『澄んだ瞳』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
彼女の澄んだ瞳がわたしを捉えていた。
黒髪に黒い瞳、似合っていない薄いだけのメイク。耳や手、首元に装飾は一切ない。ダサいようにも見えるシンプルな服。
わたしはこんな子に負けた。いや、こんな子だからわたしに勝てたのかもしれない。
大学生になってすぐ茶色に染めた髪、カラコンは必須だし、ナチュラルに見せるためのメイクも毎朝一時間以上かけて作っている。アクセサリーもファッションも流行は逃さないし、SNSに乗せればいいねは三桁に昇る。
こんなわたしだから、こんな子に負けたんだ。
わたしが一生懸命気を引こうとした彼の心を、彼女は無意識のうちに射止めてしまった。
神様がもしこの世にいるのなら、わたしは弓を引いて殺してしまおうと思う。
だって、ずるい。こんなに努力したわたしが、素のままで生活するだけの彼女に負けるなんて。
「こんなこと思うから、負けたんだろうなあ。」
わたしの言葉に彼女は首を傾げた。
全然可愛くないし、様になっていないのに、彼女が彼を射止めた理由が分かってしまうような気がする。
澄んだ瞳
妹は言う、お兄ちゃんね赤いのだして動かなくなっちゃったの。
母は泣いていた、弟からは臓器が飛び出していた。
妹の瞳を見ると、好奇心にあふれていた。
妹は、弟の臓器を手に持ちまるでおもちゃのように遊び始めた。
それをみた母は妹を悪魔の子、そう呼んだ。
これが、後にこの村に伝わる伝説。
澄んだ瞳をもつ悪魔の子。
澄んだ瞳
その人は黒い羽を持っていた。
黒々と艶やかに光るその羽は見る者を魅了する。しかし、同時に忌み嫌われていた。
「天使なのに、羽が黒いだなんて……」
「あんなの堕天使と同じじゃないの」
そんな言葉が投げかけられる中、その人はまるでその言葉たちが聞こえていないかのように構わず歩き続ける。
教会に辿り着くと、その人は他の者と同じように神に祈りを捧げた。誰よりも長く、祈り続け、やっと目を開ける。
まぶたに隠されていた澄んだ瞳からは、涙が一筋こぼれ落ち、そのまま羽へと落ちていった。
涙が落ちたその何センチにも満たないくらいの丸が、一瞬だけ白く輝く。元の羽の色はとても美しいのに、まるで色が侵食していくかのように、黒へと戻っていく。
ああ、たとえ羽が黒くても、その人はたしかに天使なのだと改めて思った。それと同時に、羽が黒いから、と見た目で判断してしまう愚かな自分のことを恥じたのだった。
澄んだ瞳
ある子はゲームの前で
またある子は絵の前で
私は君の前で
君は何の前で
その澄んだ瞳を
するのだろう
「この子は、さっき死んだこのお兄ちゃん。妹が死んだことにも気づかずに死んでいくのは可哀想だから、せめて死体は見せてあげましょうか」
5歳児とは思えないような残酷なセリフを吐いて、弟は死にかけの兄を妹の死体に近づけた。なんてことはない、花壇の縁に列を作っていた蟻のことだ。兄と妹と言うのは弟が決めた妄想である。幼さ故に善悪の区別がつかず、キラキラとした笑顔で蟻を潰している。
「ねぇ、蟻さんが可哀想だからやめてあげなよ」
当時7つだった僕は、道徳の授業で命の大切さやらを学んだばかりであった。兄として、弟の誤った行為は正さねばならぬと正義感に燃えていた。ただし、その顔を見るまでは。
「にぃにもやる? 楽しいですよ」
振り返った弟は、あまりに澄んだ瞳をしていた。僕は本能的にその瞳に騙されると感じて、急いで目をそらし「や、やらない」と情けなく呟いた。
弟は、成長した今も時々、その目を見せる。
「澄んだ瞳」
去年の夏の終わりのことです。
お祭りで2コ上の先輩に中学時代ぶりに会えて、お話させていただきました。
もう憧れの先輩で、綺麗で聡明で、部活のこと、丁寧に教えてくれた恩もあるし、本当に完璧な人なんです。
会話のはじめの方は緊張もあって目も合わせられないでいたんですけど、勇気をだして目線を向けてみようとしてちらって目を向けたんです。
偶然にもそのときちょうど先輩もこちらに視線を向けてくれていて、ぱっと目が合いました。
その刹那、時計の針が止まりました。このときばかりは喩えが、本当でした。
一拍間を置いてすぐに胸の鼓動が激しくなりました。それは立っていることすら苦しいほどに心を熱くさせました。お酒を知らないわたしですが、酩酊とはきっとこのことを言い表すのだと思います。
中学時代よりも大人びていて、でも子供のように朗らかに笑う先輩。不意をつかれました。
その瞳の綺麗なことは、わたしの未熟な語彙では言い表しようがないです。もはや銀河でした。映された情景のそのひとつにわたしの姿があることが何より嬉しい。
あの立姿あの笑顔あの声色。わたしの心を、もう移ろいかけている夏の季節の中に閉じ込めてしまうほどにそれは叙情的でありました。
お祭りの雰囲気も相まって、どこか刺激的で、その場へ心身ともに溶けてしまいそうでした。いや、もう半分くらいは溶けていました。陶酔しきっていました。
きっと先輩への感情は憧憬だとか恋情だとかはっきり言いきれるものではなくて、だからこそこうも惹かれてしまうのかもしれません。
先輩は今年から東京の大学生になりました。でも、お祭りのときには戻ってきてくれるそうです。
また会えると思うと、それだけで毎日が嬉しいです。
澄んだ瞳に当てられて、気がつくと私の右手にはスカイミラージュが握られていた。
「おじちゃん、ありがとう!!」
姪っ子はビー玉みたいな小さい瞳をキラキラさせて、私の元へ抱き付かんとばかりに駆け寄ると、そのままスカイミラージュを奪い取り去っていった。
姪っ子はたぶんこの後母親にこっぴどく説教され、代金を返しに来ることになるのだろうが、もはや私にはそんなことどうでも良かった。
あの子はスカイミラージュだけではなく、私からとんでもないものを奪ってしまった。
それは、わたしの心だ。
<澄んだ瞳>
そのキラキラしてる純粋な瞳が
苦手だった
自分の醜さを見せつけられてる気がして
でも本当はそんな君に憧れていたんだ
澄んだ瞳をもつあの子に私はどう映っているのだろうか。
私のこと見透かされそうで、無邪気に指摘されそうで、“メガネ“をかけている大人と話すよりも緊張する。
私も澄んだ瞳を持ち続けたかった。
いつも自分を取り繕うことしか考えない私が嫌い。
「澄んだ瞳」
あなたの瞳に映されて
私の心は丸裸
悲しい気持ちの奥底に
揺らぐ炎は怒りに満ちてる
あなたの瞳に映されて
ただ怒りを募らせている
あなたはただ澄んだ瞳で
鏡のように私を見せた
それだけで涙が溢れる
私は惨めだ
醜い
悲しい
弱く震えて
何もできない
私を映さないで
どうせ何もできないなら
ただ
私を晒さないで
澄んだ瞳に映る私は
恥ずかしくて
ただ小さく丸くなって消えていくんだ
澄んだ瞳
あの、すべてを見透かしているような、濁りのない澄んだ瞳が嫌いだ。まるでぼくのすべてをみているとでも言いたげな美しい瞳。目が合うたびにその瞳が恐ろしく、同時に惹かれていった。
でも、ぼくときみじゃ住む世界が違う。いつその宝石のような瞳が見られなくなるかも分からない。ぼくは教室の隅でぺらぺらと興味もない本をめくるような人間。きみは、自然と人が集まるような選ばれた人間。あはは、ぼくは何を期待していたんだろう。君の瞳が綺麗だ、なんて伝えられるわけないのに。
放課後、いつものように雑用を押し付けてきた一軍様はカラオケに行くらしい。ぼくは教室をきれいにする。まあ、特にやることもないし別にいいんだけどね。さて、といつものように掃除用具を取りに行こうとした。そこには、きみがいた。普段うつむいているせいか気づくのが少し遅れた。あ、いつもより君の瞳が近くにある。夕日が反射してすべてをひきつけてしまうような吸い込まれるような澄んだ瞳。
分かってる。話しかけちゃいけない。いや、話しかける勇気なんてない。ぼくは、ただの、臆病もののモブですから。
「掃除、頑張ってるんだね」
きみが話しかけてきた。おそらく、ぼくに。
「きれい好きなんだね。毎日掃除してくれてるから、お礼を言いたくて」
好きで掃除やってるわけじゃない。ただ、暇だったから。なんて言ったら失望されそうで俯くことしかできなかった。
「あのさ、私も手伝っていい?」
反射的に顔を上げてしまった。きみと目が合う。ああ、やっぱり
「やっぱりあなたの目ってきれいだね」
きみが言う。ぼくがきみにいいたかったこと。きみがぼくに。あれ、逆じゃないか
「…きみの瞳のほうがきれいだと、ぼくは思う。」
あ、しまった。さらっと口からこぼれてしまった。また、顔をきみから背ける。なんて返されるだろう。気持ち悪いと言われるだろうか。嫌だな。なんであんなことを。一人でどんどんと陰気な気分になっていた。
それでも長いこと返事が返ってこないからおそるおそる顔をあげてみた。顔を赤らめて可愛らしいりんごのように頬を染めているきみがいた。
なにそれ。その顔は。そんな、そんな反応はまるで
澄んだ瞳。
カラコンしてるんじゃ
ないかってくらい
茶色い瞳。
私と同じくらいの
目の悪さなのも
かわいいと
思える。
あの瞳で
見られたら
嬉しくて
ドキドキする。
彼女の瞳に花火が映る。
澄んだ瞳にキラキラと光る。
一瞬の静寂のあと、ドッドッドッと音が来る。
どうにかこの音を誤魔化してくれ、爆発。
澄んだ瞳
「とっても綺麗な瞳。まるで、青く澄んだ空みたいな色」
そう言われた言葉。俺の両頬を優しく両手で包み込み、しっかりと俺の瞳を見て微笑む。
世界がキラキラと輝いて、眩しい。心の奥底から嬉しさが込み上げてきた。
瞳を褒められたことはあまりなかったと思う。どちらかと言うと姿の方が多い。
身長が高い、顔が良い。幾度も聞いてきた言葉。しっかりと見てくれる人なんていなかった。
「お前の瞳も澄んでいると思う」
お返しに両頬包んで、しっかりと見つめる。
星空のようにキラキラと輝いた瞳。どの世界でも美しく映るのだろう、きっと。
「えっ、そうかな?」
「ん、とても綺麗綺麗」
「わぁー、それは嬉しいなぁ」
えへへと照れる姿は、かわいいと思った。
柔らかい頬、ずっと触れていたくなる。透き通り、きめ細やかな肌。
「そろそろ、頬を離してほしいなぁ」
「俺も同じく思っている、いい加減離してほしい」
「えっ、離さないとダメ?離すとその青い瞳がよく見れないじゃん」
「いや、別に普通に見れるだろ」
「至近距離が一番拝める」
するりと頬から手が離れ、目の前で合掌のポーズをされた。
相変わらず、変わっていて面白い。思わず、笑ってしまった。
俺の笑っている姿をみて、向こうも笑う。
「あっ、笑うともっといい‼︎いつも怖い顔じゃなくて、笑えばいいと思う。そして、その瞳を広めていこう」
「やだ、別に広めなくていい」
「えっ、なんで、もったいない。推していこう、その瞳」
「やだよ」
なんでなんで攻撃が出てきたので、無視して、横を通り過ぎる。
置いていかれるのは嫌みたいで、後ろをちょこちょこついてきた。
俺は一人、クスリと笑う。この行動がかわいいから。
「俺だけが知っているモノをこの瞳に映せれば、それでいい」
深い深い森の中にある、穏やかな湖畔のいっとう澄んだところを切り取ったような瞳で、そのひとはいつだってやわらかに笑っていた。この世のすべてを許すような/この世のすべてを諦めたような不思議な瞳だった。
──消えてしまいそうなひとだ。率直に、そう思う。
桜に紛れながら、水飛沫をあげながら、紅葉に隠れながら、雪と混じりながら。私の手の届くまもなく、ソラに還ってしまうひと。白磁の背中に翼のなごりを残すひと。
ただのいっときでもこのひとが私のものであればなんて、そんな不相応なことを願う。私の意識がよそにあるのを感じ取ったのか、不服そうな顔で頬をつままれた。
「またなんか変なこと考えてる」
「……そんなこと、ないですよ」
「嘘。あなたがそういう目をしてるときはいつもひとりで悩んで苦しんでるでしょう。……私のことで」
「……」
「……私は、どこにも行きません。……ううん。行きたくない。あなたのそばにだけ居たいの。ねえ。信じて?」
そうして、その瞳が、懇願するように/祈るように/囚えるように/逃さないように私のことを見つめるから。
「──……うん」
私はいつだって肯くことしかできなくて、それを見た彼女は、いつだってとても満足そうに笑うのだった。
『澄んだ瞳』
透き通る瞳はまるで湖面。僕はあっさりと引き込まれ、そのまま深く沈んでいく。水の中でもがくように、鈍い抵抗もまったくの無駄。吐き出した最後の息は、宝石のように輝いて水面に消えて行く。
僕はもうすっかり、君の虜。
産まれてすぐの真っ直ぐな
キラキラとして
輝いて
いつから濁った瞳ばかり見るようになって
それに染った自分の瞳
「死んだ魚の目」
濁って見えたのは
自分の瞳が濁ってたから
いつからだろ
人のマイナスばかり見てしまうようになったのは
自分の評価ばかりで言いなりになった、
ならざるを得なくなったのは。
こんな体でも人目気にするとか
アホらしい。
自分の目が濁ったら
隅から隅まで洗ってスッキリしよ。
裏切ってきたヤツ気にするより
自分を高める。高める尽くす。
経験が雑魚を出汁として馬味出す手助けしてくれる。
次会う大人は動ける「目が澄んだ人」
澄んだ瞳にうつるのは
愛するあなた
夫の顔とまだ見ぬ子供の面影
早くあなたに抱かせたいと思う気持ちが高まる
澄んだ瞳にうつるあなたと子供
私は早くその夢を叶えたいと
ずっと思う
「3月14日付近に『安らかな瞳』があったわ」
当時も相当四苦八苦したわな。某所在住物書きは過去を思い出し、遠くを見た。
「あのときも、サッパリイメージ湧かなくてさ。そもそも『安らかな瞳』ってどんな瞳よって。鏡見てそれっぽい目しようとしたの。
バチクソなアホ面で無事轟沈したわな」
どうせ今回も爆笑して敗北して崩れるぜ。物書きはカードミラーを手繰り、『澄んだ瞳』を再現しようとして……
――――――
澄んだ瞳が虚ろに曇り、仲間の尽力で輝きを取り戻す。闇落ちからの光復帰がヘキな物書きが、ありふれた、こんなおはなしを閃いたようです。
年号がまだ、平成だった頃の都内某所。13年ほど前の春から始まるおはなしです。
このおはなしの主人公、宇曽野という名前ですが、某バスターミナルのあたりを散歩していたところ、高速バスから、自分より少し若いくらいの20代が降りてくるのを見かけました。
「来た、東京だ!暖かいなぁ!」
大きなキャリーケースと、小さな地図を片手に、少々残念な曇り空を見上げて、それはそれは澄んだ瞳を、綺麗な瞳を輝かせていました。
地方出身者だ。宇曽野はすぐ気が付きました。
「すいません!物を知らないので、聞くのですが、」
地図を見せて、宇曽野に道を聞く言い回しが、抑揚が、東京のそれと違ったからです。
「この地図の、ここに、行きたいんです。どこのどれに乗れば良いか、サッパリ分からなくて」
東京に出てきたばかりの、都会の人とシステムを知らぬ瞳のひとは、自分の新居たるアパートへの道が分からない様子。
宇曽野は興味半分親切四半分で、丁寧に案内してやりました。
数ヶ月後の晩夏、宇曽野は自分の職場の窓口で、再度その20代と出会いました。
「あなたは、あのときの」
20代は、ブシヤマ、「附子山」と名乗りました。
春にキラリ輝き澄んでいた瞳は、早速「東京」と「田舎」の違いに揉まれ、擦られ、疲れてしまったようで、ほんの少し、くすみ曇って見えました。
「ここに勤めてらしたんですね。あのときは、お世話になりました」
用事を済ませてすぐ帰ろうとする附子山に、宇曽野は「まぁ元気出せ」の意味で、ノベルティを2個ほどくれてやりました。
二度あることは三度ある、とはよく言ったもので、
数ヶ月後の冬の頃、宇曽野は自宅近くの喫茶店で附子山を見つけました。
「宇曽野さん……?」
テーブルの上には転職雑誌。附子山の瞳は最初に比べて、ずっと、ずっとくすんで曇ってしまって、光がわずかに残るばかり。
あぁ。「染まってきた」な。宇曽野は見頃過ぎた桜を眺める心地でした。
そして少し話を聞いてやり、ついでにほんのちょっとだけ、附子山を気にかけてやることにしました。
これが宇曽野と附子山の、友達としての最初の日となりました。
それから附子山は諸事情で「藤森」と名字を変え、なんやかんやで宇曽野の職場に転職し、
宇曽野はそんな「藤森」と、時に語り合い、時に笑い合い、時にたかが冷蔵庫のプリンひとつでポコポコ大喧嘩をしたりしました。
おかげで藤森、今では東京での生き方をよく覚え、曇った瞳が少しずつ、輝きを取り戻してきましたが、
要するに現在どんなことになっているかは、過去投稿分7月29日や同月15日、6日あたりを参照いただくということで、ひとつ。
おしまい、おしまい。
【2,お題:澄んだ瞳】
その瞳は、きっと私よりも多くのものを見ているのだろう。
彼の瞳は幼い頃に見た大きな湖を思い出させた。
パッと見は青色だが、よく見るとうっすらと入る緑色とほんの少しの黄色
光の当たり具合で絶妙に色を変えるその瞳は、まるでこの世のものではないかのような神秘的な輝きを放っている。
「やあ、久しぶりだね」
窓の淵に優雅にたたずむ彼に私はゆっくり声をかけた。
「最近は顔を見ないから心配していたんだよ」
私達の会話はいつも一方的だ
「外の様子はどうだい?ここからじゃ見えないんだ」
そう声をかけたとき、ようやく彼が振り返った。
細くてしなやかな体つき、全身を覆う真っ黒な毛皮は日の光を受けて七色に輝く
無駄な肉がついていない端正な顔立ち、そのなかでも一際目立つ澄んだ瞳。
彼は“にぅうう”と低く鳴いて、私のベットの上へ飛び乗った
頭を擦り寄せてくる友を撫でながら、私はふとその背に桃色小さなの花びらが乗っていることに気づく
「そうか、もうそんな季節なのか」
友が贈り物を受け取ったことを確認すると、黒い猫は音もなくベットから降り
開け放たれた窓から外へと飛び出した。
いつからか、病で寝床から動けない友の変わりに季節を贈るのが小さな黒い猫の使命となっていた
ある夏は黄色い太陽の花びらを、ある冬は頭に冷たい氷の粒をのせて
“明日は何を贈ろう”
黒い小さな友達は、桃色の花びらが舞う坂をゆうゆうと駆けおりた。