『特別な夜』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『特別な夜』
1匹の蝶が、午後の光のなか、ひらひらと風に舞う。
それを夢中になって追いかける、幼少の女の子がいた。こるりだ。走りっぱなしで頬は赤く、足元も時々つまづくが、目をぱっちりと開けて、笑みを浮かべながら蝶を追いかける。
蝶を両目で見続けながら走っていたこるりは、突然柔らかい何かを踏みつけて大きく転んだ。
「ぐえ」
顔をこすりこすり体を起こして振り返ると、そこにはまっすぐな髪が印象的な男の子がいた。その男の子は、こるりよりやや年下に見える。お腹を踏まれたらしいその子は、痛みに顔を顰めながら、つまづいて倒れたこるりのほうを見ていた。
「あの、ごめんね!見てなくて。大丈夫?」
こるりは急いで飛び上がって、その子を介抱する。
「だ、大丈夫。もう治った。」
その男の子はこるりを安心させるように笑いながら上半身を起こした。
風がそよそよと2人の周りの草を揺らした。土の埃っぽい匂いと、草のツンとする匂いが、濃く漂った。
「ここで寝そべって、何してたの?」
「えっと、空、見てた。」
その男の子は、少し照れながら、答えた。
「へぇ!面白そう!」
目を輝かせるこるりの脇で、その男の子はもう再び横になった。それに倣って隣に仰向けに倒れたこるりの目に、先ほどより水色が薄くなった空が飛び込む。
「きれー!」
「草になってみるのも悪くないんだよ。」
その男の子はこるりのほうを見て、楽しそうに言った。刻々と空は夕焼け色へとページを捲り始める。
2人はそのまま空がだんだんと色を変えていく様を見続けた。時々、蝶がその上を気紛れに横切った。
やがて、日も静かに沈み、あっという間に紺色の空に星が瞬き出した。
その男の子はゆっくりと体を起こして、うーんと背伸びをした。その顔を覗き込むと、晴れやかな顔をしていた。その顔を見れて、自然にこるりの口角も上がる。
「初めて夜がやってくるの、ちゃんと見たかも。」
「そっか!さっきのが、じゃぁ、1回目で特別かもね。」
その男の子は整った黒髪をさらさらと風に流しながら、楽しげに言った。
「これから、ちゃんと最初から来るの見てた夜が始まるね!おれ、わくわくするんだ、いつも。」
「わたしも!」
こるりとその男の子はにこっと笑い合って、ばいばいと手を振った。
家に帰ると、母親から遅い帰りを散々怒られた。そのあと、弟のたけ坊と一緒にご飯やお風呂を済ませ、寝床に入るまで、いつもは感じていない夜の気配がずっと意識された。
目を閉じる。目を閉じたこるりの目の裏側には、今日だった昔に思える映像が朧げに映し出される。
(この夜が、ちゃんとやってくるのを、わたし、見てたんだ。)
不思議と誇らしいような気持ちを感じる。
(わたしが起きるまで、そこにいてね。夜?…)
そんな願い事を心で唱えながら、こるりの今日は静かに閉じた。
戸を叩く音がした。
「どちら様ですか?」
玄関越しに声をかけるが、返事はない。
恐ろしい感じはしなかった。戸越しに何かを迷い、気にしているのが伝わってくる。
戸惑いがちにもう一度、戸が叩かれる。
「夜分に、申し訳ありません。少々宜しいでしょうか」
控えめな声。やはり、何かが気にかかるのだろうか。
そんなことを思いながら戸を開けた。ひゅうと、冷たい風が吹き込んで、玄関先を雪が染めていく。
「よかった。あなた様が受け継がれたのですね」
戸の向こうにいた小柄な誰かが、安堵の息を吐く。その顔は深く被った笠に遮られ、見ることはできない。
「ご用件は何でしょうか」
首を傾げ、問いかける。それに慌てた様子で、誰かはそっと手を差し出した。
「申し訳ありません。こちらをどうぞ」
手袋に包まれた手に乗せられていたのは、たくさんの種類の花の種。
「えっと……これは?」
「遅ればせながら、贈り物にございます。正式に継がれたと話をお聞きしたのがつい先日のことでした故、挨拶が遅れまして大変申し訳ありませんでした」
「あ、その……お気になさらず?」
深々と頭を下げられ、内心で焦る。受け取ればいいのだろうかと、手を出した。
手に乗せられた花の種。自分でも知っているような特徴のある種や、見知らぬものまで様々だ。
嬉しくなって、口元が緩む。どんな花が咲くのだろう。どこに植えようか。そう考えるだけで、楽しくて堪らない。
「ありがとうございます。大切に育てます」
頭を下げれば、笠の向こう側でふふ、と小さく声がした。
顔を上げ、目の前の誰かを見つめる。相変わらず顔は見えない。それでも穏やかに微笑んでいる気配が伝わってくる。
「いえ。礼を言うのはこちらです……この度は受け継いで頂き、ありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願い致します。」
居住まいを正し、目の前の誰かが再び頭を下げる。慌てて同じように頭を下げ、次に頭を上げた時、そこにはもう誰の姿もなかった。
「誰だったんだろう?」
何も聞けなかったことを残念に思う。
相手が誰だか分からなければ、お礼をすることもできない。種を見ながら溜息を吐く。
玄関から顔を出すが辺りは暗く、人影は見えない。冷たい風に押し戻されるようにして中に戻り、戸を閉めた。
いないのであれば仕方ない。頭を振って、薄く積もった雪を散らした。
種を育てていれば、また会いにきてくれるかもしれない。その時に改めて礼をしよう。そう思い、手の中の種に視線を落とす。
不意に吹き込んだ隙間風に、ふるりと肩を震わせる。すっかり体が冷えてしまった。風邪を引く前に暖まらなければと、足早に部屋へ向かった。
「誰が来てたんだい?」
部屋に戻ると、待っていた彼が不思議とそうに首を傾げた。
どう伝えればいいのか分からず、ただ首を振る。誰だったのか、性別も年齢も分からなかった。小柄ではあったが、落ち着いた声からは判断できない。
無言で手の中の花の種を見せる。種だけでは相手も分からないだろうとも思ったが、しかし彼には誰が来たのか大体の予想はついたらしい。種を受け取り手のひらで転がし目を細めて、あぁ、と小さく呟いた。
「誰が来たか、分かったの?」
「まぁね。お祝いにくれたのだろう?庭に植えてあげると、きっと喜んでくれるよ」
誰が、とは教えてはくれない。彼のことだ。聞いても、いつか分かると、笑って何も言わないのだろう。
彼は特にこの家のことに関しては、何も教えてくれない。後で分かることだと、気になって仕方ない自分に穏やかに笑いかけるだけだ。
密かに溜息を吐きながら、彼と向かい合う位置でこたつに入る。こたつの中でもどこか冷たい彼の足を、八つ当たり気味に蹴って天板に突っ伏した。
「そんなに怒らないで。楽しみはとっておいた方がいいじゃないか」
客人が誰なのか知りたいと思うのは、楽しみなのだろうか。顔を伏せたまま、眉間に皺を刻む。
「春になれば、また会いに来てくれるよ。この家は色々と賑やかになるからね。一気に知るよりも、相手が名乗った時に少しずつ知っていく方が混乱しないと思うよ」
「――賑やかなの?」
想像がつかなくて、半分だけ顔を上げて彼を見た。
自分が継いだこの家は、親戚が寄りつくことはない。立地もそうだが、ある日突然押しつけられる形で相続した時のことが頭を過ぎる。
取り壊し、土地を売ると決まっていたはずだった。自分とは関係のない相続の話し合いで終わっていたと言うのに、家を継げと言った親戚はどこか青ざめた顔をしていたように思う。
「賑やかだよ。だから、ここを継ぐことになったんだろう?」
「知らない。何か言う前に、全部決まってたし」
自分以外の大人たちが、夜遅くまで話し込んでいたのは知っているが、話し合いには参加をさせて貰えなかった。次の日に疲れた顔の両親から家を継げと言われここに来てから、そろそろ半年が過ぎようとしている。
そう言えば、あの日は今日と違いとても暑い夜だったなと、ぼんやり思う。季節が違うのだから当然ではあるが、なんだか実感が薄い。数日前の出来事のようで、寒い今が不思議に思えた。
「何だか、夏の夜から一気に冬の夜になったみたい」
「ここは静かだから、時間の流れがゆっくりに感じられるんだろう。ぼんやりしていたら、一年なんてあっという間に過ぎていくよ」
「やだなぁ。家の管理をしているうちに、どんどん年をとっていくのか……」
はぁ、と溜息を吐きながら、目を閉じる。冷えた体がこたつと石油ストーブで暖まり、眠くなってきてしまった。
「寝るなら、ちゃんと布団に入らないと駄目だろう」
「ちょっとだけ寝たら起きるから大丈夫……おやすみ、叔父さん」
きっと起きないだろう。そうは思ったが、眠いのだから仕方ない。
今夜だけ、特別。心の中で言い訳をして、そのまま意識は夢の中へと落ちていった。
柔らかな朝の日差しに、目が覚めた。
こたつではなく、自室のベッドで寝ていることに驚く。起き上がりながら、机の上に置かれた種を見て、思わず苦笑した。
「また叔父さんが来てたんだ」
この家を継いでから、時折現れる彼の幻。いつも違和感なく受け入れて、後になり幻だったと思い出す。
彼と過ごす夜に、特別な何かがあるわけではない。ありふれた日常の延長線。そこに彼が入り込んでいるだけ。
けれど、こうして一人で朝を迎える度に思う。
彼と過ごす夜は、何よりも特別で大切な夜だったと。
「せっかく貰ったし、今日は種を植えようかな」
種を手に、窓の外を見る。
快晴。薄い青がどこまでも続く空の下、種を植えたら、きっと綺麗な花が咲いてくれるだろう。
今から春が待ち遠しい。
花の咲き乱れる庭を思い浮かべながら、机の上の少し色褪せた彼の写真を突いた。
20260121 『特別な夜』
《特別な夜》
書けたら書きたい
2026.1.21《特別な夜》
《シェア》#1 2026/01/22
ああ、すっごく良かったな……
客電が点灯されたライブハウスで私は立ち尽くしている。私の最推しバンドのラストライブが、今終わったのだ。
先ほどまでの熱狂は雲散霧消し、ステージには機材とセンターにポツンとマイクスタンドが立っている。
でも、私には、そこにまだあなたが居るみたいに思えて。
「トモヤ!トモヤ!トモヤ!トモヤー!」
無人のそこに向かって、全力のメンバーコール。今日で最後なんだ、感情の出し惜しみなんて、無しだ。
「トモヤーーー!」
すぐ隣から、私と同じくらいの大声が。隣を見ると、泣きはらしてメイクなんかグチャグチャな女の子がいた。
きっと私もおんなじ顔してる。
ふと、目があった。何かが、通じた
「「トモヤ!トモヤ!トモヤ!トモヤー!」」
気が付いたら、良く分かんないけど、二人で手を繋いで、思いの丈を大声で叫んでた。
息を切らした瞬間、退場を促すアナウンスが流れる。
「出ようか」
彼女が声をかけてきて、
「うん」
私が応えて。
ハコから出て、外に貼ってあったライブのポスター見上げて、そしたら何かがこみ上げてきて、彼女と抱き合って、泣いた。
あの日、私と心が通じあった彼女は、今も隣にいる。
ずっと思いを馳せいていた彼に振られた。
なんとも言えない気持ちだ。まぁこれも苦い思い出に
なるんだろうけど。なんだかね。
ずっとずっと私には特別というものがなかった
ひたすら思うままに何も考えず
後先考えず生きてきたの( ꒪꒫꒪)
自分の為に生きれない
好きでもない誰かの為に生きなきゃならない日々
サウザーの配下にでもなった感覚(ˆ꜆•̥ ·̭ •̥꜀ˆ)
絶望的世界から勇気出して飛び出した朝
気づけばもう夜⋆☽☁︎︎*°
その夜こそ私にとって特別な夜となり
特別な人と出逢った日( ᎔˘꒳˘᎔)️♡
あの時、初めて自分の為に誰かのために大きく踏み出した自分を最高に褒めてあげたい(* 'ᵕ' )☆
いまの幸せがあるのは過去の勇気ある自分( ´˘` )ネッ
特別な夜は忘れるまで忘れないからねっ!!!
「やっぱ割に合わないよな」
そう思いながら寒さの中で待機していた。ここは北端にある刑務所。どうせなら南米のあったかいところがいいといつも思っているが、やはり寒いだけある。罪の重さが違う。軽罪の罪人は居なくはないが冤罪が多い。囚人の多くは勘が別格。刑務所は動物園。見下されて怯える熊、どこにいるか分からない山猫、人間見下している狒々。そして自分が見下されていることに気づいていない人間。
何もない檻はいつも自分自身の本質が反射する。気が狂って手足を噛みちぎり、内臓が無造作が牢にこびりつく。
そして私はとりにいく。
日が寒さに押し込まれる。
闇が霧のように窓から入り込む。
囚人は凍える。
私たちは鎌を握る。
そしていつしかこう呼ばれるようになった。
‘死神’と
みんなも悪さはしないように。殺させるより、自殺するより、刈られる方がよほど痛い。痛いなんてもんじゃない
囚人は痛みで叫ぶ
叫ぶ勢いで魂が飛び出す
寒さで冷えた手は魂が逃げるのを許してはくれないよ
「特別な夜」
あの日、星も降らない、花火も上がらない、なんなら星も見えない、静かで、少し霧がかった夜。
紫色の月光がそっとヴェールを下ろす中、私は初めて空を飛んだ。
いつも閉め切られている窓を少し押したら開いたから。
外の風があまりにも心地よかったから。
いや、それらは単に言い訳で昔を思い出したからというのが一番正しいかもしれない。
久しぶりのアスファルトの感触はやっぱり絨毯とは違って痛くて走るしかないと思った。
鈍った重い体を必死に風に乗せてかつて私の世界だった街を走り抜けた。
首の鈴が私に警告し続けるけれどもう耳に入らなかった。
嗅ぎ慣れたスパイシーな香りがするたびに暖かな絨毯を思い出したけれど、もう足は止まらなかった。
今日だけ、今夜だけ。すぐ帰るから。
月がどれだけ照らしても私の黒い身体は黒いまま。
その優越感がとてつもなく心地よかった。
17時過ぎたらもう真っ暗
まだ春は遠い
なんて思いながら夜空を見上げたら
月が紫色に染まっていた
違う、いつもの月は黄色いままだ
その晩、月がなぜか二つあった
紫色と黄色が混じった夜に
二つの月に背を向け安全であることを確認すると
私は宇宙について考えた
特別な
夜
完
いつも通りのご飯を食べて
あったかいお風呂にゆっくり浸かって
一日の終わりにちょっとご褒美時間をつくる
豪華なご飯じゃなくても、着飾らなくても…
特別な時間ってできるのかもしれない
「特別な夜」
お風呂も入ったし歯磨きもした。
あとは布団に入って眠るだけ。
颯爽と布団に潜り込みラジオ配信のチャンネルを合わせる。
もう少し、あと少しだね。
始まるまであと5分とちょっと。
待ちきれなくてそわそわする。
前番組から耳を澄ましてワクワクしながら始まりを待つ。
何だろ、ラジオ待つって久しぶりかも。
最近は動画やら配信なんていつでもどこでも見れるようになった。
リアタイでラジオって中々ないかも。
でも今回は特別!
俺の推しがあの有名なラジオに出るらしい。
それを知ってからこの日をすごく楽しみにしてたんだ。
もう日付けも変わると言うのに全然眠くならない。
むしろ目が冴えるばかり。
今日ばかりは時計の針も進むのが遅い。
じりじり待ってるとあの有名なイントロが流れてくる。
「やぁ!みんなげんき〜?」
来た!!待ちわびたその声。
「スンスン!!!」
思わずスマホを握りしめて大声を出してしまう。
可愛い可愛い可愛い。
癒されるー。
俺の推し!!
「あのねーあのねー」
可愛い声がスマホから聴こえる。
「みんなのふわぁっ♪な瞬間教えてくれるー?」
いまがまさにその瞬間だよ!!
スンスンスンスンよかったねー。
すごいよラジオなんて。
こんなに声が聞けて嬉しい。
今日は君にとっても俺にとっても特別な夜。
そっと目をとじて君の声に耳を澄ます。
穏やかでちょっと間の抜けた可愛い声が耳に心地いい。
また聴けるといいな。聴けるよね?
だってスンスンだもん。
自然に顔がゆるんで身体の力も抜ける。
きみは俺に元気をくれる。
自慢の推しだよ。
また明日もがんばるね。
(特別な夜)
スンスンANNおめでとう!!
今から楽しみ♪♪
放送前なのに放送してしまったかのような話し(笑)
「特別な夜」
今まで、「好き」と、言ったことがない
言われたこともないし
言わせない様にしてきた。
初めて「好き」と、言った夜
言わなかった私が、言った私をくすぐる。
言われた人も、つられて、笑ってた。
女子A「『特別な夜』なんて言葉を使うキャラって、だいぶ限られてこない?」
女子B「そうなの?」
A「コホン……『(低い声)今夜は特別な夜になるだろう』」
B「権力者、悪役の幹部、それかスパダリ、かな?」
A「『特別な夜にしてあげる』」
B「スパダリだなぁ」
A「『あの特別な夜のことを忘れたのかい?』」
B「ハーレクイン的な洋物スパダリ」
A「『君との特別な夜に乾杯』」
B「ホテルのスイートもしくは豪華客船に連れ込まれてます…スパダリに」
A「ほらぁ。ね? 『特別な夜』なんて言葉、一般人は使わないって!」
B「あーまぁ文章にはするかもだけど、セリフとしては言わないかもなぁ……にしてもさぁ、読書傾向からくる例えが偏り過ぎじゃない?」
A「オッケイ、じゃあ……『(カン高い声)今夜は二人の、特別な夜にしようねっ』」
B「あー……妄想上のオンナ。ぜってーいねーよ、そんなヤツ」
A「やだ不評? いやまぁスパダリもね、妄想上のオトコなわけなんですけど」
B「あっはーい。さて、おかわり生🍺も来たことだし? こうなったら、もう……私たち二人の特別な夜に、乾杯っ!」
A「かんぱ〜い! ……ぷっはー。ってどうすんのこれ、このメンツでここから特別な夜にしないとだよ笑」
B「『(イケボ風)君がこうしてここにいてくれる、それだけで今夜は……特別な夜だ』」
A「そっちも結局スパダリじゃねーか!」
『特別な夜』
人生は死ぬまでの暇つぶし。
そう言ったのは誰だったか、僕の平凡極まる人生はダラダラと続き、ああこのままなんとなく死んでいくのだろうなと思いながら生きている。
そも、『特別』という言葉は『普通』があるから成り立つんだよな、なんてくだらない言葉遊びでも考えるとするか。
僕にとっての『普通』は、仕事に行ってご飯を食べたり食べなかったりして、アパートで一人暮らしをすることだ。
そして僕にとっての『特別』は、それ以外のイレギュラーなこと全て、ということになる。
例えばデート。
なんとなく気になっている女性と仕事終わりに食事に行ったり、もしかしたらそのまま夜を過ごすことだってあるだろう。
眠れない夜だってあるかもしれない。
布団が薄くて寒くて寝れないとか、逆に暑すぎて寝れないとか。
色んな夜の過ごし方も、眠るという一般的に『普通』とされる行為から逸脱すれば、それは全て『特別な夜』ということになる。
でも。
と考える。
思い出すのは数年前、国外のきな臭い地域で仕事をしていた時のことだ。
僕が暮らしていた場所はその国の中心地で、比較的安全が保証されている地域だったのだが、それでも時々ミサイルが飛んでくることがあった。
いや、ミサイルなのかドローン攻撃なのかその他の攻撃手段なのかは、この平和ボケした日本生まれの僕には見分けがつかなかったが、まあつまり僕が駐在していた場所は紛争地域だった。
花火を少し鈍くしたような音が常に聞こえる場所で、僕は仕事をしていたのだ。
その地域で生まれ育った同僚に「初めは花火かと思ったよ。でも真昼に花火が上がるはずがないものな」と言うと、彼は「俺は映画で花火を見ると、真っ先にまたミサイルが飛んできたのかと身構えちまうよ」と言われた。
彼にとって、あのドーンという音は『普通』ミサイルなのだ、と思った時、僕は初めてカルチャーショックの洗礼を受けて、目が乾くまで瞬き1つ出来なかったのを覚えている。
あとこれは僕の無知から来た衝撃だったのだが、ミサイルは夜よりも昼にくる。
僕は闇夜に紛れて奇襲をしかけてくるイメージを持っていたのだが、昼の方がミサイルの白い煙が光って軌道が見えづらいので攻撃の成功確率が上がる、らしい。
こういうことも、日本なら軍事に詳しい人しか知らないのだろうなという『特別』感と共に、現地の人間なら『普通』であるというギャップが僕の前に壁のように立ちはだかったのだった。
結局大きな攻撃もないまま赴任は数年で終わり、それから僕はずっと日本にいるが、帰国してからしばらくはソワソワする日が続いた。
「今日ミサイルの音が聞こえないな」とか、「初めての場所なのに避難経路を確認する人がいないな」とか、今まで『普通』だと思っていた日本での暮らしが鈍感な人間達の集まりのように見える感覚がずっと消えないままで、逆カルチャーショックも経験したのだが、これも直ぐに立ち消え、元通りの『普通』になった。
『普通』も『特別』も環境依存の言葉なのだ、つまりは。
この平和な日本で『普通』に夜静かな眠りにつけることを有難く思いながら、今日も僕はダラダラと生き延びる。
#1 特別な夜
駅前の時計が二十時を指したとき、街は少しだけ静かになった。仕事帰りの人波が引き、イルミネーションの光が路面にやわらかく滲む。
コートの襟を直し、改札の外で立ち止まる。今日は、特別な夜になる——そう信じたい理由があった。
「待たせた?」
振り向くと、小走りで近づいてくる彼女。息を整えながら、照れたように笑った。その笑顔に、胸は少し早く鳴った。
ふたりは並んで歩き出す。会話は取りとめもないことばかりだ。最近観た映画、寒くなったねという話…。
けれど、言葉の合間に流れる沈黙が不思議と心地よかった。
川沿いの遊歩道に出ると、灯りが水面に揺れていた。
川の向こうで、花火が一発だけ上がる。きっと偶然だろう。それでも、胸の奥で小さく願う。
——この時間が、長く続けばいい。
帰り道、改札の前でふたりは立ち止まる。
「また、会える?」
彼女の声は静かだった。
「うん。次は、もっと寒い夜に」
そう答えた。
電車のドアが閉まる。窓越しに手を振ると、彼女も同じように手を振った。
何気ない一日かもしれない。それでも、僕にとっては「特別な夜」になった。
既読のまま返事の途絶えたトーク画面をどのくらい見ていただろうか。今夜はもう眠ったのかもしれない。急に持ち上げてデレたり、突き放してみたり。誘導尋問にまた引っかかった。譲るつもりで言った言葉に君は容赦なく頬を張る。「私を利用しないで」と。
あなたと言葉を交わす夜はね、何も手につかなくなるよ。急に喉を噛まれ逃げ出した手負いの獣。こんなにもドキドキしてこんなにも心細い。弱いように見せて君は決して傷つかない人だから。道を間違えるのはいつでも僕だった。
箱を開いても開いても新たな箱の出てくる感じ。僕も大概懲りないな。あなたのいる水面はきらきら輝いて手が届きそうに見えるのに、実際はあまりに遠いんだ。
治ったはずの傷口から紅色が流れつづける。だらだらと水底へ滲んで溶けて、痛みもなく命を削る。それすら愉しんでいるのだろうか。ほかでもない僕自身が。
煌めく水面を僕は見上げる。今夜が特別な夜になる。君の友だち登録をそっと解除した。
『海の底』『特別な夜』
『特別な夜』
いつもと変わらないはずなのに、
なぜか今日はとっても素敵。
夜の海辺に、
甘いジャスのメロディ、
お洒落なディナー。
目の前には魅力的な君。
あとは君の視線が、
私に数cm近づいてくれれば、
今夜はもう、完璧なの。
今日は
特別な
夜だから
もう少し
このままで
いさせて
そうしたら
明日からも
また頑張れる
気がするから
この題材を見た時、否応なく考えさせられた。私にとって、『特別な夜』とは何なのか?
『特別』の基準や度合いにもよるだろう。恐らく私は、少し何かいい事があったり、綺麗な月が見えたりすると、その瞬間にふと、この『夜』が、ほかの『夜』とは違う『夜』に思えるのだ。
その日の『夜』が、他の日とは違った『独立した物』に思える。だから、今日の夜は特別、と。
特別:「他と特に区別されているさま。一般と特に異なっているさま。」(スーパー大辞林)
ちょっとした、『特別な夜』。そう感じると、今夜という時間を、もう少し楽しめそうな、味わえそうな気がする。
では、少し違った意味での、『特別な夜』はどうだろうか。それは、今言った『その時に特別に感じる夜』ではなく、『過去を振り返って、特別だと思う夜』の事を指している。長期的に見て、『特別な夜』。
そう考えると、厳選基準が厳しくなってくる。日常の中でふと思って嬉しくなる物では無く、今までの膨大な数の『夜』から選び出すからだ。「あの日は他の日とは違ったから、特別かもしれない。いや、私にはあの日の方が思い出に残っている。」頭の中で、早速議論が白熱する。色々な『夜』を引っ張り出して来て戦わせては、結局どちらも大して『特別』では無いことに気付く。退場。それの繰り返し。
多分、そういう意味での私の中での『特別な夜』は、まだ無いのだろう。これからの人生で見つけるしかない。或いは、一生見つからないか。流石にそれは悲しいので、見つかると信じたいが...。
取り敢えず私は、日々の中でちょっとだけ『特別な夜』を生きている。
題材【特別な夜】より
夕方の空がきれいだった。みかんのようなオレンジ色から、夜を迎える薄い青へ美しいグラデーションを作っていた。
下の方にある黒い山々がアクセントになっている。そして、その薄い青のところに、三日月が浮かんでいた。これ以上ないほど細く繊細な三日月。思わず立ち止まって、眺めた。
こんな日の夜は、きっと特別な夜に違いない。
「特別な夜」