カタン。
夜、飼い猫と遊んでいると、隣の部屋から物音がした。
物置代わりにしている部屋なので、なにか落ちたかと思い何気無く物音の方を見る。
「ヒイッ」
思わず小さな悲鳴をあげる。
電気のついていない物置部屋。
そんな暗がりの中で、何かが蠢いているのが見えたからだ。
もしかして幽霊……?
そうなら大変だ!
私は幽霊が大の苦手。
わざわざ出なさそうな新築アパートを借りたって言うのに、まさか先客がいたとは!
すぐに逃げないと!
「なーんてね」
多分、物音の正体は飼い猫のクロだ。
名前の通り真っ黒な毛並みで、暗がりに溶け込むのはお手の物。
こうして脅かされたことは、一度や二度ではない。
「クロ、遊んでないで出てきなさい。」
「にゃー」
ほら、返事した。
クロはお利口なので、呼ぶと寄ってくるのだ。
今もトテトテと、後ろから歩いて来る音が――
後ろ!?
驚いて後ろを見ると、そこには驚いた顔をしたクロが!
じゃあ隣の部屋にいるのは……
本当に幽霊!?
「なーんてね」
実はもう一匹飼い猫がいる。
シロだ。
名前のとおり、真っ白な猫。
クロみたいに闇に紛れるなんて器用なことできないんだけど、その代わりかくれんぼが得意だ。
よく見れば蠢いているのは、毛布の下にいる。
そしてシロは、毛布をかぶる遊びが大好きなのだ。
きっと今回もシロのイタズラだろう
「シロ、おいで」
「ニャオ」
ホラこの通り。
白もお利口なので、私の膝の上から返事を――って膝の上ぇ!?
そうだった。
私はさっきまで、シロと遊んでいたんだった。
え、じゃあ今も蠢いている『あれ』は何?
我が家のイタズラ好きの猫は、二匹ともここにいる。
もう他には猫はいない……
つまり毛布で蠢いているのは……
ヒィィィ。
私が硬直していると、我が愛猫は蠢く毛布に走り寄った。
「クロ! シロ!
ダメよ、離れなさい!」
けれど呼んでも帰ってこない。
それどころか、毛布を攻撃し始めた。
蠢く姿が彼らの琴線に触れたようだ。
だが危険だ。
私は勇気を振り絞り、猫を回収するため、毛布に駆け寄る。
だが――
ハラリ
猫たちの攻撃に耐えかねたのか、毛布はひらりとずれ落ちる。
そして蠢めいたものが姿を現す
「あら?」
だけど、私は拍子抜けした。
なぜなら蠢いていたものは、この前捕まえた強盗だったからだ。
数日我が家に侵入し、私が返り討ちにした強盗。
そのまま警察に突き出そうと思っていたのだけど、暴れるから縄でぐるぐる巻きにして、うるさいから口にガムテ貼って、目障りだから毛布をかけて、そしてそのまま忘れていた。
「まだ生きてたのねえ」
人間は数日くらいなら飲み食いしなくても生きていけると聞いたことがあるが、あれ本当だったんだなあ……
私は感心しつつ、強盗に毛布を掛ける。
うん、気づかなかったことにしよう。
今突き出したら、虐待?で怒られるかもしれないしね。
この部屋には誰も強盗に来なかったし、放置されている強盗もいない。
いいね。
とは言っても死なれても困る。
死んだら臭いって聞くし、幽霊になられても困るし……
何か考えておこう。
ああ、あとで水くらい上げないとな。
そのうち暗がりの中に溶けて消えてくれることと願いつつ、私は猫との遊びを再開するのであった。
10/29/2024, 1:47:48 PM