もしこの職業についていなかったら、普通に働いていたと思う。そのまま建設会社に就職して、必要に駆られて資格を取ったりして、それなりに家族を食わせてやることも出来たと思う。結婚もしているかもしれない。新しい家族が生まれているかもしれない。それはそれで幸せな生活を送れていたのかもしれないな、なんてことを年に1回考えることがある。
でも毎回同じ結論に辿り着く。
それは俺であって俺じゃないのだ。
隣にあいつが居ない、あいつに名前を呼んでもらえない俺はもはや俺とは呼ばない。
名前の違う何かだ。
時々滅多に呼ばれなくなってしまったその名が恋しくなることもあるが、時にはからっと快活に、時には甘く掠れて呼ばれるなんの捻りもない渾名が愛おしい。
四半世紀以上のお付き合いですからねぇ。
そりゃもう、考えられませんよ、無いなんて。
「……何ニヤニヤしてるん?」
「いやこの仕事してなかったら何してんのかな俺って」
「それのどこにニヤける要素あるん?」
「おたくは?お前はこの仕事してなかったら何してた」
いきなり振ってくるなと怪訝そうな顔をしながらも、そうだなーと考えてくれる。そういうところやけに律儀なんだよな、昔から。だから余計に俺が調子に乗ってしまうのだ。
「うーん、具体的には思いつかんけど俺ちゃうんとちゃう?そいつ」
「いやいやお前の話してるんやぞ」
「やって前から言うてるけど俺はあんたが居らんかったら居らんもん。顔が一緒なだけで別のやつやろそいつ」
ケロッとした顔で奴は言ってのけた。自分がとんでもないことを言っている自覚がこの天然にはあるのだろうか。
「んで、なんであんたはニヤニヤしてたん?」
そう訊ねられて、思い出した。
俺も同じ穴の狢だってことを。
「……俺もおたくといっしょやわ」
「どういうこと?」
なんて絶対言ってやらへんけど。
相対的存在
10/30/2024, 9:11:09 AM