灰業みずり (話はどれも同じ世界です。是非に)

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 キュポン
 コルク瓶を開ける小気味良い音が、夜空の下で響き渡った。
 ここは魔法の世界。2人の男女が二ヶ月に一回の星の採集に来ていた。もっとも、星の一部というものか。

「見て、今日の星光はすごく純度が高いよ。そっちはどう?」

きらきら。まさに振るとそんな音が瓶から聞こえてくる。閉じ込められた光はとても輝いていた。
 男はふとそんな彼女の瞳をチラリと盗み見て息を呑んだ。星の光が瞳にうつり、彼女自身の瞳が輝いていることに。

「えぇ。えぇ。とても綺麗です。こちらも何故だか今夜は純度が高いようです」

 彼は月光の粒子を摘んでいた。ピンセットのようなもので月の光を地道に取り瓶に入れていく。
 彼女は先の彼と同じことを思った。細かい粒子の光が彼の目に反射して、まるで宝石箱の様だった。

「……そうだね。貴方もその、とても綺麗よ」

 彼女の珍しい姿に彼は面食らった。いつも好意や礼は率直に、照れの一つもなく告げてくるのに今日は違った。
 あぁ、この一瞬が終わらなければいいのに。
 夜空の元、2人はそんな事を思っていた。

「この採集した月光の粒子、今使ってもいいですか?」

「いいよ〜」

 彼は礼を告げると、小瓶の中からピンセットで一粒粒子を取り出す。すると彼は、それを手で握り込み更に細かく砕く。それを彼女の頭からぱらぱらと振りかけ、自らにも振り掛ける。すると2人の身体が宙に浮かびだす。
 そして彼は彼女の手を引いて、雲の上へと誘導する。
 上へ上へ。さらに上へ。

「月光の粒子は空飛ぶ粉の材料って、覚えていたのね」

「えぇ。ほら、上を見てください。星が綺麗です」

 「本当ね」と彼女は星の如く目を輝かせて空を見つめている。彼は彼女の手を引っ張り、ワルツを踊り始めた。

「ねぇ、この時間が一生続けばいいと思いませんか」

「ううん。夜が明けないと、日光を浴びれなくなっちゃうし」

「そうですか……」

 彼女の言葉に、彼はやはりか。と少々落ち込んだ。

「夜が明けても、貴方が隣にいる事に変わりがないし。そういう貴方は?」

「ふふ、私も同じです。貴女がいるならば」

 この時が終わらないでほしいと、そう思うのだった。

✴︎✴︎✴︎

「さぁ、そろそろ地上に戻りましょうか」
 
 彼がそろそろ身体を冷やすといけないと声をかけた頃、彼女がポケットから先ほどの月光の粉を取り出し振りかけた。

「あ、あの。どうしましたか」

「まだ、終わらせないでよ」

「え?でも、」

「一生は続けられないけど、まだ続けられるでしょう?」

-この素晴らしいワルツを-

11/29/2023, 7:36:13 AM