ソノレソレ

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7/21/2024, 2:23:51 PM

『PM18AM20』
 人に溢れ賑やかだった朝と比べ物静かになった夕暮れが差し込む寂しげな廊下で絹のように細かく色白い美しい肌を持った女がぽっんと影が落ちた廊下の先を見つめていた。
「せーちゃん」
 陽が落ち薄暗くなった廊下の先を少し俯きながら見つめる彼女の背から一つ鈴のように愛らしい声が聞こえ彼女は後方へ振り向き穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「‥ユウ、遅かったわね」
「ご、ごめんね。少しお友達とお話してたら遅くなっちゃた、、、怒った?私のこと嫌いになった?」
「怒ってもないし、わたしは変わらず優のことが好きよ」
「そ、そう?えへへ、嘘でも嬉しいな。」
「嘘なんかじゃないわ、わたしがユウに嘘ついたことなんてないでしょう?」
「う、うん。そうだけど、少し不安になっちゃて、、、ごめんなさい」
「不安になったら何度でも言うわ、わたしは何があってもユウを嫌いになることなんてないし貴方はわたしの大切で大事な人よ、だから貴方は何より誰より自分を大切にしなさい。」
「どうして?どうして、せーちゃんは優しくしてくれるの?」
「貴方には何度も救われたからよ」
「‥‥意味わかんないよ」
廊下に冷たい風が吹き髪が少しだけ揺れる、瞳を潤ませいまだ答えを考え続ける目の前の愛しき人から視線を逸らし窓の外を眺めた。
「そろそろ陽が暮れるわね、暗くなる前に帰りましょう。」
「‥うん」
 黒と緋が混じる夕暮れの校庭を歩く二つの影が仲良く手を繋いで歩いていた。
一つの影は前を向きながら片方の影の手を優しく包み込みながら歩く、もう一つの影は片方の影を見つめながら結ばれた手と手を確かめるように歩く。
 お互いなくてはならないけれど決して相容れることはない二つはこの時だけは愛情も嫉妬も恋慕も不安も忘れ一つになり並び合うことが出来る。
 これは、まだひぐらしが鳴かぬ夏の思い出、彼女がまだ側にいた大切な思い出。

7/12/2024, 1:38:54 AM

『PM17AM30』

「瀬良先輩ーー!!!」
夕暮れが迫り影に飲み込まれそうな校舎内で明るく活発な声が響く、太陽みたい輝く笑顔はその人柄を思わせる。
彼の名前は賀美能 暁人、この『樹天学園高校』のアイドルてき存在だ。
「ちょっと!少し声を落としなさいよ。誰かいたらどうするの。」
「えへへ、ごめんなさい。瀬良先輩がいたから嬉しくて声が大きくなっちゃいました。」
そう言い彼はどこか恥ずかしそうに視線を逸らしながら右側の耳たぶをつまんだ。
「あなたも暇じゃないんだから私に構う必要はないわよ」
「俺にとって瀬良先輩と過ごせる時間は有意義な時間ですよ‥‥‥瀬良先輩?」
先ほどまでの彼の態度と一変し真剣な眼差しで瀬良を見つめた彼を尻目に彼女は遠くを見つめていた。
「‥‥ユウ」
寂しげな彼女の視線の先には複数の人間に囲まれ頬を紅くし笑うこの学園では有名な生徒の姿があった。
「瀬良先輩」
「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていて聞いていなかったわ」
「‥瀬良先輩は、」
「‥?どうかしたの?暁人」
「へへ、やっぱなんでもないです。」
そう言い彼は視線を逸らしながら遠くを見た。
「‥不満があるとき視線をまったく合わせようとしないところ変わってないわよ、暁人。」
「あは、やっぱりバレたか。」
視線を戻し右手で自分の左手首を掴みながら戯けたように笑う彼はどこか狂気的で美しい危うい雰囲気をまとはわせて彼女の瞳を見つめた。
「暁人、あなた最近白々しいわよ。何か言いたい事があるならはっきりといいなさい。あなたも私もあの頃みたいな無知な子供じゃないのだから」
「白々しい?どこら辺が?瀬良先輩にはどんな風に俺が見えるの?」
「‥あなたは私の大事な従兄弟よ、それ以上でもそれ以下でもないわ。」
彼は視線を落とし口元をゆがめ笑いながら一言、
「‥はは、知ってたよ。音御姉」
「あ、ちょっと暁人!」
そう言いながら静かに背を向けて彼女から去って行った。
 
 人に溢れ賑やかだった朝と比べ物静かになった夕暮れが差し込む寂しげな廊下で絹のように細かく色白い美しい肌を持った女がぽっんと影が落ちた廊下の先を見つめていた‥‥

5/14/2024, 4:59:38 PM

『1年30日』

風に身を任せわたしは空へ、、、旅立とうとした。
けれど、やはり泣き虫で優しいわたしの大切なあの子が心配なのでまだまだこの世に残ろうと思う。
あの子と出会ったのはまだ肌寒い春の日、木の木陰でひとり座り込んでいる可愛らしいあの子にどこか惹かれ「わたしの名前は瀬良音御、わたしとお友だちになりましょう!」と偉そうに言ってしまったのが今でも恥ずかしい。昔から偉そうにその人の気持ちになったように発言してしまうのはわたしの悪い癖だ。この悪癖のせいでわたしは小学4年にもなっても友だちと言える存在は誰一人といなかった。
そんなわたしに引かずただ驚いたように一言
「う、うん。僕も友だちになりたい」そうはにかみながら言ってくれた。あの時の嬉しさは今でも鮮明に思い出せる。
 友だちになったわたし達は出会いが唐突すぎたのでいま一度、自己紹介から始めた。
「ゴッホン、もう一度いうわね。わたしの名前は瀬良音御。好きな事はボードゲームに絵を描くこと、それから、、、なんかめんどくさくなってきたわ。どうせこれからずっと一緒にいるのだから後から知っていけばいいのだわ。それよりあなたのお名前を一度も聞いていないわ、お名前きかせてちょうだい。」言ってしまったあとに少し後悔した。何が「これからずっと一緒にいる」だ。ずっとや永遠なんてないことなんてあの頃のわたしも知っていたはずなのに、それに最終的には他人任せな態度やめようて何回も後悔したはずなのにまた口に出してしまった自分に恥じた。
そんな傲慢な態度のわたしにあの子は怖がりもせずに答えてくれた。本気で本当に嬉しかった。
「ぼ、僕の名前は川澄陽一」
「川澄陽一ね覚えたわよ。貴男、好きな事とかないのかしら?」
「す、好きなことはえっと、その」
「?言いづらいことなの?‥‥なら、別に無理して言う必要はないわよ」
「‥‥女の子の格好すること。‥き、気持ち悪いよね。ごめんなさい。」
「何を謝る必要があるの?女の子の格好するのが好きなんでしょ?もっと堂々としなさい何も恥じるべきことはないわ。」
「‥でも、皆がお母さんお父さんが気持ち悪いて」
「‥‥わかった。貴方のこと否定する奴らはわたしが成敗するわ。だから、貴方は全力で好きな事をしなさい。」
「な、なんで?どうして僕に優しくしてくるの?」
これがあの頃のわたしに出来る恩返しだったこんなわたしと友だちになってくれたあの子にわたしは何としてでも幸せになってもらいたかった。
 それから色んなことがあったあの子を馬鹿にする奴らを成敗したり。わたしの誰も知らないお気に入り場所に連れて行ったり、あの子を馬鹿にする奴らを成敗したり。あの子が好きそうな服をプレゼントしたり、あの子を馬鹿にする奴らを成敗したり。あの子と服を交換してみたり、あの子を馬鹿にする奴らを成敗したり。本当に色んなことが起こった。あの子と出会えて毎日が楽しかった。この時間が永遠に続けばいいと何度も思った。
 でも、やはり人生はうまくいかないものだと思った。
それは、中学にあがった頃だった。
ただでさえ可愛らしいあの子が中学にあがった瞬間、もっと可愛いらしくなってしまった。
あの子の魅力に気づいた周りの奴らは瞬く間にあの子に群がってしまった。そのせいであの子はわたし以外の友達が沢山できた。悔しいし寂しかったけど沢山の人に囲まれ幸せそうに笑うあの子を見たらなんだかわたしも幸せな気分になった。
 高校になった頃は本格的にあの子と会う機会がなくなった会える日といえば週1でわたしのお気に入りの場所で近況報告をしあうぐらいだ。それに、あの子は最近、男の人と付き合ったらしい本格的に寂しくなったし本当はもっと一緒にいたかったけどただの友達の一人であるわたしがあの子を縛る道理なんてないし、いい加減、傲慢な態度を直したかったのでここは大人になってあの子の幸せをただただ祈った。
 この時の判断を後にわたしは深く後悔した。
それは、あの子と付き合った男の人があの子をレイプした後に男の人の友人を呼び集団であの子をレイプをしたと噂になり始めた頃だった。わたしが噂を聞きつけあの子のところへ行った頃には全てがもう遅かった。あの子の幸せを願い選択した行動があの子を不幸にさせた。あの子の幸せを守ろうと出来る限りのことをしてきたのにわたしのたった一つの選択で全てが泡のように消えてしまった。
 あの日からあの子は狂ったように他の人と付き合っては別れるを繰り返した。わたしが止めようとしてもわたしのことが目に入ってないのか、それともあの子を守ることが出来なかったわたしなど忘れてしまったのかわたしのことを見ようともしなかった。虚しかった悔しかった悲しかった。あの子のために何もできないわたしがもっと嫌いになった。

‥‥‥そしてわたしはナイフを胸元から深く刺された。別に自分を刺したとかあの子に刺されたとかじゃない。
沢山の人の感情を弄んだあの子の被害者である1人があの子に向かって襲いかかったのを庇ったからだ。
後悔はぜったいにしない、だってあの子の大切な未来を守ったから。
 きっと今がどんなに辛くてもあの子なら大丈夫。きっと明るい未来があの子にはいつか訪れる。わたしが人生で1番辛くて死んでしまいたいときに貴方という光を見つけたみたいに。
だから、泣かないで。
「大好きだよ、優」

5/14/2024, 11:15:09 AM

『1時間30分』

瀬良音御は私にとって大切な人であり私だけの神様だった。
 瀬良音御に初めて出会った日は私がまだ小学4年生の冬の名残が残る肌寒い春初の日、君はひとり木陰の下でうずくまる私に周りの目など気にもせずに優しく声をかけてくれた。
その日から君は私の神様になった。
 瀬良音御は唯我独尊で自己中心的な性格だった。
だけど、君は他者を認め受け入れる優しさと強さを持った人だった。そんな君に私は惹かれた。
 瀬良音御は美しい人だった整った容姿に鈴のような綺麗な声、私とは違う恵まれた環境そんな君に私は憧れた。
 瀬良音御はよく私を守ってくれた、私を疎み蔑む両親から私が気持ち悪いと私の髪と服を切ってきた同級生から苦痛から全てのことから私を守ってくれた。
そんな君に好意をよせた。
 瀬良音御は秘密を共有するのが好きだ、夏の真夏日に私にだけ教えてくれた君のお気に入りの場所。
‥‥君と私だけの秘密だった。
 瀬良音御は成長するにつれその容姿にも磨きがかかっていきました。私は君の隣に堂々と立てるように努力をした。その甲斐あってか周りの人の視線はどこか柔らかくなっていきました。
 高校に入る頃には私を取り巻く環境は少しずつ変わっていきました。友もでき舞い上がる私を君は少し寂しそうな顔で微笑み。その表情を見た私はどこか得体も知れない感情に襲われました。
 友が増え他の人たちと関わるにつれ私と瀬良音御は関わる機会が少なくなりました。昔は家に帰るまでずっと一緒にいた君ですがいまは週に一回しか会えません。
けれど、君と私は2人だけの秘密を共有しているのです。決して寂しくありません。
 秋の空、私は名も知らぬ男に告白されました。
最初は疎ましく感じていましたがある時、あの日の君の表情を思い出し私はなぜか告白を受けてしまいました。
 私が男と付き合ったと知った時の瀬良音御の顔を私は今でも鮮明に覚えています。綺麗な顔がこれでもかというくらい歪め、何かを押し殺したかのように私に一言「おめでとう」そう言いました。
 私が初めて付き合った男はそれは酷い男でした。私の同意もなしに口を乱暴に弄り体を撫で、多数の人間に私を道具のようにまわし、ボロボロになった私を最後はゴミのように捨てました。その時からでしょう。もともと狂っていた私の歯車が完全に狂い出したのは。
 私は肉体の快楽を覚え夜にだんだん染まっていきました。学校にも行かず朝から晩まで知らない男や女と遊んでばかりで最後まで私のことを心配した瀬良音御をよそに今を全力で楽しみ性を謳歌しました。
 何人目かの男に私は瀬良音御と私だけの秘密の場所を明かしました。湖が見える丘の上で私は男とキスをしました。息が詰まるほどのキスを私は好きでもない男と繰り返し繰り返し、熱く熱く、絡め合いました。
私は知っていたのです。私と男が秘密の場所でキスをしている所を目撃した瀬良音御が涙を堪え走り去っていくのを。それを知っていながら私はキスをするのがやめられませんでした。
‥‥私は君の泣く姿にどうしようもなく興奮したのです。
 秋が終わる頃、瀬良音御は私の前で死にました。
複数の男や女を弄び沢山の人から幸せを奪った私を恨んだ者が刃物を持って私を刺そうとしたところを君は私を庇って死にました。だんだん冷たくなる君の体に私は縋り付きました。刺されて痛いはずの君は私を恨みもせず最初に会った時のように声をかけました「大好きだよ」そう残して君は私をおいていきました。
 
もういません、優しい声で私の名を呼んでくるの人は。
 もういません、私を受け入れ優しく抱きしめてくれる人は。
 もういません、私の浅ましい嫉妬や羨望も受け入れて傍にいてくれる人は。
 もういません、私に降りかかる不幸や苦痛から守ってくれる人は。
 もういません、私にだけ秘密を共有してくれる人は。
 心と体がバラバラな私と僕を受け入れ優しく微笑んで抱きしめてくれた瀬良音御は、君は、もういません。
 もういません、もういません、もういません。