『救うのは』
「どうしたんだ?」
優しく名前を呼ぶと、彼は振り返った。
「先生……」
振り返った彼の目には涙。……視線を下に向けると、倒れている人の姿が。ピクリとも動かないその人はもう冷たくなっていることだろう。
「先生…俺、救えなかった……。俺は…みんなを、みんなを助けなきゃいけないのに……」
虚ろな目でそう呟く彼の元に歩み寄り、そっと抱きしめた。「先生…?」と困惑している彼の頭を優しく撫でる。
「お前は優しいから、責任を感じてしまうんだよな。でも、俺らはヒーローじゃない。だから皆を救おうとしなくていいんだ」
「でも……」
彼の目から零れた涙を拭う。
「お前が救いたいと思った人を救え」
「救いたいと思った人を…?」
「あぁ。それぐらいしたってバチは当たらないさ」
すこし考え込んでいた彼がゆるりと目を細めて、俺の背に腕を回した。
「うん…俺、救いたいと思った人を救うようにするよ。ありがとう、先生」
腕に力が込められて少し苦しかったが、離してくれる気配がないのでそのまま身を委ねることにした。
「先生……俺の、俺だけの先生……」
嫌な重さを含む彼の声は、闇に溶けていった。
【大切なもの】
4/3/2026, 5:54:05 AM