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「この子は、さっき死んだこのお兄ちゃん。妹が死んだことにも気づかずに死んでいくのは可哀想だから、せめて死体は見せてあげましょうか」
5歳児とは思えないような残酷なセリフを吐いて、弟は死にかけの兄を妹の死体に近づけた。なんてことはない、花壇の縁に列を作っていた蟻のことだ。兄と妹と言うのは弟が決めた妄想である。幼さ故に善悪の区別がつかず、キラキラとした笑顔で蟻を潰している。
「ねぇ、蟻さんが可哀想だからやめてあげなよ」
当時7つだった僕は、道徳の授業で命の大切さやらを学んだばかりであった。兄として、弟の誤った行為は正さねばならぬと正義感に燃えていた。ただし、その顔を見るまでは。
「にぃにもやる? 楽しいですよ」
振り返った弟は、あまりに澄んだ瞳をしていた。僕は本能的にその瞳に騙されると感じて、急いで目をそらし「や、やらない」と情けなく呟いた。
弟は、成長した今も時々、その目を見せる。

7/30/2023, 2:17:45 PM