さあ、今日も冒険だ。
お気に入りの靴を履いて、気持ちをこめてドアを開ける。
村から飛び出した勇者は、鬱蒼とした森を目指す。
ひとたび強い武器を手にいれた。
ただの細い木の枝と思うなかれ。
これは私にとっての最初の武器なのだから。
勇敢なる私は迷うことなく、恐れることなく進んでいく。
その先には魔王のいる城がある。
その城へと続く長い階段。きっと一筋縄じゃあいかないだろう。
それでもずんずん進む。
道中、草のかげから鳥が飛んでいったときは驚いた。
しかし私の敵ではない。
階段を登りきり、一息つく。
さあ待っていろ、魔王め。
木の枝をにぎりしめ、城へと向かう。
「なにをしているんだ?お嬢ちゃん」
見慣れない服を着たおじさんが箒を手にこちらをうかがっている。
私は仰天して後ずさりをした。
「ああ、あいつの友達か?おい、友達きてるぞ」
神社の裏から男の子がやってくる。
「なに、どうかした?」
「友達きてるって。夕飯までには帰ってくるんだぞ」
おじさんはそう言い残してどこかへ去っていった。
男の子と私、ふたりだけがその場に佇んでいる。
「ええと、だれだっけ。クラスメイトだったりする?」
彼の問いに私は首をかしげた。知らない子だ。
「おれ2組の、まさき。かがまさき」
「あれ、うちの学校は1組しかないけど」
まさきはくりくりの目をまんまるにしていた。
「え?ああ、学校がちがうのか。おれ、西小なんだけど」
「私、北小だ。そっか、学校ちがうんだ」
そりゃ、クラスメイトじゃないよね。とふたり同時に吹き出した。
「そうだ、名前は?君の名前」
君ってはじめて人に言われた。なんだかくすぐったい。
「私の名前はね、」
そしてまさきは仲間になった。
はじまりのはじまり。
7/21/2024, 1:08:10 PM