回顧録

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9/12/2024, 3:50:38 PM

初恋を拗らせている。正確に言うと初恋は実らないと聞いたことがあったので、他に恋をしていた。そっちは拍子抜けするほどあっさりと叶い、あっさりと終わった。
そりゃそうだ、あいつへの恋を初恋にしないためのツナギに過ぎなかったのだから。
今考えると相当女の子側に失礼なことをしている。
それも懲りずに何回も。間違いなく女性の敵だ。
でももうご安心ください、第11回目の彼ヘの恋をもって一途になることを決めました。
この恋を終わらせようと思います。

そばにいれるだけで十分ーーなんてお前ほど出来たことは言えへんけど、散々振り回したことの贖罪は受け入れようと思う。
きっと俺が望めばお前は全て与えてくれる。身体も心も、命でさえも。でもそれは俺が望むからでお前の意志じゃない。
それを10年くらい前の俺は、自分だけの特権だと思っていた。お前を俺は好き勝手出来ると。
でも気づいた、お前から望まれたことは何もない。
もともとあの男にはそれほど欲がない。パブリックイメージが独り歩きしているだけで、本来人の為にしか生きられない奴なのだ。俺が作った設定だったのに、独りで歩かせている内にすっかり抜け落ちてしまっていた。とんだ役者だ、演出していた人間に、演出させていることを忘れさせるなんて。

でももう俺はあいつじゃないとダメなのだ。俺を欲しがってくれないと嫌だ。相思相愛ってそこ含めやろ。
互いが互いを求め合ってこそやろ。重い?なんせ20数年物でしてね、さらに重くすることは出来ても軽くはならない。
でもそれはおたくもそうやろ。一蓮托生って言うたもんな。
そこに漕ぎつけれたら御の字って?全然足らん。
俺は諦めるつもりは無いからな。
この恋を終わらせる前に絶対に今世でお前を手に入れる。

『本気の恋』ってやつに今度こそ向き合って、もう一度初恋を始めよう。

(ジンクスなんぞ打ち破ったるわ)

9/12/2024, 5:14:55 AM

カレンダーなんていつもは気にしないのに、時間に追われているみたいでカウントダウンなんてしないのに。
一日一日ごとに塗りつぶされていくマスが愛おしくて仕方がない。黒に、あんたの色に染められていくみたいで。

逢えない時間がーーというのはあながち嘘ではないらしい。
そんなことを俺が考えているなんて知ったら、らしくないと笑うだろうか。馬鹿笑いしてるあんたの顔が浮かんで、またマス目を塗りつぶした。

(はよ、あいたい)


作者の自我コーナー
いつもの。珍しく付き合ってます。
最近雰囲気が柔らかいですよね。
久しぶりに更新しました。しばらく連続更新したいと思います。

8/23/2024, 3:57:28 PM

海に入った。病気をしてから一度も怖くて入れなかった海に。
スキューバは出来なくなってしまったけど海は変わらず母のようにボクを受け入れてくれた。水温は冷たいのに温かくて、思わず泣いてしまった。
太陽の光を反射してキラキラと輝く海があの瞳とリンクする。
ボクのために泣いてくれるあの人に会いたいーーそう思った。またあの人と海に行きたい。
一緒に潜ることは叶わなくなってしまったけど、酒を飲みながら海を眺めることは出来るから。
キレイやなーなんて月並みな話をしながら。

「オレこないだ海行ったわ」

彼は大きくて丸い目をもっと丸くさせながらええやんと笑った。

「どこ?」
「ベリーズ」
「そらええなぁ、前良かったって言うてたもんなぁ」
「泳いでん、あとシュノーケリングも」
「……そらぁ綺麗やったやろう」
「うんむっちゃ!キレイやったでー。キラキラ輝いてた」

貴方の目みたいだった。夜の闇でだって僅かな光を反射させてキラキラと輝く、濁ることのない僕らの希望の象徴。

「貴方にも見せたいなぁーって思った。また海行こうな」
「せやな、行こか。案内頼むで?」

くしゃりと笑う彼の瞳はいつにも増して水分量が多く揺らめいていた。まるで水面のよう。
表面張力で支えきれなくなった水分が雫となって落ちた。

「あ、あれなんでやろ、よかったなぁと思ったら……」

彼の瞳がぽたりぽたり止めどなく雫を創り出す。綺麗だと思ってしまった。
ボクのための涙。ボクのために彼が泣いている。
ーーそう思ったら身体が勝手に動いた。

「……歳とるとあかんわぁ……どんどんよわなる……っ……?」
「い、やぁ…………あいつの気持ちが分かったわ…」
「愛おしなったん?」
「愛おし、なった、なあ………」


作者の自我コーナー
以前書いてたもののサルベージです。
いつもの、ではないけどこの二人の間に流れる柔らかな空気も好きですね。

7/31/2024, 9:34:58 AM

ポジティブ強い彼のそのまん丸い瞳が濁ったところを見たことがない。普段はタレ目でおっとりとしているのに、子犬のような目をしているのに、覚悟を決めた時は誰よりも目力が強くて人を惹き付けるのだ。
俺もその目に魅入られたクチで、彼に見つめられるのは苦手だが、その目を盗み見ては友人にバレて呆れられていた。

そんな日々を繰り返してわかったことがある。
彼の覚悟というのは、彼を消耗させるものが多い。
そしてそういう時こそ彼の瞳は空気の澄んでいる日の夜空のようにキラキラと輝くのだ。
遠くで命の火を燃やしているみたいに。

ここ最近彼の目はキラキラどころかギラギラしている。瞳に反射する全ての光が一等星、みたいな。相変わらず人を惹きつけて、タチの悪いことに人懐っこいから変な絡まれ方までして、また星が瞬いた。
もはや魔眼だ、見た人だけじゃなく持ち主まで狂わせる。


「おい」

俺のまさしく不機嫌です、という声に彼が目をぱちくりさせた。そっちの瞬きの方が好きだなと思った。なんせ俺はそのタレ目に惹かれたものでして。
俺を怒らせたと思って溢れそうになるほど揺れるこの瞳が一等好きなものでして。

機嫌を損ねたということだけを呈示して踵を返すと、作った人集りそっちのけで俺を追っかけてくる。

「なあ、待ってって!なんで怒ってんの?」
「怒らせるようなことしたの?」
「だからそれを俺が聞きたいんだって」
「…別にいいよ」
「いいよって何!?絶対に俺何かしてるじゃん!」

俺の機嫌を取る方が偉いさんの機嫌取りよりも優先されることなんだということだけで既に機嫌は治りつつあるのだが、というか、全部ポーズなのだが、キュートアグレッションってやつなのか少し困らせたくなる。いやかなりだな。

「目瞑って」
「へ?」
「いいから瞑れ」

ちゅっという可愛らしい音と空気が抜けたような間抜けな声、
ぽやっとした顔、赤い頬、意地の悪い顔を映した瞳。
澄んだ水には魚も棲まないというし、濁ってる俺を映すくらいがちょうどいいんじゃない?

「おっさん近づかせすぎ、腰なんか触らせんな」
「不可抗力じゃん」
「言い訳いらない、俺から離れんな」
「……わがまま」


作者の自我コーナー。いつもの。理不尽なことを言う旦那さんに文句は言うものの結局従うお嫁さん。
こうやって、人当たりの良い彼を守ってほしいなと思ったり。


7/21/2024, 9:05:55 AM

この目で見た物しか信じない。
この耳で聞いた物しか信じない。
嗅いで、味わって、触れたものしか。

だから形の無い『愛』は信じられないが、
キミの紅潮した頬と俺の手を握った手の震えと、上擦った声は信じてやろうと思う。緊張しすぎて言葉になってないけどな。

「俺も愛してるよ」

『五感を信じる』

……顔が赤いのはアルコールのせいなんかい。



(私の名前)


作者の自我コーナー
いつもの。私の名前ではないです。

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