ってこない。
それどころか、毛布を攻撃し始めた。
蠢く姿が彼らの琴線に触れたようだ。
だが危険だ。
私は勇気を振り絞り、猫を回収するため、毛布に駆け寄る。
だが――
ハラリ
猫たちの攻撃に耐えかねたのか、毛布はひらりとずれ落ちる。
そして蠢めいたものが姿を現す
「あら?」
だけど、私は拍子抜けした。
なぜなら蠢いていたものは、この前捕まえた強盗だったからだ。
数日我が家に侵入し、私が返り討ちにした強盗。
そのまま警察に突き出そうと思っていたのだけど、暴れるから縄でぐるぐる巻きにして、うるさいから口にガムテ貼って、目障りだから毛布をかけて、そしてそのまま忘れていた。
「まだ生きてたのねえ」
人間は数日くらいなら飲み食いしなくても生きていけると聞いたことがあるが、あれ本当だったんだなあ……
私は感心しつつ、強盗に毛布を掛ける。
うん、気づかなかったことにしよう。
今突き出したら、虐待?で怒られるかもしれないしね。
この部屋には誰も強盗に来なかったし、放置されている強盗もいない。
いいね。
とは言っても死なれても困る。
死んだら臭いって聞くし、幽霊になられても困るし……
何か考えておこう。
ああ、あとで水くらい上げないとな。
そのうち暗がりの中に溶けて消えてくれることと願いつつ、私は猫との遊びを再開するのであった。
先程、娘を配達に送り出したところだ。赤い頭巾が見えなくなるまで見送った。この瞬間の不安は慣れはしない。
しかしそんな事で止まっている訳にはいかない。いろいろと家事があるのだから。
朝食の皿を片付けてから村の井戸に水を汲みに向かう。
井戸には先客が居て水桶を井戸から引き上げている最中だ。
村外れに住んで居る猟師さんだ。軽く挨拶をしつつ順番を待つ。猟師さんが水を樽に移しながら話しかけてきた。
娘さんは今日も配達に行ったのかい?ここらはまだ大丈夫だろうが2つ向こうの岩山でオオカミが居着いてしまったらしいんだ。そっちに居る猟師仲間がまだ若い群れだと言っていたからこっちまで来ることは無いだろうが、森に行く娘さんに何か鈴でも持たせてやりな。
そう話しているうちに樽は満水になったようで、猟師さんから水桶を貰い井戸に落とす。
猟師さんは勢い良く樽を担いで帰って行った。
オオカミ…そんな話を聞いたらまた不安が込み上げてきた。
慣れた手付きで水桶を引き上げ自分の樽に移し、また水桶を井戸に落とす。何度かそれを繰り返し樽に入れていく。
まるで不安が注がれているようにも思えてくる。
もう少しで樽はいっぱいになる。
だが突然、水桶を繋ぐ縄が切れ、水桶は井戸の深くに沈んで行った。どうしようもないその光景に何も出来ずただ井戸の暗がりを覗き込んだ。
娘が向かった森の方を見る。普段より暗く感じた森に無事を祈りつつ樽もその場に置いて猟師の家へ走りだした。
(もう一つの物語)
赤ずきんちゃんのオマージュ、母親目線
昨日の物語のもう一つの物語。
もう一つの物語
私がいる世界線。
私がいない世界線。
貴女は、何度も何度も生まれ変わります。
これが最後の生になるとは、俺たちは予想していません。
貴女はいくつもの物語を生きてきて、これからも生きていくのです。
けれどそれは、今世の命をないがしろにして良いという意味ではありません。貴女にはこの命を、この物語を、全力で生きてほしいと、俺たちは願っています。
今は不安なこと、恐れることがたくさんあるように思えて、きっとおつらいのでしょう。それでも、貴女の人生は進んでいきます。貴女には、後悔してほしくないのです。「あの時恐怖にすくんで行動できなかった」「あの時もっと勇気を出していれば違ったのに」と、思ってほしくないのです。
貴女のこの物語を、どうか諦めないでほしいのです。
もう一つの物語
アドベンチャーゲーム
選択して進める
失敗したら、もう一回
繰り返せる人生だ
あと、マルチバース
多元宇宙理論さ
まるで世界がミルフィーユ
この世界がいっぱいだ
あの時に違う
選択していたなら…
キミは隣にいたのかな?
もう一つの物語
リセットも出来ず
時空間も渡れず
ひとりぼっちで泣いている
もう一つを、想像して…
中学校生活最後の年、転校した。
顔と名前を一致させるのも一苦労だったクラスメイトを見ていると、去年までの学校生活を思い出す。
もう二度と戻れない生活を求めて毎晩夢の中で藻掻くほど、私はこの生活に疲弊し、絶望している。
毎朝吐き気に耐えながら自転車通学。
前の学校ではできなかったけど。
そんなしょうもないことを考えていると、
必ずといっていいほどあの人の声が聞こえる。
私を最後まで励まし続けてくれて、
最後まで天然な一面を見せたあの人。
私の初恋の人。
相手は担任教師で既婚者で可愛いお子さんもいるのだから、と諦めた恋。
だけど私、最後までいい生徒だったでしょ?
模範だとか優等生だとか褒めてくれたんだし。
だからここで言わせてください。
先生、大好きでした。
#初恋に渇望
よくある転生小説。異世界から手違いで呼ばれたごく普通の青年が仲間と出会い、共に旅するうちに成長し、スキルやらなんやらを利用して魔王を討伐する。
そんな出来事を経験した勇者が丁度、俺を澄んだ真っ直ぐな瞳で見つめ、聖剣と呼ばれる美しい剣の切っ先を眼前十数センチの距離に突きつけている。
ようやく、この物語も終わりを迎えようとしているようだ。彼の努力は配下たちを通じて見守ってきた。苦しい思いをたくさんしてきたことも、挫折しかけたことも、プレッシャーに押しつぶされそうだったことも知ってる。
それと、強くなった今も、この場にいる誰より死を恐れていることも。
「ここまでだ。これで終わりだ、魔王!」
「まぁ、そう急ぐな。少しのんびりしたところで後ろで倒れているお前の仲間たちは死にはしないさ。」
「そんなの関係ない。仲間が今、苦しんでるんだ。」
「気を失っているのだから、今は痛みも苦しみもない。邪魔する者もいないんだ。せっかくだ、少し話をしようじゃないか。」
「っ……」
警戒しつつ此方の様子をうかがい、俺が紡ぐ言葉を待っている。知ったことかと切りつけてもいいというのに。優しい彼はそんな事できないのだろう。というか脳内にその選択肢があるのかも怪しい。
「……知っているか? お前がこの世界に来る以前、お前と同じように召喚され、勇者として魔王討伐を命じられた男がいたのだ。」
「……聞いたことはある。」
「そうか。……そいつはお前とは異なりすぐ世界に順応し、剣の才能は今ひとつであったが、別分野で努力し、強力な魔法を扱えるほどにまでなった。」
「……その人は、どうなったんだ。」
「答える必要があるか? 俺はここにいるというのに。」
「っ!」
怒りと憎しみ。そして恐怖のこもった表情を浮かべる。聖剣を構え直し俺を睨みつける。
それらに俺は、余裕の笑みで返してやる。
「……無駄話はおしまいだ。魔王、俺はお前を倒す!」
「断る。」
「なっ……?!」
話しながら展開しておいた魔法を使い勇者を拘束する。聖剣も奪って、身動きできぬようしっかりと。彼に殺されるわけにはいかないんだ。
「……勇者が魔王を倒しても、物語は終わらない。新たな魔王と勇者が現れるだけだ。これが正しいかなどわからないが、取り敢えず考えつく中で最も成功率が高そうなのがこれなんだ。」
「物語? 一体なんの、話を……?!」
困惑する勇者に笑いかけ、俺は聖剣を自身の身体へ突き立てた。魔法で痛覚を遮断しておいたため痛みは一切ない。不思議な感覚だ。
……かつて魔王を倒した俺は、その瞬間に今までのすべての物語を見せられた。一番初めはこの世界の人間。次はその子孫。そして召喚された異世界人。俺は26人目の勇者だった。
魔王を倒した勇者は次の魔王に……初代の魔王が残した最悪な呪いのせいで、俺は勇者から一転、魔王となった。
「そ、んな……」
「……魔王である俺が死ぬには、聖剣で貫かれる必要がある。そしてその聖剣は勇者であるお前にしか抜くことはできない。」
ぐらりと体が傾き、その場に膝をつく。視界がぼやけてゆく。勇者を縛る魔法を維持することも難しく、自由になった彼が戸惑いの色を宿しながら此方へ一歩、二歩と歩み寄る。
「今まで魔王討伐に向かった勇者のなかに帰ってきた者はいないと、魔王に敗れたのだと言われていた勇者たちは、皆……」
「苦労するのはそれまでの道のりであって、魔王討伐は容易い。なんせ元勇者だ。自分の跡を継いだ者を殺そうとする奴はいない。お前の仲間も、文字通り眠っているだけだから安心しろ。」
全て伝えた。これで終わりだ。足元に広がる血溜まりが、次第に砂のようになり消えてゆく。傷口から徐々に、この体も同じように崩れ、消滅へと向かう。
「……この城の入口まで魔法で送り出してやる。仲間と国へ戻り勝利を告げろ。」
最後の力を振り絞り、魔法を展開する。転送先の座標は魔王城の門前。全員はぐれることのないよう注意して。
「っ、待ってくれ! まだ───」
「……最後の勇者よ。その勇気と努力に敬意と称賛を。」
────────
──────
──
あれから一ヶ月が経った。俺も仲間たちも無事王国へ帰還し、戦勝パーティーも開かれた。それと同時に、今までの勇者たちを弔う儀式も行われた。
あの日、魔王……いや、先代の勇者から聞いた話をすべて国王へ告げ、彼の最後も、俺が倒したわけではないということも包み隠さず話した。
しかし王はこの話を民へ伝えることを良しとはしなかった。終戦後の国を立て直すために英雄は必須であり、その威光が霞むような話はすべきではないとのことだ。
嘘をつかせることになり申し訳ない、と謝罪された。王としても苦渋の決断だったようだ。そのため、弔いの儀はパーティーの比にならないほど大規模に行われた。
世間では偉大なる勇者と呼ばれ、俺もそれに応えるため努力は怠らず、復興のため被害のあった地域を手伝い巡っている。
王城内、王族のみが入ることのできる書庫には、俺が話した事がそのまましたためられた本が丁重に保管されている。
多くの犠牲が忘れ去られてしまうことのないよう、真実を未来へ伝えるために。
#17『もう一つの物語』
出来事には
自分から見た物語と
相手から見た物語が存在する
自分が幸せになれるように
物語を紡いでそれで終わりでは無い
忘れがちだけれど
出来事の中には登場人物がいることもあって
同じように物語を紡いでる
相手には私がどう映るのか
不快にさせていないか
気をつけて紡いでいこうと思うの
「暗がりの中で」「もう一つの物語」
間違えて内容を消してしまった!!!:(_;´꒳`;):_
゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
ぼくは暗がりの中で、光を見つけた。
いや、光に見つけられた。
ぼくはどこで、いつ生まれたのかわからない。
それとも、いつ死んだのかのすらわからない。
そのうえ、なんにもできない。
ただただ仄暗い空間で、何かを見上げることしかできなかった。
そんなある時、機械の少年がぼくを見つけた。
そして彼はぼくに居場所と身体をくれた。
ぼくの正体を知る機会までくれた。
そして今、ようやく分かる。
でも、ぼくは自分のことを知ってもいいのだろうか。
自分を知ることで、いるべき場所がなくなってしまうのではないか。命すら、なくなってしまうのではないか。
不安と期待を胸に、ぼくは自分を知る。
゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
やぁ、構造色の髪の少年よ。ようやくこの日が来たね。
キミは自分のことを何も知らなかった。
その上とても不安定で、存在すら危ういときた。
ボクは素晴らしきマッドサイエンティストなので!少し悩むだけでキミ専用の空間と仮の身体を作れたが!もし発見したのがボクじゃなかったら今頃消えていたかもしれないね!
そんなキミが、もう正体を知る日が来るなんて。
感慨深いというか、少し寂しいというか。
「こちらの物語」にはほとんどキミの出番がなかったから、あまり理解されないのだろう。しかし、キミのために作ったあの場所で話をしたり、色々考えたりしたのはすごく楽しかったよ。
……今生の別れのような雰囲気になってしまったが、キミの居場所はまだある。キミの身体だってある。
もしキミが自分の正体を知って、行き場所を失ったとしたら。
またあの場所に戻っておいでよ。
キミならきっと、大丈夫だ。
これからももう一つの物語を、キミの物語を続けて。
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
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「最近ね、実家の納戸にしまいっぱなしになってた教科書を捨てたのよ。でも、ついつい中読んじゃってさ、こんな勉強してたなあ、なんて浸っちゃったりして。めちゃくちゃ時間かかったよ〜」
少し前に断捨離にハマったという親友が言った。自分の部屋の範囲はすっかりやりきってしまって、最近は納戸に手をつけているらしい。
「そうなんだ。私は卒業と同時に中も見ずに全部捨てたからなあ。国語の教科書なんて、読みだしたら止まらなかったんじゃないの?」
「そうなの。『ごんぎつね』とかさ、ヤバいよ。今でも読んだら泣けてくるのよ」
「『ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。』」
「やめてって!ほんとに泣くから!」
『ごんぎつね』の終盤の有名な台詞を言ってみれば、彼女は目頭を押さえながら慌てて止めにきた。これだけで本気で泣けてきてしまうらしい。
そういえば、ごんぎつねを習った当時もこの親友は泣いていたなあ、と思い出す。
私はあの作品を読んでも『後味が悪いなあ』としか思わず、自分と彼女の受け止め方の違いに驚いたものだった。
「そんなに泣くような話かなあ。ごんって前半でいたずら三昧してるよね。最悪の形で因果が応報したって感じじゃない?」
「まーた、そんなドライなこと言って。兵十のおっかあが亡くなってからのごんの善意は本物だったでしょ。それなのに……あんな終わり方なくない?!」
目を潤ませながらキレている親友を見て、本当に私達って感じ方が全然違うよなあ、とつくづく思う。
同じ物語を読んでも、私達の中に残る物語は恐らく同じにはなってない。同じものを見ても、どう感じてどう記憶するかが、全然違うから。
私達は感じ方が違いすぎて、しばしば周囲に『なんで2人が友達なの?』と問われることもあるほどだ。
その度、この感じ方の違いが面白いんだけどなあ、と私は思っていた。
たとえ共通の経験の話をしていたとしても、私達それぞれの口から出てくる物語は、いつも異なっている。
それが、良い。すごく面白い。
私達は話をする。
相手の口から紡がれる物語に耳を傾ける。
自分の物語を言葉にして相手に渡す。
そうして、互いの物語を交わし合う。
その時間は、何より楽しくて、代えがたいものだった。
自分の人生のもう一つの物語は
理想の自分や友達がいる
そこに行ってみたいとたまに思う
でもやっぱり今のままで十分だと思っている
サプライズで彼女ーーA子のマンションまでやって来た。初めてだ。彼女はとても綺麗で礼儀正しく、清楚な人だ。ワインとチーズ、そしてスイーツがとても似合う。女性らしい、フワフワした服装もぴったりだ。
オートロックのインターフォンを押すと、愛する彼女の声が、スピーカーから鳴り響いた。
「……はい?」
聞こえた声は、スピーカー越しだからか、思っていた彼女の声よりも低く、知らない相手に対する警戒感が感じられた。
だから俺は、安心させるように顔をカメラに寄せ、口角を上げて名乗る。
「俺だよ、A子」
「……え? B男さん? え? ええっ⁉︎」
何度も俺の名を呼ぶ彼女に、愛おしさが込み上げる。でも驚き声ばかりで、全然話が先に進まない。だからすこし彼女の声に割り込むように、強引に話を進める。
「突然でごめんね。近くまで来たから驚かせようと思って。A子ちゃんが食べたいって言ってた有名店のケーキ、買って来たんだ。良かったら……一緒に食べない?」
そう言ってケーキ屋の箱を見せると、ひとときの間ののち、
「わぁ、嬉しい! 是非上がっていって!」
嬉しそうな声が途切れたかと思うと、オートロックが解除され、機械音と共に扉が開いた。
エレベーターに乗って彼女の部屋の前に行くと、ちょうどドアが開いた。
現れたのはもちろん彼女。
お互いの顔を認め合った瞬間、彼女は嬉しそうに口元を緩ませた。釣られて俺も笑顔になる。
お土産のケーキはとても美味しいものだが、きっと彼女と食べるケーキはもっともっと美味しいものになるだろう。
そんな確信をもちながら、俺は部屋の中に入っていった。
※
ピンポーン
インターフォンが鳴るには遅い時間だった。
(一体誰? 宅急便なんて頼んでなかったはず)
私は一口含んだ焼酎を飲み込むと、摘んでいたスルメを袋の中に戻した。
10年以上愛用している中学時代のジャージに身を包んだまま、のっそのっそとベッドの中から出て、インターフォンと連動しているスマホ画面を見る。
せっかくの晩酌タイムを邪魔され、不機嫌な気持ちが、マイクに話しかける声色に滲む。
しかし、名乗られた瞬間、私の不機嫌さは驚き一色に塗り替えられた。
B男さん!
何と、彼氏だ。
彼の手には、ついこの間私が食べたいと口にしたケーキ屋の箱!
それを見た瞬間、私は全てを悟った。
彼は、私とケーキを食べるために、家にやって来たのだと。
きっとこの家に上がりたいのだと。
「……え? B男さん? え? ええっ⁉︎」
慌てて混乱している様子を声で演技しながら、私は急いでくたくたになったジャージを脱ぎ捨て、いつも着ているフェミニンな服に着替えた。
ベッドのサイドテーブルに置いていた、焼酎やお徳用スルメ、柿ピーをひとまとめにして冷蔵庫の奥の方に突っ込む。
散らばった食べかすを瞬時に集め、ゴミ箱に捨て、酒臭さを誤魔化すために窓を開け、換気扇を全開にし、ファブリーズをベッドの上にまいた。
床に散らばった服は、クローゼットの中に突っ込み、シンクに溜まっていた食器をとりあえず食洗機につっこむ。
「突然でごめんね。近くまで来たから驚かせようと思って。A子ちゃんが食べたいって言ってた有名店のケーキ、買って来たんだ。良かったら……一緒に食べない?」
B男さんが、少し割り込むように話を進めたため、これ以上の誤魔化しが効かないことを悟る。
フローリングをクイックルワイパーで掃除をしながら、ここまで来るまでの時間を想像する。
……うん、間に合う。
「わぁ、嬉しい! 是非上がっていって!」
口角を上げて高い声を出すと、私はオートロックを解除した。
さあ、最後のひと勝負だ。
洗面所に向かい、化粧をチェック。家に帰ってからすぐに化粧を落とすなんていうめんどくさことはしない、というズボラ精神が幸をそうした。
うん、ちょっと直すだけで大丈夫そう。ワックスで髪の毛を整えて……よし!
部屋から廊下に出た瞬間、B男さんがやってきた。
間に合った……
私は、やり遂げた……
安堵から身体中の力が抜けそうになる。だけどそんな私の内心には気づかず、B男さんはにこやかに微笑んでいた。
これが彼の知らないところで起こっていた、もう一つの物語。
【もう一つの物語】
そこは海だった。
よく晴れた青い空の向こうに入道雲が浮かんでいる。
日差しで焼かれた熱い砂浜をゆっくりと歩く。
波が寄せては引き、引いては寄せる。
まるで僕たちの距離のようだった。
あの日。
僕が勇気を出していたら。
想いを言葉にできていたら。
何かが変わっていただろうか。
僕の隣に彼女はいない。
あるところに美しい少女がいました。
花びらが舞うようにうねる髪。
シルクのように滑らかな肌。
珊瑚色の瞳。
そこにある女の子がやってきました。
少女は女の子に問いかけます。
『あら?こんなところに人が来るなんて珍しい。
そこのお嬢さん、あなたはなんでここにいるの?』
少女の声音は儚く、消えそうで優しく同時に凛としていました。
女の子は少女に,こう答えます。
「お母さんの誕生日に桜を取りに来たの。
でも、どこかわからないの」と。
少女は『神代桜のことね。ついてきて』
女の子は少女をとことこと追いかけます。
少し歩いたところで、2人は立ち止まります。
『ここよ。』
すると、そこには呼吸を忘れるほどの、現実とは思えない、美しい桜がありました。
「きれい」女の子がそう呟くと少女は『神代桜は寿命が2000年を超えるのよ。今はちょうど半分くらいね。』女の子は驚きます。少女は、そんな女の子を見てクスクスと笑います。『いま取ってあげるわ。』と言い桜の方に手を伸ばすと、「ダメっ!!」と女の子が大きな声で言いました。少女は目を開きます。『お母さんのために取りにきたのでしょう?』「うん。でもダメ」『どうして?』「ここまでおっきくなるのにいっぱいいっぱい頑張ったんだからおっちゃうのかわいそう」『優しい子ね』そういうと少女はと手をあげました。すると、ふわり、ふわりと桜の枝が落ちてきます。枝は少女の手にふわっとおさまります。『これなら、桜の枝折っちゃわないでしょ。ほら、どうぞ』「お姉ちゃん、ありがとっ」女の子は笑顔で桜を受け取ると、タタッと走っていきました。
次の日、『あら、あなたまた来たの?』「うん。お姉ちゃんにお礼しにきた。はいっ。お菓子」『ありがと』女の子はお母さんのこと、友達のことをいっぱい話しました。日が暮れると「もう帰んなきゃ。お姉ちゃん、またね〜」『ばいばい』
女の子は次の日もそのまた次の日も少女のところへ行きます。夏が近づくと少女は『私は、春の間しかあなたと会えないから、もうすぐ会えなくなっちゃうわ』
「えっ、やだ、さみしい」『そうね、でも来年になったらまた会えるわ。』「ほんと!?」『えぇ。もちろん。そうだわ、毎年桜の枝を上げることにしましょう』「いいの?ありがと、じゃあやくそくね」
そう言って2人は指切りをしました。『またね』「またね〜。約束だよ!!」
2人は毎年春になると毎日会うようになりました。
女の子は女性になりました。少女の姿は相変わらず美しいまま。ちっとも変わりません。それは、女性が婦人になってもです。やがて婦人は少女の元へ行けなくなります。少女が女の子へあげた桜は不思議なことに枯れず、毎年春になれば、蕾がつき、花が開きます。
花瓶はまるで小さな桜の木があるようです。
小さな桜の木はあまり動けなくなった婦人と話をします。「お姉ちゃんはちっとも変わらないわねぇ。羨ましいわ」『当たり前でしょ、私の寿命は2000年を超える桜の精霊なのだから』やがて、婦人と少女が会えなくなりました。
幾年の時が経ち少女の元へまた人が来ます。
少女のもう一つの物語はまた別の機会で。
10/29 「もう一つの物語」
魔王が生まれ、気高い志と共に勇者が旅立ち、多くの犠牲を払い仲間とともに世界に平和を取り戻す。
侵略者が現れ、人々の願いに答えた古の兵器と共に、地球と人類の為に誇り高く戦い敵を打ち砕く。
エトセトラ、エトセトラ…
いうなればこれらはダイジェストだ。
歌として、物語として語られる時に伝わりやすいように、より活躍が際立つように、不要な部分を削り取って、重要な部分を脚色する。
そうして生まれ、紡がれたものこそが後に生きる人々の心を打ち、その志を継承するのだ。
しかし、そうしかしだ。
当然ながらそれらには語られない物語がある。
勇者の印象を落とさないためにあえて削られたもの。
歌や物語にする際伝えるまでもないと省略されたもの。
はたまた、ただ単に伝わることのなかったもの。
壮大な英雄譚の裏には語られることのない物語が数多く存在する。
そう、例えばこんなふうに。
「平行線、だな」
「端から分かり合うことなどできないと分かっていたそうだろ?」
向かい合うのは二人の男。どちらもその表情は硬く強張っている。
まるで、気を抜けば即座に命を取られる。そんな緊張感の中、二人の男はジリジリとその距離を詰める。
「一撃だ」
「手加減はしない」
達人同士の決闘は一瞬で決着する。
その原則はこの男たちにも当てはまる。
ゆっくりゆっくりと近づき、お互いの手が触れるほどの距離まで近づき同時にピタリと動きを止める。
「「うぉおおおお!」」
裂帛の気合とともに二人の男は無駄一つない動きでその拳を突き出した。
「「最初はグー! じゃんけんポン!」」
繰り出されたのは拳と平手。
拳の男はその場に崩れ落ちた。
「よっしゃぁああああ! エミリー、捕まえたエルーラビットの肉は全部鍋にぶち込め! 今日の飯はシチューだ!!」
「くそぉおおおおおお!」
その瞬間、そこには確かに天国と地獄が存在した。
「はぁ、別にお肉が足りないって訳じゃないんだからシチューと丸焼き両方作ればいいじゃない」
エミリーと呼ばれた少女が呆れたように男に話しかける。しかし、男はそれを豪快に笑い飛ばす。
「ハッハッハ、こいつは自ら俺に勝負を挑み敗北した。敗者に情などかけん。丸焼きは無し! 今日から一週間はシチュー三昧だ!」
「はぁ…そんなこと言って、毎回3日目には飽きたとか言い出すじゃない…」
エミリーはそう呟くが、その言葉は男には届かないようだった。
第35勇者団「アリアドネ」
これは、後に魔王を倒し英雄譚として遥か後世にまで語り継がれることになる勇者たちの何の変哲もない語られなかった穏やかな日常のお話だ。
もしあの時大学をやめていなかったら。訓練校をやめていなかったら。挫折することなくギターを続けられていたら。進路を進学ではなく早くに就職を決めていたら。人生の分岐を「もう一つ」の方向に進むことでその先の人生はぐっと変わる。選んだのは暗闇かもしれないけれど、今の暮らしに満足している。しかし時折、選ばなかったもう一つの物語を歩んでいる自分に会ってみたいと、思ってしまうこともある。人生は一度きり、選んだ道を胸を張って歩くしかないのだ。ちなみにギターは最近また始めました。分岐が変わるかもね。
※主が実際に見た夢の話です
『もう一つの物語』
私は、よく遅めの時間(夜中か朝方)に寝ている
その時に見る夢は別の私と知らない誰か?と仲良く旅をしている
居る世界は知らない場所で異世界らしさがあった
自分が別の世界の自分を見守っているのかと感じた
けれど、違うようだった
自分のように見えたが目の色や声が似ていた
それ以外は、違った
その夢の続きは寝る度に綴られてた
ある日を境に感じ方が変わった
別の自分を見る度
敵意が湧いた、手にはいつの間にか武器のような物を持ってた
気づいた時には遅かったようで血まみれ?の別の自分が倒れてた
それがずっと続いて抜け出せないままになった
時すでに遅し、それを見続けてわかった
これは…【別の自分が居る『もう一つの物語』】
なんだって
今でも見ている抜け出せないけれど少しずつ抜け出そうとしながら続きを見るために
『もう一つの物語』
あの時あの道に進もうと決断していたら。
あそこで伝えようと勇気を出していたら。
あの約束をずっと守っていたら。
あの時のプレゼントをちゃんと選べていたら。
あの時言う通りにしていたら。
昨日夜更かしをしなかったら。
今日傘を持ってきていたら。
さっきトイレに行っておけば。
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長編小説か掌編小説か、
今日もまた「もう一つの物語」が小さく増えていく。
決して読むことの出来ないこの物語を、
私たちは頭の片隅に積み上げて歩いていく。