どこかの誰かの手記

Open App

澄んだ瞳

あの、すべてを見透かしているような、濁りのない澄んだ瞳が嫌いだ。まるでぼくのすべてをみているとでも言いたげな美しい瞳。目が合うたびにその瞳が恐ろしく、同時に惹かれていった。

でも、ぼくときみじゃ住む世界が違う。いつその宝石のような瞳が見られなくなるかも分からない。ぼくは教室の隅でぺらぺらと興味もない本をめくるような人間。きみは、自然と人が集まるような選ばれた人間。あはは、ぼくは何を期待していたんだろう。君の瞳が綺麗だ、なんて伝えられるわけないのに。

放課後、いつものように雑用を押し付けてきた一軍様はカラオケに行くらしい。ぼくは教室をきれいにする。まあ、特にやることもないし別にいいんだけどね。さて、といつものように掃除用具を取りに行こうとした。そこには、きみがいた。普段うつむいているせいか気づくのが少し遅れた。あ、いつもより君の瞳が近くにある。夕日が反射してすべてをひきつけてしまうような吸い込まれるような澄んだ瞳。

分かってる。話しかけちゃいけない。いや、話しかける勇気なんてない。ぼくは、ただの、臆病もののモブですから。

「掃除、頑張ってるんだね」

きみが話しかけてきた。おそらく、ぼくに。

「きれい好きなんだね。毎日掃除してくれてるから、お礼を言いたくて」

好きで掃除やってるわけじゃない。ただ、暇だったから。なんて言ったら失望されそうで俯くことしかできなかった。

「あのさ、私も手伝っていい?」

反射的に顔を上げてしまった。きみと目が合う。ああ、やっぱり

「やっぱりあなたの目ってきれいだね」

きみが言う。ぼくがきみにいいたかったこと。きみがぼくに。あれ、逆じゃないか

「…きみの瞳のほうがきれいだと、ぼくは思う。」

あ、しまった。さらっと口からこぼれてしまった。また、顔をきみから背ける。なんて返されるだろう。気持ち悪いと言われるだろうか。嫌だな。なんであんなことを。一人でどんどんと陰気な気分になっていた。

それでも長いこと返事が返ってこないからおそるおそる顔をあげてみた。顔を赤らめて可愛らしいりんごのように頬を染めているきみがいた。



なにそれ。その顔は。そんな、そんな反応はまるで

7/30/2023, 2:02:32 PM