巷では俺とあいつはラブストーリーだなんて言われているらしい。汗だくになりながら頑張る俺を見て自分の気持ちに気づいたんだとか。まるで一昔前の月9だ。俺とあいつも無縁の。
そりゃそんな時もあったかもしれない。そんなベタな展開になっていたのかもしれない。なりそうだ、あいつはベタが好きというかベタな男だから。鈍感な主人公のように顔を赤らめて自覚したようなこともあったかもしれない。マジかよ…、とか独り言すら言ってそうだ。だがそんなものは昔の話で、もうとうにそんな最終章は終えてしまっている。
いつもの流暢な喋りはなりを潜めて、よかった、かっこよかったと大きな瞳を潤ませる。いつになってもかわいい、ただ画面を気にしなかったのが頂けない。お前の可愛さがバレてしまうではないか、最近漏れてきとんねん。40超えてから可愛さがバレるってどないなっとんねん。
腕の中に収めながら肩に頭を押し付ける。すると躊躇ったようにおずおずと手が俺の頭に伸び、さらりと撫で付けた。案外控えめで、それにキュンと来てしまう辺り俺も重症なんだろう。
「よくやりきりました、?もちろんやり切るとは思ってたけどな?でもすごい、誇らしい」
そんな風に手放しで俺を褒める。昔のあだ名のおまけ付きで。
気づくも何も俺がこいつを手放すわけが無い。
ラブストーリーの向こう側。
苦楽を共にしたたったひとりのひと。
俺たちにしか共有出来ない感情がそこにはあって、何人たりとも侵攻は出来ない。彼は最初から俺の特別ではあったけれど、これほどにまで唯一の人になるとは思ってもみなかった。
彼が俺のことをそんなにも思っているとは思わないが、今も隣にいるということは、そんなに外れていないのだろう。
願わくば最後の最後まで添い遂げたいものだ。
あいつが俺を心配していると方々から聞くようになった。
どの口が、と思う。倒れたのはお前の方だ。
俺に何かあったらまるでどうにかなってしまいそうな様子だと聞く。まったくお前だけみたいに言ってくれる。
お前が仕事に穴を開けたとき、気が気でなかったのは俺の方だ。代役を務めなければならなかったこともあり、どんなトレーニングよりも疲労した。
お前の不在でお前の存在の大きさを知らせないでくれ。
やり遂げるから、お前の思っているような心配は起きないから、一番近くでーー
ふたり
ほんのお遊びのつもりだったのだ。
満月の日、吸い込まれるようにふらっと立ち寄った場所に少し興味のそそられる文章ががあり、まぁお試しにと仮面を付けて入った。
ただそれだけの事だったのに。
その空間はことの他楽しく、1日、また1日と訪問するようになった。普段あまり人とプライベートな接触を持たない自分にとっては同じく仮面を付けた人々と交流することは新鮮で、また身が割れることもなくとても楽だった。時間を忘れてしまうような空間にこれ以上深入りは良くない、と思いながら訪ねることを繰り返して、再び月が満ちた頃。
同じくふらっと立ち寄った様子の新入りが現れた。
仮面をつけていても鼻筋が通っていて美人だということが分かる。というか、隠すのは目だけで大丈夫なのだろうか。
紅を引いていなくても紅く色付いたその唇の形はとても特徴的で、見る人が見ればすぐに気づかれてしまう気もする。
よろしくお願いしますと発された声にはなんのノイズもかかっていない。何のための匿名性だ。見かねて仮面のマイクに変声機能が付いていることを説明してやると、新入りは仮面越しにでも分かるほど顔を赤くした。前途多難だ。
平穏を求めている俺としては近づいてほしくない。しかし何の因果か、真っ先に声をかけてしまったのが俺だったせいか、懐かれてしまった。まるで犬のように駆け寄ってくる。
そのため新入りが俺に近づくとみんな余計な気を使って離れていってしまう。平穏が遠ざかっていく。
普段は一向に合わない目がバッチリと合う。じぃっと仮面越しに食い気味に見つめられている。
「なにかな」
努めて標準語を話す。相手に引っ張られてはいけない。
俺はここの平穏な非日常を守りたい。
にゅっと真っ白い手が伸び、頬を包む。
無音の行為に思わず出そうになった悲鳴を飲み込む。
突拍子のない事をする奴ではあるが、出会って2週間ほどの人間に対して、こんなことをする奴ではないはずだ。
「可愛い目してますね、仮面越しにでも分かるわ。俺めっちゃその目好きです」
「それはどうも」
気まずくなって思わず目を逸らす。気づかれてはいないはずだ。ボロは出ていない、こいつは出まくりだが。
「俺の好きな奴にすげぇ目似てて、幼なじみなんですけど」
ほら言っている間にまた勝手にボロを出し始めた、好きな奴の話なんてそう簡単に言うものでは……、ん?
(物語の始まり)
作者の自我コーナー
いつもの。ばれてるのかはわからないです。でも何かしら動く
「お花見しよう!」
「花見?もうだいぶ散ってると思うけど」
「今日だから行く理由があるんだよー、分かってないなぁ」
分かるわけがない。いつだってお前は突拍子なく行動する。マイペースというか完全な思い付きで。まあ、それに毎度毎度付き合う俺もどうかと思うのだが、結局こいつと居ると楽しいんだよなぁ。退屈しない。あれほど何も起こらない平穏を望んでいたというのに、人は変わるものだ。
イレギュラーによって起こる事柄を楽しみに思ってしまうのは、完全にこの男せいだろう。
『マジでポンと思い付き』から始まった関係なのだから、今までもこれからもそれに付き合うのが相方としての務めだろう。ーーそういえば、この付き合いが始まったのってこれくらいの時期か。まだ、あのころはこの時期も桜が咲いていた気がする。
なるほどね、随分とロマンチックなお誘いだ。
「君って記念日とか大事にするタイプだったっけ?」
「あ、もうわかったな~?さすが!んー別にそう言うわけじゃないけど俺とお前の運命の日だからさ」
「フォーチュンねw」
「そうフォーチュン!ってイジりすぎやろ、おめえも気付かなかったくせに」
「ね、あまりにも自然すぎて受け入れちゃったよね」
「幸運でもあったから間違ってないってことで!でさ、すごいことに気づいちゃったんだよ俺」
「ほう、すごいこととは」
「俺たちの運命の日なんとウィキ〇ディアに載ってます」
「ラジオの放送開始日だからね」
「相変わらず炸裂してるね・・・でもこれって凄くない?絶対に忘れることないぜ?初めて出会った日なんか昔過ぎて覚えてないけどさ。俺たちが相方になった日はずっと残ってる」
記録として刻まれている。確かに個人的な記念日なんて本人が書き込まない限りデータとして残ることなんてない。実際問題、いつ告白したかも覚えていない。恋人が記念日を気にするタイプだったなら即喧嘩だろう。
「なんかさ、祝われてるみたいだなーって思って」
「・・すんげーロマンチックなこと言うね」
「だから、その覚えてなくても誕生日とこの日は絶対思い出せるってすごくね?って話!」
いや、誕生日は覚えといてくれよ・・・毎年祝ってんだからさ。
「ってことで、お花見に行こう!」
「どこに?」
「えーっとぉ・・・」
「場所までは考えてなかった訳ね・・・wまだ咲いてるところ調べるから支度してて」
「さすが!助かる」
「どうせそんなとこだと思ったよ!wどこまでも付き合いますよ、相方なんでね」
なんせ、そういう運命なんだろう?俺たちは。
作者の自我コーナー。
桜が咲くと思い出す2人の話。
作者の自我コーナー番外編
春風とともにと聴くと某ピンク玉が思い出される世代の人間です。作者はこのシリーズが大好きで今も新作が出ると旧新作くらいになってからプレイしています。
単にスキルがなくてコンプリートが遅いだけです。
しかし、このフレーズを耳にするとまんまタイトルになっているあのモードではなく、たいようと月のおおゲンカが出てくるのは、おそらく某動画のせいだと思います。
あの曲大好きなんですね、原曲はもちろんですが。