『大切なもの』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
僕の大切なものは、
職場の、
好きな先輩から頂いた、
のど飴です。
夜勤の出勤時、
昼間の勤務を終えた先輩が、
そっと近づいてきて、
のど飴を、
ポケットに入れてくれました。
「頑張ってね」
いつまでも、
舐められませんでした。
今も、
舐められません。
僕は、
以前、
先輩に思い切って、
自分の連絡先を書いたメモを渡したことがあります。
後ですごく後悔して、
(先輩を困らせてしまった)
僕は、
次にお会いした時、
「あのメモは捨ててください」
と言いました。
先輩は、
「あのメモは、
お財布の中に大切に入れてあるよ」
と言いました。
烏滸がましいかもしれませんが、
あのメモが、
先輩にとって、
少しでもいいから、
大切なものであったら、
嬉しいです。
20260403 1747
◆
「ゆーう!おはよう!」
「おはよう、のあ」
優しく微笑むゆうを見て思わず私も笑顔になる。
ゆうは私の親友だ。ずっとずっと大好きで、私のヒーロー。
「ねえ、ゆう、今日も一緒に帰ろ」
「ごめん。今日は委員会があるんだよね。だから、先に帰ってて」
「それなら、待つよ!終わったら連絡してね」
ゆうが口を開きかけた気もしたが、チャイムが鳴ったため、慌てて教室に急いだ。
「じゃあ、後でね、ゆう!」
手を振って廊下を走った。
放課後。ゆうを待っているとクラスメイトが声をかけてきた。
「村瀬さん。もしかして誰か待ってるの?」
「うん。ゆうを待ってるんだ。本田くんはこれから部活?」
「そう。佐倉さんなら、さっき廊下歩いていたから、もうすぐ来るんじゃないかな」
「そっか、ありがとう!」
かばんを持って、教室を出る。ゆうの教室は少しだけ離れている。今から行ったら、ゆう驚くかな?
「じゃあね、本田くん。部活頑張って!」
◆
教室から声が聞こえる。
「佐倉さんは村瀬さんと違って愛想がないから」
「勉強だけできても、愛想がね」
「なんかとっつきにくいからさ」
「なんであのふたりが友達同士なんだろう」
聞こえてますよ。どうせなら直接言えばいいのに。
「でも、九条くんもだよね」
その声にぴくっとする。
「なんかチャラチャラしてるし、いい加減な感じだよね」
「授業もほとんどサボってるし」
「おんなじクラスなのはずれだよね」
「っていうか、このクラスだけまともな人いないよね」
「あーあ、先生なんで、嫌われ者をまとめちゃったんだろう」
耐えられなかった。私だけ言われるのは構わない。どうして、他の人のことまで悪く言うのだろう。
思うだけなら構わない。でも、それを声に出すのは許せなかった。
ドアを開ける。その瞬間、クラスメイトの視線が集まる。静かに自分の席に近づき、かばんを手にする。
「ねえ、佐倉さん。聞いてたんでしょ?なんか言いなよ」
「誰かの悪口を言うような人に言いたいことはない」
一瞬、沈黙が走る。
「だからだよ」
「そんなに感じ悪いんだもん。当たり前じゃん。少しは村瀬さんのこと見習ったら?」
「なんで、黙ってるの?もしかして、何も言えない?」
◆
教室の中から声が聞こえる。この声はゆうと、そのクラスメイトかな。
「なんで、黙ってるの?もしかして、何も言えない?」
もしかして喧嘩中?それなら止めないと。勢いよくドアを開ける。
「なんで怒ってるのか知らないけど、喧嘩は良くないよ」
「ほら、みんなごめんさない、しよ?」
「のあ、別に喧嘩じゃないから」
「じゃあ、なおさらだよ。ほら、話し合いしよ」
「私たちはさっき言ったとおりなんだけど、佐倉さんなんかある?」
「ないよ。私もさっき言ったとおり」
「そっか、じゃあ、もう解決したんだね!ほら、ゆう帰ろ」
そう言って、ゆうの手を引く。
「みんなもじゃあね!」
「もう、ゆうが喧嘩してると思ったから、びっくりしたよ」
「ごめん、のあ。先帰って」
「え?」
「ごめん」
「もしかしてなんかあった?」
「お願い」
「話聞くよ」
「お願いだから、先帰って」
ゆうの切羽詰まった声を初めて聞いた。
「ねえ、本当に大丈夫?」
「先帰って、聞こえなかった?」
「ゆう、もしかして怒ってる?」
そのとき、突然目の前に誰かが立ちふさがった。
「あっ、ごめんごめん。俺が頼んだの。放課後残って作業しようって」
「九条くん?それなら私も手伝うよ!」
「いや、委員じゃない人にやらせるの申し訳ないしさ、それに俺が頼んだんだよね。誰も呼ばないでって」
「そうなの?ゆう」
コクリとゆうが頷くのを見る。
「そっかー。残念だけど、仕方ないね。じゃあね、ゆう」
声が震えそうになるのを必死に誤魔化した。ゆうが素直に言ってくれないのが悲しかった。
走ってその場を後にする。泣いているのを見られたくなかった。
しばらく走って地面にしゃがみ込む。苦しかった。涙が溢れてきて止まらない。うまく息を吸うことができない。
「あれ、村瀬さん。どうしたの?」
本田くんだ。そのやさしい声にすがりつくように本田くんの手を握る。
本田くんはギョッと驚いたような顔をしたけど、やさしく背中をさすってくれた。
「歩ける?あそこのベンチまで行こう」
ベンチに座ると、本田くんは冷えた水をわたしてくれた。
「これ、飲んでないから」
ありがとう、と小声で言い、ペットボトルのふたを開ける。
「私って、頼りないかな?」
知らずに、声に出していた。それに気づき、慌てて誤魔化そうとしたけど、本田くんはその言葉をやさしく拾い上げてくれた。
「頼りなくないよ。少なくとも俺にとっては。さっき教室で、部活頑張ってって言われたの素直に嬉しかった。それに、あんまり話したことないけど、あいさつとか元気にしてくれるのも嬉しい。村瀬さんはだれかを勇気づけたり、元気にさせるような力があると思うよ」
やさしかった。うれしかった。こんなにまっすぐに褒められたことはなかったかもしれない。
「いや、何言ってんだって感じだよね。ごめん」
「ううん。ありがとう」
「いや、ごめん。普通に恥ずいし、忘れてほしい…」
「ううん。うれしかった。だから、忘れない」
そう言って、ニコッと笑うと、本田くんはホッとしたような顔をした。
「どうしたの?」
ふと疑問に思って、そう尋ねた。
「いや、もう苦しそうな顔してないから、よかったなって」
「ありがとう。もしかして部活中だった?」
「いや、休憩中だから、平気だよ」
「まだ時間あったりするかな?」
何も言わずに、首を縦に振る本田くんをみて話し始める。
「本田くんと教室で別れたあとにね、ゆうの教室に向かったんだよね。そしたら、教室の中から、ゆうとそのクラスメイトが喧嘩してる声が聞こえて、大変だって思って止めに入ったんだけど、喧嘩じゃなかったみたい。それはそれで良かったんだけど、さっきね、玄関でゆうに先に帰ってって言われちゃった。話を聞こうとしたんだけど、聞けなかった。ゆう、なんか怒ってるみたいで。…って勝手に話してごめんね。話もまとまってないし、何言ってるのかわからなかったよね。ごめん」
「いや、話してくれてありがとう。それだけで、頼ってくれたみたいで嬉しい」
「そっか。ありがとう」
その言葉を皮切りに無言の時間が流れる。それでも、どうにかその隙間を埋めようという気は起こらなかった。今は、無言の時間が心地良い。
「私、行かないと」
そう言って、立ち上がる。そうだね、と本田くんはやさしく微笑んだ。
◆
「なんか、村瀬さんって綺麗事で純粋で、…友達想いだね」
沈黙が流れる。
「とりあえず、移動しよっか」
はい、これ、と九条くんが何かを手渡してくる。受け取るとぬるいココアだった。
それが、温かくて、少しだけ心が軽くなった気がした。
「のあは別に悪い子じゃないんだ。ただ、純粋すぎてときどき嫌になる。綺麗事を並べてもどうにもならないのに、あたかもそれが正解かのように振る舞うのがときどきしんどい。それに、色んな人に、のあと比べられるのも苦しいんだ。私は私の正解で過ごしているだけなのに、周りから見たら、のあが正解で、私は間違いみたい…」
「俺は、綺麗事が正しいとは思わない。もちろん、それで救われる人もいる。それでも、俺は綺麗事には反吐が出る。綺麗事は、ときに人をどうしようもなく傷つけるから」
沈黙が流れる。九条くんは、息をするかのように、言葉を発する。とても、自然に。
それが、羨ましくて、何よりやさしかった。
◆
走った。初めてだった。学校内で走ったのは。
もしゆうがひとりで泣いていたらどうしよう。
もしゆうがひとりで苦しんでいたらどうしよう。
「ゆうっ」
静かに扉を開け、必死に親友の名前を呼んだ。
ゆうの隣には、彼女のクラスメートである九条くんがいた。
ゆうがひとりじゃなくて良かった。
それもそのはずだった。だって、九条くんがゆうに残るように言ったのだから。
そのことが頭から抜けていた。
それでも、少しだけ胸がズキンと痛む。
私にはできない悩みの相談なのかもしれない。
ゆうの隣に立つほどの資格がないのかもしれないという思いに胸が痛んだ。
ここまで来て、ゆうに何を言ったら良いのかわからなかった。扉の前で、言葉を探すように、ゆうの方を見ると、目が合う。
「話そっか、のあ」
その言葉で、胸が軽くなった。やっぱりすごい、ゆうは。決していい話ではないかもしれない。それでも、その一言で、私の胸は軽くなるのだ。
「じゃあ、俺は、ここで」
じゃあね、と九条くんが手を振る。その気遣いに胸が温かくなる。
ゆうが頼れる人が九条くんで良かったと心から思った。
◆
「なに?盗み聞き?」
教室を出てすぐに、楓と目が合う。
「いや、さっき村瀬さんが走って行っちゃったから、心配で…」
歯切れの悪い口調に腹が立つ。
「これから大事な話だから、俺らは行くぞ」
え、という声を無視して、楓の手を引っ張る。
楓と話したのはきっとあの日以来だ。
「楓は、村瀬さんのこと好きなの?」
遠慮という言葉を、どうしても楓の前だと忘れてしまう。
それに今更、遠慮をするような仲でもなかった。
「うん。たぶん、好き」
「そう」
そっけなく答える。別に興味はなかった。
「湊は、佐倉さんと知り合いなんだね」
「まあ、同じクラスだし」
「そっか」
俺とは違って、楓は俺に遠慮する。
「はっきり聞けばいいだろ、佐倉さんのことか好きかどうかって」
その言葉に、楓の顔が赤くなる。どうしてお前が照れるんだよ。
そう思うが、これが楓なのだ。
眩しいほど、綺麗事で、純粋で、友達想い。
あの子とそっくりだ。
「好きだよ」
その言葉に、楓はさらに顔を赤くさせる。
「でも、きっと楓みたいにきれいな感情じゃない」
実際そうだった。
きっと俺と佐倉さんは少し似ている。
純粋な友達を持ち、それに苦しんで。
でも、彼女はずっと気高い。向き合うことを選んだ。
苦しくても、前に進むことを選んだ。
俺は、逃げたのに。
「ううん。湊に好かれるなら、佐倉さんは幸せだね」
苦しい。綺麗事を並べ立てて。俺の心の内を何も知らないくせに。
俺が急に避け始めても、何ごともなかったかのように普通に話しかけてきて。
「それなら、村瀬さんもね。お似合いだよ、楓」
すべて元通りというわけではない。それでも、昔みたいにこうやって話せたことが嬉しかった。
◆
「座ったら?」
どうしようか、オロオロしているとゆうがそう声をかけてくれた。
「そうだよね」
そう言い、椅子に腰掛ける。正直、何を話したら良いのか、わからなかった。
「私、先に帰ってって言わなかったっけ?」
その一言で、体が硬直する。今日は、話をするべきじゃなかったのかもしれない。ゆうが落ち着いてから、話したほうが良かったのかもしれない。
でも、今日を逃してしまうと、ゆうと今までどおりでいられなくなる予感がしていた。
「ごめんなさい…でも、もしゆうがひとりで泣いてたら嫌だなって、思って…」
「泣いてること前提なんだ」
冷たい声に、心の底から冷えていく。ゆうに嫌われたくなかった。
目から涙が溢れそうになる。
「冗談だよ」
突然、やさしい口調で、ゆうが話しだした。
「すこしからかっただけ」
本心だとわかった。でも、これはこの言葉に対することであって、あのときの言葉は冗談ではないことがわかった。
「のあはやさしいよ。みんな、のあと仲良くなりたいと思ってる。かわいいし、駄目なことは駄目だと言えるし、何よりも、すごくまっすぐ。だけど、それがときどきつらい。一緒にいると苦しくなる。みんな、のあが憧れの的。そして、その親友だからって、私への当たりが強くなるの」
知らなかった。私が、ゆうの隣で笑っている裏で、そんなことがあったなんて。
「それにね、さっきの教室でのときもそうだけど、のあが私と誰かの間に入って仲を取り持とうとするたびに、どんどんその溝が深まっていくの」
ゆうは、一呼吸置いて、私の目を見つめる。
「のあのことは大好きだよ。でも、それと同じくらい」
呼吸が浅くなる。
「大嫌い」
わかっていたのかもしれない。この言葉を聞いても、そこまで衝撃を受けなかった。
それでも、苦しかった。大好きな人に嫌われるのが、ものすごく苦しい。
「私ね、それでも、やっぱり、のあのそばにいたい。こんなこと言っておいて、傲慢なのはわかってる。それでも、やっぱり、のあは私の親友、だから」
声を振り絞るようにゆうが口にする。窓から差し込む光で影になって、どんな表情をしているのかわからない。
いてもたってもいられなくなって、ゆうのことをぎゅっと抱きしめた。
かすかな声が聞こえる。小さな呼吸が今にも消えてしまいそうで怖くなった。
「泣いていると思って」
「泣いてること前提なんだ」
ふたりで小さく笑い合う。
「私も、ゆうとずっと一緒にいたい。ずっとずっと、ゆうは私のあこがれで、たったひとりの親友だから」
小さく震える体を力強く抱きしめあった。
◆
校内に人影がなくなってから、ふたり一緒に帰路につく。
校舎を出て少し歩くと、本田くんと九条くんがいた。
本田くんが駆け寄ってくる。
「大丈夫だった?」
心配そうに覗き込む顔に、笑顔で答える。
「うん。心配してくれてありがとう」
隣では、九条くんがゆうの頭に手を置き、わしゃわしゃと撫でている。
お疲れ様、よく頑張ったね、そう言っているように聞こえる。
ふたりは、そういう関係なのかな?
本田くんに首をかしげて、アイコンタクトをとる。本田くんの顔が少し赤くなっているのに気がついた。
私は、二人の関係を知らなかったのが少しだけ悔しかった。
「いいなあ」
知らず知らずのうちに声を漏らしていた。そのことに焦ったけれど、誰もその言葉を拾っていなかったようで安心した。
私の方をみたゆうと目が合う。やさしく微笑むゆうはとてもきれいだった。
「そうだ。九条くん。ゆうの相談にのっていてくれてありがとう」
その言葉に、九条くんは苦い顔をする。
「やっぱり、似てるね」
何を言っているのかわからず、きょとんとする。
「いや、どういたしまして」
九条くんは何事もなかったかのように、そう言い、歩き出した。
四人で静かに街を歩く。
すこし冷たい風に、街角のカフェのパンケーキに匂いがのってくる。
こういうのが”幸せ”っていうのかな。
だんだん遠くなる太陽に、背を向けてゆっくり歩いた。
◆
【のあとゆうの出会い】
新しい学校に馴染めなかった。
容姿について馬鹿にされ、クラスの輪にいれてもらえなかった。
ひとりでベンチに座って、お弁当を食べていると、悲しくなってきて、涙が止まらなかった。
そんなときだった。
静かに隣に座って、お弁当を食べ始めた女の子がいた。ものすごくきれいだった。
天使だと思った。でも、それ以上にヒーローだった。
苦しいときに隣りにいてくれるヒーロー。
この日がきっかけで彼女のことが大好きになった。
みんなのあこがれの的。
私が隣にいてはいけないと感じるくらい彼女は眩しかった。
その日から毎日、一緒に昼食を食べるようになった。
ある日、私がクラスに馴染めなかった理由を言うと、彼女は怒ってくれた。
嬉しかった。私のために感情を表にしてくれるのが。
いつのまにか、私はクラスに馴染めるようになった。彼女のおかげで。
いろんな人とも仲良くなるにつれて、彼女との時間は短くなっていった。
でも、私は、そういうとき彼女のそばにいることを選んだ。
ずっとずっと、大好きな親友。
この関係がいつまでも続くことを願いながら。
◆
【湊と楓の出会い】
空き教室で、スマホをいじっていると、突然扉が開いた。
「九条くん、こんなところでサボってないで、教室行くよ」
委員長だ。正直面倒くさい。ていうか、なんでこいつは、授業中に俺を探しにきてるのだろう。
「委員長こそ、こんなとこでサボってないで教室行ったらどうですか?」
思わず、憎まれ口を叩く。
「いや、文化祭の役割決め、九条くんいないと決まらないから」
歯切れの悪さに、腹が立つ。どうせなら、どうどうとすればいいのに。
「なんでもいいよ。どうせサボるし」
「いや、九条くん。当日は俺と一緒に回ろうよ」
は?、というや否や腕を引っ張られる。
「いくよ」
その背中が心なしか頼もしい。いいじゃん。
こんな真っ直ぐいられるのも羨ましい。
それを機に楓とは仲良くなった。
俺が、この真っ直ぐさについていけていれば、嫌悪感さえ覚えなければ、今でもきっと一緒にいられたのかもしれない。
◆
【ゆうと湊の出会い】
「めずらしいね。佐倉さんがサボるなんて」
スマホをいじりながら、こちらに目を向ける彼に返事をする気さえ起こらない。
「まあ、学校だるいしね。来てるだけ、ありがたいと思ってほしいよ」
ひとりで話す彼は返事を求めているようには見えなかった。
ただ、本当にひとりごとであるかのようで。
「ここ穴場なんだ。人がめったに来ない。だから、なんかあったらいつでもおいで」
優しかった。苦しく、辛くなるほどに。
息をすると涙がこぼれ落ちてくる。泣きたく、なかった。
泣いていることに気づかれたくなかった。
それでも、感謝はどうしても伝えたくて、声をしぼりだして言った。
「ありがとう」
かすれそうな今にも消えてしまいそうな声だった。
「うん」
九条くんは、私の声をすくいあげてくれた。それだけで、うれしかった。
◆
【のあと楓の出会い】
緊張して、うまく自己紹介ができない。
いきなりの指名で、焦る中、隣の席の女の子が急に立ち上がった。
「私は、村瀬のあです!えっと、隣の席の本間楓くんとは、さっき友達になりました。きっかけは、好きな音楽が同じで…」
彼女は隣でハキハキと話している。俺とは、正反対だと思った。俺は、自己紹介なんかで、うまく話せなくなるのに。
村瀬さんのほうを見る。彼女は俺に向けてウインクをした。ウインクと言っても、うまくできていなかったので、目をつぶっただけだったが。彼女は、したり顔で俺の方を見る。
目が離せなかった。おそらく、一目惚れだ。
それを実感した瞬間、俺は彼女につりあうような人になりたいと思った。
「俺は、本間楓です。その、緊張してうまく話せないんですけど、みんなと仲良くなりたいので、よろしくおねがいします」
勇気を振り絞って、声を上げる。隣を見ると、村瀬さんは、微笑んでいた。
ドキリ、とする。
好きだ。彼女のことが。
もう一生、彼女のそばを離れたくないと思った。
◆
【のあと湊の出会い】
窓の外を眺める。
グラウンドでは、どこかの組が体育祭の練習に取り組んでいた。
その中に、見知った顔を見つける。
その人の視線の先には、女の子がいた。
そして、俺はあることに気づく。
「たしか、あれは佐倉さんの」
佐倉さんの親友だ。
彼女の事情は詳しくは知らない。でも、なんとなく察してはいた。
俺と、同じだから。
「人って、自分と似ている人を好きになるのかな」
無意識に飛び出た言葉に、自分でも驚いた。
それをごまかすように、スマホに視線を移した。
◆
【ゆうと楓の出会い】
最近、遠目でときどき見る湊の機嫌が良いことに気がついた。
雰囲気が柔らかくなった気がする。
そう思って、遠くを歩く彼を見ていると、後ろから何かがぶつかった。
「ごめんなさい」
その声に振り返ると、見たことのある顔が視界に飛び込んだ。
「あ、本間くん、ごめんね」
そう言って、上目遣いで見てくる姿に胸が高鳴る。
「俺こそ、急に止まってごめん」
そう言って顔を上げると、村瀬さんのとなりに、見知らぬ顔が見える。
「ついでだから紹介するね。この子は私の親友の佐倉ゆう。それで、こっちは私の友達の本間楓くん」
その言葉を皮切りに、互いに挨拶をしあう。
なんとなく、雰囲気が湊に似ている。
近寄りがたさもあるけど、どことなく柔らかい雰囲気。
いつか、四人で話したいな。ふいに、そう思った。
◆
【その後】
「はい、チーズ」
休日に四人で集まるのは初めてだった。
私は、勝手にWデートだと思ってるけど、きっとゆうと九条くんはそんな気は一切ないのだろうと思う。
「写真ってこんなに頻繁に撮るものなの?」
九条くんが首をかしげて、疑問を口にする。
「女の子は、写真を撮るのが好きなんだよ。映える写真だっけ?」
本田くんも同じように首をかしげる。
やっぱりこの二人は親友なんだな。そう思って、その様子を写真にとる。
「ちょっ、何撮ってるの?」
本田くんが恥ずかしそうに顔を赤らめて、必死にそう言う。
隣で、やさしく声を立てて、ゆうが笑った。
みんながきょとんとして、ゆうの方を見る。どうしたの、と。
「いや、みんな楽しそうで嬉しくて」
その言葉に、みんな笑顔になる。
「ゆうも、楽しそうで私もうれしい」
そう言って、ゆうの腕に抱きつく。
少し前までは、気まずさもあったけれど、もうそれもなくなった。
パシャ、と音がする。視線を向けると本田くんだった。
「ふたりともいい笑顔。ほら」
そう言って写真を見せてくれる。とてもきれいによく撮れていた。
「ありがとう」
嬉しそうにゆうが笑う。それを見るだけで幸せだった。
「じゃあ、そろそろ行くか」
九条くんが静かに言う。
「うん!」
今日はWデートなのだ。せっかくだから、楽しまないと。
◆
「そういえば、二人はなんで疎遠になってたの?」
カフェの一角でふと疑問に思ったのか村瀬さんが口にする。
「あー、ちょっと俺が勝手にキレただけ」
苦い顔をして言う。できれば、言いたくなかった。
「のあ、パンケーキ来たよ。ほら、手拭いて」
佐倉さんが、村瀬さんを静止してくれる。やっぱり彼女は聡い。
写真を撮って、パンケーキを頬張る彼女の姿を横目に、あの日のことを思い返した。
◆
「ふざけるなよ」
静かに口にする。感情的になっても、感情的に怒ることは苦手だった。
「そんなに単純で、純粋で、綺麗事並べて。そのとばっちりを食らうのは俺なんだけど」
楓の口が開きそうになる。
「もう、俺に話しかけないでくれる?」
無理やり遮った。謝らせたくなかった。全部、俺の気持ちの問題なのだ。
静かに教室を後にする。中から、すすり泣く声が聞こえる。
胸がズキリと痛んだが、自業自得だと言い聞かせた。
◆
佐倉さんと村瀬さんがパンケーキに夢中になっているのを確認し、俺は、楓にだけ聞こえる声で、あの日のことを謝った。
それでも、楓に謝らせたくはなかったから、一方的な形になったけど。
楓は嬉しそうに、ありがとう、と小声で言った。
それだけで、心が救われた。
◆
「この服、本田くんに似合うよ」
笑顔で、俺の服を選んでくれる彼女の姿に、胸が高鳴る。
湊と佐倉さんが、気をつかって二人にしてくれた。
湊、頑張れ、と心のなかでエールを送る。
「これは、村瀬さんに似合うと思うよ」
ふたりでそれぞれに似合いそうな服を見繕っていく。きっと、何でも似合うから、俺が見たいものを勧めているだけだけど。
あの日のことを思い出す。
◆
「好きです」
まっすぐ目を見てそう伝える。恥ずかしいし、ものすごく緊張するけれど、ここで勇気を出さないと、一生伝えられる気がしなかった。
「私も好きだよ」
村瀬さんは、一瞬驚いた表情をしたものの、笑顔でそう答えた。
「えっと、そうじゃなくて、恋愛的な意味で、好きです」
村瀬さんの顔を恥ずかしくて見ることができない。
「クラスの自己紹介のとき、俺のことをフォローしてくれて、一目惚れで…。あのときの笑顔とか、うまくウインクできてなかったのとか、したり顔とか、それだけで、時間が止まったような気がして…。これが恋なんだなって思ったと言うか…」
何を言っているんだ、俺は。
村瀬さん、呆れてるかな。そう思って、顔をあげる。
村瀬さんは顔を赤くしていた。それにつられて、俺の顔も赤くなっていくことがわかる。
「ありがとう…あのね、私も本田君のことが好きだよ。恋愛的な意味で。だから、その、えっとね…」
言葉に詰まったらしい村瀬さんに歩みを寄せる。
「好きです。付き合ってくれませんか?」
はい!と答えた村瀬さんの表情は今でも脳裏に焼き付いている。
恍惚としていて、見とれてしまうものだった。
◆
「本田くん?どうかした?」
その声で我に返る。
「いや、告白したときのこと、思い出してて」
「あのとき、私のウインク下手だって言ってたよね」
ぷくっと頬をふくらませる姿もかわいい。
「下手だとは言ってないよ。うまくできてないって言っただけだって」
「じゃあ、どう?」
そう言ってウインクらしきものをしているが、やはりうまくできていない。
思わず笑いをこぼした。こんな日がずっと続けば良いなと願いながら。
◆
「このピアス、九条くんがつけてそう」
楓と村瀬さんと別れて、佐倉さんと二人でいる。
無邪気にはしゃぐ佐倉さんに胸が温かくなる。
初対面のときは、あんなに消え入りそうな声と表情だったのに。
これが本来の彼女なのだと思ったら、なんだか申し訳なくなってきた。
俺が佐倉さんを好きという事実だけで、佐倉さんが黒く汚れていくようで。
「そうだ。はいこれ」
佐倉さんが俺に何かを渡してくる。
「九条くんにはいろいろお世話になったから。ありがとう」
小さな包みを開けると、銀色のブレスレットと、数枚のクッキーが入っていた。
「これからもよろしくね」
そう柔らかな笑顔で告げる彼女を見ていると、心の中のこらえきれない感情が溢れてきた。
「好きだな」
幸か不幸か彼女は、俺の告白には気が付かなかった。
「良かった。九条くん、こういうブレスレットが好きだと思ったんだ。それに、クッキーをよく食べてるから、好きなのかなって」
今は、これでいいのかもしれない。彼女が、無意識にでも俺のことを想って、このブレスレットやクッキーを用意してくれたのだとしたら、それだけで、十分幸せだった。
「佐倉さん。俺、手加減しないから」
一瞬、きょとんとした顔をした彼女はすぐに笑顔になる。
「うん。それなら私も手加減しないよ。九条くんが嬉しくて眠れなくなるくらいのプレゼント、これからも用意するからね」
やっぱり、わかっていない。
楓はよく、俺のことを鈍感だと言うけれど、本当の鈍感は佐倉さんにみたいな人のことを言うと思う。
佐倉さんの手を握り、歩き出す。
はぐれないように、と言ったら佐倉さんが強く握り返してきた。
好きだな、今日何度目かの想いを聞こえないように口にした。
◆
「ほら、こっちこっち!」
おおきく手を挙げてみんなを案内する。
「ここが知る人ぞ知る絶景スポットだよ」
「知る人ぞ知るって、めっちゃ人いるけど」
「みんなその知る人なんじゃない?」
「みんなSNSにアップするから、もう有名どころになったのかな」
路地を抜けて少ししたところに位置する小さな噴水。
四人で木の陰に立つ。風が少し冷たい。
「みんな、大好きだよ」
振り向きざまに、そう言う。
ずっとこの日々が続いてほしかった。
吹き付ける風に髪をさらわれる。
四人で見上げた空は驚くほどに澄んでいた。
_大切なもの4.3
大切なもの
キラキラ光るもの
まわりにはあるように見えるけれど
本当にあるのかしら
大切なもの
知りたいけれど
知らない方がいいのかもね
大切なもの
私にはあるのかしら
「昨日、エイプリルフールだったじゃん。」
俺の机に無遠慮にのしかかりながら話す彼の額を押しやりながら、適当な相槌で返した。
「でさぁ、今日2日なわけだけど。今日、エイプリルトゥルーの日だって。」
「何それ。」
エイプリルフールの翌日。そんな話題に、ほんの少しの興味を惹かれた。
俺は、こういうどうでもいいような雑学に弱い。彼も、それを知っていてこんな話をしているのだろう。
「今日、嘘ついちゃダメな日なんだってー。」
なるほど。
昨日が嘘をついていい日なら、その翌日は嘘をついてはいけない日。だから、エイプリルトゥルー。
納得はしたが、理解はまだ追いついていない。
「……おー……で……何で急にそんな……?」
彼はにまりと笑って、俺の唇にコンビニのチョコプリンが乗ったスプーンを押し付けていた。
「んー……だからさ、今日言ったことって、全部ほんとなわけじゃん?」
嘘がつけない日なのだから、そりゃそうだろう。
彼の意図がいまいち読めなくて、とりあえず目の前のチョコプリンを享受した。
濃厚、とまでは行かずとも、そこそこ満足できるガツンとした甘さ。親しめる味だ。
「……ね、僕らって親友?」
理解した。たった今理解した。
目の前で心の底からの愉悦を浮かべる奴の狙いを。
今日は嘘をつけない日。本当のことを言わなくてはならない日。
ここで俺が違うと言えば、俺達はただの友達だ。
しかし、頷くにも照れくさい。
だが、やられっぱなしも腹が立つ。俺も、趣向を凝らすことにした。
「……ああ、大親友だよ。世界一仲良くて、めっちゃ大事な。」
奴の愉悦が崩れた。
俺の耳もじわりと熱くなっていくのを感じたが、奴の余裕は崩せたので相討ちだろう。
なんとも言えない空気の中、2人して顔を赤くして目を逸らし合っている男子高校生共を、悠々と空を飛ぶ鳥が生ぬるい目で見つめていた気がした。
テーマ:大切なもの
『大切なもの』
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いつもありがとうございます。
今日も仕事が終わらず、休憩中にガサガサと書き連ねたものです。
描写も少なく読みにくいですが、ご容赦ください。
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「ただいまー」
「おかえりなさい。今日もお疲れさまでした」
「ありがとー」
職場から帰宅した彼女を玄関で出迎えたときだった。
彼女はシューズボックスの上で展開されている、俺の推しのグッズの一点に目を向けて首を傾げる。
「……ええっと、れーじくん?」
「なんでしょう」
「変な宗教にハマったりした?」
「俺の神はあなたなんですけど、開祖した覚えはありません」
訝しんでなにを言い出すかと思えば。
俺は彼女の言葉を真っ向から否定した。
「帰宅そうそう、どうしたんですか?」
「怪しげな石ころがショーケースの中に入れられて、物々しく飾ってあるからだけど?」
「あぁ」
5センチ四方のショーケースの中に小さな座布団を敷き、その上に1円玉にも満たない大きさの小石を乗せて飾っていた。
小さいながらも推しのグッズで染めあげたシューズボックスエリアのなかでは、この小石は異彩を放っているように見えるらしい。
彼女は警戒心を露わにするが、宗教や風水などといった、そんな大げさなものではなかった。
「ショーケースは100円ショップで調達したものですよ? クッションはちょうど紫色がガチャガチャで出てくれたので採用しただけです。よく見るとフジの花模様の布であなたのイメージに合うかなと思って採用しました。俺的には隣に置いているショーケースのサイズに合わせて5cm大の小さな推しのアクスタ制作のほうに力を入れたんですけど」
「え」
彼女は石ころと俺に目を配り、ますます眉間の皺を深くしていく。
「宗教じゃなくて石ころ集めにハマったの?」
「それにハマりそうなのは、むしろあなたのほうでは?」
「そんなことしないもん」
「この子はあなたが俺に初めてプレゼントしてくれたものです」
「……?」
「クリスマスをひとりで過ごすのは寂しいから、せめてあなたからのプレゼントをくださいとおねだりしたら、こちらをくれました。本音を言えばあなた自身をくれないかなと淡い期待を抱いていたのですが、さすがにことを急ぎすぎたようで、恥ずかしがって逃げられてしまいました」
「全然身に覚えがなくて怖すぎるけど、厚かましさがれーじくんって感じだから概ね事実に沿ってるんだろうな。認知の歪みはだいぶひどそうではあるけれども」
得体が知れたせいか、彼女は無遠慮にショーケースを手に取り、俺に差し出した。
「とりあえず捨ててくれる?」
「なぜですか!?」
「呪われそうだから」
「毎夜磨き続けてようやくあなたの恋人になれて、さらには夫として昇格できたんですからご利益しかないでしょう!?」
「み、みが……?」
「玄関先に石を置いておくと、邪気の侵入を防ぐ効果があるんですよ?」
「あ、宗教じゃなくて占いとかスピリチュアルにハマった感じ?」
「違います。俺のマイムーブはあなたです」
「あっそう。もういいや。好きにして」
「そうですか。それはありがとうございます」
面倒になったのか、投げやりな言葉を聞いたあと、俺は彼女のスポーツバッグを引き取った。
その荷物を玄関先に置き、彼女を抱える。
「おわっ!?」
俺にお姫様抱っこされた彼女は、パチクリと瑠璃色の大きな瞳を瞬かせた。
「え、な、なに?」
「原石を磨こうと思いまして」
「原石?」
「ええ。俺の大事な大事な宝物です」
戸惑いを隠さない彼女にかまうことなく、俺の機嫌は上昇気流に乗った勢いにまかせて彼女の唇をさらった。
「ん……っ、?」
わずかに赤く染まった彼女の頬に自分の頬を重ねて幸せに浸る。
「ピカピカにしてあげます♡」
「ピカピカって……。あ!? ちょっ、まさかっ!?」
「ふふ」
俺の思惑を察したらしく、彼女はジタバタと暴れ始めた。
しかし、こんなときでも彼女は俺を気遣う。
遠慮を含んだ抵抗などたかがしれていた。
彼女の甘さに甘えながら、俺は風呂場へと向かう。
「ねえ、おろしてっ」
「ダメです。今日の俺は、あなたをとことん甘やかす気分になりました」
「ダメだってば」
「イヤじゃないならいいじゃないですか」
我ながらめちゃくちゃな言い分である。
ちゅむちゅむとふわふわのほっぺたや、もちもちの唇に吸いついていけば、脱衣所に入る頃には彼女はヤケクソになって絆されてくれた。
「もうっ! 勝手にして!!」
「やった♡」
ばんざーいと、彼女の着ているシャツを脱がす。
そして、気が変わらないうちに俺も風呂へ押し入るのだった。
こんなものをとっておくなんて、と我ながらびっくりしてしまうことがある。一緒に行ったお店のオシャレなコースターとか、もう使わないけど、似合うと言われたヘアピンとか、お揃いで買ったペンとか。
なんだか、ガラクタが増えていくだけじゃないと思う。節目の日なんかにもらったものも、もちろんうれしいけれど、何気ない日々の思い出がつまったものって、なかなか手放せない。
バッグの口が開くからと、その時、持っていたクリップを君にあげたら、ずっと使っている。「まだ使ってるの?」と言うと、「気に入ってるから」なんて、当たり前のように言われたら、思わずニヤニヤしてしまう。
何気なくあげたものを、大切にされているのを知った時、なんでこんなにもうれしいのだろう。
「大切なもの」
大切なもの
嬉しかったはずなのに
幸せだったはずなのに
淋しさが腹の奥から
じわじわと浸透してくるのはどうしてなのだろう
頑張ったはずなのに
上手くやれたはずなのに
どこかでまだ自分を
許せずにいるのはなぜなのだろう
大切なものを守ろうとして
盾を持ち剣を構えるのが正しいことと
そう信じてきた
守るために攻撃するのだ
そうでなければ命を失うのだ
いつしかそれは己を囲む城壁となり
研ぎ澄まされた刃は鞘に収まることを知らぬまま
誰彼構わず傷付けた
私の中の大切を守れば守るほど
壊されていくのはなぜなのだろう
血だらけの大切など
抱いていても苦しいだけだ
それならば私は一体
いったい何を大切にしていたのだろう
たとえ形を変え姿を変え
色を変え匂いさえ変わったとしても
大切なものを大切にしたいのだ
間違いも偏りも
傷も流した血もすべて
淋しさや葛藤と共に
私の内に在る
むかし抱いた大切も
今抱きつつある大切も
すべて私のものだということ
それが生きていくということ
大切なもの。
両親
兄弟
家族
友達
在り来りかもしれないけど
良かったと思う、居てくれて。
常にではないけど
ふと思う。
【大切なもの】
それは、健康
どれだけ大金を払っても買えない
自分でコツコツ作り上げていく
あの体調の悪い日々を
2度と繰り返したくない
自分にとって
健康=食事、睡眠、運動
どれも手を抜けない
特に食事は大切
何を食べるかで
日々の体調や気分が変わる
小麦、植物油、乳製品、甘いもの
この4毒は危険である
健康なら
どんなことでも出来る
働くことも
遊ぶことも
緊急事態だって動ける身体
一生使う
自分の身体
大切にしなきゃ
大切なもの
ずっと大切にしたい…
思い出の足跡を刻んで…
昔むかし、それこそまだ某1000匹超モンスターが151匹だけだった初代のころ、
使用ボックスひとつを変更しただけで強制セーブが為されていたころ、
120匹ほど図鑑を埋めていた大切なセーブデータを、ニューゲームで上書きしてしまった経験がある物書きです。
大切なものが、一瞬で吹っ飛んだのです。
懐かしい、いたましい思い出です。
と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまりはじまり。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこには滅んだ世界からこぼれ落ちたアイテムや、
生存世界に落っこちて悪さをした滅亡世界の技術、
滅亡世界がどこかの世界へ託したかった魔法等々、
様々な「大切なもの」が、収蔵されておりました。
その中でもなかなか便利な機械が
保存空間生成装置
というチートアイテムでして、
世界線管理局員は、事前に申請書類を書いて提出して、それが空間管理課の審査に通れば、
2年ごとの更新制で、この装置を使って、自分だけの空間を持つことができるのでした。
局員が申請して生成してもらう空間といえば、
たとえば気温がとてつもなく低くて、食材の冷凍保存に適した空間とか、
あるいは面積がドチャクソに広くて、コレクションの金銀財宝を全部収容できる空間とか、
それから、重力がメチャクチャに強くて、常に筋トレの負荷がかかっているっような空間とか。
本当に、様々なものがありました。
今回のおはなしはその中のひとつ、
常に10℃から15℃で、常に湿度が30%で、
常に標高1500m程度の酸素しかなくて、
なにより直射日光・蛍光灯の紫外線が存在しない、
コーヒー豆を保管するにあたって理想に近い環境が整えられた保存空間のおはなし。
その空間の持ち主は法務部の局員で、
ビジネスネームをツバメといい、コーヒーをとても愛している男でして。
「メ。ツバメさん。ちょっとちょっと」
「はい、なにか?」
「報告があるメ。わりと大事な報告だメ」
午前中の法務部の仕事を終えた休憩中のツバメは、
トントントン、環境整備部空間管理課の局員・通称「黒ヤギ」がドアをノックして、
ツバメのことを呼んでいるのを、見つけました。
黒ヤギはとっても真面目な局員で、
なにより、保存空間生成装置の責任者でした。
そんな黒ヤギが言うことには……
「ツバメさんも、保存空間生成装置で、非公開の保存空間を所有してたと思うメ」
「えぇ、そうですね。コーヒー豆の保存用と、私のバイクやアウトドアグッズの保管用を」
「コーヒー豆保存用の空間は、原則的にツバメさん本人しか、利用できないセキュリティーにしてるとリストに記載されてるメ」
「えぇ、まぁ」
「どうも誰かがツバメさんのコーヒー豆保管庫のロックを勝手に開けて忍び込んでるっぽいメ」
「はぁ、 ……は?」
「誰かがツバメさんの大切なものを、
勝手に入り込んで、盗んでる可能性があるメェ」
私の大切なものを??コーヒー豆を??
いや、それとも、コーヒーに入れる砂糖やミルク、あるいはコーヒーを淹れるためのミルを?
なぜ? ツバメは首を、かっくり。
ひとまず保存空間に仕掛けている防犯カメラを遠隔で呼び出して、映像を確認しました。
「自分しか入らない空間なのに、わざわざそんな、防犯カメラを付けてるメ?」
「おかげでこうして、侵入者が出れば映像が証拠として残るでしょう?」
プライバシーな保存空間のセキュリティーは、とってもとっても強固なものです。
誰がそのセキュリティーを突破したのでしょう?
ツバメが映像をスワイプスワイプ、自分が映っているだけのものをスルーし続けてゆきますと、
「ドワーフホトさん?」
収蔵部収蔵課のお嬢さん・ドワーフホトが、薄暗いコーヒー保管庫にランタンとメモを持参して、
トトトト、とととと、
一直線に、コーヒーミルクやコーヒークリーム、それからホイップクリーム等々の乳製品を保管している棚に向かっていって、
そしてひとつ、ちょっと小さめの遮光金属ボトルを、間違いなく手にとりました。
「ホトさん、何してるメ」
「練乳のボトルを手に取りましたね」
「れんにゅー?」
ツバメにとってそのボトルは、
コーヒーに比べれば、大切レベルが2段3段下がりますが、間違いなく大切なものでした。
映像にうつるドワーフホトのお嬢さんは、そのツバメの小さなボトルを、
とても熱心に、真剣に、調べておりました……
大切なものなんてあるのか。
自分の体や命さえ、どうなってもいいと思うことがある。
友達や恋人が突然いなくなってしまったとしても、私は多分泣かないし、
あーもうそばにはいないんだな
と思うだけ。
割り切ってしまう。
新しい環境に踏みだせば、また新しく作れるから。
一生物の人なんて、きっと私には作れないしそういう人を作ること自体が、私には合わないから。
こういうことを話せば、冷たい、人の心無い、そんな言葉をかけられるけど、そうじゃないんだよなぁといつも思う。
これが私で、側から見れば酷いかもしれないけど、各個人が1人1人違う考えを持つ、その中の1人なだけ。
あーでも1人だけ、きっとその人のお葬式だけは泣き喚いてボロボロになるんだろうなって思う。
お母さん。
大切なもの
君との暮らし この幸せ
君と共に生命をつくすこと
大切な物。
みんなそれぞれ違う物を持っている。
おもちゃ
マフラー
セーター
家族
子供
そうみんな違う
だけど、月日が流れると
大切な物は変わっていく
前大切だったものは
過去形になってしまう
なら一つ選んで大切に生きていきたい。
『花と呼ぶ』
創作BLです、お気をつけて!
吉野に会うのは実に、実に……? あー、いつぶりだっけ。大学の卒業式? いや行ってねぇな。行ってたとしても人が多すぎて見つけられなかった、そう思って行かなかった。連絡とか取って示し合わせるとか、なんかそういうことをすりゃあよかったんだろうけど、できないことを考えるのは面倒で、あー、だから、結局いつぶりだ。わからない。少なくとも4年以上前であることはハッキリしている。
「よ、よぉ。久しぶり」
なんか変に吃った。なんだこれ、俺たちってこんなだっけ? 違った気がする、でも思い出せない。それくらい時が経ってたし、連絡も一切取れなかったし、ともすれば当然会ってもいなかった。
特徴的なツリ目をまあるく見開いて、吉野が俺を見てる。それは知ってる顔で、ついでに言えば相変わらずダッセェ格好してるとことか、マジで変わってなくて、安堵みたいな、あこれ戻れんじゃね? みたいな。そのようなことを漠然と思って、思ったから、グッと腕を掴んで引き寄せた。
吉野は拒まない。でもたっぷり30秒は引き寄せられた腕、延いては引き寄せた俺の手を見つめて、後に、「ひ、さしぶり」とつっかえ気味に言った。
「びっくりしたって顔だな。俺、そんな変わった感じするか?」
努めて冷静に聞いた。それは上手く通じたらしい。吉野が「いや」と軽く首を振る。
「むしろ……なんというか、変わってなさすぎて、驚いた」
「それはそれで悔しいな。このピアスとか、結構いいやつなんだけど」
「あ、ああ……そうか。すまない、そういうのには、疎くて」
「そうだろうな。つうか嘘だし。これはただ昨日付けっぱで寝たせいでキャッチを失ったいつ取れても困らない300円のピアスだし」
「は? 何が言いたいんだ?」
「お前もマジで何も変わってねぇんだな」
「……そう見えるか?」
「お、悔しい?」
「……いや。たぶん違うと思う」
たぶんて。相変わらずふわふわとした奴だな。4年前とまるで変わってない全身真っ黒のコーディネートのみならず、中身も特に変わってないらしい。口元はほぼ一文字なものの片眉は若干上がっている、非常にわかりづらい、楽しいとか嬉しいとかを表す吉野の顔に、俺がわずかに感じた悔しさが瞬く間に霧散していく感じがする。
何、お前。俺に会えて嬉しいの? こんななんでもない往来で、ちょっと散歩してますってことがあからさまな上下グレーのスウェット姿の俺で? こんなんでいいのか? こんな、そんなので、よかったのか?
「どうして卒業式来なかったんだ?」
聞くのかそれ。お前が聞いちゃうのかよ。
そのようなことを言いかけて、やめた。代わりに、「行ったのかよ」と呆れ気味に言ってみる。こんな破綻した応答、通常時の社会に迎合している俺ならしない。でもこいつにはこれくらいでちょうどいいのだ。だってほら、証拠にこいつは不愉快も不可解も微塵もない顔をしてる。ずっとそんな調子だったから、お互い属してるコミュニティもバイト先も大体のスケジュールも住んでた場所も知ってたのに、ついぞ連絡先だけは聞けなかった。
じわじわと眉間にシワを寄せて、一見すると不機嫌に見える顔だが、その実はただ考えているだけだ。それもロクでもないこと。でもそういったことを実行できる奴でもないので、大方次に続く言葉はこうだろう。「嘘とか、吐いた方がいいのかな」。
「何、なんかやましいことでもあんの?」
「そういうわけではないんだが……そうだな。俺も行ってないんだ。卒業式」
「あーハイハイ、行ったのね」
「……」
「マジで変わんねぇな、お前。その調子じゃ、同窓会も行ったんだろ」
「そういう君は、来なかった」
「おう。別に会いたい奴は普通に個人で定期的に連絡取ってるからな」
「その中に、どうして俺は含まれていないんだ?」
「……あ?」
吉野の腕を掴みっぱなしだった俺の手の少し上を吉野の手が取った。外される。でも手首が離されることはなく、するりと下がって、手を握られた。は?
「樒。俺は結構、かなり、……とても。大切だったよ」
平坦な声。
でも、それがかなりの勇気を振り絞ってのものだということは、繋がった部分から伝わっていた。伝わる、っていうか、何これ、初期微動? にしては揺れすぎてる。これが初期微動だとしたら主要動はどうなるんだよ。世界そのものが揺れるんじゃねぇのこれ。言ってる場合ではない。初期微動で揺れすぎてんのに、その距離は短いっていうかほぼ無で、つまりこれはほぼ主要動ってことで、あじゃあ安心じゃん……とか、いやだから揺れてる時点で言ってる場合じゃないんだよ。
今、お前、4年経った今、それを言うのかお前。吉野。俺が変わってるとか、具体的には彼女だの彼氏だのいるとかは思わなかったのか。思……ッわなかったんだろうな〜〜〜。思わねぇよな、そうだよな、お前はそういう奴だよな。ああそうだよ、いねぇよボケ。そんなもん、お前以外考えられなかったわ、考えたこともねぇわ馬鹿が。
なんなんだよ。一応、チャンスをやったつもりだったんだけどこっちは。
学生の4年、社会人の4年。どちらが重たいかはその人に寄るところではあるが、年齢不詳通り越してキモいレベルに童顔で人相の悪いお前がよく見ればちゃんと整った可愛い顔をしていて、俺には及ばないまでも背も高いし、その辺の野郎じゃ真面目で付き合いにくいとやっかまれるところを容貌アベレージの高さにより誠実でカッコイイと適切変換されてそれなりにモテていることを知ってた。
ふわふわとしたこいつに引きずられるような形で、お互いたぶんそうなんじゃねぇかなと察しているようなそうでもないような、そんな調子でふわふわとした付き合いにほぼ4年間甘んじていて、それは本当に正しく甘えだったと気が付いたのはお前が知らん女といい感じとかいうクソみてぇな噂が流れ始めたときで、だから俺はその時点で「もう家に来んな」つったし、お前の家にも行かなかっただろ。
別にクソな噂を信じたわけじゃない。それとなく噂に該当する女を指さして「名前知ってるか?」って聞いたら「知らない」って言ってたし。「気になるのか?」って聞いといてちょっと不機嫌になってたし。俺が「いいや、前に道聞かれただけ」つったら「今後は無視しろ」ってさらに怒ってたし。
冷静に考えなくてもこんなクソどうでもいい会話をイチイチ事細かに覚えてる俺マジでキモいな。救いようがない。そのわりに、ふわふわと曖昧な4年間、ただの一度も手すら握れなかった。
それなのに、お前は、そうやって、4年の空白とかそういうの全部すっ飛ばして今、俺の手を握ってやがる。
何、どうしたいの、お前。わからなかった、連絡を取る手段なんてこの4年間いくらでもあった。ときどき会うかつてのサークル仲間に今も吉野と会ってるのかと聞かれて、そもそも連絡先を知らないと答えるのにも飽きてた頃だった。そいつは持ってた。そいつがお前と会ってることも知ってた。でも敢えて露骨に話題を避け続けて、そいつは俺たちが喧嘩別れしたと思ってる。事実近い。
でも吉野、お前、俺が「もう家に来んな」つったとき、お前はさっきみたいな平坦な声で「わかった」って言っただろうが。何、なんだよ。あのときも震えてたのか? 本当は俺の手を握りたかった? そうしなかったのはなんで?
恨みのような、怒りのような、感情が込み上げては喉元で熱く沈むのをしばらくくり返していた。ブチ撒けたいと思うのに沈むのは、きっと全部違うからだ。それくらいわかる。昔からわかっていた。それでもってこれが、正しく後悔とかいうものだと言語化できるくらいには時が経っている。
「しきみ」
吉野が昔とおんなじ調子で俺を呼ぶ。
甘いと思った。抑揚が無さすぎると思っていたはずなのに。だから俺は踏み込めなくて、お前のテリトリーから一歩引いたところで地団駄を踏み続けていたはずだった。
「……なんか、女みてぇ」
「それは……樒が?」
「お前はブレねぇな」
苦し紛れという言葉通りに、苦しさ100パーセントのかたまりを口から吐き出す。
「中年から上くらいの教師に呼ばれるとき、大抵男は『くん』で女子は『さん』だろ。吉野も俺も花の名前で、だから初手は大体『さん』って付けられてた。そういうことを、思い出した」
これ言ったところでどうせわかんねぇんだろうな、という予想は強く手を握られたことによりあっけなく覆された。
目に、びたびたに涙を浮かべた吉野が、それでも俺の目を真っ直ぐ見つめたまんま、「呼んでくれ」って言う。それに、ああこんな簡単なことだったのかよと思って、思ったらたまんない気持ちが今度こそと何もかもブチ撒ける勢いで全身を突き動かしてきた。
全身に吉野を抱え込む。懐かしい匂いと初めてちゃんと知る体温に、さらに込み上げてくるたまらない気持ちをほとんど力任せに手の中の大きな質感を抱き締めて発散してしまおうとする。
「吉野」
「……本当だ」
甘いな。
とつりと小さくこぼされたそれが俺の薄いスウェットを濡らすのがわかった。
「吉野お前、今、何してんの」
カサりとビニール製のエコバッグが俺の背後で擦れる音がした。
「買いもの」
そうじゃねぇよ。いや俺の聞き方が悪いのか? そんなわけなくねぇ? 普通こういう、久しぶりに会った人間が聞きたいのはさ、そういうんじゃねぇのよ。近況とか、今どこに住んでんのとか、4年も経ってんだから少なからず変わってるはずの、そういうことを聞きてぇんだよこっちは。
「夕飯の、買いものをしていた」
いや別に何の買いものかを知りたくて黙ったわけではないんですけど……あまりにも変わってなさすぎるお前への驚愕で黙ってしまっただけなんですがこっちは……などといった俺の御託は、しかし、続く吉野の言葉によりスンとなりを潜めた。
「ふたり分ある」
「……」
「家は、変わっていないよ」
優しく、言い聞かせるような声色だった。なんだそれ。どうやら図られていたのは、こちらの方だったらしい。
大切なもの
今日の夢もキャンディーズ[あなたに夢中]
そして昭和アイドルの中で私が1番大好きな
ユッコ/岡田有希子[恋はじめまして]
[リトルプリンセス]が流れた
私は宇宙に居て浮かんでいた
星がバラバラになって光輝いていた
明日の4/4(土)死柄木弔[志村転孤]の誕生日
明後日の4/5(日)は、三浦春馬の誕生日
2/14バレンタイン日には岡田以蔵命の誕生日
恋したら誰だって綺麗になりたい
素敵にな、レディに変わる日を夢見てる
ポケットに忍ばせた写真を見つめながら
今日もまた、ため息で
ひと言[おやすみ]
特に昭和時代だと男性アイドルよりも女性アイドルが
大好きな私
小学1年で脳出血発症して右半身麻痺
小学6年で、てんかん発作発病
YouTubeで誹謗中傷
[5648]意味が殺し屋でした…
[貴方は1週間後に死にます]とか書かれた
当時はすごく泣いた。そして心が狭くて淋しい人だな。と思った
でもヒロアカの死柄木弔に心救われた
死柄木弔から岡田以蔵命
生きる意味あるよ
大切なものは[自分]だよ
自分の命を大切にしてね
今日、地元イオンの帰りに夜18時28分に人生初の流れ星を見た✨この先、良いことありそう✨
今年に入って
初めから大天使になっていた夢
エレベーターで上に行く夢(全国スポーツ編)
エレベーターで上に行く編(時代の変化編)
宇宙にいる編など吉夢に近い夢を見た
今年良いことありそう☺️✨
【大切なもの】
「あ〜……これからどうしよ……」
思わずボヤく。
箒、帽子、黒猫。それを一切合切盗まれたのだ。しかも旅先で。なんなら財布も着替えもやられてしまった。本当に、夕食を買いに出たほんの数刻の間にだ。
「今手元にあるのは……さっき買ったチーズとポテトを重ねたやつと、焼いたリンゴだけかぁ……」
宿の主人に文句を言って見たが、耳が遠いのでまったくとりつく島がない。うーん、と唸りながらポテトを齧る。窓を開け放ち、街を見下ろした。
食器洗いや掃除なら小銭が稼げる。宿代ともう少し稼ぎがあれば、赤土の焼き物瓶が手に入るだろう。宿の敷地内は手入れが悪くて鬱蒼としているが、あちこちから飛んできた薬草が自生してるの出入りの時に見た。宿代をケチったのが運の尽きだったんだなぁと思い返してしまうのを頭から追い払い、薬草の組み合わせを考える。確か街の裏手に森から来ている川もあったので、精霊の触れた水も手に入るだろう。傷薬、消毒液、貼り薬もいける。飲み薬はガラス瓶がないと厳しいが、ダンピングにならない程度の価格で直売するか、雑貨屋に持ち込めばある程度の金になる。
なんだかんだ金がいるんだなぁ、とポテトを食べ終えた指を舐めて、焼き林檎にも口をつけた。正直なところ、箒と帽子はどうとでもなる。あとで新しいのを作るなり買うなりして、魔術に晒すだけでいい。問題は黒猫だ。長年一緒に過ごしたノワール。彼女は優美でおとなしく、どこかちょっと抜けた魔女の背筋を正させるのに良い手本となる相手だった。
「ノワールだけでも帰ってこないかなぁ〜……」
魔女がそう言ってリンゴの最後のひとかけらを齧った途端。
「ナァオ」
と足元から声がした。思わず見下ろすと、そこには見間違えようのない、首に呪符を巻いた愛猫が座っていた。
「ノワール!」
思わず抱き上げる。猫も嫌がらずに頬を舐めた。見れば身体中ドロだらけだ。
「ナウ」
「あーホントごめんね」
ごつごつと頭突きをするのは親愛の証。とはいえ大変な目にあわせてしまった。
「ウゥナァア」
小さく唸る相棒に、魔女は肩を竦める。
「もちろん迎えにいくつもりだったわよ」
そ、と魔女の指先が猫の額に触れる。その額が僅かに波打つと、指がつぷんと毛皮の下に飲み込まれた。その、毛皮のさらに下にあるものを撫でるように指が動く。
「うん、魂は大丈夫そうね。これを取られたらことだもの。さすが、私の半身だわ」
「ンナン」
魔女が指を引き抜くと、その指先に僅かに青い光がまとわりついている。指を振ってそれを飛ばすと、魔女はうんと伸びをした。
「ノワールがいるなら慌てることないわね。じっくり路銀を貯めて、ついでに予備の箒を買って、そうしたら盗人を懲らしめに行きましょう」
「ナン!」
一人と一匹は愉快そうに笑いながら窓を閉じた。
大切なものが増えることもあるけれど
減ることもある
「大切なもの」
大切に地球に育まれてきた
私は何を育めるだろう
#大切なもの
『救うのは』
「どうしたんだ?」
優しく名前を呼ぶと、彼は振り返った。
「先生……」
振り返った彼の目には涙。……視線を下に向けると、倒れている人の姿が。ピクリとも動かないその人はもう冷たくなっていることだろう。
「先生…俺、救えなかった……。俺は…みんなを、みんなを助けなきゃいけないのに……」
虚ろな目でそう呟く彼の元に歩み寄り、そっと抱きしめた。「先生…?」と困惑している彼の頭を優しく撫でる。
「お前は優しいから、責任を感じてしまうんだよな。でも、俺らはヒーローじゃない。だから皆を救おうとしなくていいんだ」
「でも……」
彼の目から零れた涙を拭う。
「お前が救いたいと思った人を救え」
「救いたいと思った人を…?」
「あぁ。それぐらいしたってバチは当たらないさ」
すこし考え込んでいた彼がゆるりと目を細めて、俺の背に腕を回した。
「うん…俺、救いたいと思った人を救うようにするよ。ありがとう、先生」
腕に力が込められて少し苦しかったが、離してくれる気配がないのでそのまま身を委ねることにした。
「先生……俺の、俺だけの先生……」
嫌な重さを含む彼の声は、闇に溶けていった。
【大切なもの】