『澄んだ瞳』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
※ホラー
綺麗だな、と思った。
きらきらと光を反射して、輝く宝石。
欲しいな、と願った。
手に取り見れば、その極彩色の美しさに時を忘れて魅入るだろうか。口にしたならば、味わった事のない極上の甘美な味わいに満たされるのだろうか。
いいな、いいな、と。
閉じた部屋の中。欲しがる気持ちだけが、只管に膨らんだ。
「『差し上げます。あなたにこそ相応しい』だってさ」
机に入っていた小箱を取り出し、添えられていたカードを読む。
相応しいという部分に口元を緩ませ、周りに急かされるように小箱を開けた。
「…何これ?」
「黒い、石?」
「あれじゃね?天然石とかいうやつじゃね?」
小箱の中に入っていたのは、黒く艶やかな丸い石のような何か。少しだけがっかりしながら蓋を閉じ、元通り机の奥に押し込んだ。
予鈴。
慌ただしく散っていく友人達を見ながら。あの小箱の送り主は誰なのかを、ぼんやりと考えていた。
目が覚めた。
自分の部屋ではない。知らない天井。知らないベッド。
ここはどこなのか。
未だ覚醒しきれぬ頭で考えながら、体を起こす。
ベッド。机。本棚。クローゼット。扉。
殺風景な広い部屋。窓はないが、それでも辺りに何があるのか僅かに分かる程度に暗い部屋。
夢か現か曖昧なまま、立ち上がり扉へと歩く。
取手に手を伸ばし。
「まだだめだよ。あのこがいるよ」
口から溢れたのは、自分ではない声。
はっとして口を塞ぎ。混乱した思考のまま、扉に目を向け。
「……ひっ」
扉に張り付いたそれに、息を呑み後ずさる。
周囲を見渡せば、壁に張り付いたそれらと目が合い耐えきれず声を上げようと口を開き。
「だめだよ。あのこがいるよ」
けれども口から溢れるのは、やはり自分のものではない声。
四方のそれらに見下ろされ、逃げるように頭を抱えて蹲った。
「もういいよ。あのこはいったよ」
不意に口から溢れたその言葉に、のろのろと頭を上げて扉を見る。
先程まで張り付いていたそれらは見当たらず。急くように扉に手をかけた。
扉を開ければ、長く続く暗い廊下。恐る恐る足を踏み出し、歩き、そして走り出す。
「きいろのとびらにはいって。そのさきにかいだんがあるよ」
自分のものではない声が囁く。それに従い、黄色の扉に手をかけ開いた。
「すこしまって。あのこがいるよ」
階段の前。声が止まれと忠告する。壁に現れたそれらが、咎めるように見つめてくる。
階下の様子を伺うが、ここからでは何も窺い知る事は出来ない。
あのことは誰の事なのか。それを考える余裕はなく。
早鐘を打つ心臓を抑えるように、深く息を吐いた。
「もういいよ」
声の許可に、音を立てぬよう慎重に階段を降りる。
「おりたらきをつけて。あかるいほうはだめだよ」
あのこがいるから、と声は告げる。
最後の一段を降り、辺りを見渡す。
二股に分かれた廊下。一方は暗く、もう一方は明るい光が漏れて。
誘われるように、明るい方の廊下へ向かう。
「だめだよ」
声が忠告する。左右の壁にそれらが現れるが、それでも足は止まらない。
出口がある。明るい光に浮かぶその場所は、外へと繋がる扉がある。
玄関はここからでも広々としており、例え声のいうあのこがいたとしても逃げながら外へ出る事が出来そうに思えた。
後少し。明るい光に目を細め。
扉の鍵はかかってはいないようだ。取手に手をかければすぐに開いてくれるだろう。
期待に息が弾む。口から溢れる声はもう何も言わず。壁のそれらはただこちらを見つめ。
取手に手をかけ。そして、ゆっくりと。
「だめだよ」
声がした。
自分の口から溢れた声ではない。別の声。
「だめだよ」
取手にかけた手首を掴まれる。
細い手。幼い子供のような。けれどどんなに振り解こうとしても、振り解く事は出来ず。
「大人しくしていて。今度こそはちゃんと綺麗に取って上げるから、ね?」
窘めるような声。視線を向ければ、髪の長い小さな人らしき姿。
「っ…!」
子供のものとは思えぬ程強く腕を引かれ、倒れ込む。
馬乗りになられ、目尻を子供の指が形を確かめるようになぞっていく。
逆光で表情は見えない。しかし長い髪の隙間から覗く黒い瞳は、先程まで見続けていた壁に張り付くそれらとは比べ物にならない程、澱んでいるように見えた。
「怖くないよ。すぐ終わるからね」
動けない。声も出せず、目を逸らす事も出来ず。
近づいてくる銀色の何かをただ見つめ。
不意に、その動きが、止まった。
「えっ、?」
驚いたような。意味を理解していないような。
小さな呟きを最後に、ぼろぼろと体が崩れていき。
「まにあって、よかったね」
口から溢れた誰かの声を最後に、意識がとんだ。
「ありがとう」
礼を言う子供に、首を傾げる。
礼を言われる意味が分からない。何かあっての礼だろうが、特に何かをした記憶はなかった。
まあいいか、と手にした魂魄を飲み込む。
先に取り込んでいた、ここに閉じ込められていた魂魄もあり、だいぶ胎に溜まっている。一度戻った方がいいだろう。
最後に、と目の前の子供に手を差し出す。
きょとりと瞬きを一つして、澄んだ黒の瞳が細くなり一筋涙を流した。
「ありがとう、ここに来てくれて。みんなを連れていってくれて。あのこを……弟を救ってくれて」
首を傾げる。
子供の弟を救った記憶はない。記憶を辿るが、やはりただいつものように、常世に戻らない魂魄を取り込んでいただけだ。
随分と不思議な事を言う子供だと困惑しながらも。
何故か子供を取り込まず、二人手を繋いで歩き出した。
20240731 『澄んだ瞳』
澄んだ瞳
寒くて寒くて仕方なかった。ぼくは木の下で、うつむいて膝を抱えている。もうどれくらいの間、こうしているのかもわからなかった。今日はパパとママとお姉ちゃんでキャンプに来ていた。家族で出かけるのは久しぶりだったから嬉しかった。楽しい時間が過ぎるのは早いもので、帰る時間が来るのはあっという間だった。パパとママが帰る道を歩き出して、僕とお姉ちゃんに帰るよと声をかけた。お姉ちゃんははぁいと返事をしてついていって、僕も行こうと思った。でもつい、一瞬だけ、綺麗なお星様に見惚れてしまった。気づいたら、パパもママもお姉ちゃんもいなくなっていた。慌てて追いかけたけど3人は見つからなくて気づいたら知らない場所にいた。みんなでキャンプをしていた場所に戻ろうとしても、なぜかたどり着けなかった。しかも、歩いても歩いても誰にも出会えない。暗い森の中、僕はひとりぼっちだった。ずいぶん長い間歩いて、もう歩けなくなって、僕はここに腰を下ろした。誰かが見つけてくれるのを待とうと思ったのか、あるいは諦めただけなのか、それはわからなかったけど。それから、僕はずっとここでうずくまっている。
「おい」
急にぶっきらぼうに声をかけられた。僕よりはお兄さんだけど、男の子の声。そっと顔を上げる。顔立ちは整っているが、特別目を引く容姿ではない。少し長めの黒髪、服はシンプルなパーカー。背も低くも高くもなく。人混みに紛れたら、一瞬で見失ってしまいそうな平凡な容姿。それなのに、彼から目を離すことができない。それは、彼の瞳が特別だったからだ。彼の瞳は恐ろしいほど澄んでいて、またたく一番星を閉じ込めたようにきらめいている。誰もを惹きつけるブルーの輝きを放っている。星の瞳だ、と思った。お兄さんは僕のことを変なモノでも見るかのようにまじまじと見て、それから、生きてるよなァどうみても、とか面倒くせェなぁ、とかぶつぶつ呟いたあと、はぁ、と大きな大きなため息をついた。
「……子供は嫌いだ。案内してやるからさっさと帰れ」
自分だって子供のくせに、お兄さんは無表情で冷たくそう言った。彼はここからの帰り道を知っているらしい。言葉とは裏腹に、座り込む僕にそっと手を差し伸べてくれている。そのまま、僕の手を優しく握って、歩くペースを合わせて歩いてくれた。彼がまたたきををするたび、星の瞳がきらりきらりと光っていた。本当に綺麗な瞳。あのうつくしい青い光をもっと間近で見てみたいという欲が、僕の中で少しずつ大きくなっていた。いつのまにか、僕は彼の瞳に魅了されていた。このまま帰されて彼と別れるのは嫌だと思った。あの瞳の星をずっとそばで見つめられるならこのまま帰れなくてもいいとさえ思えた。おかしい、さっきまで僕はあんなにも両親や姉が恋しかったのに。しかし、今はそんなことはどうでも良かった。今も彼の瞳の一等星は僕のそばで今もまたたいている。これ以上の幸福はないと思った。ずっとこうしていられたらいいのにと思った。僕は立ち止まって、彼を見上げた。
彼はその意味のわからない行動に眉を顰めて、その青い星の瞳で、僕のことを困惑したように見つめている。彼にそんな顔をさせたくないのに、僕のことでその瞳が陰るなんて許せないのに。
「いきなりどうした」
「ぼく、帰らなくていい。お兄さんとずっと一緒がいいよ」
星のそばにいたい。あわよくば、その星を手に入れたいと思った。それ以外の全てを投げ出してもいいと思えた。それは紛れもない本心だった。彼は僕の言葉を聞くなり、さぁっと青ざめて、息しろ、と怒鳴った。そう言われて初めて僕は自分が呼吸をしていないことに気がついた。彼の瞳があんまりうつくしいので息をするのも忘れていた。彼はチッと舌打ちして、乱暴に僕の手をつかんで急に走り出した。細い腕のどこにそんな力があったのか、僕の手を強く強く握って走るから痛かった。すごく焦っているみたいだった。
「星は見るもんなんだよ。近づきすぎたら焼けちまう」
なんのことだか、よくわからなかった。しかし、おにいさんが怖い声で言うから、あんまりにも真剣だったから、僕はこくこくと頷くしかなかった。それから、彼は僕と一言も喋ってくれなくなり、目線も絶対に合わせてくれなくなった。ぼくらはひたすら無言で走り続けた。やがて、パッとお兄さんが手を離した。ちょうど、最初に僕たちがキャンプをしている場所だった。いつの間にここに戻ってきていたんだろう。じゃあな、と彼はぶっきらぼうに言った。もう来んなよ、とも言っていた気がする。突き放すような声。それで僕はもう彼には二度と会えないのだと悟った。当然、パパやママやお姉ちゃんのことを思い出して、会いたくなった。あのまま星に魅入られていたら僕はどうなっていたのだろう。振り返ると彼は消えていた。空を見上げると満天の星空の中で一つの青い星が明るく光っていた。
【澄んだ瞳】
高校の時か
美術の授業で
有名な肖像画を模写する事があった
割と目にする事のある
よく知ってる絵だ
今まで特に気に留めた事はなかった
好みの絵でも無かったのだろう
授業が始まり
先ずは目から書こうと思い
その絵を見つめた時だ
吸い込まれるような瞳に驚愕した
艶やかで透明感があり
とても真似出来るような気がしない
この瞳を模写しようとするだけで
授業の時間は使い果たしてしまう
全体を見れば
そんなリアルな絵ではなさそうなのに
それとも瞳の模写を終え
次に移った時にまた腰を抜かすのか
よく知ってるつもりだった絵
何も知っていなかった
違う人が見たら
また違う印象を受けるんだろう
全て見透かすような
澄んだ瞳に
自分の目から
音を立ててウロコが落ちていったのをよく覚えている
あれから
長い時間が経ったけど
俺の目は再び音を立てる事になった
君の瞳を見たから
私は初めて、自分の意思ではなく、衝動で絵を描いた。あんなに心を突き動かされたのは人生の中で数えられるぐらいしかないだろう。
今回の絵は自分の今までの作品の中でも上位に上がってくるほどの出来栄えだ。
今回の作品の名前は__
__20xx年
思ったように絵が描けず、画家人生で初めてのスランプに陥った私は、今日も部屋の中央に静かに佇むイーゼルを見つめていた。絵の具をパレットに広げても、筆で色を掬いとっても、何も浮かばない日々に嫌気がさし始めていた。
画家になったのは三年前で、まだまだ名前が広まっていない画家だったが、それでも価値を見出してくれる人たちがいて、お金を出してくれるお陰で私は何とか生活ができていた。順風満帆だと思っていた画家人生だったけれど、今回のスランプでその自信は喪失し、今までのような自分らしさを残した絵が描けなくなっていた。憧れている画家の色が入ったような、どこか他人の作品を描いているような気分になっていて、その気分のせいか、作品がその画家に似ていっているような気がした。それからは、全く自分らしいアイデアが湧かず、そのせいで勿論自分らしい絵など描けるわけもなかった。
そんな憂鬱な日々を過ごしていたある日、いつものような質素なご飯を口に入れている時に、それは突然耳に入ってきた。
「十歳の凶悪犯」
アナウンサーの口から発せられたであろうその言葉を聞いて、一瞬耳を疑った。十歳?まだ義務教育すら完了していないで人を殺すなんて、なんて非道な子供なのだろう、と。顔を上げ、視線をテレビに合わせる。人を殺せそうにはない小さな少女がそこには映っていて、華奢で真っ白な手には手錠がかけられていた。
"十歳の凶悪犯"として取り上げられた彼女は、その後ネットによって実名と顔を晒された。
彼女の名は白井 愛(しらい まな)。美しさの中に何かを秘めているような彼女の顔は、こちら側に一切殺人犯だと連想させてくれなかった。
そんな幼い少女が起こした悲惨な事件は下に記す。
20xx年○月16日 「幼女一家殺人事件」
犯:白井 愛 (十)
被害者:父 白井▢▢、母 白井▢▢、妹 白井▢▢、祖母 白井▢▢
凶器:刃渡り数十センチの包丁、長さ十メートルのロープ
白井は当日の真夜中、家族が寝静まったのを見計らって、犯行に及んだとみられている。
彼女の父と母の身体には何十回も包丁を抜き差しされた跡があった。即死と思われる。
妹の白井▢▢はロープで一回首を絞められ、一時意識を失ったが、一度意識を取り戻したとみられる。その際、意識を取り戻したことに気付いた白井が、包丁で心臓部分を刺したとみられる。包丁はそのまま残っていた。
祖母の▢▢はロープで首を絞められ死亡したとみられる。乱闘した形跡あり。 (ニュースより要約)
彼女は四人を殺した大量殺人の犯人とされ、十歳にして死刑が確定した。その為、警察側が実名と顔を出しての報道を許可し、二日という短期間で、あっという間に各地で彼女の名前と顔が知れ渡っていった。彼女へ刑が執行されるのはこれまた随分と早く、ニュースが報道されてから二週間後に行うと公に報道された。
彼女の刑執行の二日前。私は漸く彼女に会う機会を貰うことが出来た。私は彼女のニュースを見たあの日から、彼女の顔が出回ったあの日から、彼女に取材を申し出たかった。あの小さな身体の中で、何を感じていたのだろう。あの小さな頭で、何を考えていたのだろう。気になって、絵を描くことすら忘れていたほどだった。
面会室でガラス越しに見る彼女は予想以上に小さくて、本当に彼女が両親を殺すことなど出来るのだろうか、本心でそう思った。
彼女はずっと下を向いていて、こちらを見る気配がなかったので、こちらから話しかけた。
「あの、初めまして」
ぺこ、と遠慮気味に頭を下げた彼女は本当に幼くて。
「貴方はあの時なにを感じていたの」
真っ直ぐな言葉を彼女に向けて放っていた。彼女は暫く黙った後にゆっくりとこちらを向いて口を開いた。
「ただ、ひとをころしたくなったの」
ゆっくりと、だけど真っ直ぐに、はっきりと発されたその言葉は、普通の幼稚園児が蟻を無意味に踏んづけるような感覚だった。何だか人を殺すことが、彼女の世界の中では当たり前かと感じさせられたのは、きっと彼女のまだ世界の汚さを知らない、純粋無垢な瞳に私が魅せられたからだと思う。
そこで面会時間が終わった。私はすぐに家に走った。
今。今じゃないと、この繊細さは作り出せない。
部屋の扉を勢いよく開けて、今まで逃げてきた白紙の板と向かい合う。パレットには必要な色だけを乗せて。自分が感じた衝動に身を任せて、ひたすらに手を動かす。真っ白なキャンバスに沢山の色が重なっていく。こんなにも胸が躍ったのはいつぶりだろう。
私は寝る間も惜しんで絵を描いた。気付けば十五時間が経過していた。あともう少し。あともうちょっと。
やっとの思いで作り上げた二つの大きな瞳の絵。
絵の題材になった彼女は明日には刑が執行されることだろう。
この絵に名前をつけるならばこれは。
「澄んだ瞳」
昔、海は青いものだと思っていた。
実際に見たことがないから話と映像でしか知らず、うみ、は、あおい、と知識で知っていただけだ。
相棒の瞳の色だと言われてからは、たまに見つめて想像をしたりして。至近距離で見なければ瞳の色なんてわからないものだから照れて顔を押し退けられた。
人間の瞳や毛髪は色とりどりですごいなと思う。色ひとつで何かに似ているだとか連想するのだって面白い考え、感じ方だ。
こんな小さな球体に、広いと言われる海を結びつけるなんて自分には難しい。
確かに虹彩と水晶体のコントラストは吸い込まれそう、というのだったか。ずっと見ていると目眩を覚える。
なかなかどうして美しい。
今あの青は、相棒の顔に見つけられないけれど。
歳を重ねると幼い頃の色が変わることもあると聞くが、それでもあの頃そんな年でもなかったのに。
理由なんてわかっているくせに胸中であっても空惚けた。
名前を呼ぶと答えもせずにこちらに向けられる視線。
あの時より温度の変わらぬガラス玉のような瞳は浅瀬のシーグリーン。
団扇で仰ぐのと扇子で仰ぐのとは丸で風の当たり方が違う☆個人的には扇子の方が持ちやすいのも一理ある⭕️
「澄んだ瞳」
君たちが初めて私を見つめた日。
消して忘れられない、とても大切な日だ。
不思議そうな目で、色んなものを見て触って。
これからこの子たちの世話で忙しくなりそうだ、などと思いながら私はその様子を見ていた。
実際大変だったのは事実だが、そんなことも気にならないくらいとても楽しくて、明るくて、幸せだった。
君たちもそうだったらいいな。
おやつをこっそりつまみ食いしている時のまん丸なほっぺた。
抱っこをせがむ時に見せる小さくて柔らかな手のひら。
ふとした時私に見せる澄んだ瞳。
その一瞬の連続が宝物だった。
これからもずっと、君たちといられたらどれだけ幸せだろうか。何度もそう思ったが、私の命には限りがある。
君たちのできることが増えるにつれ、
私は少しずつ彼岸へと近づく。
君たちを見る時間が長くなればなるほど、
ずっと一緒にいたいとさらに強く思うようになる。
私がいなくなっても問題ないくらいに成長しても、
昔と変わらず笑顔を見せてくれて、本当に幸せだった。
ただ一つ心残りなのは、最後まで見守ることができないこと。
君たちを、守れなかったものを、ずっと守り続けたかった。
無力な私にできることは、幸せであるよう祈ることだけだ。
どうかせめて、満たされていてくれ。
2024 7月31日
君は澄んだ瞳をしているのだろうな。
直視できないからわからないけど。
見る者、見られる者(テーマ 澄んだ瞳)
物心ついた頃、あるいはつく前。
その子の瞳は純粋で、見るものすべてが不思議に満ちていた。
おもちゃはもちろん、机も椅子も文具もお菓子も、両親も、すべてが不思議。
周囲の大人は、その子の澄んだ瞳を、子どもらしい無邪気な表情だと感じ取っていた。
ただし、その瞳の向こう側にある脳で、本当は何を感じているのかは、周囲には当然伝わらなかった。
エレメンタリースクールに入り、彼は澄んだ瞳のまま、やはり不思議な世界を見続けた。
知らないことを教えてくれる『先生』という人がいたので、知らないことをどんどん聞いた。
最初は機嫌良く答えてくれていた『先生』は、段々とうんざりしてきて、嫌な顔を隠そうとしなくなり、最終的にはその子を相手にしなくなった。
それでも質問を繰り返すその子を、スクールはついに退学にしてしまった。
学校を退学しても、その子の瞳に映る世界が不思議であることは変わらなかった。
その子は、疑問を解消するために実験を繰り返し、ずっと何かを研究する生活になった。
周囲は、エレメンタリースクールを退学になった変わり者として彼を見るようになった。
時が経ち、彼はいくつかの発明をして、発明家として世に知られるようになった。
周囲は彼の瞳を、あれが人とは異なることをする顔つきだと噂した。
さらに時が経ち、彼は他の学者とトラブルになったり、裁判で争ったりするようになった。
争った相手は、これだからエレメンタリースクールも出ていない奴は、と、彼の瞳を低学歴者の証のように見ていた。
さらに大きく時が過ぎ、彼は最後の研究をしていた。
最後の研究は、幽霊と話ができる電話機であった。
現代の私たちは、さしもの発明王も、歳で耄碌したかと思ってしまう。
しかし、しかしである。
彼自身は、幼い頃から変わらず、自分の周囲の世界が不思議で、その世界を実験して、新しいことを知って、何かを作る。
それをただ繰り返してきただけだった。
変わったのは、周囲であった。
彼の瞳は変わっていない。
澄んだ瞳をした子どもによく会う
仕事柄
いろんな子どもに会うのだけれど
中に汚れのない澄んだ瞳を持つ子どもがよくいる
俗世にまみれたことのない
純粋な心の持ち主
そんな子どもに会うたびにいつも思う
「そのまま育って欲しい」
そして
そのまま育つことができるような社会を
作っていくのが私たちの使命
私の目の保養な彼を見つめ、
私を見つめ澄んだ瞳に移る私は
世界1可愛い。気がする。笑
澄んだ瞳のその先は 伏し目がちなあなたの秘密
子どもの頃、祖父母のうちに置いてある日本人形が怖かった。とても艶やかな振り返り美人さんだったけど、振り返った伏し目がちな瞳のその先に何かがいるような気がしてならなかったのだ。
この美人さんを作った方はその視線を捉えにいったりしたのかしらと大人になって思う。あなたの理想を体現した美人さんは正面から見る客とは決して目を合わせないのだ。こちらを見るのが恥ずかしいから逸らすのか、視線の先が堂々と見れないからそっと振り返るのかと妄想する。
その先にあるのは、枯れ尾花か、憧憬か、背徳かそれとも。
ポジティブ強い彼のそのまん丸い瞳が濁ったところを見たことがない。普段はタレ目でおっとりとしているのに、子犬のような目をしているのに、覚悟を決めた時は誰よりも目力が強くて人を惹き付けるのだ。
俺もその目に魅入られたクチで、彼に見つめられるのは苦手だが、その目を盗み見ては友人にバレて呆れられていた。
そんな日々を繰り返してわかったことがある。
彼の覚悟というのは、彼を消耗させるものが多い。
そしてそういう時こそ彼の瞳は空気の澄んでいる日の夜空のようにキラキラと輝くのだ。
遠くで命の火を燃やしているみたいに。
ここ最近彼の目はキラキラどころかギラギラしている。瞳に反射する全ての光が一等星、みたいな。相変わらず人を惹きつけて、タチの悪いことに人懐っこいから変な絡まれ方までして、また星が瞬いた。
もはや魔眼だ、見た人だけじゃなく持ち主まで狂わせる。
「おい」
俺のまさしく不機嫌です、という声に彼が目をぱちくりさせた。そっちの瞬きの方が好きだなと思った。なんせ俺はそのタレ目に惹かれたものでして。
俺を怒らせたと思って溢れそうになるほど揺れるこの瞳が一等好きなものでして。
機嫌を損ねたということだけを呈示して踵を返すと、作った人集りそっちのけで俺を追っかけてくる。
「なあ、待てって!なんでそんな怒ってるん?」
「怒らせるようなことしたん?」
「やからそれが俺が聞きたいねん」
「…別にええよ」
「ええよって何やねん!?絶対俺何かしたやん!」
俺の機嫌を取る方が偉いさんの機嫌取りよりも優先されることなんだということだけで既に機嫌は治りつつあるのだが、というか、全部ポーズなのだが、キュートアグレッションってやつなのか少し困らせたくなる。いやかなりだな。
「目瞑って」
「へ?」
「いいから瞑れ」
ちゅっという可愛らしい音と空気が抜けたような間抜けな声、
ぽやっとした顔、赤い頬、意地の悪い顔を映した瞳。
澄んだ水には魚も棲まないというし、濁ってる俺を映すくらいがちょうどいいやろ?
「おっさん近づかせすぎやねん、腰なんか触らせんな」
「不可抗力や」
「言い訳すんな、俺から離れんなや」
「……っ、わがまま」
作者の自我コーナー。いつもの。理不尽なことを言う旦那さんに文句は言うものの結局従うお嫁さん。
こうやって、人当たりの良い彼を守ってほしいなと思ったり。
今時似つかわしくない、紙の地図をざらりと撫で、周りを見渡した。
「……ここが『澄んだ瞳』か」
日本からおよそ七万キロ。
アジア大陸の、ヨーロッパとG国の中間辺りにある、雪国と雪の降らない国の狭間となっている所。雪はいつも降るかどうか迷っているのだろうが、ここ数日は雪化粧を選んだようだ。
彼は今、頑丈な雪の重さに耐える針葉樹の稠密を抜け、崖の上から見下ろしていた。
目線を水平にして、少し目を凝らせば、遠くに見えるかもしれない。チェルノブイリという、決して消えぬ絶望を伝える、古びた剣のような嘆きを。
しかし、彼の興味は別の所を向いている。
興味のない目の加減。機敏な動き。
今は係争地にほど近い場所であり、誰も知らない場所になりつつある。
彼の後ろでドスンと雪の塊が落ちた。
気にしない。目は日常の一つを、するどく拒否した。日本だって、北海道に行けばありふれた現象だ。
でも……
崖の上と崖下。
高低差は700メートルほどあるだろう。
中心には核の成分の溶け込む、澱んだ緑青色の湖。
その輪郭を攻めるように、左右に一つずつ、彼と同じような崖が形作っている。
しかし、こちらのような高低差を作るだけの段差ではなく、反り立つ壁……いや、それ以上に反っていた。
一口サイズに切られた三角形のチーズが少し溶けたような感じである。
鋭角から先はヘアピンカーブより何倍もきつく、線路の分岐路よりも非常に、非常に曲がって地上に到達する。
鋭角15度の、三日月の先端。そのような崖。
それが鏡合わせのようになっていた。
戦争と平和のように、両者は対立していた。
その崖から雫が垂れて、雨が水たまりを作るように、対立する二つの崖の下に、先ほどの湖がある。
この碧色の湖が瞳を表し、二つの反り立つ崖が瞼を意味するらしい。
澱んでいるのは湖面3センチほどらしい。つまり皮膜であり、苔であり、マリモでもある。
表面積を覆う緑色。
そのすぐ下には、底の見えぬ美しさが隠されている。手を沈めて掬い取ろうとすれば見られるかもしれない。鮮青色の、真の湖の顔が。
しかし、『瞳』に近づくには、高濃度の硫化水素を浴びなければならない。
『澄んだ瞳』――涙を流さず、潤いは寸前で堪えている。
どんなに険しい嵐が来ようとも、信じるものがあるかぎりキミの澄んだ瞳は決して濁りはしないのだろう。そのまま進め、とてもゆっくりでもいい、いつか振り返ったときの、素晴らしい眺めを想像して。
白球を 追ってく瞳 鵙日和
【澄んだ瞳】
それはまるでガラス玉。
誰にも盗られないように。
大事に私だけの宝箱へ、仕舞っておこう。
『澄んだ瞳』
新品が好き
キレイでくたびれてないまっさらなやつ。
ちょっとでも汚れたり、時期が経ったら買い換えたり、代替品を探したりする
身の回りのモノ、使用人や恋人も。
買えるものならいいんだけど、そうでないものは簡単じゃなくて困っちゃうな。
例えば体の部位とかね。臓器とか簡単に代えれないし、手に入れるのは時間がかかる。
でも新しい顔は手術でどうとでもなったよ
最近では瞳の色も代えたんだ。
もちろん新品のやつ。サイズがちょっと小さいかな
なるべく新しいのが良かったからさ。
やっぱり新品が好き
『澄んだ瞳』
澄んだ瞳
あなたの瞳はとても優しく感じるほどに澄んでいる
「雪(ゆき)さんの名字ってなんですか?」
「.........朝岡...」
「朝岡雪さん!素敵なお名前ですね!なんか青っぽい感じがして...」
「.........」
「あ、次です!雪さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「......なんでも良いだろ...」
「いえ!やっぱり定番中の定番ですよね、これは聞いておかないと!」
俺は心の中でため息をつく。もう二週間もこれだ。俺がバイトの休憩中、この海斗(かいと)という男に質問責めされる。
最初は、健気だなぁとしか思わなかったが、二週間も続けば嫌気が差してくる。
「次はですね...」
「なぁ」
俺の呼び掛けに反応するようにこちらを向く。
「ちょっとしつこいんだよ。初対面にしては馴れ馴れし過ぎないか」
ぴたり、と彼の動きが止まる。
しばらくしたのち、彼が先に口を開く。
「そう、ですよね…...すみません、一人で盛り上がっちゃって...」
彼は段々とうつむきかげんになる。
「あの......もう来ませんから!!!すみませんでした!!」
「え?は、ちょ」
俺が止める間もなく、彼は店から出ていってしまった。
(...少し、冷たくしすぎたかも)
俺は少しだけ後悔したが、切り替えて店の作業へと戻っていった。
お題 「澄んだ瞳」
出演 雪 海斗