『見える絆と見えない絆』
「…ほんとーに凄いよね」
「ん?なんだ?」と首を傾げる彼は本当に何もわかっていなさそうで、ため息がでる。
「あんたとあいつのことよ。目だけで会話出来るって…めっちゃ凄いじゃん。目には見えない絆ってやつ?」
「あぁ…俺とあいつは相棒だからな」
さらりととんでもないことを言う彼。
相棒だからといってそこまで出来るものなのか…?
そう悶々と考えていると、彼がこちらに寄ってきた。
「もしかして、嫉妬か?」
「は、はぁ!?」
ニヤニヤと笑っている彼に「そ、そんな訳ないでしょ!」と言い返す。
でも、全くしていないとは言えなかった。彼と一緒にいる時間は私の方が多いはずなのに私には出来ないから。
むむむと眉を寄せる私に彼は頭を撫でた。
「俺達には目に見える絆があるだろ」
手袋を外した彼の薬指には輝く銀色の指輪。私の薬指にも同じものが嵌められている。
彼はそれを愛おしそうに撫でた。
「目に見えない物も大切にしなきゃいけない。だけど、目に見えるものはもっと大切にしなきゃだろ?」
そう言って太陽みたいに笑う彼を見て、心がほわっと暖かくなる。そうだ、彼はいつも安心させてくれる言葉をかけてくれる。
私は「そうだね」と言い、彼と同じように薬指の指輪を撫でた。
【絆】
『酔い潰れるまで話をしよう』
帰ってきた彼が「あぁ〜」と唸り声を上げ、ソファに倒れ込む。そんな彼の頭を撫でると、ちらりと目線がこちらに向いた。
「おかえり」
「ただいま」
「ご飯どうする?」と聞くと「食べる…」と言いのそのそと体を起こした。そんな彼の手を引き、ダイニングテーブルまで引っ張る。
ダイニングテーブルに乗っている料理を見て彼が目を輝かせた。
「お、おぉ!!どうしたんだこれ!?」
「ふふん、頑張っちゃいました」
そう彼に向かってピースをする。
テーブルの上には、彼の好きな料理が所狭しと置かれている。全部…とは言えないが、頑張って手作りしたのだ。
「今日なんかの記念日だったっけ?」
「ううん。…でも、何か大きなこと成し遂げたんでしょ?」
彼の目が大きく見開かれた。彼からは何も聞かされていないが、彼に何か大きな起こったんだろう。最近、雰囲気が変わったように思える。
それを伝えると、彼は眉を下げながら頭をガシガシと搔く。
「うわ〜、やっぱわかっちゃうのか〜…」
「ふふ、何年の付き合いだと思ってんのよ」
そう言って椅子に座る。料理のいい匂いが鼻をくすぐった。
「よかったら聞かせてよ。たまにはお酒でも飲んでさ」
机に置いてあったワインのボトルを揺らす。彼がニッと笑った。
「おう!聞かせてやるよ、俺の活躍!」
グラスとグラスを合わせて、宴の開始の合図をした。
【たまには】
『どうか気付かないでね』
「あのね…ついに私付き合うことになりました…!」
頬を赤く染めた彼女がそう告白する。周りがおぉ〜!と沸き立つ。
「ついに!?ついにやったのね!?」
「ねね、どっちから告白したの?!」
「彼の方から…」
その言葉を聞き、更に盛り上がる二人。キャッキャッと盛り上がっている二人から目線を外し、彼女の方を見ると目が合った。
「おめでとう」
「ありがとう」
私がお祝いの言葉を口にすると、彼女は嬉しそうにふんわりと笑う。その笑顔にこちらも笑顔になる。
「あ、そうだ。これあげる」
そう言って私は彼女の手にプレゼントを置く。彼女はそれを見て目を輝かせた。
「わぁ!ヘアピンだ!可愛い!」
「ありがとう!」と笑う彼女。「これ何のお花?」と首を傾げる彼女の髪がサラリと揺れた。
「ローズマリーだよ。可愛いでしょ。借して、付けてあげる」
そう言って彼女からヘアピンを受け取り、髪につけた。鏡を見た彼女は頬を緩ませると私に問う。
「ねぇどう?可愛い?」
「うん、可愛い」
「えへへ、ありがとう」
そう笑う彼女は世界一可愛かった。だからこそ、私は痛む胸を無視して笑顔を作る。
「本当に可愛いよ」
ローズマリー=変わらぬ愛、私を思って
【大好きな君に】
『ひなまつり』
「うぅ〜疲れた〜!」
そう言ってぐぐと腕を上に伸ばす彼。そんな彼に「お疲れ様」と言い、カフェオレを渡した。「ありがとう!」と受け取った彼は缶の暖かさに頬を緩め、プルタブを開ける。カシュっという音が響いた。
「それにしてもこの頃あの人形を飾ってくれっていう依頼多いよね。なんでだろ?」
「あぁ、きっともうすぐひなまつりが近いからだよ」
「ひなまつり?」
そう首を傾げる彼。彼にひなまつりがどういうものかを説明する。説明を聞いた彼の目が輝いた。
「そっか!女の子の幸せと成長を願う日なんだ!素敵なお祭りだね!」
そう言って笑う彼につられてこちらも笑顔が顔に浮かぶ。素敵なものを素敵、と素直に言えるのが実に彼らしい。
私は笑顔を顔に浮かべたまま彼に提案する。
「ひなまつりにしか食べれないお菓子があるんだけどさ、どう?これからスーパー寄って買っていかない?」
「うん!行く!」
パァっと目を輝かせた彼は「早く行こう!」と駆け出していく。そんな彼に少し吹き出し、私も同じように駆け出した。
【ひなまつり】
『希望を背負う妹』
階段を一つ一つ降りる度に、コツコツと靴が音を奏でる。階段を降りきると、目の前には真っ黒い扉。扉の向こうからは女性の声と男性の声が聞こえる。
私は一つ深呼吸をし、ドアノブに手をかけた。
「失礼致します」
中に入り、その声と共にお辞儀をする。「顔を上げて」という声を聞き、頭をあげた。部屋にはやはり、私が仕える主と最近仲間になった男がいた。二人で何を話していたのだろうか。…私にそれを知ることは出来ない。
主の目線が私に向く。
「どうしたの?」
「あの子が目覚めたようです。たった今報せがありました」
私のその言葉に二人とも息を飲んだ。
「…そう……」
ほぅと息を吐いた主は窓へと歩く。その窓から見える景色を見ながら目を細めた。
「ようやく…ようやく貴方に会えるのね……」
背筋がゾクッとする。愛情溢れる優しい声色だったが、私にはそれがなんだか怖かった。
主の視線がもう一度、私に向いた。
「迎えに行ってあげて。あの子は私たちの希望……丁重に扱うのよ」
「かしこまりました」
先程とは違う、威圧感のある声でそう言われる。もう一度頭を下げ、部屋を後にした。
バタンと閉まった扉に寄りかかり、息を吐き出す。あの空間は空気が重く息がしずらかった。私は首にかけてあるロケットペンダントを見る。
……一刻も早く、あの子を助けにいかないと。
「もうすぐお姉ちゃんが行くから……待っててね」
そう呟き、妹の写真が入ったロケットペンダントをそっと握りしめた。
【たった1つの希望】