「君が天草四郎の生まれ変わりって本当?」
風が運んできた噂で知った、私の友人の事。何となく、聞いてみた。本当はどうでもよかったけれど。無言の時間が苦痛じゃなければ相性がいいと思う私にしては珍しく、無言の時間を埋めようと出した話題だった。
彼と私は、結構相性がいいと思う。だって無言でも、落ち着けるから。だけど、今日は本当になんとなく埋めてみたくなっただけ。
だから、彼が笑ってそんなの有り得ないよって言うのだと思ってた。けれど彼の口から溢れ出た言葉は、
「じゃあ、確かめに海へ行こうか。」だった。
ざぶんざぶん、ごぅごぅ。
海と風の音。潮の匂いが私の鼻の奥をくすぐる。海へ来たのなんて何時ぶりだろうか。
「何故、私を海へ連れてきたの?」
「君は、僕が天草四郎の生まれ変わりって本当か聞いたね。」
「それはまぁ、風が運んできたからさ、」
「やれやれ、耳が良いのは感心するが受け付ける噂は選んだ方がいいよ。」
「そんなこと言ったってさぁ。仕方がないじゃないか。」
私は、目が見えないのだから。
「嗚呼、理解しているさ。君は目が見えない。だから耳と鼻が他の人よりも良いってことは。だからこそだよ。」
「だからこそ?」
彼が私の手を引きながら、海へと近付く。
どんどんと、近付いていく。此処はもう、海の上じゃないか。
あれ、だけど、
「ひとつ。天草四郎は、海の上を歩けた。」
体も。服も。どこもかしこも濡れては居なかった。
彼がどんどんと奥へと歩く。足元は不安定だった。必死に彼の手を掴みながら着いていく。
「ひとつ。天草四郎は、盲目の少女の目を治した。」
彼の手が私の顔を覆う。
それが何だか恐ろしくて、だけど拒めなかった。
「目を開けてご覧。」
「さぁ。噂は本物だったかい?」
初めて見た夕焼けという景色を背に、美しい顔をした少年は笑っていた。
8/24/2023, 8:24:33 AM