「お花見しよう!」
「花見?もうだいぶ散ってると思うけど」
「今日だから行く理由があるんだよー、分かってないなぁ」
分かるわけがない。いつだってお前は突拍子なく行動する。マイペースというか完全な思い付きで。まあ、それに毎度毎度付き合う俺もどうかと思うのだが、結局こいつと居ると楽しいんだよなぁ。退屈しない。あれほど何も起こらない平穏を望んでいたというのに、人は変わるものだ。
イレギュラーによって起こる事柄を楽しみに思ってしまうのは、完全にこの男せいだろう。
『マジでポンと思い付き』から始まった関係なのだから、今までもこれからもそれに付き合うのが相方としての務めだろう。ーーそういえば、この付き合いが始まったのってこれくらいの時期か。まだ、あのころはこの時期も桜が咲いていた気がする。
なるほどね、随分とロマンチックなお誘いだ。
「君って記念日とか大事にするタイプだったっけ?」
「あ、もうわかったな~?さすが!んー別にそう言うわけじゃないけど俺とお前の運命の日だからさ」
「フォーチュンねw」
「そうフォーチュン!ってイジりすぎやろ、おめえも気付かなかったくせに」
「ね、あまりにも自然すぎて受け入れちゃったよね」
「幸運でもあったから間違ってないってことで!でさ、すごいことに気づいちゃったんだよ俺」
「ほう、すごいこととは」
「俺たちの運命の日なんとウィキ〇ディアに載ってます」
「ラジオの放送開始日だからね」
「相変わらず炸裂してるね・・・でもこれって凄くない?絶対に忘れることないぜ?初めて出会った日なんか昔過ぎて覚えてないけどさ。俺たちが相方になった日はずっと残ってる」
記録として刻まれている。確かに個人的な記念日なんて本人が書き込まない限りデータとして残ることなんてない。実際問題、いつ告白したかも覚えていない。恋人が記念日を気にするタイプだったなら即喧嘩だろう。
「なんかさ、祝われてるみたいだなーって思って」
「・・すんげーロマンチックなこと言うね」
「だから、その覚えてなくても誕生日とこの日は絶対思い出せるってすごくね?って話!」
いや、誕生日は覚えといてくれよ・・・毎年祝ってんだからさ。
「ってことで、お花見に行こう!」
「どこに?」
「えーっとぉ・・・」
「場所までは考えてなかった訳ね・・・wまだ咲いてるところ調べるから支度してて」
「さすが!助かる」
「どうせそんなとこだと思ったよ!wどこまでも付き合いますよ、相方なんでね」
なんせ、そういう運命なんだろう?俺たちは。
作者の自我コーナー番外編
春風とともにと聴くと某ピンク玉が思い出される世代の人間です。作者はこのシリーズが大好きで今も新作が出ると旧新作くらいになってからプレイしています。
単にスキルがなくてコンプリートが遅いだけです。
しかし、このフレーズを耳にするとまんまタイトルになっているあのモードではなく、たいようと月のおおゲンカが出てくるのは、おそらく某動画のせいだと思います。
あの曲大好きなんですね、原曲はもちろんですが。
彼らのことを夫婦と呼び出したのは今は遠くに居る彼らの幼なじみだった気がする。若い頃から刷り込みのようにその言葉を聞いていた僕らはそれを自然に受け入れた。
彼らのどういうところが夫婦かと言えば、言葉の要らぬ関係であることを僕は挙げる。テレパシーでも使っているのかなと思うほどあの人たちの間に言葉は無い。挨拶、といってもおぅ、と言って目線を上げるだけ(しかも目は合わせていない)だ。
でもきっとお互いのことをよく見ている。
そもそも旦那(と呼ばれる方)は嫁さん(と呼ばれる方)をチラチラチラチラ見ているし(声かければいいのに)見られている方も、あれ?と何かを旦那が探しているそぶりを見せると「コートのポッケ」とボソリ呟く。旦那があぁ、と声を出す。
お目当てのものは見つかったらしい。ありがとうくらい言えばいいのに。
彼は普段から物凄く察しの速い人であるというのが大前提だが、でもこれは異常だ。だって何を失くしたのかあの人は口にしていないから。つまり彼だってあの人のことをしっかり見ているのだ。言わないけど、あの人の行動を見て、『そのままポッケに入れたこと忘れそうだな』と思っていたということだ。
言葉にすればいいのに。僕達に対する世話焼きなおかん基質はどこに行ったんだろうか。
ーーなんだかんだ2人とも照れ屋やからなぁ!
と、ギターを弾いていた彼がが言った。
ええ、それってそういう風に括ってしまっていい問題なんだろうか?もしそうだとしたら……
ーー愛でたい夫婦やな!
身長の高いぼくらの末っ子がそう言って豪快に笑った。
もしこの職業についていなかったら、普通に働いていたと思う。そのまま建設会社に就職して、必要に駆られて資格を取ったりして、それなりに家族を食わせてやることも出来たと思う。結婚もしているかもしれない。新しい家族が生まれているかもしれない。それはそれで幸せな生活を送れていたのかもしれないな、なんてことを年に1回考えることがある。
でも毎回同じ結論に辿り着く。
それは俺であって俺じゃないのだ。
隣にあいつが居ない、あいつに名前を呼んでもらえない俺はもはや俺とは呼ばない。
名前の違う何かだ。
時々滅多に呼ばれなくなってしまったその名が恋しくなることもあるが、時にはからっと快活に、時には甘く掠れて呼ばれるなんの捻りもない渾名が愛おしい。
四半世紀以上のお付き合いですからねぇ。
そりゃもう、考えられませんよ、無いなんて。
「……何ニヤニヤしてるん?」
「いやこの仕事してなかったら何してんのかな俺って」
「それのどこにニヤける要素あるん?」
「おたくは?お前はこの仕事してなかったら何してた」
いきなり振ってくるなと怪訝そうな顔をしながらも、そうだなーと考えてくれる。そういうところやけに律儀なんだよな、昔から。だから余計に俺が調子に乗ってしまうのだ。
「うーん、具体的には思いつかんけど俺ちゃうんとちゃう?そいつ」
「いやいやお前の話してるんやぞ」
「やって前から言うてるけど俺はあんたが居らんかったら居らんもん。顔が一緒なだけで別のやつやろそいつ」
ケロッとした顔で奴は言ってのけた。自分がとんでもないことを言っている自覚がこの天然にはあるのだろうか。
「んで、なんであんたはニヤニヤしてたん?」
そう訊ねられて、思い出した。
俺も同じ穴の狢だってことを。
「……俺もおたくといっしょやわ」
「どういうこと?」
なんて絶対言ってやらへんけど。
相対的存在
最近、あいつは涙もろくなった。
本人曰く『歳のせい』らしいが、俺は知っている。
出てきただけだろう?泣き虫なあの頃のお前が。
俺たちが不甲斐ないせいで、心の奥底に閉じ込めることしか出来なかったあの子が、ようやっと安心して出てこれるようになっただけ。それまで何年かかったのだろう。
「あかんなぁ…」
あかんくなんかないよ。今まで我慢した分泣けばいい。
もう俺たちはその涙を拭ってやれるから。
らしくない、なんて言って止めようしないで。
俺はそれが一番お前らしいことを誰よりも分かっているから。
やから、泣いて。
その分笑わしたるから。
作者の自我コーナー
いつもの。お嫁さんが泣きそうになったら茶化す白い人のことを考えて書きました。やっぱり、戻ってきただけだよなぁ