ヒロ

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わたあめにベビーカステラ。
たこ焼きに焼きそば。
これでもか! という勢いでお祭りならではの食べ物を堪能し尽くして。
その後は、腹ごなしにゲーム三昧。
金魚すくいに、水風船。
果てには射的にまでも参戦して、他の客や店主の注目を浴びまくり。
遊び倒した証のように、腕には光るサイリウム・ブレスレット。頭には何かのヒーローのお面も着けた相棒は、上機嫌でいつになくご満悦だ。
しかもヒーヒーと腹を抱えて笑い転げたままなかなか復活して来ない。
この阿呆め。さては俺の知らない間に酒まで飲んだな。

幸か不幸か。ここは主催する神社の前に広がる、門前に構えた大きな広場。即ち、お祭り会場の真っ只中。
騒いでいる連中は他にも大勢いる中での一人なので、俺たちが特に悪目立ちするという訳ではない。
ないのだが、そろそろその馬鹿笑いを止めてくれないだろうか。連れ立っている俺が恥ずかしい。
「いい加減にしろよこの馬鹿」
笑って下がっている頭を軽くはたけば、「ごめんごめん」と言って奴は漸く顔を上げた。その目元には笑い過ぎて溢れた涙が貯まっている。
おいおい。そんなに笑っていたのかよ。

呆れてため息を吐き、まだ肩を震わせている相棒の二の腕を掴んだ。
大の大人が恥ずかしい真似だが、そのまま有無を言わせず歩かせる。
「ほら、もう行くぞ。おまえが行きたいって言うから着いて来たけど、そろそろ限界じゃないのか? 神社なんてお綺麗なところ。普段は避けて通りたい場所だろうに」
人混みの中を縫って歩き、広場の出口を目指す。
ちらりと後ろを振り返れば、引かれるままに、大人しく後ろを歩く相棒と目があった。もう馬鹿みたいに笑ってはいない。
けれども、代わりにきょとんと目を丸く見開いて、「心配してくれてたの?」なんて言うものだから、とうとうカチンと頭に来てしまった。

掴んでいた腕を払って向かい合う。
「当ったり前だろうが! おまえ、自分だってお節介の癖に、俺からの」
「わーっ! ごめんごめん! 僕の言い方が悪かった! 大丈夫、大丈夫だから!」
皆まで文句を言う前に遮られ、突き出されたわたあめで詰め寄る勢いを制された。
まったく。格好のつかない阿呆である。
怒りを削がれて鎮まれば、ほっと息を吐いた相棒が近寄って耳打ちした。
「気を遣ってくれてありがとう。でも本当に大丈夫だから。出掛ける前にも言ったけれど、うーん何て言うのかな。こういう清浄な気のところは苦手だけれど、僕の力が強い分、すぐには死んだりしないから安心してよ。浄化されて即死とかないからさ」
そう言って、「ね!」などと笑ってウインクするものだから、張り合う気も失せて脱力してしまう。
「阿呆。そんなすぐ死ぬレベルだったら全力で止めてるわ」
「あっはっは! だよね~」
バシバシと肩を叩いて笑う姿はいっそ清々しい。
相棒の陽気、いや呑気さに着いていけず、本日何度目かのため息を吐き出した。

何を隠そう、この馬鹿たれは吸血鬼なのだ。
普段は用心深いくせに、楽しいことには敏感で。
時折こうして羽目を外すものだから、仕事のパートナーとしては気が気じゃない。
魔物の癖に、神社の縁日に行こうだなんて。
万一神社の者に気付かれて、祓われでもしたらどうするつもりか。
とぼけたようで、いざとなれば頭が切れる。凄い奴なことは承知している。
けれども同時に、こいつの大丈夫は時々当てにならないことも知っている。
何せ過去に、その大丈夫のせいでうっかり俺に正体がバレているのだから笑えない。

ジト目で見返す俺の腕を、今度は相棒が引いて歩き出した。
「うーん。本当に、僕は大丈夫なんだけどね。君の気が休まらないなら、そろそろお開きにして帰ろうか」
「是非ともそうしてくれ……」
「オッケー!」
返事はとても素直なのに、どこまでも能天気な相棒だ。隣でヒヤヒヤさせられる身になってみろってんだ。
前を行く、奴が腰に下げた水風船が、歩調に合わせてリズムよく弾んでいる。
平和な絵面に、やれやれとまたもやため息が漏れて出た。

一回くらい、清められて出直してくればいいのに、と。
少しだけ疎ましく思ってしまったが、それくらいの恨み節、きっとかまやしないだろう。
神様も許してくれるに違いない。
背後の鳥居を振り返り、賑やかな神社を後にした。


(2024/07/28 title:045 お祭り)

7/29/2024, 10:08:10 AM