『海へ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
お題
『 海へ 』
「もう、疲れた」
ここ最近私は不運だ。
8年付き合った彼氏に振られ、あいにく
親友と浮気をしていた。
それも8年のうち6年だって…
笑っちゃうよね、(笑)
気づかなかった私もすごいでしょ……
それに、会社でも
上手くいっていた私の企画が潰された。
仲が良いと思っていた後輩ちゃんに
「あーもーぅ、はぁ……」
海辺はやっぱり気持ちいいなぁ…
海風にふかれて飛んで行ければいいのにな……
サーフィンをしてみたくて海に行った。
楽しくてもう一回やりたくて時が経って、
秋と夏の間になってしまった。
ずっとモヤモヤしてる。
したいことを我慢してなんで生きているのだろう。
そんなに我が儘なのだろうか。
君は無邪気な笑顔を纏って
裸足のまま、一人で駆けていく。
夕陽の綺麗な、海へ。
なぜか君を失ってしまいそうな気がして、
手を伸ばしたけれど、
君には届かなかった。
手が宙を切って、
寂しく自分の方に戻ってきた時、
君は変わらない無邪気な笑顔でこちらをみていた。
「どうしたの?」とでも言う様に。
途中の砂浜で足を止めていた。
君の方に小走りで近付く。
今度こそ、しっかりと君の手をとる。
君の手は、少し肌寒い風とは違って暖かかった。
今度こそ、歩き出した。
二人で。
海へ
海へ
海に行きたいなってふと思う時があるよね。
夏だけでなく。
眺めてるだけで気持ちがスッキリする。
海へ
晴れた日に、遠くで眺めるのがいい
照りつける日射しに、水面に揺らぎ続ける光
ザー、という音
海鳥の声、ベタつく風と、あのにおい
裸足を、波打ち際に差し出すのもいい
服を膝上まで捲し上げて、湿った砂に、足を踏み出す
途端に白い波がサーと砂浜を滑ってきて
25℃で、膝下を撫でてく
そしてすぐに砂を巻き込んで去っていった
またすぐにサーと這いつくばってきては、
サーと砂を巻き込んで、這って去ってく
砂に置いてきたサンダルが無いのに気がついて、
慌てて浮かんでいるサンダルを掴んだ
どこまでも続いている海
世界の国とつながり
地球を一つのまとまりの中で
流れを繰り返す
いつもは安全だが
台風がくると高波や津波が
押し寄せる
海の豹変した時の
恐ろしさはとてもむごい
だがいつもは穏やかなので
海の時は気にかけよう
子供の頃、親戚家族に連れられて海へ行ったことがあった。
親戚の子達が奇声を上げてワイワイ楽しんでるなかに
なんか馴染めず一人で波打ち際をふらふら歩いていたら
やはり一人で何やら作業に耽っている子を見かけた。
ちょっと気になり見てると、手で何かに砂をかけている。
乾いた砂を両手にすくいに行っては
波打ち際まで戻るとまた何かに砂をかけていた。
何に砂をかけてるのかと覗いてみると半透明のブヨブヨした物体。
…?意図は掴めなかったが、何か必死さが伝わってきたので
自分も砂を両手にすくい、その何かにかけるのを手伝った。
半透明の物体が砂山に完全に隠れると、コッソリ小さな声で
「ありがとう、助かったよ」
と言って走って行ってしまった。
よく分からないが、いいことをしたような気になった。
あれ、クラゲだったのかな?何かの卵だったのかな?
もし今度海へ行って半透明の物体を見つけたら、砂かけてみるか。
いや、面倒くさいから濡れた砂をかけよう。
※死ネタ、BL(風味)
【UNDER_TAKER 小噺】
███主任研究員の部屋より見つかった手記より抜粋。
「8/24(D) L:77°F H:87.8°F
実験最終日。対象を海へと放流してきた。
水槽から海へと移してやると、暫く立ち泳ぎのようなものをしてから陸へ上がろうとした。
「もうお家に帰っていいのよ」とディクルム研究員が声を掛けると、抗議の声のようなものを上げて陸へ上がろうとした。
彼■本■に戻っ■■大■■な■■と■安に■■■。(雑に消された痕跡がある)
そのままでは埒が明かないと思い、僕が ̶彼̶対象の頭部を撫でると落ち着きを取り戻した。
またここで宥めすかしても暫くすれば陸へ上がろうとする可能性があるので、計画を変更して沖合まで連れて行くこととなった。
移動には地元の漁師、ガプタ=エカ(72)(男性)さんの小型船舶を貸して頂けた。
沖合へ移動していると、最初は不思議そうに着いてきたがやはり慣れ親しんだ場所であろう。
その身を存分に動かして海を楽しんでいた。
淡い黄色の鱗が反射し□、目に痛□□どだった。
(滲んでおり判読が難しい箇所がある)
本当に、今□で見た□□な□景より□□麗だった□
彼を勝■に■えた挙■研究■■にし■癖に、愚か■も帰■■■ない■■て思っ■い■。
人としても、研究者としても愚か者だ。
沖合まで移動して間もなく、かつての仲間と思しき黄色い鱗の個体が複数現れた。
そのまま帰るかと思いきや(結局解明はほとんど出来なかった)彼らの言語で二言三言話した後、こちらへと向かってきた。
彼がしきりに手を伸ばすので少し身を乗り出すと、頬に口付け(と仮称する)をされた。
研究員をつついてちょっかいを出したり、腕を掴んで気を引くなどの行動はこれまでにも見られた。しかしこのように口付けをするという行動は見られたことがなかった。人魚にも様々なスキンシップの概念はやはりあるようだ。
その後私たちが呆然としていると、確かに聞き間違いでなければ
「またね」
と対象は発話し、群れの元へと戻って行った。
こちらの言語を喋るという、これもまた初めての観測だった。
最初は帰りたくなさそうな素振りを見せたが、やはり群れの中がいちばん居心地が良いのだろうか。
仲間が来てからは呆気ないほど颯爽と去っていった。
でも、もし聞き間違いでなければ。
彼はこちらに戻ってくる心積りがあるから、あんなに早く去ったのだろうか。
そうなのだろうか。
いや、これは僕の個人□な記録なの□□□何も臆する□□は無い□ずだ。
そうで□って欲し□□確か□□は思っ□□□。」
この手記は8/27以降を境に何も記されていない。
「───やはりあの人魚に入れ込んでいたんですね」
ユーミス=ディクルムは少しくたびれた手帳をぱたんと閉じる。
「だから警告したのに……」
対象に入れ込む事、研究の投資を投げ出すような判断、そして彼自身の精神への影響。
若くして研究の指揮を取るほどに評価される彼を狂わせたのは、やはり……
手元にあるもうひとつの書物。
昨日の朝刊を痛ましい顔で見る。
「《120年振りの快挙!金色種人魚の捕獲に成功》
28日未明、地元漁船団エカ組合がルベノ漁の途中、漁船へと向かってくる不振な影を発見。
ライトを向けると近海では絶滅したとされる金色種の人魚である事が判明した。
人魚の中でも金色種は特に貴重とされており、漁船団は直ぐに捕獲へと乗り出したという。
組合長のガプタ=エカ(72)さんは
「あれは本当に夢かと思ったよ、人魚さんは逃げるどころかこっちに顔を出してきたのさ。だからそのまま簡単に捕獲出来たって訳よ」と信じられないという顔で語った。
しかし捕獲後しばらくしてから暴れだしたため、生け捕りには出来なかったようである。」
「ディクルムさ……主任研究員!」
ついこの間までただの後輩だった研究員に呼ばれる。突然のことだからまだ皆慣れていないのだ。
なにもかも。
「ああ、ごめんなさい。すぐ行きますから」
そう言ってかつての師の、そして今は自分の研究室を後にする。
私は微かに香る秋の気配から逃げるように歩き出した。
今日は知り合いの命日だ。
俺は墓なんて行きたくないから海から花を流してる。
今日は彼岸花とサネカズラでも流そうか。
「彼岸花の花言葉は「あなたに会いたい」 「別れ」 「悲しい」の意味を持つ…
そしてサネカズラは「再開」 「また会いましょう」の意味を持つ」
「現に今の俺はお前に会いたいしお前を失って悲しい…」
「また来世で会えたら会おう」
「それまで俺は気長に何十年、何百年、何千年と待とう。もう俺は不老不死の身だからな」
【海へ】
「週末は晴れるかなぁ」
昼間なのに薄暗い窓の外を眺めながら、ひとり言のように呟やいた声は、意外にも響いて、答えが返ってくる。
「多分、晴れる」
「ふうーん。じゃ週末、海、行かない?」
「海……ね」
含みのある声に気づき、すかさず尋ねる。
「なに。海キライ?」
「あんまいい思い出がないんだよ」
「例えば?」
「毎年強制参加型家族行事」
早口言葉のようにコンパクトに答え、眉を顰める。
「は? も、一回言って?」
「毎年強制参加型家族行事」
「ね、ワザと言ってない? マイトシ? サンカ? ギョージ?」
「毎年、海の別荘に、一週間くらい、缶詰に、されるんだ」
吐き捨てるように言ったら負けな気がして、言葉を区切りながらゆっくりと発音する。
「別荘! すごいね!」
「すごくない。いやすごいのか。すごいのは親だ。でも多分想像するような快適さはない」
「ナニソレ。外、出られないの?」
「いや、気持ちが缶詰になるんだよ」
言った声の暗さは誤魔化しようもなかった。
「気持ちが缶詰……」
何やら呟かれたから、短く答える。
「そう」
話すと愚痴めいて長くなりそうで、どうまとめようか考えていると、予想もしていなかった言葉が返ってくる。
「えー、何缶になるの?」
「は? ナニカンって何」
「だって、缶詰になるんでしょ? 中身、気にならない? ツナとか、サバとか、桃缶もいいよね」
「は? うん? いや……例えだから缶詰」
「分かってるよ〜ん。でも気になるから、ツナ缶ね」
ゆるっと言われ、気が抜けた。でも、「イヤな思い出のために、海へ行くのがイヤだ」と駄々をこねるほどでもないと思った。
(普通はイヤなものだったら、大事に取っておくことはないんだろうなぁ)
「分かった。ツナ缶で一週間だ」
「ツナ缶、いいよね。おいしいよね」
今なら、上書きできるかもしれない。
「君が天草四郎の生まれ変わりって本当?」
風が運んできた噂で知った、私の友人の事。何となく、聞いてみた。本当はどうでもよかったけれど。無言の時間が苦痛じゃなければ相性がいいと思う私にしては珍しく、無言の時間を埋めようと出した話題だった。
彼と私は、結構相性がいいと思う。だって無言でも、落ち着けるから。だけど、今日は本当になんとなく埋めてみたくなっただけ。
だから、彼が笑ってそんなの有り得ないよって言うのだと思ってた。けれど彼の口から溢れ出た言葉は、
「じゃあ、確かめに海へ行こうか。」だった。
ざぶんざぶん、ごぅごぅ。
海と風の音。潮の匂いが私の鼻の奥をくすぐる。海へ来たのなんて何時ぶりだろうか。
「何故、私を海へ連れてきたの?」
「君は、僕が天草四郎の生まれ変わりって本当か聞いたね。」
「それはまぁ、風が運んできたからさ、」
「やれやれ、耳が良いのは感心するが受け付ける噂は選んだ方がいいよ。」
「そんなこと言ったってさぁ。仕方がないじゃないか。」
私は、目が見えないのだから。
「嗚呼、理解しているさ。君は目が見えない。だから耳と鼻が他の人よりも良いってことは。だからこそだよ。」
「だからこそ?」
彼が私の手を引きながら、海へと近付く。
どんどんと、近付いていく。此処はもう、海の上じゃないか。
あれ、だけど、
「ひとつ。天草四郎は、海の上を歩けた。」
体も。服も。どこもかしこも濡れては居なかった。
彼がどんどんと奥へと歩く。足元は不安定だった。必死に彼の手を掴みながら着いていく。
「ひとつ。天草四郎は、盲目の少女の目を治した。」
彼の手が私の顔を覆う。
それが何だか恐ろしくて、だけど拒めなかった。
「目を開けてご覧。」
「さぁ。噂は本物だったかい?」
初めて見た夕焼けという景色を背に、美しい顔をした少年は笑っていた。
水の中にはどんな魚がいるのだろう。僕は生きてる魚を見たことがない。ずっと見てみたかった。魚を。学校の友達は水族館にいけば、魚が見えると言われた。でも僕にはそんなお金はない。なぜみんなは簡単に水族館にいけばいいと言われる。不思議だ。僕のお母さんは僕を支えることばかり、必死に働いてご飯を食べれてる。僕のクラスにはお金持ちのこもいる。だからいつもうらやましい。でもお母さんが育ててくれたから我慢している。だから僕が高校生になったら、バイトして給料もらって水族館をお母さんと僕でいく。だから海いつか泳ごうね。 千冬
お題:海へ
海へ行きたいのです。ベッドから引っ張り起こし、引きずって、連れて行ってください。身綺麗にしなくていいですから、部屋着のままでいいですから、体をどこにぶつけてもいいですから、足でも何でも抉れていいですから、どうか連れて行ってください。ひと目、海を見てみたいのです。風呂も入れず、食事も摂れず、排泄のため起き上がることも困難な、寝たきりの、中途半端、死ぬことすらままならない。わがままを言わせてください。身綺麗にしなくていいですから、食事も必要ありません、あなたの手を一度貸していただけませんか。そのまま海へ放ってもらって構いません。海へ行きたいのです。
テーマ“海へ”
こうも暑い日が続くと
どうしても涼しい場所へと行きたくなる。
海風で涼もうと、海へと向かった。
それなのに、思った以上に海風が強く
飛ばされそうなくらいだ。
これでは涼むより、飛ばされない事で体力を使う。
海へ来たは良いけれど
とても、複雑な心境になってしまっている。
海に背を向け、海から離れる。
後ろから漂う潮の香り。
やっぱりある程度の距離をとったほうが
心地よいのかもしれない。
海へ行った
吹く風、少し乱暴に当たる水、僕を輝かせる一つとなっている飛沫
全てが僕の体にそっと馴染んだ。
【海へ】
遠い地平線の先、遥か南に君の故郷は沈んでいる。
元より水害の多い場所ではあった。
でも、だからこそ自然と生きる術を心得ていた。
その知恵も技術も、一緒に沈んでいったけど。
故郷を愛している君は、最終便の船で街を出たと言う。
標高の低い場所だから水位の上昇にはすぐに気づいた。
有効な対策は見つからず、その街は捨てるしかない。
そんな状況になってから住人は避難を始めた。
原因はわからずとも、水位は急激に上がったりしない。
緩やかに街を飲み込み、帰る場所を奪っていく。
およそ六年前、君の故郷で最も高い時計台が沈んだ。
今でも懐かしんで見に潜る人がいるほど親しまれている。
水位は去年より十二センチも上がったらしい。
水路の有名なこの街は、ついに歩ける場所がなくなった。
扉を開けると水が入るから、みんな窓から出入りする。
近い将来、この街も沈んでしまうのだろう。
一昨年、体の不自由な人や病人は避難を勧告された。
健常者も状況を見て避難するよう注意喚起があった。
僕はまだ残るつもりだが、君は逃げる気すらないらしい。
「疲れるからもういいよ」遠い目をして、諦めている。
君は故郷にたくさんの思い出を置いてきた。
この街が沈むとき、僕と君の生活も沈んでいく。
そんなのはもうたくさんだ、と君は泣きそうな顔をする。
「じゃあ、ここで終わりにしよう」僕は提案した。
いつか街が沈むより、僕らの人生の終わりが先だ。
溺れて苦しむのは嫌なので、自分たちで終わりを選ぶ。
そしたら、この街に残される僕らを参る人はいない。
「二人で静かな場所に行こう」顔を合わせて笑った。
くすくすと笑いながら耳打ち合う姿を見かけた。
いつもならすぐ交ざりにいくところだけど、日直の仕事のせいでそんな暇もない。大量の課題ノートを大して話したこともないクラスメイトと運びながら教室を出た。
無言のまま早足で歩きながら考える。さっき聞こえた会話の内容がどうにも気になってしかたない。
「…夜に海にいってなにするんだろ」
その日の晩。結局聞き出せなかった会話の内容に悶々として全く寝つけなかった。暗い部屋の中、クーラーの風で揺れるカーテンの隙間から月明かりが差し込んでなんだか水底にでもいるかのような心地になる。
自宅から海まではそう遠くない。川沿いの一本道を通れば自転車で20分程度だ。自転車通学している私の脚ならもっとはやく着く。
もう真夜中だというのに海に行きたくて堪らなくなった。行ったところできれいな砂浜なんてない磯臭い狭い浜辺があるだけなのに、そのときはなぜかとても魅力的に感じた。
街頭なんて1本もない道を自転車で走り抜ける。
昼間とはちがうじっとりとした夏の空気を川上から吹く風と共に切り裂きながら進む。それだけでもう最高だった。
遠くにチラついていた明かりが近づいてきて、目を瞠った。
「遅いよ、待ちくたびれたわ」
大量の花火を手にした友人たちがケラケラと大声で笑っている。すでに何袋か空けたあとなのか、燃え殻の入ったバケツが2つもあった。
約束なんてしてないのに、私のためにとっておいたのだといって束になった花火を手渡される。燃え殻の中にあった種類と同じものがいくつも混ざっていて本当に私を待っていてくれたのがわかった。
「だったらちゃんと誘ってよ」
にやけた顔までは誤魔化せなくて、また笑われる。
ギャーギャーと騒ぎながらやる花火は楽しくてしかたない。またやろうねって口約束だけで嬉しくなる。
―海にきてよかった
【題:海へ】
還そう、全て星の海へ還そう。
記憶、魂、泪も聲も。
#海へ
─海へ─
『今さ、海に居るんだ。』
深夜一時。
たった一人の親友から来た、一件のLINE。
それだけで僕は、察してしまった。
今、親友は死んでしまおうとしていることを。
親友は死にたかった。
いじめられて、痛くて、辛くて、泣いて。
消えてしまいそうな、震えている、悲しい声で。
『辛いよ。消えてしまいたいよ。』と話す。
でも僕は、それを静かに聞いているだけ。止めたりしない。
何故なら、親友の辛さが、全てではないがわかるから。
『死なないで』や『生きろ』が辛いことを、知っているから。
本心では止めたかった。消えないでほしいって。
でも止めたら、君が苦しいだけだから。
せめて別れだけでも、言わせてほしいから。
僕は、君が居る海へと走る。
部屋に残るスマホ。そこにはLINEの画面。
僕からの『待って』と言う言葉。
そして、今送られてきた『ごめんね。』の文字。
#119 夕日を迎えるエメラルドグリーン
海へいこう
都会に疲れた足を引きずり
あの海へいこう
まだあるだろうか?
あの海は__
親友とおしゃべりばかりで仕上がらなかった写生大会
居残りでふたりで描くことにしたあの船着場で
青春のおしゃべりはさらに続いた。
気がついたら夕方で、青かった海はエメラルドグリーンのグラデーションに変わり夕日を迎えていた。
ショッピングモールどころか映画館もない
日が暮れると街灯が妖しく照らすアーケードを
はだけそうな浴衣を着た酒臭い観光客が
歩き煙草をふかしながらぞろっと歩いている__
そんな時代の冴えない温泉街に私たちの青春はあった。
だけど、その時は、
「今更だけど綺麗だね〜」
と少しだけ故郷を誇らしく笑い合った
結局、絵は仕上がらなかったけれど
何とかなるさ〜
もう帰ろう
バスがなくなっちゃうよー
ふたりとも迎えの為に
気軽に親を呼べる家庭じゃなかったから
常に帰りのバスの時間は大切で
スマホはこの時代のドラえもんさえも持っていない
ずっと先の未来のマシンだったから
この海を忘れないように
心のカメラで写して慌てて帰った。
.....
あの時の海は今も心のアルバムに残っている。
けれど、あの海を見た場所はもうないだろう
でも、あの海は
きっと今日も美しいエメラルドグリーンに染まり、夕日を迎えていると思う。
お題「海へ」