Frieden

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「お祭り」

これは俺が住んでいた村の祭りの話。
毎年7月31日になると山の上の大きい神社で「オトガマ様」っていう神様?を祀る儀式があった。

毎年中高生ぐらいの年齢の少年3人が「トギ(?)」として選ばれて、儀式の1週間前から神社の近くの小屋で「お清め」をする。なんでも、人の多く集まるところには邪気で溢れているんだと。

んで、俺も中2のときトギに選ばれた。
正直俺はこんな時代遅れな儀式に参加したくなかったし、親もそうだった。

だけど、実際参加しないと村社会なのもあって後が色々面倒くさいから、渋々儀式をすることになった。

まぁ、1週間だし、なんかの話のネタにでもなるかもwとか思って軽く構えてた。

儀式に参加するのは俺と部活の先輩と、あとあんまり話したことない、〇〇さんっていう顔見知りの高校生。

「あ、どもっす。」「お前も選ばれたんか。」
「……こんにちは。」
変な沈黙が流れて気まずい。

「あー、先輩はこの儀式のこと、なんか知ってるんすか?」
「マジで何も聞かされてない。何も知らん。」
「俺も何も聞いてないっす。」

「えーっと、〇〇さん(地元にはいっぱいいるけど珍しい名字。特定されたくないから伏字)はなんか聞いてるんすか?」
「ちょっとだけ聞いた。」

「マジすか?ちょっと教えてくださいよ。」
「オトガマ様の儀式の目的みたいなやつ。」
「めちゃめちゃ重要な話じゃないすか!」

「本当は他言無用らしいけど、どうせトギに選ばれたからさ、話してもいいか。」
「オモロい情報あるんすか?」「俺も気になります。」

「えーと……まずオトガマ様っていうのは、超強い怨霊みたいなやつらしい。なんかオトガマ様が人間だった時、濡れ衣で処刑されたんだと。」

「で、オトガマ様の処刑の後から、事故とか変な病気とかで死ぬ人がたくさん出て、それをすごい神主に村人が相談した。」

「そしたら、この霊は強すぎて祓えないから、神として祀りあげて祟りをなくそうってなったわけ。んで、その儀式が今でも続いてる。言うなれば将門信仰みたいなやつ?」

「まあ、俺たちがやることは簡単で、簡単な踊りと髪の毛を1束、オトガマ様のいるお社に納めるだけ。トギの役割を果たしたやつは、この先オトガマ様に守って貰えるんだってよ。」

「へー。なんかすごいっすね。」「なるほど?」

先輩が〇〇さんに聞く。
「でもさ、それなら性別問わずみんなトギをやりゃいいんじゃないんすか?そしたら皆守られるじゃないすか。」

〇〇さんは少し考えた後、こう言った。
「オトガマ様は女と年寄りが嫌いらしい。理由は教えてもらえなかったけど。だから若い男が選ばれるんだって。」

「オトガマ様にも事情があんだなぁ。」
「俺がオトガマ様だったら可愛い女の子連れてきて欲しいけど。」
「先輩、欲まみれっすね……。」

どうでもいい話をしながら夏休みの宿題をしつつ、お清めの時間を過ごした。

肉は食えないし飯の量も少ないしで結構不満だったけど、そこまで悪い時間じゃなかった。

そうこうしているうちに祭りの日を迎えた。
なんとか奉納する踊りも覚えて、準備も整ったし、あとは本番だけだ。

その時までみんなそう思っていた。

村の広場には色んな屋台があって(俺たちは行かせてもらえなかったけど)、りんご飴とか光るビー玉とか、お祭りらしいもので溢れかえっていたらしい。

そんな中、俺らの踊りと儀式を見るために〇〇さんのファン(〇〇さんは結構モテてたらしい)の女の子が女人禁制の言いつけを破ってお社に来た。

儀式中、特に変わったことは無かったけど、その子たちが来たぐらい(多分)から急に空気が重く、というか、暗くなった。

それに気付いた神主さんは真っ青になって、「女がいるのか!」って叫びながら女の子を探し始めた。
俺らも慌てて動こうとするが、なぜか体が動かない。

焦っていたら、祭壇にあった変な木彫りの人形?からモヤモヤしたものが出て行った。俺らは直感的にわかった。多分あのモヤモヤがオトガマ様だってことが。

しばらくすると神主さんが戻ってきて、今度は完璧に顔が青ざめて、というか青を通り越して白っぽくなってた。
「オトガマ様がいない……。」

どういうことか聞いたら、今まで儀式で抑えていたオトガマ様の力が、女の子に見られたことで封印(?)が解かれてここから出て行ったらしい。

一度出て行ってしまったものはもう戻せないし、これからどうなるのかもわからないらしい。

ただ、ひとつだけオトガマ様の力を抑える方法がある。
それは、出来るだけ多くの人にこの話を見てもらって、オトガマ様の呪いを分散させること。

文才もないし、話の拡散なんかできるかも怪しいけど、一人一人が受ける呪いを小さくするには、色んな人に読んでもらわないといけないんだ。

多分今から、これを読んじまったあんたのとこにもオトガマ様が来る。運が悪かったと思って、一緒にこの呪いを背負ってくれよ。
そしたら俺らも長生きできるかもしれないからさ。

7/29/2024, 2:33:49 PM