『私の名前』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『私の名前』
私は私の名前が嫌いだ。それ以外にも嫌いなものは沢山あるけれど。私の存在が明確に定義されてるみたいで。
私を誰も知らない場所に行きたい。
そしたら、私は自由になれる気がする。非現実的なことを考えている自分が嫌になったので、私は今日も大学の旧図書室に向かった。本を読むのでは無い。誰もいないこの場所で私は歌うのだ。まるで自分がスターになったみたいに。
歌い終わった時、物音がした。
「誰?」
[あっ、すいません。]
見ると、1人の男の子がこちらを覗いていた。
「うるさかった…かな?」
[いや、そういう訳じゃなくて。とても上手で。なんて曲歌ってたんですか?]
「うーん。頭に浮かぶまんま歌ってたから題名なんてないよ。」
[そうなんだ…あの、お名前は…]
そう聞かれた私は、偽物の名前を口にすることにした。
自分の名前が嫌いだから。ただそれだけの理由だ。
「遥。大学2年。あなたは?」
[真。君と同い年。]
「いいね〜。かっこいい。」
[また来て、歌聞いてもいいかな。]
「是非。多分、ずっとここにいるからさ、」
遥。我ながらいい名前をつけたと思った。今日来てくれたあの子がすごく綺麗だったことは秘密にしておこうと思う。また会えたらいいな。今日は、なんだか空が綺麗に見えた。
(二次創作)(私の名前)
陽光届かぬ湖の底、それでも僅かに発光する物質の存在で前後が判る程度の明るさを保持するその場所で、かっぱはいつものように揺蕩っていた。この世界はかっぱの支配領域であり、何者たりともかっぱの意にそぐわぬ行為は行わない。かっぱの想定しない事象も起きない。そんな中、思い返すのは今しがた人間に尋ねられた問いであった。
――ねえ、かっぱくんは、お名前は何というの?
かっぱは答えるべき名を持たない。そもそもかっぱに名など必要はない。かっぱはかっぱであり、その存在は唯一無二のものだ。そのまま答えたのに、あの人間は首を傾げる。それは人間を人間と呼ぶのと一緒ではないかと。その人間によれば、名は権利であり、最も尊重されるべきものだという。罪を犯し今まさに殺されようとする人間ですら、名はそのまま呼ばれる。
――そりゃあ、呼びたくないって理由で呼ばないことはあるし、何にでも例外はあるけど。
ちなみにその人間は、誇らしげに、自身の名の由来を話していた。というか、話しているところを聞くのが面倒になって無言で湖の中に戻り今に至るのだ。湖の底は静かで、何の波も立たず、等しく安寧の時間が流れている。毎日のようにきゅうりを落とすからこそ相手もしてやるが、本当にあの人間と共にいると疲れるのだ。たとえこちらが一歩も湖から出ないとしても、あの人間の勢いは止まらない。
(名など、知って、どうする)
かっぱはかっぱだ。それ以上でもそれ以下でもない。かっぱはそれ以上、考えるのをやめた。また時間が流れ、きゅうりが落ちてきたら水面に上がるだけだ。それを待ちながら、今までのようにこの世界に在り続ける。名が、どうした。この場所にはあの忌々しい女神の声も届かない。それでなお、かっぱの心の中であの人間は何度も同じ話を繰り返す。
「名が、どうした」
声に出して呟いても、人間の声はやはり消えなかった。
※ホラー
何でも願いを叶える社があるらしい。
曰く、願いを叶えるにはいくつかの手順が必要だという。
一つ。鳥居の先にある祠の中から和紙を取り出し、代わりに自分の名前を書いた紙を入れる。
二つ。和紙を口に咥え、祠の横の細道を辿り奥へと向かう。
三つ。細道を歩いている時には決して声を出さず、立ち止まってもいけない。
四つ。社へと辿り着いたら、願いを書いた紙を賽銭箱に入れ忍び手を三回打つ。
五つ。来た時と同じように声を出さず、立ち止まらずに祠へと戻り、名前を書いた紙を回収する。
その話を聞いた時、肝試しにぴったりだとそう思った。
夜中に一部始終を動画に収めて配信すれば、一躍有名になるのでは、と。
ただそれだけを考えていた。
「……っ…」
口に咥えた和紙を落とさないよう、必死で声を押し殺した。
出来る限り音を立てぬ様にゆっくりと、けれども決して立ち止まらずに来た道を只管に戻る。
ただの肝試し。ただのお遊びのつもりだった。
行きはよかったのだ。
辺りの暗さに何かの気配を感じると嘯き、祠に入っていた和紙に大袈裟に驚き。実況のために和紙は咥えず手に持ち、小声で都度反応しながら社に向かった。社に着くまで何も起こらず、願いを書いた紙を賽銭箱に入れても何もなく。
少し拍子抜けしながら細道に足を踏み入れた。
そこまでは楽しい肝試し、だったはずなのだ。
風に靡く木々の音。歩く音。鳴き声。
空気が変わった。そんな気がした。
慌てて手にしていた和紙を口に咥え、出来る限り足音を立てずにゆっくりと歩く。
木々の音。歩く音。呼吸音。鳴き声。
泣く、声。
して
えしテ
かエシて
カエして
かえして
『返して/帰して』
人のような何か。
大人も、子供も、女も、男も。年齢も性別も異なる人の形をした何かが。
一人、また一人と、数を増やして。
増えていくそれらは、皆顔が無かった。
泣いていたのは果たして誰か。
顔の無い何かか。それとも自分か。
何が起きているのか。何故こんな事が起こっているのか。
漏れ出しそうになる声を必死で押し殺す。止まりそうになる足を必死で動かし祠に向かう。
肝試しに来た軽率さを悔やみ、手順を破った愚かさを嘆いた。
涙でぼやける視界の中、終わりを求めて只管に歩き続けた。
「ねぇ、かえして」
手を、引かれる。
顔の無い、女の姿をした何かが、口も無いのに囁いた。
「かえして。だめなら、かわりをちょうだい」
「かえして」
「かえして」
「ほしい」
「ちょうだい」
「ちょうだい」
もう片方の手を別の何かに引かれ。
たくさんの顔の無い何かに囲まれて。
腕を、肩を、胴を、頭を。
無数の手に引かれ。囁かれ。
「ゃめろ!いや。やだ、いやだぁぁぁ!!」
叫んでも助けは来ず。
後には、何も残らずに。
祠から紙を取り出す。
書かれた名は偽りだが、息を吹き掛ければ文字が揺らめき真名を浮かび上がらせる。
男の名。ありきたりな文字の並び。
戸惑う事なく紙を飲み込んだ。
ゆらりと姿を変え、名を祠に置いた男の形を取る。
服に触れ、顔に触れ、腕を伸ばし。しばらくその姿を堪能するが、次第に飽いて元へと戻る。
地につく程の長い白髪。虚ろいだ白の瞳。男とも女ともとれる顔。
にたり、と唇を歪め、細道へと足を向ける。
そこには誰の姿もなく。誰の声も聞こえない。
「哀れ、哀れ。実に愚かなれや」
嗤う声。
どこかでかえして、と声がして、耐えきれずくつくつ喉を鳴らす。
かえしても何も、祠に名を納めたのは自身であろうに。
様々を寄せ集めたつぎはぎの儀式などを信じた人間が悪い。
だがそうした人間がいるからこそ、こうして名を喰らう事が出来るのだから、有難き事ではある。
されど、まだ足りぬ。
百を集めど腹は満たされず。三百集めど更に飢えを覚え。
ふと、男のいた場所に四角い何かが落ちている事に気づく。
手に取れば、冷たい金属の重み。辺りを映しとる絡繰。
流れる文字を見遣り、手を伸ばす。
白の瞳と視線が交わる。
こんこん、と。
窓を叩く音がする。
20240721 『私の名前』
「私の名前」
私の名前(ペンネーム?ハンドルネーム?というべきかもしれません)は「Frieden(ふりーでん)」と読みます。ドイツ語で平和を意味する言葉です。手元にあったファンタジー名付け事典(厨二病を発症した者御用達?)をペラペラめくって決めました。
年齢や性別、本当に存在するかどうかもわからない感じを出したくてこんな名前にしました。今更ながらですが、どうぞよろしくお願いします- ̗̀( ˶'ᵕ'˶) ̖́-
「名前」といえば、今までここで色々と書いてきた文章が150ほどあるのですが、皆様お気づき頂けたでしょうか……?
実はほとんどの登場人物に名前がありません。敢えて名前をつけていないんです。
これには理由があって、まず真っ先に挙げられるものとしては、私のネーミングセンスが壊滅的だからというのもあります……が、それよりももっと重要な理由としては、皆様に好きなように文章を読んで頂きたい、物語の自由度・没入感を上げたいという思いがあるからです。
皆様が自ら彼らに名前をつけたり、あるいは自分事として読んでみたりしていただきたいなぁ、などと思いながら書いています。
例えば、私がよく書いている話に、公認宇宙管理士とかいう謎の職業に就いている機械の子ども(通称「マッドサイエンティスト」)がいるのですが、この子にも本名があります。
文章の中では⬛︎で伏せ字にしていますが、本名がバレるとマズいという設定もありつつも、この子の名前も好きに呼んで頂きたいからそうしています。
「QKH59号」や「⁂=Mk-2」、なんなら「吉田宗右衛門」とかでもいいと思っています。読みやすければですが……。
ちなみに、この物語の登場人物には私のつけた名前をもつひとが多分5人くらいいます(ほかの彼らの名前は考え中です……!!)。
名前をつけているのは……ニンゲンくん、マッドサイエンティストとその双子のちっちゃいおにーちゃん、旧型宇宙管理士の少女、最近出番のない構造色の髪の少年……ぐらいでしたっけ……?
書いたことをすぐに忘れてしまうので大変です( ⌯᷄︎ὢ⌯᷅︎ )
ついでにですが、ニンゲンくんとマッドサイエンティストの性別も、自由度と没入感のために敢えて決めていません。かわいい女の子でも、根暗なお兄さんでも、人見知りなお姉さんでも、くたびれたおじさんでも、もしくは皆様自身でも、お好きなイメージで読んで頂ければ幸いです。
名前含め設定を決めるのは難しいですね……。
たまにはこういうお話もいいかなぁと思って書いてみました。
読んで頂きありがとうございます«٩(*´ ꒳ `*)۶»
いつも投稿めちゃ遅なのに読みたいと思ってくださる皆様がいらっしゃると思うととても励みになります!本当にありがとうございます!
それでは、暑い日が続きますので、お身体にお気をつけてお過ごしください〜!
○o。o○o。o○o。o○o。o○o。o○o。o○○o。o○o。o○o。o○o。o○o。o○o。o○
P.S.
ずっと書き忘れていたのですが、おかげさまで「もっと読みたい❤︎」が2000を突破いたしました!!!ありがとうございます!!長めの物語ばかりなので、読むのが大変なはずのに、これだけの方に読みたいと思っていただけていると思うと本当に嬉しい限りです!!!わーい!!!\( ॑꒳ ॑ \三/ ॑꒳ ॑)/
今後ともよろしくお願いします!!!
『PM18AM20』
人に溢れ賑やかだった朝と比べ物静かになった夕暮れが差し込む寂しげな廊下で絹のように細かく色白い美しい肌を持った女がぽっんと影が落ちた廊下の先を見つめていた。
「せーちゃん」
陽が落ち薄暗くなった廊下の先を少し俯きながら見つめる彼女の背から一つ鈴のように愛らしい声が聞こえ彼女は後方へ振り向き穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「‥ユウ、遅かったわね」
「ご、ごめんね。少しお友達とお話してたら遅くなっちゃた、、、怒った?私のこと嫌いになった?」
「怒ってもないし、わたしは変わらず優のことが好きよ」
「そ、そう?えへへ、嘘でも嬉しいな。」
「嘘なんかじゃないわ、わたしがユウに嘘ついたことなんてないでしょう?」
「う、うん。そうだけど、少し不安になっちゃて、、、ごめんなさい」
「不安になったら何度でも言うわ、わたしは何があってもユウを嫌いになることなんてないし貴方はわたしの大切で大事な人よ、だから貴方は何より誰より自分を大切にしなさい。」
「どうして?どうして、せーちゃんは優しくしてくれるの?」
「貴方には何度も救われたからよ」
「‥‥意味わかんないよ」
廊下に冷たい風が吹き髪が少しだけ揺れる、瞳を潤ませいまだ答えを考え続ける目の前の愛しき人から視線を逸らし窓の外を眺めた。
「そろそろ陽が暮れるわね、暗くなる前に帰りましょう。」
「‥うん」
黒と緋が混じる夕暮れの校庭を歩く二つの影が仲良く手を繋いで歩いていた。
一つの影は前を向きながら片方の影の手を優しく包み込みながら歩く、もう一つの影は片方の影を見つめながら結ばれた手と手を確かめるように歩く。
お互いなくてはならないけれど決して相容れることはない二つはこの時だけは愛情も嫉妬も恋慕も不安も忘れ一つになり並び合うことが出来る。
これは、まだひぐらしが鳴かぬ夏の思い出、彼女がまだ側にいた大切な思い出。
さあ、今日も冒険だ。
お気に入りの靴を履いて、気持ちをこめてドアを開ける。
村から飛び出した勇者は、鬱蒼とした森を目指す。
ひとたび強い武器を手にいれた。
ただの細い木の枝と思うなかれ。
これは私にとっての最初の武器なのだから。
勇敢なる私は迷うことなく、恐れることなく進んでいく。
その先には魔王のいる城がある。
その城へと続く長い階段。きっと一筋縄じゃあいかないだろう。
それでもずんずん進む。
道中、草のかげから鳥が飛んでいったときは驚いた。
しかし私の敵ではない。
階段を登りきり、一息つく。
さあ待っていろ、魔王め。
木の枝をにぎりしめ、城へと向かう。
「なにをしているんだ?お嬢ちゃん」
見慣れない服を着たおじさんが箒を手にこちらをうかがっている。
私は仰天して後ずさりをした。
「ああ、あいつの友達か?おい、友達きてるぞ」
神社の裏から男の子がやってくる。
「なに、どうかした?」
「友達きてるって。夕飯までには帰ってくるんだぞ」
おじさんはそう言い残してどこかへ去っていった。
男の子と私、ふたりだけがその場に佇んでいる。
「ええと、だれだっけ。クラスメイトだったりする?」
彼の問いに私は首をかしげた。知らない子だ。
「おれ2組の、まさき。かがまさき」
「あれ、うちの学校は1組しかないけど」
まさきはくりくりの目をまんまるにしていた。
「え?ああ、学校がちがうのか。おれ、西小なんだけど」
「私、北小だ。そっか、学校ちがうんだ」
そりゃ、クラスメイトじゃないよね。とふたり同時に吹き出した。
「そうだ、名前は?君の名前」
君ってはじめて人に言われた。なんだかくすぐったい。
「私の名前はね、」
そしてまさきは仲間になった。
はじまりのはじまり。
【私の名前】
名は体を表す
と言うが
親父に感謝
今日幸せだったこと。
夏休みに泊まりで遊びに行くくらい仲良い子と美術館に行って、その後サイゼリヤ食べて帰ってきたこと。
仲良くしてくれる友人に感謝。
優しく美術の解説をしてくださった先生、ありがとうございます。
あとは‥なんだろう。
幸せを見つけるのが下手な私だけど、人生楽しんだもん勝ちなんだから、一日5個は幸せを見つけて書き記していきたい。
まあ、健康でいられたことにも感謝かな!
あとはご飯を作ってくれたお母さんに感謝。
これくらい、かなー。
明日もちゃんと幸せを見つけたら書き留めておきます。
これはいつも不満ばかり溢して不幸せな私が、身の回りにある幸せに気づいて幸福な人生を歩むための物語。
私の名前は正直、あまり見かけない。
別に珍しい訳では無いと思うけど、
知り合いに同じ名前はいない。
私は「花純」。
”花”は花のように可愛らしく、
”純”は純粋な子に育って欲しい想い、
かららしい。
他の人とは違う、みんな唯一無二の名前。
被ったとしてもみんな違う名前の由来がある。
その人だけの、大事な名前だから。
「私の名前」
私の母は名前占いは結構重視してたらしいです。
今まで呼ばれてきたのは、
花純、花純ちゃん、みっちゃん、かっちゃん、
かす、です(笑)
かすっていうのは(私のことをそう呼んでいた人は)
悪気はなかったようです。
男子は大体花純と呼び、女子は花純ちゃんって
呼ぶ人もみっちゃんって呼ぶ人もいるけど、
みっちゃんの方が多いかな...
私の名前、「花純」って気に入っています。
もうどのくらい歩いただろうか。首輪はあちこちが破け、体は埃まみれ。足だってすっかり硬くひび割れていた。
鳩や鼠の味も覚え、虫だって食べられることも知った。猫も、そうだ、どこに牙を立てれば殺せることもわかっている。口の中に広がる血の匂いと温かさに、気づけば夢中になって牙を立てていた。
部屋の中で暮らしていたあの日々は夢だったのではないか。
やっと入った群れの中で序列をつけられ、上のものにはどのように振る舞うべきなのかも教わった。喧嘩で序列を上げることもできたし、リーダーに舐めてもらうと嬉しかった。
この嬉しさは、どこかでも感じていたと思うけれども。
狩の獲物を探して森の中を進む。周りのいくつもの気配、鳥の声、繁みの匂い、枯れ葉の下の擦れる音、そういったものに注意深く進む。
ふと、嗅ぎ覚えのある匂いに気付く。懐かしく、嬉しく、とても大事な匂い。匂いの強い方に引きつられるように進んだ。段々と歩きが速くなる。匂いに近付くにつれ、確信が強くなった。
とても大事な、あのコ。
私を撫でる手、声、動きを昨日のようにありありと思い出す。
とうとう見つけた匂いの主に、思わず飛びかかっていた。
朋子は最初こそびっくりしていたが、私の汚れきった体に戸惑いを見せていたが、伸し掛る体型、首輪の名残を見て、驚きの声を上げた。
「ノア、ノア!どこに行っていたの、探していたんだよ」
ああ、ああ、この声を聞きたかった。私の名前を呼ぶ、懐かしいこの声。
私の尻尾は千切れんばかりに振り回されていた。
私の名前
色の名前
植物の総称の名前
紋所の名前
あとは
私が生まれた日の空の名前
私の名前は今でいうぶった切りネーム。
小さい頃から1発で読めた人はいない。
小2の頃なんて名前のせいで担任の先生から虐められた事だってある。
でも、名前を嫌いになった事はない。
海が入っていてとっても綺麗な名前。
私の名前は有名な俳優から取ったものらしい。
映像がまだモノクロだった時代に活躍した人で、私はその俳優が出演している作品を一度も見たことがない。
まだキラキラネームも流行っていない世代だったが、子どもの頃から少し変わった名前という自覚はあった。
俳優以外にも歴史上に存在し、覚えやすく呼びやすい名前で同級生にも親しんでもらえたと思っている。
言わずもがな、俳優とは全く関係の無い人生を送っている。
その道に憧れたこともなければ、俳優を目指すように教育されたわけでもない。
働きに出れば苗字で呼ばれ、そもそも名前を知られる機会も殆どなく、知られたところで何か会話が弾むわけでもない。
名前しか個性のない私は鳴かず飛ばずで、社会人になってから同級生の活躍をまた聞きするようになり、私は初めて“名前負け”を意識するようになった。
“秀”の字を「優秀の秀」と例えることに抵抗感を覚えるようにもなった。
もはや名前以上の意義を持たなくなって、私はずっと手持ち無沙汰を感じながら生きていくのだろう。
名前を言うことがあっても、何も気にしていないフリをして愛想よく振る舞うのだろう。
俳優から取った名前というのは、皮肉にも言い得て妙に思えた。
~私の名前~
太陽みたいに明るく咲いてほしいという意味の素敵名前
ちょっと音の外れた呼びかけに顔をあげる。
宿の階下、食事に向かう仲間たちからの誘いに一拍迷って断りの意を返した。
言語すら違う土地の自分の名前は、似た文化があると言ってもどうにも発音し辛いらしい。気をつけていないと耳を素通りさせてしまうのは、いまだ耳慣れないのが理由だ。
結局は自分の名前のように思えないのは、自分の面倒を見てくれた人物はずっと練習を重ねて、母国の発音で呼んでくれたからだ。
散々付き合わされて、自分の名前を連呼するというわずかばかり恥ずかしいことを対面ですることになってしまった。
寂しくはないが、たまに感傷的になる。
宿ではなく軽く外で食事か久々に酒でも飲もうかと、外套を羽織り少し涼しい夜風の中外に出た。
少し歩くと、見知った顔が立っていた。自分とは違い、上着は着ていなかったが、寒そうではない。
体が強くて羨ましいことだ。
待っていたのか偶然か、相手も自分に気づき、名前を呼ばれる。
ふ、と、風が通り過ぎていったように錯覚した。
驚いた顔をなっている自覚はあった。それにしてやったりといいたげな顔を返されて、手の中の録音機を見せてくる。
影で練習したのなんていつもは見せずに格好つけるくせに。子供のように得意げに手を引いてくるのに、恥ずかしいのか嬉しいのかわからなかった。
ただ、目の奥がじんわり熱くなり、夜風がそれをさらっていった。
彼はいつも嬉しそうに私の名前を呼んでくれる。私は普段苗字でしか呼ばれたことがなかったから、それが特別な事で、とても嬉しかった。だから、私も名前を呼ばれると笑顔になるのだ。
「今日も貴方の笑顔は可愛いですね」
「あなたが私の名前を呼んでくれるからね」
両親以外で、私の名前を読んでくれる存在。それは私にとって彼だけだし、彼にだけ許しているような気がする。
「そういえば、俺の名前を初めて呼んでくれたのも貴方でしたね」
「そうなの?」
「はい、かなり幼い頃だから覚えていないでしょうけど」
お互いが名前で呼びあえる関係。私たちの間を隔てるものは何一つなく、いつも傍に居るのが当たり前のようなものだった。
テーマ「私の名前」
私の名前はみどりという。
新緑の美しい季節に生まれたからというのがその由来だ。
両親は私の名前をとても気に入っていて、私自身もまんざらでもなかった。
幼い頃は新緑の季節になるたびに両親から、道端の草木の瑞々しく鮮やかな色を「みどりちゃんの色だよ」と教えられ、くすぐったくも嬉しく思ったものだ。まるで世界が私を祝福しているかのように感じられた。
そうして育った私は、当然緑色も大好きだった。幼稚園のお友達がピンクや水色の髪飾りを着けている中、私は絶対に黄緑の髪飾りが良かったし、中でも葉っぱの形をしたヘアピンは特にお気に入りだった。
大人も単純なもので、みどりちゃんには緑色でしょ、と思うらしい。孫を可愛がりたいばあちゃんや姪を甘やかしたいおばちゃんはもちろんのこと、家に遊びに来たママの友達たちもこぞって緑色の服や靴、おもちゃをくれた。
今もリビングの片隅には全身緑色を着て、満面の笑みを浮かべる5歳の私の写真が飾ってある。
つまり、私はまごうことなき「緑ちゃん」だったのだ。
それがいつからか、緑色を身に着けなくなった。きっかけは何だったのかはっきりとは覚えていないが、小学生の高学年になる頃には「緑じゃないのがいい」と言っていたような気がする。
お友達に「みどりがすきなんて、へん」と言われたからなのか、「みどりがすきだからあげるね」と給食のピーマンを勝手にお皿に移されたからなのか、文化祭の劇で使うかぶりものを、それは本当はピンクが良かったのに「みどりちゃんだからみどりでしょ」と決めつけられたからなのか(みどりはカエル、ピンクはうさぎで、私はカエルはあまり好きではなかったのだ)、たぶんこういう小さなことが積み重なって、私は緑が好きであることを辞めてしまったのだ。
とはいえ、切っても切り離せない自分の名前である。好きではなくなっても嫌いにはなれなかった。大きくなってからも「やっぱり緑が好きなの?」と聞かれることは度々あって、そのたびに「うーん、6番目くらいかな」と答えていたが、これはほとんどその頃の本心だった。6番目なんて、他の好きな色がなくなったときに消去法で選ぶ程度の「好き」だ。
そんなこんなで、「まごうことなき緑ちゃん」は「ただの普通のみどりちゃん」になって久しい。今や持ち物に緑色はほとんどない。
先日、友達に誘われてあるバンドのライブを観に行った。そこまで詳しくはないが、友だちに借りて何枚かCDを聞いたことがある。
ライブの中盤、軽やかなギターで始まった曲に合わせて会場の照明が一斉に緑色に変わった。よく聞いていると、歌詞の中に「みどり」という言葉が聞き取れた。ボーカルの優しい声が木漏れ日のようなライトの中で、まるで希望を紡ぐように「みどり」と歌っている。緑色をこんなに美しいと、こんなに好きだと感じたのはいつぶりだろう。今この瞬間、私は私の名前と緑色をしっかりと愛していた。
帰り道にコンビニで緑色のボールペンを買った。
明日の街路樹はきっと今日よりも輝いているだろう。
ずっと私は自分の名前が嫌いだった。
私の名前の後には、いつも悪口が続くから。
私は頭が悪いとか、気が触れているだとか、
私の事を何も知らないくせに、私の名前を呼んでくる。
他人に呼ばれる自分の名前が大嫌いだった。
君は初対面なのに私の名前を呼んだ。
普通は苗字で呼ぶものでしょう?
馴れ馴れしくて感じが悪かった。
ただでさえ名前を呼ばれる事が嫌いなのに。
でも君は明るい声で、眩しい笑顔で私の名前を呼んだ。
私の名前の後にはいつも、私を慕う言葉が続いていた。
素直に嬉しかった。私の名前が輝いて聞こえた。
君が呼ぶ私の名前だけは、大好きになれた。
君が話せなくなった。
喉の癌だった。声帯を取ったらしい。
二度と君の口から音が出ることはなく、
二度と私の名前を呼ぶこともない。
それでも君はいつものように笑っていた。
私に向かって、とびきりの笑顔を見せるのだ。
君は泣いていないのに、笑っているのに、
どうしても涙を止めることが出来なかった。
君は呆れたように笑いながら、白紙に何かを書いた。
私に宛てたその紙には、大きく書かれた私の名前が。
それは、私の名前かわからないほど綺麗で。
見蕩れてしまうほど美しくて。
君の声で、君の手で、君の目で呼ぶ私は、
この世界の何よりも幸せだと思えたんだ。
今でも大切に仕舞っている。
どんな宝石よりも輝いている、私の名前を。
私の名前…思いついたら書くけど今日はたぶん思いつかん。
この目で見た物しか信じない。
この耳で聞いた物しか信じない。
嗅いで、味わって、触れたものしか。
だから形の無い『愛』は信じられないが、
キミの紅潮した頬と俺の手を握った手の震えと、上擦った声は信じてやろうと思う。緊張しすぎて言葉になってないけどな。
「俺も愛してるよ」
『五感を信じる』
……顔が赤いのはアルコールのせいなんかい。
(私の名前)
作者の自我コーナー
いつもの。私の名前ではないです。