『お祭り』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
祭囃子の笛の音に誘われて。一人初めて外へ飛び出した。
きらきらとした灯りを、賑やかな騒めきを目印に。誰かに見咎められないよう、暗い木々の合間をすり抜け進む。
「……きれい」
そうして離れた場所から、自分の眼で見た祭り《そと》の光景は。
とても鮮やかで、暖かく。宝石のように煌めいていた。
祭囃子の音。楽しげな笑い声。香ばしい香り。
遠くからでも分かる賑やかな雰囲気に、見ているだけでも心が躍る。
もう少しだけ側で見たいと、一歩踏み出した。
ほんの少しだけ、近づけた気がした。
「…誰か、いるのか?」
もう一歩と踏み出しかけた足は、聞こえた誰かの声にそれ以上は進めず。慌てて下がろうと無理に動かしたために縺れてバランスを崩し、無様にも尻餅をつく結果となった。
がさがさと音を立て、誰かが近づく。
目の前の草が揺れて。
「女の子…?」
現れたのは自分と同じ年頃の少年。
「ご、ごめ、なさっ…その、きらきら、してた、からっ…」
早く戻らなければ、怒られてしまう。
そう思うけれど、余計に焦るせいで体は思うように動いてはくれず。
「ねぇ」
そう言ってこちらに向けられた手に、反射的に身をすくめる。
けれど想像した痛みは訪れる事はなく。
優しく頭を撫でられて目を開けると、彼は小さく笑って手を取りそのまま引かれた。
「え?あっ」
急に立ち上がった事で、バランスを崩してふらつく体を支えられる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
初めての事ばかりで、どうすればいいのか分からない。祖母以外の人と話す事も、況してや触れる事もなかった。
混乱し固まる私に、少年は視線を合わせて笑いかけ、躊躇いもなく手を差し出した。
「よくわかんないけどさ。花火が見たいのか?なら、こっち」
手を繋ぎ、歩き出す。
人気の少ない道を選んでいるのか、他の誰かとすれ違う事もない。
「山の近くは滅多に人が来ない割に、花火がよく見えるから」
こちらの歩幅に合わせてゆっくりと歩く少年が何を思っているのか、その表情からは分からない。
村の住人ならば、私の事が分からないはずがないのに。
『村外れの館に住む白い娘に関わってはいけない』
それなのに、何故こうして手を繋いでくれるのだろう。
「何か買ってきてやるから、その間いい子にしててな」
離れた手で優しく頭を撫でられて、お祭りの方へと戻っていく少年を見送って。
一人になって、ようやく落ち着いた気持ちで考える。
今日の事。少年の事。自分の事。
落ち着いていても纏まらない考えに、目を閉じる。
どうして彼は親切にしてくれるのだろう。
どうして彼は私の事を聞かないのだろう。
どうして、何で。
一人で待つこの時間を、寂しいと感じてしまうのだろう。
離れてしまった手が、消えてしまった温もりが恋しい。彼と会ったのはほんの少し前の事なのに、離れる事が寂しくて、一緒にいれる事が嬉しい。
全部初めての事。だから分からない。これからどうしたらいいのか。待っていればいいのか、ここから離れればいいのか。
何も分からない。彼の考えも、自分の気持ちも何一つ。
「……どうして」
小さく呟いた声は、誰にも届く事はない。
俯いて、必死で泣くのを耐えていた。
20240729 『お祭り』
「お祭り」
これは俺が住んでいた村の祭りの話。
毎年7月31日になると山の上の大きい神社で「オトガマ様」っていう神様?を祀る儀式があった。
毎年中高生ぐらいの年齢の少年3人が「トギ(?)」として選ばれて、儀式の1週間前から神社の近くの小屋で「お清め」をする。なんでも、人の多く集まるところには邪気で溢れているんだと。
んで、俺も中2のときトギに選ばれた。
正直俺はこんな時代遅れな儀式に参加したくなかったし、親もそうだった。
だけど、実際参加しないと村社会なのもあって後が色々面倒くさいから、渋々儀式をすることになった。
まぁ、1週間だし、なんかの話のネタにでもなるかもwとか思って軽く構えてた。
儀式に参加するのは俺と部活の先輩と、あとあんまり話したことない、〇〇さんっていう顔見知りの高校生。
「あ、どもっす。」「お前も選ばれたんか。」
「……こんにちは。」
変な沈黙が流れて気まずい。
「あー、先輩はこの儀式のこと、なんか知ってるんすか?」
「マジで何も聞かされてない。何も知らん。」
「俺も何も聞いてないっす。」
「えーっと、〇〇さん(地元にはいっぱいいるけど珍しい名字。特定されたくないから伏字)はなんか聞いてるんすか?」
「ちょっとだけ聞いた。」
「マジすか?ちょっと教えてくださいよ。」
「オトガマ様の儀式の目的みたいなやつ。」
「めちゃめちゃ重要な話じゃないすか!」
「本当は他言無用らしいけど、どうせトギに選ばれたからさ、話してもいいか。」
「オモロい情報あるんすか?」「俺も気になります。」
「えーと……まずオトガマ様っていうのは、超強い怨霊みたいなやつらしい。なんかオトガマ様が人間だった時、濡れ衣で処刑されたんだと。」
「で、オトガマ様の処刑の後から、事故とか変な病気とかで死ぬ人がたくさん出て、それをすごい神主に村人が相談した。」
「そしたら、この霊は強すぎて祓えないから、神として祀りあげて祟りをなくそうってなったわけ。んで、その儀式が今でも続いてる。言うなれば将門信仰みたいなやつ?」
「まあ、俺たちがやることは簡単で、簡単な踊りと髪の毛を1束、オトガマ様のいるお社に納めるだけ。トギの役割を果たしたやつは、この先オトガマ様に守って貰えるんだってよ。」
「へー。なんかすごいっすね。」「なるほど?」
先輩が〇〇さんに聞く。
「でもさ、それなら性別問わずみんなトギをやりゃいいんじゃないんすか?そしたら皆守られるじゃないすか。」
〇〇さんは少し考えた後、こう言った。
「オトガマ様は女と年寄りが嫌いらしい。理由は教えてもらえなかったけど。だから若い男が選ばれるんだって。」
「オトガマ様にも事情があんだなぁ。」
「俺がオトガマ様だったら可愛い女の子連れてきて欲しいけど。」
「先輩、欲まみれっすね……。」
どうでもいい話をしながら夏休みの宿題をしつつ、お清めの時間を過ごした。
肉は食えないし飯の量も少ないしで結構不満だったけど、そこまで悪い時間じゃなかった。
そうこうしているうちに祭りの日を迎えた。
なんとか奉納する踊りも覚えて、準備も整ったし、あとは本番だけだ。
その時までみんなそう思っていた。
村の広場には色んな屋台があって(俺たちは行かせてもらえなかったけど)、りんご飴とか光るビー玉とか、お祭りらしいもので溢れかえっていたらしい。
そんな中、俺らの踊りと儀式を見るために〇〇さんのファン(〇〇さんは結構モテてたらしい)の女の子が女人禁制の言いつけを破ってお社に来た。
儀式中、特に変わったことは無かったけど、その子たちが来たぐらい(多分)から急に空気が重く、というか、暗くなった。
それに気付いた神主さんは真っ青になって、「女がいるのか!」って叫びながら女の子を探し始めた。
俺らも慌てて動こうとするが、なぜか体が動かない。
焦っていたら、祭壇にあった変な木彫りの人形?からモヤモヤしたものが出て行った。俺らは直感的にわかった。多分あのモヤモヤがオトガマ様だってことが。
しばらくすると神主さんが戻ってきて、今度は完璧に顔が青ざめて、というか青を通り越して白っぽくなってた。
「オトガマ様がいない……。」
どういうことか聞いたら、今まで儀式で抑えていたオトガマ様の力が、女の子に見られたことで封印(?)が解かれてここから出て行ったらしい。
一度出て行ってしまったものはもう戻せないし、これからどうなるのかもわからないらしい。
ただ、ひとつだけオトガマ様の力を抑える方法がある。
それは、出来るだけ多くの人にこの話を見てもらって、オトガマ様の呪いを分散させること。
文才もないし、話の拡散なんかできるかも怪しいけど、一人一人が受ける呪いを小さくするには、色んな人に読んでもらわないといけないんだ。
多分今から、これを読んじまったあんたのとこにもオトガマ様が来る。運が悪かったと思って、一緒にこの呪いを背負ってくれよ。
そしたら俺らも長生きできるかもしれないからさ。
『お祭り』
夏祭りの境内は独特な熱気を孕んでいる。
祭囃子が響き渡り、何十人もの大人や子供の話し声や笑い声が飛び交う神社は、普段の厳かな雰囲気とは一転、大衆的な雰囲気に包まれる。
一見すると低俗とも言えるこの雰囲気が、私は嫌いでは無い。
年齢や性別、立場も違う、様々な人々が同じ空間で、同じ時間を過ごし、同じ感情を共有する。
普段は厳格な大人も、この日ばかりは羽目を外し、子供に交じってはしゃぎ回る。
踊口説が流れ始めると、男も女も、誰も彼もがリズムに合わせて手を叩き、踊り狂う。
その光景はある種の宗教的な何かを感じさせる。
その喧騒に引き寄せられるのは、人間だけではないのかもしれない。
お面を1枚隔てれば、人なのかそうでないのかの判断は曖昧になってくる。
人か魔物か夢現。
あそこに浮かぶは提灯か、人魂か。
私の前の此奴は人間か、それとも。
夏祭りの妖しげな雰囲気が、熱気が、私を惑わせる。
わたあめにベビーカステラ。
たこ焼きに焼きそば。
これでもか! という勢いでお祭りならではの食べ物を堪能し尽くして。
その後は、腹ごなしにゲーム三昧。
金魚すくいに、水風船。
果てには射的にまでも参戦して、他の客や店主の注目を浴びまくり。
遊び倒した証のように、腕には光るサイリウム・ブレスレット。頭には何かのヒーローのお面も着けた相棒は、上機嫌でいつになくご満悦だ。
しかもヒーヒーと腹を抱えて笑い転げたままなかなか復活して来ない。
この阿呆め。さては俺の知らない間に酒まで飲んだな。
幸か不幸か。ここは主催する神社の前に広がる、門前に構えた大きな広場。即ち、お祭り会場の真っ只中。
騒いでいる連中は他にも大勢いる中での一人なので、俺たちが特に悪目立ちするという訳ではない。
ないのだが、そろそろその馬鹿笑いを止めてくれないだろうか。連れ立っている俺が恥ずかしい。
「いい加減にしろよこの馬鹿」
笑って下がっている頭を軽くはたけば、「ごめんごめん」と言って奴は漸く顔を上げた。その目元には笑い過ぎて溢れた涙が貯まっている。
おいおい。そんなに笑っていたのかよ。
呆れてため息を吐き、まだ肩を震わせている相棒の二の腕を掴んだ。
大の大人が恥ずかしい真似だが、そのまま有無を言わせず歩かせる。
「ほら、もう行くぞ。おまえが行きたいって言うから着いて来たけど、そろそろ限界じゃないのか? 神社なんてお綺麗なところ。普段は避けて通りたい場所だろうに」
人混みの中を縫って歩き、広場の出口を目指す。
ちらりと後ろを振り返れば、引かれるままに、大人しく後ろを歩く相棒と目があった。もう馬鹿みたいに笑ってはいない。
けれども、代わりにきょとんと目を丸く見開いて、「心配してくれてたの?」なんて言うものだから、とうとうカチンと頭に来てしまった。
掴んでいた腕を払って向かい合う。
「当ったり前だろうが! おまえ、自分だってお節介の癖に、俺からの」
「わーっ! ごめんごめん! 僕の言い方が悪かった! 大丈夫、大丈夫だから!」
皆まで文句を言う前に遮られ、突き出されたわたあめで詰め寄る勢いを制された。
まったく。格好のつかない阿呆である。
怒りを削がれて鎮まれば、ほっと息を吐いた相棒が近寄って耳打ちした。
「気を遣ってくれてありがとう。でも本当に大丈夫だから。出掛ける前にも言ったけれど、うーん何て言うのかな。こういう清浄な気のところは苦手だけれど、僕の力が強い分、すぐには死んだりしないから安心してよ。浄化されて即死とかないからさ」
そう言って、「ね!」などと笑ってウインクするものだから、張り合う気も失せて脱力してしまう。
「阿呆。そんなすぐ死ぬレベルだったら全力で止めてるわ」
「あっはっは! だよね~」
バシバシと肩を叩いて笑う姿はいっそ清々しい。
相棒の陽気、いや呑気さに着いていけず、本日何度目かのため息を吐き出した。
何を隠そう、この馬鹿たれは吸血鬼なのだ。
普段は用心深いくせに、楽しいことには敏感で。
時折こうして羽目を外すものだから、仕事のパートナーとしては気が気じゃない。
魔物の癖に、神社の縁日に行こうだなんて。
万一神社の者に気付かれて、祓われでもしたらどうするつもりか。
とぼけたようで、いざとなれば頭が切れる。凄い奴なことは承知している。
けれども同時に、こいつの大丈夫は時々当てにならないことも知っている。
何せ過去に、その大丈夫のせいでうっかり俺に正体がバレているのだから笑えない。
ジト目で見返す俺の腕を、今度は相棒が引いて歩き出した。
「うーん。本当に、僕は大丈夫なんだけどね。君の気が休まらないなら、そろそろお開きにして帰ろうか」
「是非ともそうしてくれ……」
「オッケー!」
返事はとても素直なのに、どこまでも能天気な相棒だ。隣でヒヤヒヤさせられる身になってみろってんだ。
前を行く、奴が腰に下げた水風船が、歩調に合わせてリズムよく弾んでいる。
平和な絵面に、やれやれとまたもやため息が漏れて出た。
一回くらい、清められて出直してくればいいのに、と。
少しだけ疎ましく思ってしまったが、それくらいの恨み節、きっとかまやしないだろう。
神様も許してくれるに違いない。
背後の鳥居を振り返り、賑やかな神社を後にした。
(2024/07/28 title:045 お祭り)
お祭り
今年もこの季節がやってきた
例年この時期になると、地域一帯が阿波おどりや屋台を通して盛り上がる夏祭りが行われる
僕はこの祭りが嫌いだ
夜中なのに止まない騒音だったり、自分さえ良ければの精神か大量のポイ捨てがあったり、
神を祀るなんて気持ちがある人は1%もいないだろうこのお祭りは自分にとって迷惑でしかない
そんな事を考えながら自宅までの道を歩いていると何やら喜ばしいことが耳に入った
「今年の阿波おどり中止だって」
「人も少なくなってましたしね」
おいおいやっとあの騒音やゴミから解放されるのか
自分は嬉しくて飛び跳ねそうにもなった
その日の夜、いつも通りの静かさで落ち着ける夜がきた
いつも通りご飯を食べ、いつも通りお風呂に入り、いつも通りベッドに入る
ベッドに入り眠ろうとすると急になんだか寂しくなった
嫌なお祭りは消えて、静かに寝れるし自宅前のゴミを回収する必要もなくなったのに
そこで気付いた
自分だって自分が良ければいいの精神じゃないか
自分は自宅前の掃除しかしていない、大通りどころかお隣さん宅前のゴミすらも
しかも騒音だって別に嫌なものだけではなかったではないか
地域の皆が喜んでる明るい声、赤子の泣き声、久しぶりの再会に感動してるものの声
それらの何が嫌というのか
自分が嫌だという精神を一番自分がもっていた
反省するとともにこんな事を思っていた
「来年はお祭りがあるといいな」
遠くにいても聞こえてくる音頭
釣られてフラフラ歩いていけば
焦がし醤油の香ばしい匂いがして
人目も憚らずお腹がくうと鳴った
地元の自治会が集会所で
こぢんまりと毎年開催する夏祭り
目玉は夕方から始まるビンゴ大会
景品は台所の日用品がほとんど
いつも二回は回してくれるけど
今日は流石に時間が遅すぎた
私が会場に着いた頃はビンゴ大会終了後
一般参加の人はもう解散していて
残っていたのは運営した人たちのみ
繰り返し流れる音頭に合わせて
櫓の周りで盆踊りをしていた
お腹が空いた私は匂いに釣られて
フラフラ フラフラ
とにかく香ばしい匂いの元へと
フラフラ フラフラ
「あらやだミオちゃんじゃない」
名前を呼ばれて足が止まる
振り返れば幼馴染のお母さん
ぺこりと頭を下げれば
幼馴染のお母さんは嬉しそうに笑った
「今ハルカ呼ぶね」
特に約束していたわけではない
ただフラフラとたどり着いてしまっただけ
そう言い訳する前に幼馴染はやってきた
焼き鳥片手に現れたハルカは
昔よりもうんと美人になっていた
「やきとり……」
久しぶりの再会にも関わらず
挨拶の前にお腹が鳴った
「今日焼き鳥ある日だよ」
そうして指差された場所は
昔と変わらない焼き鳥屋さんがあった
もう店じまいなのか片付け始めていた
慌てて駆け寄りパック詰めされた焼き鳥を買った
タレのかかった焼き鳥が六本入っていた
「全部食べるの?」
「夕飯だよ」
目を丸くするハルカに自慢げな物言いになった
待てずに一本抜いてかぶりつけば
香ばしい匂いが鼻から抜けていった
「うまい」
「うまいよね」
食べながら櫓の前に置かれたベンチに誘導された
腰を下ろして落ち着けても私は口を動かしていた
「急に呼ばれてびっくりしたよ」
「うんごめん」
「いやいいんだけどさ」
「久しぶり」
「成人式ぶりでしょ」
「確かに」
ハルカは食べ切った焼き鳥の串を持て余してた
すかさず私が持っていた焼き鳥を勧めたが
散々食べたと断られた
「土曜日も仕事だったの?」
「まぁ不定休だから」
「そっかお疲れ様」
「ハルカはバイトだっけ」
「今日休みなの」
私とハルカの服装はチグハグだった
私は仕事帰りのスーツ姿で
ハルカはお祭りの衣装だった
鯉口シャツに腹掛けと股引きを履いた姿だ
「今年暑いから御神輿大変だったでしょ」
「確かに暑かった」
「だよね」
「でも差し入れがアイスとビールなの」
「最高じゃん」
私が羨ましそうに見れば
ハルカはおかしそうに笑った
「来年参加する?」
「うわ絶対ぶっ倒れる」
悲惨な状況を想像して私が顔を歪ませると
ハルカの笑い声がより大きく響いた
久々の再会に話が盛り上がって
気がつけば会場が閉まる寸前だった
「ごめん長居した」
「全然」
ゴミもらうねとハルカが手を差し出した
私は結局六本全部食べ切り
空っぽのプラスチック容器と串を渡した
「来年も焼き鳥食べにおいでよ」
「来年もあるの?」
「土曜日ならね」
「じゃあ行く」
「せっかくならビンゴ大会からおいでよ」
「わかった絶対蚊取り線香ゲットする」
「欲しいなら私が当てたやつあげるよ」
「バカ自引きがいいんだよ」
「わかってるって」
後ろ髪引かれながらも手を振る
ハルカも手を振り返した
子どもの頃とは違って
夏休みが明けても会えることはない
音頭が鳴り止んだ静寂の中で
日が落ちても蒸し暑くて滲む汗を感じながら
約束しないと会えない年齢になったんだ
と物思いに耽っていた
『お祭り』
子供の頃、祭りの屋台に並んでいるチョコバナナが大好きだった。
家族で祭りに行くたびに、親にチョコバナナをねだっていた。
そんなある日、母が自宅でチョコバナナを作ってくれた。
屋台で売っているものよりもチョコとチョコフレークが気持ち多めにかけられていたそれは、当然味も屋台のものより美味しく感じられた。
……しかし。
私の表情がぱっとしないことに気付いたのだろう。母は「美味しい?」と訊ねてきた。
私は「うん」と頷いたが、きっと味気ない態度に見えたのだろう。母は「そっか」と笑ってくれたが、それ以来我が家でチョコバナナを作ってくれることはなかった。
あの時なぜ自分はガッカリしたのか。今だからこそ分かる。
きっと、特別であって欲しかったのだ。
自宅で作れることも、なんなら、屋台の物より良いものを気軽に簡単に作れるなんてことを、知りたくなかったのだ。
酷く自分勝手だったな……と、子供ながら母に悪いことをしてしまったなと、今になって反省した。
今年も隣はがら空き
私には一人がお似合い……
【お祭り】
【お祭り】
7月、世間は完全な夏休みだが通信制に通い、単位取得のためにスクーリングをしなければならない私にとっては夏休みというより長期にも感じない夏休みに中学の友達数人が地元の大きい有名な祭りにいると言うので会いに行った。地元と地元の祭りは好きでもない中学の同級生に会うので好きではないが大事な友人がいるなら話は全くの別だろう。
着いたはいいものの、皆がどこにいるのか分からず通話を友人にかけるが人が大勢いるせいで通話の声があっちに伝わらず、私には伝わるのでそれを頼りに彼らのところに向かい『桜木、久しぶり』と言う挨拶から何気ない会話が始まるまでは良かったのだが、そんなところに運悪く苦手な教師が来てしまった。
『あら桜木さん、可愛くなったね。でもナンパされないようにね』と言われた。その言葉を言われた瞬間、私はなんだか嫌だった。
ナンパしてくる男や女も少し気持ち悪いと感じることはあるが、どうせ一時的なものなのでまだ忘れることは出来るが、昔の教師は違う。
小中で見た目を誹謗されてきた私に対して助けを差し伸べる手なんてひとつしかなくて、それ以外は無視と同調をして共犯は誹謗の主犯格と手を取りあったのにも関わらず、今更『可愛くなった』なんて何様だ?
私は主犯格と共犯に『可愛い』とか『ナンパされないようにね』と声をかけられたいがために化粧や可愛いお洋服を選んでいるのではなく、自分の好きな人に『可愛い』と言って欲しいから化粧や服を選んで着ていたり、自分の今後のためにしているのだ。主犯格と共犯なんて気持ち悪い何かにしか見えないのだから発言せずに消えて頂きたい。
その後もなんだか同級生に会ったは良いものの、平然とこちらに笑顔を向けてくるのが気味悪かったのと仕方ないのだが行列ばかりでご飯が食べれず花火だけ見たのが相まってしまい、嫌な夏祭りになった。
熱気がすごい。
非日常、それも喜びの催しである。浮き足立つ住人たちを横目に影になる場所を探した。
ひとつのことを協力して作り上げる、成し遂げるということは熱量が違うんだなぁと息を吐く。
ただそんな活気が溢れる街ではあるが、常とは違う状態というのは何かしら問題が起こる。
事故につながることであれば一大事だ。伝言なんて小さなことからそんな大きいことまで、危険の目を潰すのに友人たちと自分は引っ張りだこだ。
ありがたいといえば、仕事として受けているためそうなのだが、人が集まるところは未だ苦手に感じてしまう自分にはガス抜きが必要である。
人の目につかない物陰で静かに自主休憩をとる。昔と比較すれば、言葉も理解できるようになったためその分の負担は少ないが、人見知りは生来のものであるので。
壁に背を預け、先ほどもらった試作品の大きなクッキーを二つに割る。右手に持った方に影が差して大きな手がさらっていった。
代わりに液体がなみなみと注がれたコップを握らされる。
隣に立つ人物に目線だけ一度向けて手渡された飲み物を一口飲む。苦味が強いコーヒーだった。クッキーによく合う。
声をかけたわけでもないけれど、こうも読まれてしまうのは、馬が合うというかなんというか。
付き合いの長さはそれなりだが、共にいる時間は短いはずなので、何かしら通じるところがあるのだ。
こちらが渡したクッキーを美味しそうに口にする人物は甘いものが好きだよな、と今の状況に相応しい甘味を思い浮かべる。
りんご飴、わたあめ、カルメ焼き、チョコバナナにかき氷。
きっとここでは屋台が出ることはないけど、たまに似た食文化が顔を覗かせてくるので、馴染まないことはないだろう。
何かの折に振る舞ってやっても良いかもしれない。
#お祭り
神社で印象的な経験をしたことがある。
その神社は家の近所……と言っても歩いて30分くらいの、川を越えた先にある。
川岸を散歩して、気が向いたらフラッと寄って、一息ついて帰ってくる。
小さな神社だ。
5分もあれば、端から端まで見終わってしまう。
拝殿はいつも閉まっている。
社務所に人がいて御守りや御神札が配られるのは、初詣のような限られた時期だけ。
入り口のご由緒書きによれば歴史は古いらしいものの、他の参拝客を見かけることはほとんどない。
ある日、いつものように散歩の途中で立ち寄って、驚いた。
鳥居を一歩入った途端、空気がガラッとちがったのだ。
まばらな木々に囲まれたせまい参道も、その先にぽっかり広がるこぢんまりした境内も、なぜかキラキラして見える。あいかわらず参拝客の姿はない。
いつもと同じ、地味で飾り気のない、地元の神社。
なのに、別の神社みたいに空気がまったくちがう。
清々しくて、エネルギッシュで、無性にワクワクする。
どこもかしこも、洗いたてのように綺麗に見えた。
拝殿の扉は開いていた。
そよ風に白や紫の布がゆれて、清められた板の間の奥に、白木の台が置かれている。台には三宝がならべられ、米や野菜が盛られている。
「いる」と感じた。
今日は、神社の住人が「いる」。
本殿に住んでいるのは「神さま」だ。
びっくりした。
霊感なんてまったくない。神社は好きだけどスピリチュアルだのパワースポットだのをウサンクサイと思っている。
でも、その日ははっきり感じた。「今日は、神さまがいる」と。
うまく言えないが、中身がしっかり詰まっている感じがした。
社務所の扉も開いていて、車が一台停まっていた。
しゃっきり姿勢のいいご老人が1人、車から降りてくる。紫色の袴をはいていた。
「今日は、何かあるんですか?」
わたしが訊ねると、その神職さん(紋入りの紫袴なのでおそらく宮司さん)が教えてくれた。
「ここの神さまの、お祭りですよ」
「お祭り」
屋台などは出ていなかった。
月次祭だったのだと思う。
(そうか。お祭りの日は、神さまがちゃんと帰ってくるんだなぁ)
肌感覚でそう納得した経験だった。
あの日ほどあの神社が綺麗に見えたことは、いまだにない。
子供の頃は、毎年母の実家近くの八坂神社のお祭りに行くのが楽しみだった。
大通りが歩行者天国になっていてたくさんの出店が並ぶ活気のある大きなお祭りだった。
昼に御神輿を担いだら夕方早めにお風呂に入り、浴衣を着て人の流れる方へ繰り出していく。
アレが食べたいと出店を指さすと「神様にお参りしてからだよ」と母に嗜められた。
そういうふうに育てられた。
社会に出てから少しして、
職場の同僚が住む町のお祭りに誘われたことがあった。
賑わう駅前で待ち合わせして、揃ってすぐに
じゃあ出店回ろうかと言われた時の違和感。
⁇⁇⁇神様は?
結局その日は最後まで神社へは行かず、出店をブラブラして、最後に同僚オススメのラーメンを食べて帰宅した。
そういうこともあるのか⁇
調べたところ、そのお祭りは神社主体のものではないことが判明する。
名所名跡のない土地で人と人の交流と地域活性化の為に設けられたお祭りだという。
お祀りではない。
フェスティバルである。
たくさん人が集まってハレの賑わいを見せる。
しかしそこに神様はいない。
それは小さなカルチャーショックだったのかもしれない。
◼️お祭り
創作「お祭り」
騒がしい人いきれの中を、父親に手を引かれて泳ぐように進む。わたしの顔に浴衣の帯がかすめ、甚平の体が横を通り過ぎた。
ようやく少し開けた所に出ると、辺りが見渡せた。夜風が心地よい、ほんのり橙色に染まる空気。腹に響く和太鼓の軽快なリズム。屋台からソースの香りを帯びる煙が揺れる。
こじんまりとしたスペースに、これでもかと非日常が詰め込まれていた。遅れて来た母親と合流して屋台を見てまわる。はだか電球に照らされた焼きそば屋、アニメや特撮もののお面が並ぶおもちゃの屋台。込み合う、かき氷屋と射的屋。
どれも魅力的な光景だった。が、ひときわ目をひいたのは、水色の水槽である。両親の手を軽くゆすり、水槽に近づきたいと頼んだ。
透明な水の中を、金魚たちがのびのびと泳いでいた。赤や黒、白と赤のまだら模様のもの。丸い体にひらひらした尾びれ。じっくり眺めた後、店主の手のひらに100円玉をのせた。
ぽいと水が入ったお椀を手に、黒い毬のような一匹に狙いを定め掬う。金魚はでっぷりと丸いお腹を揺らし逃げようと抵抗する。落とさないよう、そっとお椀に泳がせ、次の金魚を狙う。赤い和金を一匹掬い上げてお椀に移したところで、ぽいが破れた。
店主へ破れたぽいとお椀を返し、水と掬った二匹とおまけの一匹が入ったビニールの巾着型の袋を受けとる。ずしりと重みのある金魚袋を大事に右手に下げ、屋台を離れた。
人々のざわめきが静まり、 夜空に一筋の光がひゅーうと昇った。大輪の鮮やかな花火が開く。すぐに炸裂の音が体を貫く。
続けざまに、小さな花火が上がった後、滝のような花火が夜空を覆った。その迫力と幻想にわたしはしばらく見入っていた。
ふと、金魚の存在を思い出し右手をあげる。夜の闇に金色の鱗を煌めかせ、三匹の金魚は泳いでいた。水中からも、あの花火は見えているのだろうか。わたしは、ひんやりとした金魚袋の底をそっとつかみ、金魚と共に花火を見た。
そうして我が家に迎えられた金魚たちは、十年近く生き、天寿を全うした。
(終)
「あ!花火はじまっちゃったんじゃない?」
「ホントだ!ドンぱち聞こえるー」
ドンぱち?銃撃戦かよ。
屋台の中から声のした方へ目を向けると、高校生くらいの女の子が二人、走り出すところだった。
この場所から花火はよく見えないので、もっと見やすい場所へ移動するのだろう。
走ると言っても浴衣姿なのでスピードは遅い。
多分、体操服姿でのスキップより遅い。
彼女たちが走り出しても、下駄の音はしなかった。
きっとサンダルを履いているのだろう。
サンダルって言っても便所サンダルじゃないやつだ。
おしゃれなやつ。
キラキラしてて、チャラチャラしてて、なんか華奢な造りのやつ。
目の前の透明な箱の中にも、一つ飾ってある。
いかにも女の子の目を引きそうなやつだ。
まぁ、さっきの子達にはサイズが合わないだろうけど。
透明な箱の中にはサンダル以外に、数々の駄菓子やカップ麺等が並べられ、その全てに紐がついている。
品物から繋がった紐は箱から引き出して束にされ、どの紐がどの品物に繋がっているのかはわからないようになっている。
お客さんは束から一本紐を選んで引き、その紐の先に繋がった品物を手にすることができるのだ。
まあ、くじ引きみたいなものだ。
紐を引いて景品を釣り上げるので、宝釣りと呼ばれている。
ちなみに、景品に高価なゲーム機とかは無い。
祖父からこの屋台を引き継いだ時点で、景品は一新し、ほぼほぼ駄菓子にしてしまった。
一回の料金は100円なので、うまい棒ならハズレで、アーモンドチョコなら当たりの気分を味わえるだろう。目玉商品はBIGサイズのポテチやカップ麺の詰め合わせ。
もちろん、これら目玉商品と繋がる紐も、お客さんが引く紐の束の中にある。
祭りで小遣いを全部使い切るタイプの小中学生男子に〈駄菓子ガチャの屋台〉と呼ばれ、そこそこ人気だ。
毎年、花火が上がるお祭りの日には、この場所で、この屋台を出している。
儲けなど無いが、儲けが目的では無い。
カコッ カコン
花火の影響ですっかり少なくなった人の流れをボーっと眺めていると、ふいにすぐ近くで下駄の音がした。
屋台の前に、小さな女の子が立っている。
こちらからは、白地に朝顔模様の浴衣の肩までしか見えないが、きっと下駄を履いているのだろう。
下駄は足が痛くなると聞く。
この女の子になら、景品のサンダルのサイズも合うだろう。
「こんばんは」
女の子に声を掛けると、彼女は黙ったまま、小さな紙片を差し出した。そこには〈一回無料〉と走り書きのように書かれている。
「じゃあ好きな紐を選んで引いてね」
彼女はすぐに一本選び、紐を引いた。
ちょうどその時、花火が空に上がる、ひゅーという音がして、何だか彼女が紐を引く音のようだった。
透明な箱の中、彼女が引く紐に引き上げられたのは、〈一回無料券〉と無愛想に手書きされた段ボールの切れ端だった。
「はい、これ。おめでとう」
そう言いながら、先ほど彼女から受け取ったばかりの紙片を返す。
彼女は嬉しそうな様子を見せた後、屋台の前で屈んで見えなくなった。
少ししてから、そっと身を乗り出して屋台の前を覗いて見るが、そこにはもう誰もいない。
今年のサンダルも、〈一回無料券〉に敵わなかったか。
パイプ椅子に体を戻す。背もたれに背をつけると、汗で服が濡れているのがわかった。
この宝釣りの屋台は、祖父が、祖父の友人から引き継いだものだ。
祖父の友人は、ある年の花火が上がる祭りの夜、屋台の前でじっと紐の束を見つめる女の子を見つける。
「一回100円だよ」
と声を掛けると、その子は黙ったまま首を振った。
祖父の友人は、金が無いなら邪魔なだけだと思ったが、あまりにも熱心に紐を見つめる女の子に同情し、ちょうど花火が上がる時間で客足も無かったこともあり、
「特別に、一回だけ引いていいよ」
と、言ってやった。
彼女は驚いた様子を見せたが、すぐに一本選んで紐を引いた。
彼女が引き当てたのは、〈一回無料券〉と無愛想に手書きされた段ボールの切れ端だった。
祖父の友人は笑って、
「おっと、お嬢ちゃんラッキーだね。もう一回引けるよ」
と言った。
しかし、女の子は首を横に振ると、どこからか小さな紙片を取り出して祖父の友人に差し出し、もう片方の手で、〈一回無料券〉と書かれた段ボールの切れ端を指差した。
「え?今引かないの?券にして欲しいってこと?」
祖父の友人は、不思議に思ったが、まぁいいかと女の子に差し出された紙片に〈一回無料〉と書いてやった。
「はい、これ。おめでとう」
そう言って女の子に紙片を渡してやると、女の子はとても嬉しそうに微笑んだ。
そして、突然屋台の前で屈んでしまい、姿が見えなくなったという。
祖父の友人は、女の子が転んだのかと思い、慌てて屋台から飛び出したが、女の子の姿はもうどこにも無かった。
「その子が毎年遊びに来てくれるんだよ」
と、祖父の友人は、祖父に話したそうだ。
どうしても外せない用があるから、自分の代わりに屋台番をして欲しいと頼まれた、その年の祭りの日から、友人とは連絡が取れなくなったという。
祖父からこの話を聞いた時の感想は、
「友人は選んだ方がいいよ」
だった。
祖父が病に伏せた6年前の冬、祖父から、自分が死んだら祭りの屋台を引き継いで欲しいと頼まれた。
花火が上がるお祭りの日には、必ず屋台を出して欲しいと。
祖父はその後、桜が咲く前に亡くなった。
世話になった祖父の最後の頼みだし、面白そうでもあったので引き受けた。
以来毎年、花火が上がるお祭りの日には、この場所で、この屋台を出している。
屋台を出さなかったらどうなるのだろう。
どうなるのか、祖父は知っていたのだろうか。
屋台を頼むと言った祖父の、怯えたような顔を思い出す。
死を前にして、死よりも恐れるものとは何なのだろうか。
6年前からずっと、朝顔の浴衣の肩までしか見えない女の子。
顔を見ているはずなのに、何故か髪の長さすら覚えられない女の子。
今年のサンダルもダメだったけど、来年こそは〈一回無料券〉よりも彼女が欲しがる物を探して用意しなければ。
あの無料券は切符だ。彼女がここへ来る切符。次の年への約束。
あれを彼女から取り上げない限り、花火を見ることはできない。
終わり
どこにでもいる女の子になりたかった。
今度こそはと、
友達と一緒に浴衣を着たの。
暗闇を飾る無数の提灯。
下駄を鳴らすたび、私の心も踊ったの。
だけど、奴らはそれを許さない。
土足で入って、私を掻き乱す。
すれ違う度、私を笑う。
指さし、私を罵ってゆく。
あなたがたに映る私は醜いのでしょうか?
あなたがたに映る私は弱いのでしょうか?
そんな私は、楽しむことも許されませんか?
あれから何年経ってもね、
喧騒や、鳴り響く下駄の音、罵倒が、
うるさい花火の音が、忘れられないの。
【お祭り】
猛暑が続く、この季節。
近所で祭り囃子や、花火が上がる音を、クーラーをガンガンに効かせた部屋の中で、ボンヤリと聞いている。
祭りと言えば、昔は屋台を回っては食べ歩きしていたことを思い出す。
屋台の食べ物は、いつもより食欲が刺激されるのは、どうしてだろう。
(焼きそばに、たこ焼き…
あぁ、じゃがバタも美味かったな…)
味が濃いものを食べるのが好きだった。
まぁ今は年食ったせいか、胃もたれしてしまうので、以前よりは控えてはいるが…。
「見るだけでも行ってみるか」
暑さで判断が鈍っているのか、誰に向かって言うでもなく呟いて、このクソ暑い夏の夜の街中へと足を踏み出した。
昔からお祭りのある日は嫌いだった。
屋台の焼きそばは高いし、射的の景品はチープなものばかり。それに、人の量が多すぎて暑苦しい。好きになる要素なんて、一つもなかった。
だが、私は今年の夏もお祭りに行く。行かされる。
毎年、この時期になると、親が外に行けとうるさくなるのだ。今日も仕方なく、家を出てお祭り会場その周辺へと赴いた。
「はぁ、やっぱり人が多い。」
人の多さに立ちくらみ、この場にいる自分の場違い感をひしひしと感じる。周りの人々は浴衣に、狐の仮面に、うちわなど、それっぽい衣装で会場内へと入っているのだ。それに比べて、自分は私服。夏服ではなく素肌を見せない薄着のシャツと、ぶかっとしたズボン。
こんなの、入れるわけがない。
「いいや、そこらで時間潰して帰ろ。」
クルッとその場でUターン。ここまで来た道を歩いて辿る。なるべく違和感の無いように、祭りを楽しんだかのように。
途中、信号を越えた向かい側、マンションとマンションの間に目を向ける。一瞬チラッと流れ星のように何かが光った。注目してみると、人気もなく雑草で生い茂った公園が目に入った。
「ちょい不気味だけど、あそこなら……」
時間潰しにちょうど良さそうだ。そう思い、青になった信号機を横目に白色のタイルを踏んで向こうの陸へと歩きだす。トンッ、トンッ。奈落へと落ちないよう、気をつけながら片足ずつ足を前に出す。
「ふぅ……」
目の前に広がる歩行者の陸へと辿り着くと、変に疲れが押し寄せてくる。普通に歩けば疲れないのはわかってはいるが、子供の頃からの癖で信号は白色のタイルを踏むものと身体に焼き付いてしまっていた。
多少の安心感を伴いながら、例の場所へと向かう。
「……ここか。」
マンションとマンションの間の道を通り、公園の前へと辿り着く。ブランコ、滑り台、鉄棒、砂場。大抵の遊具は揃っているものの、灯ひとつない様子は、まるで、心霊スポット。雰囲気さながらに人っ子1人なく、雑草で生い茂っている。
「ちょっと怖いな」
この公園は珍しく、ベンチの一つもない。仕方なく公園内のブランコに腰掛ける。帰る時刻はどれくらいにしようかと、腕時計で時間を確認する。キィコキィコ……。短い針が8の数字をさしており、長い針が4をさしている。キィコキィコ……。
「ん?」
何か音がすると思ったので、少しあたりを見てみれば、公園内が上下に揺れている。だが、すぐに違うと気づいた。ブランコが前へ、後ろへと動いているのだ。どうやら、私は多動症らしい。
「9時になったら帰るか。」
とりあえず、暇つぶしにブランコをこぐ。
飽きたら、鉄棒。次に、滑り台。この順番で時間を潰そう。そう考え、暗い公園の中、1人あそびが始まった。
「もういいや……」
数十分が経った頃、公園から出ようとする。もう1人遊びにも飽きたのだ。それに、ここからゆっくり歩いて帰れば、時間的にもちょうどいいだろう。ひたひたゆっくり歩いていく。やはり、お祭りのある日は嫌いだ。
そんなことを考えていると、夜闇の空に一輪の花がふんわりと咲いた。公園に光が一瞬灯る。
「……ぁ…」
情けない声が喉奥から漏れ出た。それほどに綺麗な花だ。その花は一瞬にして散ってしまったが、次の瞬間には別の花が咲いていた。──1人、公園で見る花形の星。
去年の花火は思い出すことができないが、きっと、静寂の中見るこの花火は忘れることはないだろう。
「やっぱり、お祭りは嫌いでも、花火はいいなぁ。」
今日も、花火を見て生を実感し、楽園へと帰るのであった。
[夏の蝶]
色鮮やかな袖が揺れる。彼女の手には、僕が釣った金魚の入った袋と僕が彼女のために頑張って射的で取ったうさぎのぬいぐるみが揺れている。
「今日、付き合ってくれてありがと~!」
浴衣姿で笑う君になら何でもしてあげたくなってしまう。「全然っ、こちらこそありがとう」
視界の端でラムネが売っているのが見える。
彼女も僕の視線に気付いて後ろをみると
「わぁ!ラムネ飲みたい!買いに行こっ」と僕の手を引っ張っていく。「わっ、まって!」
走り出す。花火が後方で鳴っているのが聞こえる。
買ったラムネを飲みながら彼女は
「ねぇねぇ知ってた?ラムネとソーダって中身が一緒で蓋とかが違うから呼び方が違うんだって!」
「へー、そうなんだ、はじめて知った」
「もー、ちゃんときいてる?」「きいてるきいてる」呆れたように僕をみる彼女の横顔に見惚れていた。
ひな祭り、本当にありがとうがとうございます( ᵕᴗᵕ ✿ )
近所で
恒例の
お祭りが
始まった。
あなたは
家にいない。
1人で
お祭りに行く
ってのもなぁ。。
でも、
ちょっとだけ
興味はある。
出店も気になる。
仕事帰り
ちょっとだけ
覗いてみて
気になった
焼きそばだけ買って
家に帰る。
普通の焼きそば
なんだけど
なんか
美味しく
感じるんだよね。
#お祭り