回顧録

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ポジティブ強い彼のそのまん丸い瞳が濁ったところを見たことがない。普段はタレ目でおっとりとしているのに、子犬のような目をしているのに、覚悟を決めた時は誰よりも目力が強くて人を惹き付けるのだ。
俺もその目に魅入られたクチで、彼に見つめられるのは苦手だが、その目を盗み見ては友人にバレて呆れられていた。

そんな日々を繰り返してわかったことがある。
彼の覚悟というのは、彼を消耗させるものが多い。
そしてそういう時こそ彼の瞳は空気の澄んでいる日の夜空のようにキラキラと輝くのだ。
遠くで命の火を燃やしているみたいに。

ここ最近彼の目はキラキラどころかギラギラしている。瞳に反射する全ての光が一等星、みたいな。相変わらず人を惹きつけて、タチの悪いことに人懐っこいから変な絡まれ方までして、また星が瞬いた。
もはや魔眼だ、見た人だけじゃなく持ち主まで狂わせる。


「おい」

俺のまさしく不機嫌です、という声に彼が目をぱちくりさせた。そっちの瞬きの方が好きだなと思った。なんせ俺はそのタレ目に惹かれたものでして。
俺を怒らせたと思って溢れそうになるほど揺れるこの瞳が一等好きなものでして。

機嫌を損ねたということだけを呈示して踵を返すと、作った人集りそっちのけで俺を追っかけてくる。

「なあ、待てって!なんでそんな怒ってるん?」
「怒らせるようなことしたん?」
「やからそれが俺が聞きたいねん」
「…別にええよ」
「ええよって何やねん!?絶対俺何かしたやん!」

俺の機嫌を取る方が偉いさんの機嫌取りよりも優先されることなんだということだけで既に機嫌は治りつつあるのだが、というか、全部ポーズなのだが、キュートアグレッションってやつなのか少し困らせたくなる。いやかなりだな。

「目瞑って」
「へ?」
「いいから瞑れ」

ちゅっという可愛らしい音と空気が抜けたような間抜けな声、
ぽやっとした顔、赤い頬、意地の悪い顔を映した瞳。
澄んだ水には魚も棲まないというし、濁ってる俺を映すくらいがちょうどいいやろ?

「おっさん近づかせすぎやねん、腰なんか触らせんな」
「不可抗力や」
「言い訳すんな、俺から離れんなや」
「……っ、わがまま」


作者の自我コーナー。いつもの。理不尽なことを言う旦那さんに文句は言うものの結局従うお嫁さん。
こうやって、人当たりの良い彼を守ってほしいなと思ったり。


7/31/2024, 9:34:58 AM