ザーザーザー。
予報にない、強い雨が通り過ぎる。
傘を持たない人たちが、屋根のある場所を目指して足早に私を追い越していく。
慌てもせず、濡れるままにゆっくり歩く私が不思議なのだろう。
訝しげにこちらを振り返る人もいたけれど、気にかけるのはその一瞬だけ。
一瞥をくれた後は直ぐ様 前へ向き直り、ばしゃばしゃと足元の水溜まりを跳ねさせ駆けていく。
それでいい。そのまま誰も気が付かないで、どうか放っておいて。
この悲しみは、私独りが抱えれば充分だ。
止まらない涙を隠すのに、この通り雨は丁度良い。
それなのに、お人好しがいたものだ。
ふと、私にかかる雨が遮られ、後ろから一本の傘が差し出される。
「風邪引くよ」
良く知った声が隣に並び、私を優しく気遣うのだから敵わない。
素直になれなくて、ぷいとそっぽを向いて顔を逸らした。
「要らない。君が使えば」
歩調を早めて引き離せば、彼もそれに着いて来る。
そして先程とは違って強引に、私の手へと傘の柄をぎゅっと握らせた。
「僕は良いから、ほら。傘差して」
「だ、だから要らないって」
「その方が――傘で隠せるでしょ、それ」
言い募る私を語気荒く遮って、指し示すように彼はとんとん、と自分の頬を指で突いて見せた。
何もかもお見通しの言葉に面食らう。
おまけに反射的に顔まで上げてしまって、心配そうに覗き込む彼と目が合ってしまった。
もう、言い逃れは出来ない。
「――タイミング良すぎだよお」
観念した途端、抑えていた涙が勢いを増す。
くしゃっと笑った彼が、宥めるように私の肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「いつでも頼って、て言ってるじゃん」
だから良いんだよ。と言う彼が頼もしい。
これは一生頭が上がらないな、と。
心優しい友人に感謝した。
(2025/07/26 title:082 涙の跡)
7/27/2025, 6:45:31 AM