青い鳥

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「終わらせないで」


「また負けたー」
「これでおじいちゃんの勝ちだな!」

祖父は強かった。家を尋ねるといつも将棋を指しては、悔しい思いをして帰るというのが定番の流れだった。
祖父はよく、同じ話を聞かせてくれた。
警察署の仲間の中でも、一・ニを争うほど強かったという。この祖父が、警官として働いていた姿は、今でも想像ができない。
気が強い昭和世代の九州男児といったところか、孫には優しかったが、負けず嫌いなところが見て取れた。
将棋に興味を持ち始めて数年、何局も指し続けるうちに、満面の笑みで帰ることも増えた。白熱した勝負で、帰りが遅くなることも。

「桂馬はそこじゃないよ?」

様子がおかしくなり始めたのは、数年前だった。
同じことを何回も言ったり、俺が生まれて間もなく亡くなった曾祖母の名前を呼んだりする。
認知症だった。
俺が強くなったのか、祖父が衰えてしまったのか、あれだけ勝てなかった将棋が、もう負けることはほぼなくなった。
「強くなったな」
そう笑う祖父であったが、素直に喜べなかった。


あれから数年、もう二度と祖父と将棋を指すことは出来ないと、非情な現実が時よりよぎる。

なんでもないあの時間を思い出して。

11/29/2023, 9:01:07 AM