昔むかし、それこそまだ某1000匹超モンスターが151匹だけだった初代のころ、
使用ボックスひとつを変更しただけで強制セーブが為されていたころ、
120匹ほど図鑑を埋めていた大切なセーブデータを、ニューゲームで上書きしてしまった経験がある物書きです。
大切なものが、一瞬で吹っ飛んだのです。
懐かしい、いたましい思い出です。
と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまりはじまり。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこには滅んだ世界からこぼれ落ちたアイテムや、
生存世界に落っこちて悪さをした滅亡世界の技術、
滅亡世界がどこかの世界へ託したかった魔法等々、
様々な「大切なもの」が、収蔵されておりました。
その中でもなかなか便利な機械が
保存空間生成装置
というチートアイテムでして、
世界線管理局員は、事前に申請書類を書いて提出して、それが空間管理課の審査に通れば、
2年ごとの更新制で、この装置を使って、自分だけの空間を持つことができるのでした。
局員が申請して生成してもらう空間といえば、
たとえば気温がとてつもなく低くて、食材の冷凍保存に適した空間とか、
あるいは面積がドチャクソに広くて、コレクションの金銀財宝を全部収容できる空間とか、
それから、重力がメチャクチャに強くて、常に筋トレの負荷がかかっているっような空間とか。
本当に、様々なものがありました。
今回のおはなしはその中のひとつ、
常に10℃から15℃で、常に湿度が30%で、
常に標高1500m程度の酸素しかなくて、
なにより直射日光・蛍光灯の紫外線が存在しない、
コーヒー豆を保管するにあたって理想に近い環境が整えられた保存空間のおはなし。
その空間の持ち主は法務部の局員で、
ビジネスネームをツバメといい、コーヒーをとても愛している男でして。
「メ。ツバメさん。ちょっとちょっと」
「はい、なにか?」
「報告があるメ。わりと大事な報告だメ」
午前中の法務部の仕事を終えた休憩中のツバメは、
トントントン、環境整備部空間管理課の局員・通称「黒ヤギ」がドアをノックして、
ツバメのことを呼んでいるのを、見つけました。
黒ヤギはとっても真面目な局員で、
なにより、保存空間生成装置の責任者でした。
そんな黒ヤギが言うことには……
「ツバメさんも、保存空間生成装置で、非公開の保存空間を所有してたと思うメ」
「えぇ、そうですね。コーヒー豆の保存用と、私のバイクやアウトドアグッズの保管用を」
「コーヒー豆保存用の空間は、原則的にツバメさん本人しか、利用できないセキュリティーにしてるとリストに記載されてるメ」
「えぇ、まぁ」
「どうも誰かがツバメさんのコーヒー豆保管庫のロックを勝手に開けて忍び込んでるっぽいメ」
「はぁ、 ……は?」
「誰かがツバメさんの大切なものを、
勝手に入り込んで、盗んでる可能性があるメェ」
私の大切なものを??コーヒー豆を??
いや、それとも、コーヒーに入れる砂糖やミルク、あるいはコーヒーを淹れるためのミルを?
なぜ? ツバメは首を、かっくり。
ひとまず保存空間に仕掛けている防犯カメラを遠隔で呼び出して、映像を確認しました。
「自分しか入らない空間なのに、わざわざそんな、防犯カメラを付けてるメ?」
「おかげでこうして、侵入者が出れば映像が証拠として残るでしょう?」
プライバシーな保存空間のセキュリティーは、とってもとっても強固なものです。
誰がそのセキュリティーを突破したのでしょう?
ツバメが映像をスワイプスワイプ、自分が映っているだけのものをスルーし続けてゆきますと、
「ドワーフホトさん?」
収蔵部収蔵課のお嬢さん・ドワーフホトが、薄暗いコーヒー保管庫にランタンとメモを持参して、
トトトト、とととと、
一直線に、コーヒーミルクやコーヒークリーム、それからホイップクリーム等々の乳製品を保管している棚に向かっていって、
そしてひとつ、ちょっと小さめの遮光金属ボトルを、間違いなく手にとりました。
「ホトさん、何してるメ」
「練乳のボトルを手に取りましたね」
「れんにゅー?」
ツバメにとってそのボトルは、
コーヒーに比べれば、大切レベルが2段3段下がりますが、間違いなく大切なものでした。
映像にうつるドワーフホトのお嬢さんは、そのツバメの小さなボトルを、
とても熱心に、真剣に、調べておりました……
4/3/2026, 7:28:06 AM