香草

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「特別な夜」

あの日、星も降らない、花火も上がらない、なんなら星も見えない、静かで、少し霧がかった夜。
紫色の月光がそっとヴェールを下ろす中、私は初めて空を飛んだ。
いつも閉め切られている窓を少し押したら開いたから。
外の風があまりにも心地よかったから。
いや、それらは単に言い訳で昔を思い出したからというのが一番正しいかもしれない。
久しぶりのアスファルトの感触はやっぱり絨毯とは違って痛くて走るしかないと思った。
鈍った重い体を必死に風に乗せてかつて私の世界だった街を走り抜けた。
首の鈴が私に警告し続けるけれどもう耳に入らなかった。
嗅ぎ慣れたスパイシーな香りがするたびに暖かな絨毯を思い出したけれど、もう足は止まらなかった。
今日だけ、今夜だけ。すぐ帰るから。
月がどれだけ照らしても私の黒い身体は黒いまま。
その優越感がとてつもなく心地よかった。

1/22/2026, 10:00:31 AM