『求める力』
「羨ましい…」
私の耳に届いた独り言のような言葉。その声の方向に顔を向けると、あの子が虚ろな目をして立っていた。その目はまっすぐ私に向いている。
「…なに?羨ましい?」
「…えぇ、戦える力を持っている人たち。全員」
その言葉に腹から何かが込み上げてくる。吐き出すのに我慢なんて出来なかった。彼女の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「貴方が…唯一の、回復の力を持ってる貴方がそれを言うの!?」
そう、回復の力を持っているのは彼女ただ1人。だから彼女は必要不可欠な人材だ。…でも、私は違う。戦える人なんていくらでもいる。私は他の人達に負けないように色んなものを捨てて、しがみついて行かないといけないのに……。
睨みつける私に、彼女は目を緩めて笑った。
「私はね、守る力が欲しいの。貴方を守る力が」
「私を、守る力…?」
狼狽える私の手を彼女がそっと掴んだ。その手は振りほどけるはずなのに、何かでくっついているかのように離れなかった。彼女がキュッと力を込める。
「大丈夫、もうすぐで私、完璧になれるの。そうしたら貴方をずっと守れるようになる」
「な…なにを言っているの…?何をするつもりなの…!?」
何も答えずにただ微笑むだけの彼女。
目の前にいるのは彼女のはずなのに、まるで別人のように見えた。
【ないものねだり】
『ドラマが作る時間』
「あれ、またそのドラマ見てるの?」
その声に後ろを向くと、妻が空になった洗濯カゴを持ちながら立っていた。「洗濯ありがとう」と言ってから、先程の質問に答える。
「あぁなんかテレビ見てたら、始まって」
隣に来た妻が「へぇ〜」と声を漏らす。
「このドラマ好きじゃないって前に言ってなかったっけ?」
「いやぁうん。前はそう言ってたんだけどさ、久しぶりに見たら面白くて」
「あーあるよね、そういうの。見すぎたから好きじゃなくなるやつ」
「うんうん」
「あ、これ一気見スペシャルじゃん!面白そうだからこのまま見ようよ!」
「コーヒー持ってくる!」とウキウキでキッチンに向かった妻を見て少し笑う。相変わらずドラマが好きだなぁ…。
そういう俺も、久しぶりに妻とゆっくり出来る時間を作れて内心ワクワクしてるのは誰にも内緒だ。
【好きじゃないのに】
『知らずに泣いている』
「あの男が死んだ」
呼び出されてそうそう、そう言われた。
「…そうですか」
私がそう返すと彼はこちらを見た。その目はなんだか、何かを確かめるような目付きをしていた。
「…何も感じないのか?」
「…いえ、別に」
私の言葉に彼は「そうかそうか」と言葉をこぼす。その声には、楽しさが含まれているような気がした。
……別にと答えたが、それは嘘だ。「あの男が死んだ」という言葉を聞いた後から、頭の中に声が響いてるのだ。
「嘘だ!」「なんで…!」とか。今はずっと泣き声が聞こえている。
なんで、ショックを受けているのか、泣いているのか、私にはわからない。
……でも、このことを目の前の男に報告する気にはなれなかった。
「思い出してよ……」
【ところにより雨】
『特別になりたい』
「どうしてそこまであの子にこだわるのですか。裏切り者は排除すべきです」
そう言うと、目の前の彼は不機嫌そうに眉を動かした。その目が私を睨んでいる。
「……お前には関係ない」
彼がため息を着きながら言った言葉が私の胸に痛く刺さる。
……知ってる。あの子は特別な力があって、彼の役にたてる。でも、私には力がない。
「お前はお前の任務を遂行しろ」
「…御意」
いつまでたっても彼の特別な存在にはなれない。
【特別な存在】
『私はここまで』
呼吸がしづらい。呼吸をする度にお腹の傷が痛む。傷からはとめどなく血が流れ続けていた。
「残念だなぁ、仲間の敵も討てずに死ぬなんて」
男の歩く音がどんどんと近づいてくる。
「何か言い残したいことはあるか?」
その声とともに頭に硬いものが押し付けられる。頭があげられず見えないが、当たってる感触的に銃だろう。
力を振り絞り声を上げる。
「ふ、ふふっ…。わたし、の…こと…バカだと、思って…るんでしょ……。バカなのは……あんたらだよ……」
男はため息をつき「言いたいことはそれだけか」と言う。
途切れ途切れだが、言いたいことは言えた。満足だ。……後はあの子に託そう。私たちの希望に。
私はゆっくり目を閉じ、来る衝撃に息を止めた。
【バカみたい】