『私の名前』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
6(私の名前)
静かな所だ。自分以外、人の影も気配も無い。
「────……♪」
昔、男の母が好んで歌っていた曲を男は一人口ずさんだ。一人残された女が自分を置いて、逝ってしまった男を想い続ける歌詞の歌。歌詞に反してリズムは軽快で、子供の頃の男には悲しい歌に聞こえなかった。
男は思う。大人になった今なら分かった事。歌詞に反して明るいメロディーは遺された女の精一杯の空元気をイメージしていたのだと。
遺された人間が沈む気持ちのままいれば、底なし沼に沈んでいく様に身動きが撮れなくなる。だからポーズででも、平気なフリをする。貴方の居ないこの世なんてと思ってしまう心をどうにかこの世に留める為に。
「あぁ……」
でも、ごめんな母さん。俺も母さんと同じ様に、耐えられないよ。彼女は俺の唯一だから、ダメなんだ。生きていけない。
男は目を閉じる。思い起こされる、宙に浮かび揺れる母の姿。縄に首を圧迫された苦しみで、安らかとは程遠い顔。母は愛しい男に会えただろうか。自分もまた、母と同じ道を歩む。彼女は怒るだろうが、きっと彼女の事だ。最後は抱きしめてくれる筈だ。
男は袋に丁寧に濡れない処理をした遺書を足元、分かるように置いた。自分が誰かにもし発見されたら、どこの誰か分かるように書き出しは『私の名前は○○です。』にしてある。処理する警察もこれで一安心だろう。その袋を見つめながら、この先自分を偶然見つけてしまう人に心で詫びた。
男は太い木の枝にしっかり結ばれた縄の輪っかに首を通す。
今、会いに行くからね。母さん、✕✕ちゃん。
晴れやかな気持ちで、男は台を蹴って飛んだ。
私の名前
「寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助の娘のすです」
「え!?」
「えじゃなくて、すです」
「いや反動にしてもひでぇだろうよ!?」
「おっ父は長い名前で苦労したので」
「そうだろうけどな」
「ちなみに漢字は『寿』」
「めでてぇな」
『私の名前。』
「あなたのなまえはなんていうの?」
そう目の前の女の子に聞かれた私は反応に困った。
名前でなんて呼ばれたこともないからだ。
そんな私の様子をよそに女の子は言った。
「わたしがね!なまえをつけてあげる!なまえはね……」
女の子の言葉の途中、限界を迎えた私の意識は落ちてしまった。
私は母と二人で生活していた。
父はよく分からない。私が物心がついたときにはすでに居なかったからだ。
母は強く優しかった。
私は生まれた時から両耳が欠けていて他の子らからは気味悪がられていたのだ。
そんな私を母は護ってくれていた。
そんな母が大好きで、大好きで、私は母のそばを離れたくなかった。
こんな毎日がずっと続けばなと思っていた。
夢物語など現実には存在しない。
幸せな日々は凄まじい音を立て終わりを迎えた。
別れはいつかやってくる。
そんな当たり前のことを理解するより早く目の前から消えたのだ。
物理的に。
目の前であまりに速い質量に母は連れ去られる。置き去りになった私はあまりの出来事に動転して逃げてしまった。
事からの日々は散々だった。
私だけでは生きることも難しい。
いや、無理だった。
周りから気味悪がられている私に関わろうとするものいない。
あの出来事から食べず飲まずの日々。体も心もボロボロで、あとは死を待つのみ。
そのはずだった。
公園の草木の影で死を待っていた私の前に笑い声と共に人がやって来たのだ。
「わぁ!ねこちゃんだ!」
「あなたのなまえはなんていうの?」
この出会いから私の運命は大きく好転していく。
意識を失って力の無い私は抵抗も出来ずその子に抱きかかえられ、その子より大きな人の元まで連れてかれた。
「きめた!あなたのなまえはね!ミミ!おみみがないからわたしがみみをつけてあげる!」
女の子に大事に抱えられながら名付けられた。
……名付けられてから一ヶ月が過ぎた。
「ミミ!おて!」
「にゃ〜」
耳の無い猫は新しい家族にミミを付けてもらい幸せに暮らしている。
私の名前はミミ。
私の大切な名前。
お母さん、私は今日も元気に楽しい毎日を過ごしてます。
お題【私の名前】
「私の名前、なんだっけ?」
首を傾げる私を見る驚愕の視線。
この人たちは誰だろう。誰一人として見覚えがなかった。
その人たちはどうやら私の家族らしい。「父」、「母」、「兄」、私の四人家族で、私は階段から落ちて記憶喪失になったとか。何が何だかさっぱり。他人事としか思えなかった。
二週間後退院した私は、「家」に帰った。郊外の少し大きな一軒家だった。きっと何か思い出せるさ、と「兄」に言われたが、その日は何一つ思い出せなかった。
「父」も「母」も「兄」も優しかった。会社員の「父」と「兄」が出かけると浪人生らしい私は専業主婦の「母」の手伝いをしながら勉強を進める。そのうちこんな生活にも慣れてきた。
この家には入っちゃいけない部屋がある。物置部屋らしく、色々置いてあって危ないからと母は言っていた。絶対駄目だと必死に念を押す「母」はどこか変だった。
ある日、「母」がママ友とお茶に行った時その部屋にこっそり入ってみることにした。そこには大量の段ボールが積まれ、鏡や扇風機などが乱雑に置かれていた。確かに散らかってはいるが、私は19歳だ。禁止するほどのことだろうか。
私は適当に段ボールを開けてみることにした。中からは食器やら服やらが出てきた。開けては閉め、開けては閉めを繰り返していると、一つだけ何重にも袋に入れられている大きい段ボールを見つけた。何かあったわけではないが何としても見なければという思いに駆られ手を伸ばした。
かなり重かったがなんとか引き摺り出し、思いっきり袋を割いた。中から嫌な匂いがした。何かが腐ったような嫌な匂いが。私は水分でへにゃった蓋を開けた。
そこには真っ赤な何かがあった。頭が追いつかずその塊が人だとわかるのに時間がかかった。
母さん…
涙と共に声が漏れた。ああ、そうだ。あの日、本当の母さんはあいつらに殺されたんだ。父さんも兄さんも。襲われた母さんは命に変えて私を逃がしてくれたのに、私は捕まって階段から突き落とされた。たまたま軽傷で搬送され、記憶喪失だったからあいつらはリスクを冒さず、何も思い出さないように証拠から遠ざけることを選んだんだ。
母さんたちを殺したあいつらが許せなかった。「母親モドキ」が帰ってくるまであと三十分はある。あいつはスマホをお茶会には持って行かない。パスワードも生年月日と名前というありきたりなものだ。
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スマホが開く。あとはあの段ボールの写真を撮って、自白文をつけ拡散すればこの一家はきっと一躍時の人だろう。私は、スマホをベッドの下に隠して今度は自分のスマホで証拠を取って「家」を出た。「兄」の自転車で一気に繁華街まで下りていく。
私は本当の家へと向かった。だが、そこあったのは更地とあの「家族」だった。気持ち悪い笑顔を貼り付けて、記憶が戻ったの?と近づいてくる。私は咄嗟に降りかけた自転車に乗って逃げようとした。が、「父」の反応は思ったより早かった。気がついた頃には首に腕が回され、口を塞がれる。逃れようと暴れるが三人がかりで抑えられ少し離れた死角にあった車へと連れて行かれる。
もう駄目かと諦めかけた時、サイレンが聞こえた。意識が朦朧とする中、サイレンに驚き緩まった手をどけて叫んだ。いくつかの家の窓が開き、住民が顔を出す。勇敢な男性陣と駆けつけた警察官によって私は何とか救出され、あいつらは連行されていった。
念の為入院した私は病室で取り調べを受け、あの日の事と証拠の写真について話した。よく頑張ったと警察官のおじさんは笑った。ただ、無茶は駄目だぞ。あと少しで君も殺されてしまうところだったんだからな。おじさんは真剣だ。私は素直に頷いた。あの家に着く前に、思い出した住所を使って偽の通報をしたのに思っていたよりくるのがギリギリで死にかけたんだから、何も言えない。
おじさんは、頷いた私に再度笑いかけ、扉を開けた。
頑張った君には一つくらいいい知らせがないとな。
そこには死んだはずに父さんと兄さんがいた。
確かに私は母さんの遺体しか見ていない。二人が死んだところは見ていない…!すると自然と涙が落ちた。そのあと私たち三人はしばらく抱き合って泣いた。気がつくと警察官のおじさんはいなくなっていた。
あれから数年経った。私は本当は高校生だったため、あの数ヶ月間を取り戻すべく、もう勉強しなんとか大学に受かった。今は大学生だ。あいつらは、今獄中にある。あの写真と自白文はかなり話題になり、ニュースやトレンドになった。出てきてもきっと苦しむことになるだろう。
これからは残った家族を大切に毎日を楽しんでいこう。
……私はこの時、この家族がまた、整形によって父さん、兄さんそっくりになったニセモノだということを知らなかった。
本名は好き。
生まれて初めて貰った贈り物だから。
けどね。
成長して知識が増えていろんな色に染まって
「憧れの名前」が出てきちゃった。
変えるつもりはない。
本名は家族や大切な人にだけ。
憧れの名前は自分だけの世界で…
私は本当の自分と憧れの自分を演じ続ける
『私の名前』
【短歌・名を呼ばぬ兄者】
弟の名を一つだけに選べずに
今日も弟を弟と呼ぶ
-鬼切丸・薄緑-
(私の名前)
一瞬、誰を呼んでいるのかわからなかった。
何時ぶりだろうか、自分の名前を呼ばれたのは。
もう家族も、呼ばないから。
子供が産まれてからは、家族も他の人も『ママ』としか呼ばない。
唯一、名前で呼んでくれる独身時代の友達達は、生活がお互い変わりすぎて会うことも出来ない……
時々、私自身が『ママ』というフィルターにかけられて見えなくなる。
いま笑っているのは、本当に私なのかな……
見失いそうになる自分は、子供の笑顔で食い止められるけど。
私って誰だろう……
そんな言葉が時折、ふと過ってしまう。
「えっ?詩歩!!久し振り!会いたかったよー!」
すれ違いざま、偶然会った友達に呼び止められた。
彼女の笑顔と私の名前を呼ぶ声、それだけで私は私であることを思い出すことができた。
「ねぇ、この後予定はある?久し振りに話さない?」
私は彼女に、あの頃と同じ笑顔で話しかけていた。
『私の名前は』
母
貴女が笑顔が可愛い子に育って
幸せになって欲しいから
自分の名前を胸を張って
言えるように
貴女の名前は「私の名前」
【私の名前】
自分の名前が嫌い。
これはきっとずっと変わらないけど
君が私の名前を呼ぶ度に
君を好きになって、自分の名前も
ほんの少し好きになるの。
君が可愛い名前って言ってくれたから。
君が私の名前を認めてくれたから。
この名前でよかったと思えるの。
込めるならもっと等身大の願いを
お題:私の名前
自分の名前……何だっけ。
忘れてしまったよ。
その名前で私は……うっ。
ちょっと良くないことを思い出した。
この話はやめにしよう、うん。
もっと楽しい話をしようか。
〜私の名前〜
お題:私の名前
吾輩は猫である。今まで読んできた中でダントツで好きな本だ。一日に一回は読むと決めたのはこの本が初めてだ。
そして、私が小説家になろうと決めた初の本だ。
そして私は見事24歳で小説家デビューを果たした。
だがしかし、私には最強の悩み事がある。それは、名前をなにかにすることだ「ん〜わたしの名前か……わたし…わたし…吾輩?あっ!そうだ!」そして今日から私の名前は
「吾輩は猫である」
私の名前はどこにでもいそうな名前。
母親から本当は違う名前にしたかったと話してくれた。
なのでSNSとかの名前はお母さんがつけたかった名前にしてる。
『私の名前』
「さすがゆりちゃんね、それに比べてゆみちゃんは……こんなことも出来ないの?」
「ほんと、あのころのゆみちゃんはどこに行っちゃったの?」
「お母さんにこれ以上迷惑を________
「おっはよーゆり!」
「あれ、?隣にいるの妹さん?」
「一緒に登校してあげてるのー!?」
「ゆりちゃんやっさし〜」
「ほらー、邪魔ですって、どいてくだいよ〜」
(ドンッ
「っえー、ちょっと当たっただけなのに転ぶとか弱すぎませんかー?」
「双子なのにゆりと全然似てないよねーww」
「わかるー、ゆりはもっと優しくて________
「ごめんゆみ、別れよ、もう付き合ってられない」
「……ほんとどうしたんだよ、最近ゆみらしくないし」
「周りのクラスメイトも言ってるけどさ」
「ほんと変わったよね」
違う違う違う……なんでダメなの?
ゆみはもっと人気で優しくて、可愛くて頭も良くて運動もできる、そう……なんでも出来て……まるで天才で
私じゃだめなの?何が違うの?全く一緒なはずなのに、どこがダメだったの?同じことをしているのに、
「ねぇゆみ!!!!どういうこと?」
「何言ってるのお姉ちゃん、?お姉ちゃんがゆみになりたいって言ったんじゃん」
「だからゆみは”ゆみ”を譲ってあげたのに」
「ちがう、ちがう!!!」
「ゆみはもっと________
「ゆりお姉ちゃんまだ分からないの?」
「どれだけお姉ちゃんが頑張っても外がゆみでも、中身が一緒なんだから変わらないじゃない」
「私たちの見分けが着けられてるのは髪の長さが違うだけ」
「髪の長ささえ変えていれば外見で見分けはつかない」
「みんな私たちを中身で判断してるの」
「お姉ちゃんが私になれるとでも思った?」
「昔はすごくできた子だったゆみと、全く出来なかったゆり」
「今では馬鹿で気も使えないゆみと、天才で気遣い上手なゆり」
「お姉ちゃん、次はどっちになりたいの?」
私の名前を呼んでくれる人なんていない。
だって皆は私を無視して空気のように扱うから。
どれだけ、私が頑張ってここにいるよと訴えてもクラスメイトも家族も軽蔑するように見て去っていく。
分かっている。 私が愚図でのろまで何もできないから、名前を呼んでくれないのだ。いつも迷惑ばかりかけるから見捨てられたんだ。
でも、寂しいよ。 どれだけ気にしないようにしても辛いものは辛いんだよ。だから────
「誰か、私の名前を呼んで。ここにいていいって言ってよ。」
誰にもこの叫びが届かないと分かっていても、私はいつまでも叫び続ける。心が死んでしまうまで。
『私の名前』
名前を呼ぶと音が聞こえるんだ
あの子の名前は鈴を転がしたような音
あの人の名前は水が流れるような音
──彼の音は私の心臓の音で聞こえない
私の名前はどんな音がするのだろう
-私の名前-
私は決して人に自分のファーストネームを呼ばせない。
名前は私が私であることを証明してくれる唯一のもの。
大事なものは軽々しく人に渡してはならない。
だから私は、ファーストネームを誰にも渡さない。
他人から運命をねじ曲げられたとしても、私が私であることには変わりない。
ファーストネームは私が私であることを証明してくれる。
人間不信?そうなのかもしれない。
でも、自分で選んで歩んできたと思っていた人生が、実は他人が仕組んだものだと知ったら、人間なんて、世界なんて、信じられなくなるだろう?
でも、例えそうだとしても、私は私だ。
そう信じていないと、壊れてしまいそうになる。
だから、私はファーストネームを誰にも渡さない。
これが、私が私であることを証明する最後の砦なのだから。
私、この名前好きなの。
初めて
"あなたがよんでくれたから"
命が芽生えて、つけてもらった名前。
親・恋人・友人
読み手しだいです。どちらにせよ、素敵
今日のテーマ
《私の名前》
私の名前は、ご主人様の大好きなゲームの『推し』というのと同じものらしい。
ご主人様が言うには「推しを愛でるのと同じ熱量で愛でたい」という理由でこの名前を付けてくれたらしい。
その言葉の通り、私はとってもご主人様からとても厚遇してもらっている。
元は野良猫の身の上であるにも拘わらず、美味しい食事に寝心地の良い寝床まで与えられる好待遇は、まるで夢でも見ているんじゃないかと思うこともしばしばあるくらい。
時々拷問のような水責めに遭ったり、薬臭い場所へ連れて行かれてあちこち触られたり痛い針を刺されたりもするけど。
でも、ご主人様も好きで私を虐めてるわけじゃないんだろう。
そういう責め苦の後はいつも以上に甘やかしてもらえるし、特別なおやつももらえるから耐えられる。
それでも嫌なものは嫌だから、暴れて爪を立ててみたり、部屋中を逃げ回ったりして抵抗もしちゃうけど。
私の名前を呼ぶ声にちらりと目を向けると、スマホという板状のものに向かって悶絶しているご主人様の姿。
どうやらご主人様が呼んでるのは私の名前じゃなくて、その元になった『推し』の方の名前だったみたい。
私のことは最近は名前を縮めて呼ぶことが多いから、たぶんそうだと思ったんだ。
「ああー!! 今回配信されたシナリオ、マジ神!! 推しの貴重な萌えエピソードあざーーーっす!!」
スマホを手に、ベッドの上でごろんごろんと転がるご主人様は、普段とはまるで別人のようだ。
普段は優しくて、たまにデレデレで、でも包み込んでくれるみたいな頼り甲斐がある人なのに、この『推し』が絡むと奇声を上げたり今みたいに悶絶したりして、何だかとっても情けなくなってしまう。
何より腹が立つのは、私よりもその『推し』に注意を向けてること。
いつもは「おまえが一番可愛いよ」って言ってくれてるのに、今は私のことなんか全然目にも入ってない。
今やご主人様の頭の中は『推し』のことでいっぱいなんだろう。
その『推し』と違って、私はふわふわの毛やぷにぷにの肉球で、いつもご主人様のことを精いっぱい癒やしてあげてるのに。
同じ名前なのに、私の方がずっと一緒にいるのに、何だかこっちの方が負けてるみたいじゃない。
ムカムカして、こっちを見てほしくて、その『推し』じゃなくて私の名前を呼んでほしくて。
だから、私は家具を伝ってエアコンの上の隙間によじ登った。
そこから距離を測ってぐっと体を縮め、思いきり勢いをつけてジャンプする。
目測違わず、私は狙った通り、ご主人様の背中に力いっぱい体重を乗せて飛び下りた。
「ぐへっ!! ちょ、こら、おまえどっから降ってきた!?」
渾身の体当たりを決めたことで、ようやくご主人様の意識を憎き『推し』からこちらに向けることに成功した。
ちょうどいいところに決まったらしく、ゲホゲホ咳き込むご主人様を一瞥し、その手元から転げ落ちてたスマホをパシーンと前脚で弾き飛ばす。
それからすぐさまご主人様の膝に陣取って、胸元に甘えるように頭を擦り付けた。
こうすると、大抵の場合、ご主人様はデレデレになってくれるのだ。
「ああ、もう……ホントに、おまえ、そういうとこだぞ!?」
ほら、今日もまたご主人様は私の魅力にメロメロだ。
無事に『推し』に勝てたことに気を好くして、普段よりもしっかり甘えておくことにする。
私を撫で回しながらスマホを拾ったご主人様は、その後暫くはその画面に『推し』を映すことなく、私を存分に構ってくれたのだった。
私が私として生まれたときに、一番最初にもらうもの。
名付けられたその日から、私は私になった。
私はやっと私と私以外のものを認識し、私は世界に唯一な存在であると自覚し、そして私以外の名前たちもこの世界にふたつとない唯一な存在なんだと気付く。
私は遠くの景色に思いを馳せながら、生まれたこの世界の尊さを噛みしめた。
【私の名前】