ソノレソレ

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『PM18AM20』
 人に溢れ賑やかだった朝と比べ物静かになった夕暮れが差し込む寂しげな廊下で絹のように細かく色白い美しい肌を持った女がぽっんと影が落ちた廊下の先を見つめていた。
「せーちゃん」
 陽が落ち薄暗くなった廊下の先を少し俯きながら見つめる彼女の背から一つ鈴のように愛らしい声が聞こえ彼女は後方へ振り向き穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「‥ユウ、遅かったわね」
「ご、ごめんね。少しお友達とお話してたら遅くなっちゃた、、、怒った?私のこと嫌いになった?」
「怒ってもないし、わたしは変わらず優のことが好きよ」
「そ、そう?えへへ、嘘でも嬉しいな。」
「嘘なんかじゃないわ、わたしがユウに嘘ついたことなんてないでしょう?」
「う、うん。そうだけど、少し不安になっちゃて、、、ごめんなさい」
「不安になったら何度でも言うわ、わたしは何があってもユウを嫌いになることなんてないし貴方はわたしの大切で大事な人よ、だから貴方は何より誰より自分を大切にしなさい。」
「どうして?どうして、せーちゃんは優しくしてくれるの?」
「貴方には何度も救われたからよ」
「‥‥意味わかんないよ」
廊下に冷たい風が吹き髪が少しだけ揺れる、瞳を潤ませいまだ答えを考え続ける目の前の愛しき人から視線を逸らし窓の外を眺めた。
「そろそろ陽が暮れるわね、暗くなる前に帰りましょう。」
「‥うん」
 黒と緋が混じる夕暮れの校庭を歩く二つの影が仲良く手を繋いで歩いていた。
一つの影は前を向きながら片方の影の手を優しく包み込みながら歩く、もう一つの影は片方の影を見つめながら結ばれた手と手を確かめるように歩く。
 お互いなくてはならないけれど決して相容れることはない二つはこの時だけは愛情も嫉妬も恋慕も不安も忘れ一つになり並び合うことが出来る。
 これは、まだひぐらしが鳴かぬ夏の思い出、彼女がまだ側にいた大切な思い出。

7/21/2024, 2:23:51 PM