『最期、また』
私ね、夢を見ていたの
貴方とまた一緒にいられることを。貴方がギターを弾いて、私がそれを眺める。そして、目が合ったら笑い合うの。とっても、とっても幸せだった。
……こんなこと思い出すのは、死ぬ前だからかしら。
武器は取り上げられて、目の前には忌々しい男の姿。「最後に言いたいことはあるか?」なんて聞いてくる。
「お前に聞かせる言葉なんてあるか」
「そうか……残念だよ」
私が吐き捨てた言葉に呆れたような顔をする彼。男は私の額に銃を突きつけた。私は目を閉じる最期の最期まで彼のことを考えていた。
【こんな夢を見た】
『救うためなら』
「ねぇ、過去に戻りたいと思わない?」
目の前にいきなり現れた女の人はそう言った。この世のものとは思えないぐらい綺麗で、まるでゲームの中から出てきたみたいだ。
「過去に戻る…?何を言っているんですか?それに、貴方は……」
「私のことなんてどーでもいいじゃん。そ・れ・よ・り、戻るの?戻らないの?」
女の人は首を傾げ、そう僕に尋ねる。
過去に戻るって言ったって、どうやって……
そんな僕の思考を読んだかのように、彼女はニッと笑った。
「それはまっかせて!」
彼女がそう言いパチンと指を鳴らすと、どこからともなく大きな機会が彼女の後ろに現れた。目を見開く僕に得意げに笑う彼女。
「じゃっじゃーん!!今、君の目の前にあるのはタイムマシーンだよ!」
「タイム、マシーン?」
タイムマシーンなんて本当に存在したんだ……。そう呆然としていると、彼女が囁く。
「救いたい人がいるんじゃない?」
はっと息を飲む。
「どうして…それを…」
彼女はクスクスと笑うだけで答えてはくれなかった。
僕を庇って死んでしまった彼。もっと話したかった、もっと貴方のことを知りたかった。……もっと彼のことを信じていればよかった。そんな後悔がずっと心の中にある。
ポケットの中に手を入れると、彼が僕に託してくれたアイテムが入っていた。
「……本当に、救えるんですか」
そう問うと、彼女は僕を指さす。彼女の指が僕の胸に触れた。
「それは君次第だよ。君が頑張れば救えるし、何にもしなかったら変わらない。……あ、それとタイムマシーンを使う為には代償が必要なんだ」
「代償?」
「そう、例えば……」
僕の胸に触れていた指が上がっていき、僕の目の前で止まる。本当に、目の、前で。
「君のその目とか」
代償として目を差し出せということか……。目がなくなってしまったら、僕の夢はもう叶うことはないだろう。でも、それでも良かった。彼を救えるなら。
その決意を話すと彼女は嬉しそうに笑い、僕に手のひらを差し出した。
「交渉成立だね。じゃあ、行こうか」
悪魔の導きにも見えるその手を僕はしっかりと握った。
【タイムマシーン】
『秘密のお菓子』
隣で寝ている彼がゴロゴロと何度も寝返りを打っている。眠れないのかなと思っていると、「ねぇ」と控えめに声をかけられた。
「起きてる?」
「寝てるよ」
目を閉じたまま答える。「起きてるじゃん」と小さく唇を尖らせる彼に、クスクスと笑う。
「眠れないの?」
「うん…今日お昼寝しちゃったからかな……」
眉を下げて困ったように言う彼。そんな彼に対し、私はにんまりと笑った。
「じゃあ……一緒に悪いことしちゃう?」
「悪いこと…?」
「そ、悪いこと」
首を傾げる彼に、パチリとウインクを返した。
「わぁ…!こんなにお菓子がたくさん…!」
目を輝かせる彼。机には色とりどりのお菓子とジュース。隠しておいたお菓子達を取り出してきたのだ。
「夜なのにこんなに食べていいの!?」
「うんいいよ。ただし、みんなには内緒ね」
「うん!」
勢いよく頷いた彼はクッキーを手に取り、口に入れる。「美味しい〜!」と笑顔を浮かべる彼を見ながら、私はチョコレートを手に取った。
いつもとはちょっと違う、特別な夜
【特別な夜】
『終わりに向かう男』
コポ、と口から泡が溢れた。どうやら自分は海の中にいるみたいだ。体はどんどんと底へ底へと沈んでいっている。本来ならば焦らなきゃいけないはずなのに、何故だか自分は落ち着いていた。水の温度に合わせて体がどんどんと冷えていく。
……もう全てが終わった。念願だった、あいつの仇は打てた。あの組織を壊滅させることは出来なかったが…まぁそれはあいつがやってくれるだろう。あの、主人公のような輝かしい男が。もう俺の出番はお終いだ。
目を閉じようとしたその時、優しい声で名前を呼ばれた。聞き覚えにある声に目を見開くと、目の前にあいつが現れた。あいつは優しく微笑んで「ありがとう」と口を動かした。目頭が熱くなるのを感じ、ゆっくりと目を閉じる。そして、いつの間にか口癖になっていた言葉を零した。それはまたもや泡となったが、あいつに届いた気がした。
【海の底】