輝き目立つ太陽でもなく、その光を受けて自在に満ち欠けする月でもなく。
淡くも自身で瞬く星だからこそ、惹かれる魅力がきっとある。
いじけてへこむ僕に寄り添って、囁くようにくれた友からの優しい言葉。
まるでドラマか流行曲の歌詞のよう。
僕の長所を例えただなんて嘘みたい。
照れ臭さと、畏れ多さの謙遜で。
頑固な僕は、君の言わんとすることを、とても素直に受け止めることができなかった。
「嬉しいけれど、そんな格好良い比喩、僕なんかに似合わないよ」
「そう? 君にぴったりだと思ったのに」
「いやいや、絶対に身内の贔屓目! 買い被り過ぎだって!」
「うーん。そうかなあ」
認めない僕も頑固だけれど、友人の方もしぶとくなかなか譲らない。
熟考の末、友人は「ま。いっか」と呟き立ち上がった。
「太陽も月も居なくなったら、自ずと皆分かる日が来るはずさ」
「えー? 本当に?」
「そうそう。さあ、もう行こう」
ぽんぽんと肩を叩かれ促される。
まだまだ納得出来なかったけれど、気付けば沈んだ気持ちも幾らか晴れていた。
君の言葉はまるで不思議な魔法のよう。
むず痒くて、照れ臭くて。誤魔化すように自然と笑顔がこぼれてきた。
本当に、そうなのだろうか。
友人に手放しで褒めてもらえるような魅力が、本当にあるのだろうか。
僕からすればこうやって、太陽のように明るくしてくれる君の方が格好良いのだけど。
そんな君がくれる太鼓判、信じてみても良いのかな。
半信半疑は消えないけれど、君が予言するその日まで。
ささやかな星のまま、もう少し頑張ってみようかな。
先行く君の背を眺めながら、漸く穏やかにそう思えた。
(2025/05/15 title:078 光輝け、暗闇で)
溢れる愛をしたためて、切なく響く恋心。
普段はなかなか言えないフレーズも、メロディーに乗るだけで魔法のよう。
照れ臭さは消え去って、すらりと一気に飛び出した。
歌の力って偉大だな。
くよくよしてたのが嘘みたい。
このまま全部、思いのまま。
あなたへどうか、届きますように。
(2025/05/06 title:077 ラブソング)
ああ、まただ。また君はそうやって知らぬ振りを決め込むのか。
逸らされた視線に舌打ちする。
「水臭い」
タイムリープ三回目。
二回失敗したから違う手法を、という思考回路をしたところまでは理解できる。
けれどもここへ来て、相棒の僕を切り捨てようってのが気に入らない。
ここは君と僕の出会いの場所なのに、この分岐点を無かったことにしようなんて、一体どういう了見か。
大方僕を未来の危険から遠ざける目論見もあるのだろうけれど、そんなの知ったことか。
まったく大きなお世話である。
独りで問題を抱え込んで突っ走る。
相変わらずの君の悪い癖を見て、皮肉ながらに安堵さえ覚えたさ。
それでも、それを放っておけない性分なのも、僕だって変わらずのところである。
一度は君の意志を尊重して、影からのアシストで見守ろうかとも思ったよ。
でも、無理。やっぱり止めだ。
しびれを切らして、雑踏の奥へ消えた彼を追いかける。
程なくして、足早に先を急ぐ相棒の後ろ姿が目に留まった。
追い付くや否や、後ろから二の腕を掴み、有無を言わさずに僕の方へと振り向かせる。
「やあ。初めまして、じゃないよね? タイムリープしてるの、自分だけだと思ってた?」
やっと目が合った、彼の瞳が大きく見開かれる。
この期に及んで「どうして」なんて呟くものだから、散々無視された腹いせに意地悪をしたくなったのは許して欲しい。
驚いた瞳に僕の顔がよく映るよう、体ごとぐいっと引き寄せ向き合った。
もう、逃がしはしない。
君の相棒は、僕しかいないだろう?
「残念でした。さあ、仕切り直し! 作戦会議といこうじゃないか!」
今一度、目を逸らさずに。
僕らの未来を切り開こうか。
どんな道でも、お供するよ。
(2025/05/04 title:076 すれ違う瞳)
誰かに話したら勿体ない。
今は昔の思い出たち。
――いいや、本当は話したい。
ただまだ少し、笑い話として話すには、そう。勇気が足りないのだ。
あの日々に、憐れみや同情の横槍など要らないから。
そっと鍵をかけたままにしておきたい。
だからこれは、私の心の中だけに。
まだまだ秘密の物語。
(2025/05/02 title:075 sweet memories)
暗い部屋の中、窓から漏れる月明かりに手をかざして考える。
片手をそろえて、小指を離す。
「ワンワン、犬」
親指と中指、薬指で摘まんで。人差し指と小指で耳を作る。
「狐、コーン」
両手を重ねて指を動かす。
「チョキチョキ、蟹」
片手で狐を作って甲を重ね、指を引っかけ手首をそらせば、
「う、うさぎ」
やべえ。ちょっと手が攣りそうだ。
影絵なんて久しぶりにやったけど、案外覚えているものだな。
自分の記憶力にちょっと感動した。
けれども、駄目だ。肝心なところが思い出せない。
じいちゃんの膝に乗って教わって。その時に一緒に聞いた、俺の家にまつわる大事な秘密。
「何だったっけ~!」
あの時のことを再現すれば、釣られて思い出すと思ったのに。
そうすれば、今この実家を取り囲んでいる化け物を退治出来るかもしれないのに。
逃げる間に偶然見付けたこの隠し部屋も、ガタガタと揺さぶられる力強い揺れに負けてもう保ちそうにない。
あとちょっとで思い出せそうなのに。
「くそ~! じいちゃん――!」
家宝の首飾りを握り込み、思わず頭を垂れた。
雲の切れ間から月が顔を出し、暗い部屋を照らし出す。
暗がりでは見えなかった、床一面に描かれた我が家の家紋。
組んだ両手が床に触れ、奇しくも首飾りが部屋の中央に配置される。
その手の中に、差し込んだ月の光が降り注いだ。
――それが、鍵だった。
月明かりに負けない、七色の光が溢れ出す。
「へ?」
眩い光に驚いて、零れかけた涙も引っ込んだ。
腰を抜かしている間にも、光はどんどん勢いを増していく。
そうして。
あれだけ頑張っても思い出せなかったのに。
光に見取れている内に、漸くじいちゃんの言葉が蘇った。
ああ、そうだ。そうだよ。
じいちゃん言ってた。
「困ったときはこの首飾りと、月に祈れ」
「きっと、この家の守り神様が助けてくれるぞ」
あの時は半信半疑だったから忘れていた。
けれども、じいちゃんの言葉通り。
光の中から現れた神々しい獣が俺を見下ろしている。
その鋭い眼光に見詰められ、ごくりと生唾を飲み込み背筋が伸びた。
ああ、じいちゃん。不出来な孫でごめんよ。
破れかぶれ。いつも行き当たりばったりの俺だけど。
こうして結果オーライってことで許して欲しい。
さあ、ここから起死回生の正念場だ。
覚悟を決めて立ち上がり、獣に向かって手を差し出した。
「頼む。力を、貸してくれ」
俺の言葉を理解したのか、獣が大人しく頷いた。
俺を守るようにすり寄られ、不思議な安堵と共に力が湧いて来る。
正直どうすれば良いかなんてまだ分からない。
でももう迷っている暇などない。やるしかないのだ。
「 ――よし! 」
あとは野となれ山となれ。
俺だって、やってみせるさ!
(2025/04/19 title:074 影絵)