――LGBTQに理解を。
どうやら今の社会のブームは"異端者"に慈悲をかけることらしい。とてもありがたいことだ。ありがた迷惑という言葉がこれ以上無くピッタリだ。
理解なんていらない。欲しいのは無関心だ。理解なんて、見下さなきゃ出てこない発想だ。異性が好きだというと関心を持つだけなのに、同性が好きというと憐憫を見せるのはなんでだ。それは理解から程遠いだろ。
――わたしの普通は普通じゃない。
小学生二年生の頃、親に好きな人がいると伝えた。同じクラスのミキちゃん。くりくりした目をしていて、いつも静かにニコニコと笑っている人だった。
あんた、ほんきで言ってるの。それ、おかしいよ。
実の親に、わたしの"普通"はいとも容易く否定された。幼いながらに、わたしは異端なんだ、と気付いた。
バイセクシュアル。男とか女とか関係なく、好きになる人は好きだった。でも、それを口に出すことはなかった。
「ちょいユキぃ、聞いてる?」
「聞いてるよ。酷い彼氏だったねぇ」
雪乃、という名前をちょっとだけ略したそのニックネームが彼女の口から聞こえる度に、小さく心臓が跳ねる。
今度の好きな人は、同性だった。それも彼氏に浮気されて傷心中の。
「ユキだけだよぉ、ウチに優しくしてくれるのは」
「よしよし。結菜はいい子だから、すぐにいい人見つかるって」
――結菜は男の人が好き。
だから、この思いは伝えられない。結菜は普通で、わたしはおかしいから。
ああ、ただ、願わくば。
この時間が終わりませんように。
ユキの手は優しい。嘘の彼氏のことを信じてくれて、なんの疑問も持たずにウチの頭を優しくなでてくれる。でも、それはどこまで行っても友達としてのものだ。熱を帯びていない、優しい手だ。
ユキの全部が欲しい。つい口にしたくなるけど、口にしたらきっと、この関係も終わってしまう。
ただ、この優しい、暖かな時間が。終わらせないで、なんて思うのは、勝手なんだろうか。
11/29/2023, 9:05:29 AM