ソノレソレ

Open App

『1時間30分』

瀬良音御は私にとって大切な人であり私だけの神様だった。
 瀬良音御に初めて出会った日は私がまだ小学4年生の冬の名残が残る肌寒い春初の日、君はひとり木陰の下でうずくまる私に周りの目など気にもせずに優しく声をかけてくれた。
その日から君は私の神様になった。
 瀬良音御は唯我独尊で自己中心的な性格だった。
だけど、君は他者を認め受け入れる優しさと強さを持った人だった。そんな君に私は惹かれた。
 瀬良音御は美しい人だった整った容姿に鈴のような綺麗な声、私とは違う恵まれた環境そんな君に私は憧れた。
 瀬良音御はよく私を守ってくれた、私を疎み蔑む両親から私が気持ち悪いと私の髪と服を切ってきた同級生から苦痛から全てのことから私を守ってくれた。
そんな君に好意をよせた。
 瀬良音御は秘密を共有するのが好きだ、夏の真夏日に私にだけ教えてくれた君のお気に入りの場所。
‥‥君と私だけの秘密だった。
 瀬良音御は成長するにつれその容姿にも磨きがかかっていきました。私は君の隣に堂々と立てるように努力をした。その甲斐あってか周りの人の視線はどこか柔らかくなっていきました。
 高校に入る頃には私を取り巻く環境は少しずつ変わっていきました。友もでき舞い上がる私を君は少し寂しそうな顔で微笑み。その表情を見た私はどこか得体も知れない感情に襲われました。
 友が増え他の人たちと関わるにつれ私と瀬良音御は関わる機会が少なくなりました。昔は家に帰るまでずっと一緒にいた君ですがいまは週に一回しか会えません。
けれど、君と私は2人だけの秘密を共有しているのです。決して寂しくありません。
 秋の空、私は名も知らぬ男に告白されました。
最初は疎ましく感じていましたがある時、あの日の君の表情を思い出し私はなぜか告白を受けてしまいました。
 私が男と付き合ったと知った時の瀬良音御の顔を私は今でも鮮明に覚えています。綺麗な顔がこれでもかというくらい歪め、何かを押し殺したかのように私に一言「おめでとう」そう言いました。
 私が初めて付き合った男はそれは酷い男でした。私の同意もなしに口を乱暴に弄り体を撫で、多数の人間に私を道具のようにまわし、ボロボロになった私を最後はゴミのように捨てました。その時からでしょう。もともと狂っていた私の歯車が完全に狂い出したのは。
 私は肉体の快楽を覚え夜にだんだん染まっていきました。学校にも行かず朝から晩まで知らない男や女と遊んでばかりで最後まで私のことを心配した瀬良音御をよそに今を全力で楽しみ性を謳歌しました。
 何人目かの男に私は瀬良音御と私だけの秘密の場所を明かしました。湖が見える丘の上で私は男とキスをしました。息が詰まるほどのキスを私は好きでもない男と繰り返し繰り返し、熱く熱く、絡め合いました。
私は知っていたのです。私と男が秘密の場所でキスをしている所を目撃した瀬良音御が涙を堪え走り去っていくのを。それを知っていながら私はキスをするのがやめられませんでした。
‥‥私は君の泣く姿にどうしようもなく興奮したのです。
 秋が終わる頃、瀬良音御は私の前で死にました。
複数の男や女を弄び沢山の人から幸せを奪った私を恨んだ者が刃物を持って私を刺そうとしたところを君は私を庇って死にました。だんだん冷たくなる君の体に私は縋り付きました。刺されて痛いはずの君は私を恨みもせず最初に会った時のように声をかけました「大好きだよ」そう残して君は私をおいていきました。
 
もういません、優しい声で私の名を呼んでくるの人は。
 もういません、私を受け入れ優しく抱きしめてくれる人は。
 もういません、私の浅ましい嫉妬や羨望も受け入れて傍にいてくれる人は。
 もういません、私に降りかかる不幸や苦痛から守ってくれる人は。
 もういません、私にだけ秘密を共有してくれる人は。
 心と体がバラバラな私と僕を受け入れ優しく微笑んで抱きしめてくれた瀬良音御は、君は、もういません。
 もういません、もういません、もういません。

5/14/2024, 11:15:09 AM