ヒロ

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6/26/2025, 10:06:23 AM

きっかけは些細なことだ。
足早に廊下を駆けていく女の子。
昼休みの、いつも同じような時間に走っていくものだから、だんだんとそれが記憶に残っていって。
いつの間にか、ぱたぱたという足音の特徴まで覚えてしまっていた。

そんな彼女と、廊下ですれ違いざまに落とし物を拾ったのを機に互いを認識し合うようになり。
その後も見かければ、何となく会釈を交わす間柄に変わっていった。

こうして降り積もった感情に、果たして名前が付くことはあるのだろうか。

「なあ、お前。気になる奴とかいねーの?」
何も知らない友人の問いにしらを切る。
「ん~。どうだろうなあ」

いつか観念するその日まで。
その答えはまだまだ保留でいさせてくれ。


(2025/06/25 title:080 小さな愛)

6/23/2025, 7:15:20 AM

諦めることに、随分と慣れてしまっていた。
もう、どうでもいい。
長い間、そう思っていたはずなのに。
君が視界に映った途端、再び世界が色付いた。
駆け出す足も止められない。

ああ、そうか。
やはりずっと、私は君を待っていたのか。

「おかえり」

そう呟き抱き締めた温もりに、涙が零れる。
ああ、懐かしい。
独りでも平気なんて真っ赤な嘘。
君が居ないと駄目みたい。

強がる私は今日でおしまい。
だからもう、どこにも行かないで。ね?


(2025/06/22 title:079 どこにも行かないで)

5/15/2025, 1:26:30 PM

輝き目立つ太陽でもなく、その光を受けて自在に満ち欠けする月でもなく。
淡くも自身で瞬く星だからこそ、惹かれる魅力がきっとある。

いじけてへこむ僕に寄り添って、囁くようにくれた友からの優しい言葉。
まるでドラマか流行曲の歌詞のよう。
僕の長所を例えただなんて嘘みたい。
照れ臭さと、畏れ多さの謙遜で。
頑固な僕は、君の言わんとすることを、とても素直に受け止めることができなかった。

「嬉しいけれど、そんな格好良い比喩、僕なんかに似合わないよ」
「そう? 君にぴったりだと思ったのに」
「いやいや、絶対に身内の贔屓目! 買い被り過ぎだって!」
「うーん。そうかなあ」
認めない僕も頑固だけれど、友人の方もしぶとくなかなか譲らない。

熟考の末、友人は「ま。いっか」と呟き立ち上がった。
「太陽も月も居なくなったら、自ずと皆分かる日が来るはずさ」
「えー? 本当に?」
「そうそう。さあ、もう行こう」
ぽんぽんと肩を叩かれ促される。
まだまだ納得出来なかったけれど、気付けば沈んだ気持ちも幾らか晴れていた。
君の言葉はまるで不思議な魔法のよう。
むず痒くて、照れ臭くて。誤魔化すように自然と笑顔がこぼれてきた。

本当に、そうなのだろうか。
友人に手放しで褒めてもらえるような魅力が、本当にあるのだろうか。
僕からすればこうやって、太陽のように明るくしてくれる君の方が格好良いのだけど。
そんな君がくれる太鼓判、信じてみても良いのかな。

半信半疑は消えないけれど、君が予言するその日まで。
ささやかな星のまま、もう少し頑張ってみようかな。
先行く君の背を眺めながら、漸く穏やかにそう思えた。


(2025/05/15 title:078 光輝け、暗闇で)

5/6/2025, 11:39:24 PM

溢れる愛をしたためて、切なく響く恋心。
普段はなかなか言えないフレーズも、メロディーに乗るだけで魔法のよう。
照れ臭さは消え去って、すらりと一気に飛び出した。

歌の力って偉大だな。
くよくよしてたのが嘘みたい。
このまま全部、思いのまま。
あなたへどうか、届きますように。


(2025/05/06 title:077 ラブソング)

5/5/2025, 4:34:33 AM

ああ、まただ。また君はそうやって知らぬ振りを決め込むのか。
逸らされた視線に舌打ちする。

「水臭い」
タイムリープ三回目。
二回失敗したから違う手法を、という思考回路をしたところまでは理解できる。
けれどもここへ来て、相棒の僕を切り捨てようってのが気に入らない。
ここは君と僕の出会いの場所なのに、この分岐点を無かったことにしようなんて、一体どういう了見か。
大方僕を未来の危険から遠ざける目論見もあるのだろうけれど、そんなの知ったことか。
まったく大きなお世話である。

独りで問題を抱え込んで突っ走る。
相変わらずの君の悪い癖を見て、皮肉ながらに安堵さえ覚えたさ。
それでも、それを放っておけない性分なのも、僕だって変わらずのところである。
一度は君の意志を尊重して、影からのアシストで見守ろうかとも思ったよ。
でも、無理。やっぱり止めだ。
しびれを切らして、雑踏の奥へ消えた彼を追いかける。
程なくして、足早に先を急ぐ相棒の後ろ姿が目に留まった。
追い付くや否や、後ろから二の腕を掴み、有無を言わさずに僕の方へと振り向かせる。

「やあ。初めまして、じゃないよね? タイムリープしてるの、自分だけだと思ってた?」
やっと目が合った、彼の瞳が大きく見開かれる。
この期に及んで「どうして」なんて呟くものだから、散々無視された腹いせに意地悪をしたくなったのは許して欲しい。
驚いた瞳に僕の顔がよく映るよう、体ごとぐいっと引き寄せ向き合った。
もう、逃がしはしない。
君の相棒は、僕しかいないだろう?
「残念でした。さあ、仕切り直し! 作戦会議といこうじゃないか!」
今一度、目を逸らさずに。
僕らの未来を切り開こうか。
どんな道でも、お供するよ。


(2025/05/04 title:076 すれ違う瞳)

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