あるところに美しい少女がいました。
花びらが舞うようにうねる髪。
シルクのように滑らかな肌。
珊瑚色の瞳。
そこにある女の子がやってきました。
少女は女の子に問いかけます。
『あら?こんなところに人が来るなんて珍しい。
そこのお嬢さん、あなたはなんでここにいるの?』
少女の声音は儚く、消えそうで優しく同時に凛としていました。
女の子は少女に,こう答えます。
「お母さんの誕生日に桜を取りに来たの。
でも、どこかわからないの」と。
少女は『神代桜のことね。ついてきて』
女の子は少女をとことこと追いかけます。
少し歩いたところで、2人は立ち止まります。
『ここよ。』
すると、そこには呼吸を忘れるほどの、現実とは思えない、美しい桜がありました。
「きれい」女の子がそう呟くと少女は『神代桜は寿命が2000年を超えるのよ。今はちょうど半分くらいね。』女の子は驚きます。少女は、そんな女の子を見てクスクスと笑います。『いま取ってあげるわ。』と言い桜の方に手を伸ばすと、「ダメっ!!」と女の子が大きな声で言いました。少女は目を開きます。『お母さんのために取りにきたのでしょう?』「うん。でもダメ」『どうして?』「ここまでおっきくなるのにいっぱいいっぱい頑張ったんだからおっちゃうのかわいそう」『優しい子ね』そういうと少女はと手をあげました。すると、ふわり、ふわりと桜の枝が落ちてきます。枝は少女の手にふわっとおさまります。『これなら、桜の枝折っちゃわないでしょ。ほら、どうぞ』「お姉ちゃん、ありがとっ」女の子は笑顔で桜を受け取ると、タタッと走っていきました。
次の日、『あら、あなたまた来たの?』「うん。お姉ちゃんにお礼しにきた。はいっ。お菓子」『ありがと』女の子はお母さんのこと、友達のことをいっぱい話しました。日が暮れると「もう帰んなきゃ。お姉ちゃん、またね〜」『ばいばい』
女の子は次の日もそのまた次の日も少女のところへ行きます。夏が近づくと少女は『私は、春の間しかあなたと会えないから、もうすぐ会えなくなっちゃうわ』
「えっ、やだ、さみしい」『そうね、でも来年になったらまた会えるわ。』「ほんと!?」『えぇ。もちろん。そうだわ、毎年桜の枝を上げることにしましょう』「いいの?ありがと、じゃあやくそくね」
そう言って2人は指切りをしました。『またね』「またね〜。約束だよ!!」
2人は毎年春になると毎日会うようになりました。
女の子は女性になりました。少女の姿は相変わらず美しいまま。ちっとも変わりません。それは、女性が婦人になってもです。やがて婦人は少女の元へ行けなくなります。少女が女の子へあげた桜は不思議なことに枯れず、毎年春になれば、蕾がつき、花が開きます。
花瓶はまるで小さな桜の木があるようです。
小さな桜の木はあまり動けなくなった婦人と話をします。「お姉ちゃんはちっとも変わらないわねぇ。羨ましいわ」『当たり前でしょ、私の寿命は2000年を超える桜の精霊なのだから』やがて、婦人と少女が会えなくなりました。
幾年の時が経ち少女の元へまた人が来ます。
少女のもう一つの物語はまた別の機会で。
10/29/2024, 1:33:04 PM