『終わらせないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
終わらせないで…
そんなの たくさんある
今読んでる本
ずっと使ってる香水
毎回食べてるピザ
行きつけの小さなBAR
寒くなると羽織ってる
肌ざわりがいい
ニットのカーディガン
冬になると
少しだけ遠出をして
毎年 君と来ていた
なばなの里のイルミネーション
こんな風に交わす
何でもない会話も
今 一緒にいる
ただそれだけの時間…とかね。
- ただ それだけ… -
『終わらせないで』
横断歩道の真ん中に人が立ってたんです。
信号機はもう赤になってて。
だけどその人は動かなくて。
死んじゃうって思った。
目の前で人が死んじゃうって。
気づいたら体が動いてて、
腕掴んで、「もう赤になってますよ。危ないですよ。」
って言ったんです。
そしたらすごい怯えさせてしまって。
その人、タクシーを待ってただけだったみたいです。
怖かった。
自分は、まだ死ねないなと思った。
薄くて小さな妻の爪が、微かに黄色く染まっている。
食べますかと問われ、白いのもとってねと頼むと呆れたように笑われた。
筋も食べた方が体に良いそうですよと言われ、誰に聞いたか問うと、伊作くんの名を出される。
ぽつりぽつりと話しながら、蜜柑の皮を剥く妻を眺めた。
…器用だねえ。そんな細かい筋まで取れるなんて。
いつもは皮しか剥かず口にしているが、妻の手が繊細に丁寧に、私の食べるものを扱ってくれるのを見るのが嬉しい。
我儘を聞いてもらえるのも。
ご自分で剥けば良いのにと言われ、だって、と答える。
向かい合い、お互いむくれた顔をしたのが可笑しくて、すぐ二人して笑ってしまう。
「だって尊奈門のやつ、もう蜜柑に触るなと言うんだもの。」
怒った猫みたいにぷりぷりしてさ、と文句を言ったら、一気に食べてしまうからでしょと一蹴された。
私が近所の子供らにやるのを、お前もにこにこしながら見ていたじゃない。
ともかく、あーんしてくれないと私は一冬びたみんが摂れなくなってしまうよ。
顔を突き出し、柔らかい手の甲にすりすりと頬を擦り付けて強請る。
そのままあっと口を開けたら、困った猫ちゃんだことという言葉とともに綺麗な果肉が差し出された。
この部屋はもう、私と妻の気配でいっぱいだ。
誰も戸を開けてくれるな。…この時間が、終わらぬように。
「はい、どうぞ。… こんさま。」
妻しか口にしない自分の呼び名に、果肉を含んだ口を手で覆いながら天井を仰ぐと涙が出た。
今は、天井裏からも、誰か入ってきたら殺すからね!!
【終わらせないで】
――LGBTQに理解を。
どうやら今の社会のブームは"異端者"に慈悲をかけることらしい。とてもありがたいことだ。ありがた迷惑という言葉がこれ以上無くピッタリだ。
理解なんていらない。欲しいのは無関心だ。理解なんて、見下さなきゃ出てこない発想だ。異性が好きだというと関心を持つだけなのに、同性が好きというと憐憫を見せるのはなんでだ。それは理解から程遠いだろ。
――わたしの普通は普通じゃない。
小学生二年生の頃、親に好きな人がいると伝えた。同じクラスのミキちゃん。くりくりした目をしていて、いつも静かにニコニコと笑っている人だった。
あんた、ほんきで言ってるの。それ、おかしいよ。
実の親に、わたしの"普通"はいとも容易く否定された。幼いながらに、わたしは異端なんだ、と気付いた。
バイセクシュアル。男とか女とか関係なく、好きになる人は好きだった。でも、それを口に出すことはなかった。
「ちょいユキぃ、聞いてる?」
「聞いてるよ。酷い彼氏だったねぇ」
雪乃、という名前をちょっとだけ略したそのニックネームが彼女の口から聞こえる度に、小さく心臓が跳ねる。
今度の好きな人は、同性だった。それも彼氏に浮気されて傷心中の。
「ユキだけだよぉ、ウチに優しくしてくれるのは」
「よしよし。結菜はいい子だから、すぐにいい人見つかるって」
――結菜は男の人が好き。
だから、この思いは伝えられない。結菜は普通で、わたしはおかしいから。
ああ、ただ、願わくば。
この時間が終わりませんように。
ユキの手は優しい。嘘の彼氏のことを信じてくれて、なんの疑問も持たずにウチの頭を優しくなでてくれる。でも、それはどこまで行っても友達としてのものだ。熱を帯びていない、優しい手だ。
ユキの全部が欲しい。つい口にしたくなるけど、口にしたらきっと、この関係も終わってしまう。
ただ、この優しい、暖かな時間が。終わらせないで、なんて思うのは、勝手なんだろうか。
「終わらせないで」
「また負けたー」
「これでおじいちゃんの勝ちだな!」
祖父は強かった。家を尋ねるといつも将棋を指しては、悔しい思いをして帰るというのが定番の流れだった。
祖父はよく、同じ話を聞かせてくれた。
警察署の仲間の中でも、一・ニを争うほど強かったという。この祖父が、警官として働いていた姿は、今でも想像ができない。
気が強い昭和世代の九州男児といったところか、孫には優しかったが、負けず嫌いなところが見て取れた。
将棋に興味を持ち始めて数年、何局も指し続けるうちに、満面の笑みで帰ることも増えた。白熱した勝負で、帰りが遅くなることも。
「桂馬はそこじゃないよ?」
様子がおかしくなり始めたのは、数年前だった。
同じことを何回も言ったり、俺が生まれて間もなく亡くなった曾祖母の名前を呼んだりする。
認知症だった。
俺が強くなったのか、祖父が衰えてしまったのか、あれだけ勝てなかった将棋が、もう負けることはほぼなくなった。
「強くなったな」
そう笑う祖父であったが、素直に喜べなかった。
あれから数年、もう二度と祖父と将棋を指すことは出来ないと、非情な現実が時よりよぎる。
なんでもないあの時間を思い出して。
機会費用
習慣が一度途切れたとき
そこで終わりだと思う気持ちが
弱さだと気づいていても
長い目で見ることでそこが終わりではないと分かるとしても
見捨ててしまう
何度も
その積み重ねが今である
※終わらせないで
わたしの本音は終わらせないで。
でも、それは私の心の声で、本当の声で言えなかったりする
気付いた人がいた。その人は私を抱きしめてくれた。
いいよ、大丈夫だから。言ってみな。
って言うから私は少し本音を零した。そしたら困り顔で私の手をまた強く握った。握ったあとその人は私の傍からいなくなってた。私は追いかけようと思った。
でも、途中で追いかけることをやめた。
頑張って走ってもその人は私の目を見てくれない。
見ようともしない。
止まってもくれない、泣きそうになった。
私のことを好きな人が1人また1人いなくなる。
本音はやっぱり閉まっとくべきなのね。ってまた自分に言った。終わらせたのは私でもその人でもなくて。
一体なんだろう。分からないなんてまた嘘をついてまた
私の本音を少しでも分かってくれる人を探してまた1つ嘘をついていくんだよね。でも私の声は私しか聞こえない。
聞こえるような声で言ってもあんな風には絶対に聞こえないな。そんな会話の途中で誰かの本音が聞こえてくる。
終わらせないで。その声は少し怒りがこもってた。
その声には色んな感情が込められていた。
【終わらせないで】
辛い、苦しい、辞めたい、死にたい。
どんな苦しい言葉を吐いたっていいし、
学校に行かなくたっていいし、
僕に辛いのを話さなくたっていい。
でも、僕の隣から消えないで。
それは君も同じだろ?
自殺は罪深いって君が言ったんじゃないか…
僕は君よりは辛くないから
終わらせたいなんて言うことも許されないよね
苦しいのはみんな同じって自分に言い聞かせて
短気で自分勝手な自分を押し殺す。
怒りたい。泣きたい。全部話したい。
どうせ自分が悪いんだ。そんなことしても無駄だ。
なんて、君も同じだろ?
というかもっと辛いはずだ。
終わらせたくて仕方ないはずだ。
僕が終わらせないでって言ったから
君は辛い。そういうことにしといてよ。
そうすれば僕も楽になれそうだ。
――――――――――――辛い大切な人
酒場にて初対面の少年二人と依頼の作戦会議を始めることにした。
一見この場に制服は似合わないように見えるが、案外ここではザラであったりする。
流石、裏で酒場より何でも屋と呼ばれるだけのことはある。ちなむと、表で呼んでいた奴は揃いも揃って行方不明になった。もはや怪事件の域である。
「そういえば、自己紹介してなかった!レミンです!よろしく!」
会議に入る前に改めて自己紹介を交わす。彼らの名前はそれぞれアルトとマルクというらしい。話しかけてきた方が前者で、背の低い方が後者である。
長きに渡った話し合いの結果、両者依頼の評価を重視し、かつ危険を伴い過ぎないものを選別することとなった。具体的な内容がない為半刻も経ってはいないが。
「最低でも三階層以下の魔物の討伐か、大丈夫かな...アーメン......」
「逃げ足だけは任せてください」
「まぁ、最悪俺が倒すんで援護だけでもしてくれたら」
早々に戦闘離脱宣言が出た所でカウンターで呼び鈴がなった。
二人と顔を見合わせ三人同時にに立ち上がると、そのままカウンターへと向かうこととした。
その途中横から、勝手に人の冒険終わらせるなよ、等というつぶやきが聞えたが、初手で逃亡宣言した君よりはマシじゃない???という純然たる公平で清純な疑問は返さないであげた。偉い。
「終わらせないで」
【終わらせないで】#12
" 終わらせないで "
別れる時に、彼女が言っていた。
「終わらせないで、終わらせないでよ。もっとあたしを愛してよ、!!」
こういうところが嫌なんだ。
重すぎる。 嫌いと言ったのに。
その数ヶ月後、新しい彼女が出来た。
その彼女は、前の彼女とは違って、重くない。
束縛とかもされることなくて、嬉しかった、
でも、どこか寂しい気もした。
2ヶ月経った、ある日。
「普通に嫌いになった。別れよ。」
彼女に言われた。
「なんでだよ、勝手に終わらせんなよ、もっと俺を愛してくれよ、!!」
俺の口から出てきた言葉。
" 終わらせんなよ、もっと俺を愛してくれよ "
昔、元カノが言った言葉と同じだ。
彼女は言った。
「はあ、こういうとこが嫌なんだよ。あんたのこと嫌いなの。あんた重すぎてむり。もう二度と連絡してこないでね。」
悲しかった。
寂しかった。
心にぽっかり、穴が空いた。
「終わら、せんなよ、終わら、せないで、、、」
そんなことを毎日ぶつぶつ言っていた。
周りからは不気味に思われた。
それが、俺の運命なのかもしれない。
終わらせないで
カーテンの隙間から消えそうな、薄暗いような光が漏れ出ている
最近は太陽が昇るのが遅くなってきたお陰でまた眠りにつきたくなる。今日だけでも良いから学校にも行かないで君の心地よい体温に包まれていたい。
窓から目を逸らし自分の腕を見る、良かったまだ遅刻する時間では無い
もう少し、このままで良いかな。君がいつも私より早く起きているせいで君の寝顔を見れる機会も少ないのだから少しくらい許してくれよ。
「ぅん…おい、時間は大丈夫なのか」
「え、あ!お、起きたんだ!時間?」
急いで腕時計を見て確認すると先程見てから1時間経っていた。(私も少しだけ寝ていたようだ…)
「大丈夫…じゃないよやばい早く準備しなきゃ」
私はすぐ布団から出て着替え等を始めた
「そういえば、君なんで今日はまだ布団から出ていないんだい?」
今日は学校がある日なのにも関わらず君は眠たそうに布団に篭っている
「あー、ちょっとな…お前の慌ててる顔に、みとれてたわ……やっぱかわいいなお前」
「は?」
「ん?」
何、今可愛いって言った?!みとれてただって?!君の方が可愛すぎやしませんかね?!?!?!
「…怒こったのか、すまない、とりあえずその顔は辞めてくれないか、綺麗な顔が……「も、もう良いから!!早く起きてください!」
遅刻しても知らないですから!!
「おい、顔が真っ赤だから顔洗ってから行けよ」
「君のせいですからね!!!行ってきます!君は後から遅刻でもしてくれば良いんです」
バタンッ
……行っちまった、
でもこんな日常が終わらないで続くといいな、
ふと、そんなことを思った。
出来心、過ち、そうだとしても
まだ、終わらせないで
僕の中に色濃く残ったあなたの熱が
胸に燻るこの炎が
僕を焼き尽くして灰にするまで
貴方ひとりで、終わらせないで
(終わらせないで)
#42『終わらせないで』
熱いライトに響く歓声
乗りに乗ったギターにドラム
ここで歌えば、ここに立つ限り
時間に空間 すべてが俺のもので
どんなに人がいても
すぐに見つけられるから
パフォーマンスにコロコロ変わる表情
まっすぐ見つめられれば
同仕様もなく嬉しくて
ステージを降りて飛んで行きたい
ラスト一曲でいつもの
なかなか懐かない子猫みたいな君に
戻ってしまうんだろう?
もう少しだけ俺を見ててよ
君のために歌うから
お題
『 終わらせないで 』
放課後の大好きな時間
君の課題に付き合う自分
最初は好きでやってる訳ではなかった
先生に頼まれたから嫌々やっていた
はずだったのに
いつの間にか自分の方が先に教室に着いていた
問題集が最後のページにさしかかった
胸が苦しかった なんで、?
自分の気持ちに気づくよりも先に
『 終わらせないで 』って言葉が口から零れていた
キュポン
コルク瓶を開ける小気味良い音が、夜空の下で響き渡った。
ここは魔法の世界。2人の男女が二ヶ月に一回の星の採集に来ていた。もっとも、星の一部というものか。
「見て、今日の星光はすごく純度が高いよ。そっちはどう?」
きらきら。まさに振るとそんな音が瓶から聞こえてくる。閉じ込められた光はとても輝いていた。
男はふとそんな彼女の瞳をチラリと盗み見て息を呑んだ。星の光が瞳にうつり、彼女自身の瞳が輝いていることに。
「えぇ。えぇ。とても綺麗です。こちらも何故だか今夜は純度が高いようです」
彼は月光の粒子を摘んでいた。ピンセットのようなもので月の光を地道に取り瓶に入れていく。
彼女は先の彼と同じことを思った。細かい粒子の光が彼の目に反射して、まるで宝石箱の様だった。
「……そうだね。貴方もその、とても綺麗よ」
彼女の珍しい姿に彼は面食らった。いつも好意や礼は率直に、照れの一つもなく告げてくるのに今日は違った。
あぁ、この一瞬が終わらなければいいのに。
夜空の元、2人はそんな事を思っていた。
「この採集した月光の粒子、今使ってもいいですか?」
「いいよ〜」
彼は礼を告げると、小瓶の中からピンセットで一粒粒子を取り出す。すると彼は、それを手で握り込み更に細かく砕く。それを彼女の頭からぱらぱらと振りかけ、自らにも振り掛ける。すると2人の身体が宙に浮かびだす。
そして彼は彼女の手を引いて、雲の上へと誘導する。
上へ上へ。さらに上へ。
「月光の粒子は空飛ぶ粉の材料って、覚えていたのね」
「えぇ。ほら、上を見てください。星が綺麗です」
「本当ね」と彼女は星の如く目を輝かせて空を見つめている。彼は彼女の手を引っ張り、ワルツを踊り始めた。
「ねぇ、この時間が一生続けばいいと思いませんか」
「ううん。夜が明けないと、日光を浴びれなくなっちゃうし」
「そうですか……」
彼女の言葉に、彼はやはりか。と少々落ち込んだ。
「夜が明けても、貴方が隣にいる事に変わりがないし。そういう貴方は?」
「ふふ、私も同じです。貴女がいるならば」
この時が終わらないでほしいと、そう思うのだった。
✴︎✴︎✴︎
「さぁ、そろそろ地上に戻りましょうか」
彼がそろそろ身体を冷やすといけないと声をかけた頃、彼女がポケットから先ほどの月光の粉を取り出し振りかけた。
「あ、あの。どうしましたか」
「まだ、終わらせないでよ」
「え?でも、」
「一生は続けられないけど、まだ続けられるでしょう?」
-この素晴らしいワルツを-
親が引いたレールの上を進んでく運命。
僕は夢があったけど、それを親は望まない。
そんな葛藤が嫌になって、僕は逃げた。
全てがどうでも良くなった。
僕はとにかく高いところを探して登った。
ここから飛び降りれば、楽になるかな…。
そう思って柵を乗り越えたとき、
『自分で自分の人生を終わらせないで!!!』
と叫ぶ声が聞こえた。
その声の元を探していると、見つける間もなく声が聞こえた。
『死んだらそこで終わりだよ!生きてたらきっとなんとかなる!!!!』
そう叫ぶ声がさっきより近い所から聞こえた。
だんだんムカついてきて、僕は
『お前に僕の何がわかる!!』と叫んだ。
『わからないよ!!でも、俺は君に死んで欲しくない…』
その声は真後ろから聞こえた。
僕が振り返るとその子は優しくそっと僕を抱きしめた。
その優しい温もりに僕は涙が止まらなかった。
親にすら抱きしめられたことがなかった僕を誰とも分からない僕を君は抱きしめてくれた。
それだけで、僕の存在価値は上がり、涙が止まった後はスッキリしていた。
僕は『君の為に生きたい。君の笑顔がみたい』と君に言った。
すると『俺も君もお互いのことをなにも知らない。名前すら…だから、これから2人でお互いを知る為に一緒にいよう』と君は言った。
僕は驚きを隠せなかった。それを見た君はふにゃっと笑い、その顔を僕は可愛いと思った。
これからの事は何も分からない。
だけど、今をこの瞬間を大事にして生きていこうと心に誓った。
【終わらせないで】
#93
お薬手帳使いきった事がない。
まただ。
病院までの時間が空きすぎて
終わらせないで新しいのを使う
それはなくなるから(´・ω・`)
そして終わらせないで無くしたはずの
お薬手帳がひょっこり出て溜まってゆく。
終わらせないでと
願う人が居るなら
愛を
受け取るよ
疲れたり
忙しいと
受け取ったつもりでも
ありがとうを
言えないくらい
生活に
追いたてられるから
ちゃんと
今日は
愛を
受け取ったよ
まだ、その歌を終わらせないで。
君の歌をもう少し聴いていたいんだ。
そうすると不思議と死も怖くない。
いつかはこうなるんだと思っていたけど、いざこの時を迎えるととっても怖かった。
でも君の歌声がそんな見えない恐怖を追い払ってくれたよ。
きっと君の声は心地良い音色なんだろう。
自然と瞼が重くなってくるよ。
ありがとう、最期の我儘聞いてくれて。
ありがとう、僕を歌で送り出してくれて。
さようなら、また逢う日まで。
元カレのストーリーを見た。
骨ばった右手に繋がれた小さな左手。爪は根元から何処までも広がっていきそうな空色に塗られており、背景の草色とのコントラストが効いている。 親指の隣に配置されたアットマークから、端的な英数字が始まっていた。
私達が決別したのは今から3年程前の事。告げたのは、私からだった。ムードも何も無い近場のファミレス。冷めきったコーンスープの香りを、私は確かに記憶している。
ストーリー上部には遠慮がちに、"2years"の文字が表示されていた。2年記念では無く2yearsと書いているあたりが鼻につく。そういえばこういう人間だったなと、奥底の記憶が僅かに蘇った。
私と別れたのが3年前、それで2年記念というのだから、今の恋人とは私と別れて1年後に付き合ったと言う事になる。今まで上がっていた風景写真のうち、いくつが恋人との物だったのか。それを知る術は存在しない。
照明を落としたこの部屋で、唯一光を放つスマートフォン。私と交際居た時、一度もこのようなストーリーはあがらなかった。かつてSNSにあげられたいかと尋ねられた時に、興味が無いと一蹴してしまったからだろう。当時、それは本音だった。自分たちの日々を第三者に知らせる理由が検討もつかなかったし、そのような投稿をする人間は恋人では無く恋人がいる自分が好きなのだと軽蔑していた。
その時に感じた胸の痛みの理由が、今ではよく分かる。サイズの合わない箱に、物を無理やり押し込めば物は傷つく。成長痛とは対極にある、それでいてどこか似通った痛み。私はそんなありきたりな物に飛びつくミーハーでは無いと自分を騙し、彼からの信頼を得ようとしていた。最も、それが彼に好印象を与えたのかは未だ不明であるが。
彼に未練など無い。当時の彼を当時の私が愛していた。それだけであり、今の私は今の彼を愛せない。
なら、当時の彼を今の私はどう思う?
そう逡巡したが、出た答えはやはり同じだった。もはや平々凡々な男としか、私の目には映らなかった。
それでも、あの頃の感覚は鮮明に蘇ってくる。体中を巡る不快感。何も出来ない訳では無い、けれど出来る限り何もしたくない。頭の奥がほんのり痛み、足先が僅かに重くなる、まるで微熱のような、そんな感覚。別れを告げた時もそうだった。振る側なのだから被害者ぶるなよと必死に自分を鼓舞し偽っていた。
「元カノ親しいに入れんなよ」
熱を帯びたその言葉は、暗闇に溶けて消えていった。