『大事にしたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『大事にしたい』2023.09.20
自分で言うのもなんだが、俺はモテる。アメリカで修行していたときなんて、彼氏と彼女の両方が同時に存在していた時もあるのだから、モテているほうだろう。
だからといって、ずっと一緒にいようだなんて口にしたことはない。あったのかもしれないが、それはリップサービスというやつでそこまで本気というわけではなかった。なので長続きはしなかった。当然だ。
日本に戻ってくるときなんて、当時付き合っていた何代目かもわからない仔猫ちゃんを泣かせるかたちで別れたのだ。あっちはどうやら本気だったらしい。
恋愛はあくまで人生経験の肥やし。
そういう認識だったから、本気で誰かを好きになったことなんてなかった。
しかし、戻ってすぐに知り合った毛色の違う仔猫ちゃんの存在が俺の認識を狂わせた。
バカみたいに素直で無邪気な仔猫ちゃんは、俺を手放しで慕ってくる。なにかあるたびに俺の傍に寄ってきて、あんなことがあったこんなことを言われたと教えてくれる。俺のほうが先輩だから、わからないことがあるとなんでも聞いてきた。
それが結果となって実を結んだとき、嬉しくて号泣する仔猫ちゃんを見て、本当の意味で好きだと気付かされた。
可愛くていじらしくて愚かな仔猫ちゃん。
そんな仔猫ちゃんへの感情は、これまで自分が抱いたことのないものだ。
仔猫ちゃんを自分のものにしたくて、押して押して押しまくって手に入ったときは嬉しかった。
だから、この好きだ愛しているという気持ちも、仔猫ちゃんという存在も大事にしたいと強く思った。
首にある3点ぼくろ、長いまつ毛と奥二重、お茶目で好奇心旺盛なのに流されず芯をしっかり持っているところ、帰る時はいつも「またね」と言ってくれるところとか、
全部が全部大好きだった。いや、今でも全部大好き。
きっと未練がないなんて言えないし、ただ一緒にいるのがしんどくなっただけ。
君と一緒に過ごした時は楽しいままにして大事にしまっておきたいから。
だから今日こそお別れしよう。
【大事にしたい】
「うーん、こまった」
「……」
のそりと身体が倒された。となりの肩に寄りかかる。それを無視してページを送る音が聞こえる。
しばらくふたりはその体勢のままで、何もないように時間を過ごした。ページの間に指を挟み、ローテーブルに手を伸ばそうとした。
すると、肩にのせられている頭がずるりと腕を辿って滑り落ちてこようとする。
「お前、邪魔ですよ。ひとりで座りなさい」
「まったくこまってるからだめ」
「私は困っていませんし、紅茶が飲みたいのですが」
「うーん」
伸ばそうとしていた腕が戻る。
頭も戻った。
「……何をしてるんですか、さっきから」
「あのね、こうしてればだいたいのことはなおる。だからこうしてる」
「意味が分かりません」
「でも、あのね、いまはだめだ。まったく、ぜんぜん、こまったまま。まったく」
「私のことを何だと思ってるんです、お前は」
「え」
「え?」
素っ頓狂な声に思わず返した。
旋毛が逸れてグレイの目がじっと見上げてくる。透くように遊色を放つのが常なそれは、いまに限ってどんよりとしていた。
ぐりぐりと頭が首筋を攻撃してくる。
「痛い痛い痛い」
「あのね、きみを何かと思わなくちゃだめなの?」
「は」
「だめなの?」
「だめなのって、じゃあ私は何なんです」
パタンと閉じられた本は、栞があるのも忘れられていた。ローテーブルに紅茶と並ぶ。その紅茶も中身の割には湯気が薄くなっていた。
ゆらりと頭が離れる。
迷いもなく、用意されていたかのように強く答えてきた。
「いるひと」
「人って」
「あのね、きみはここにいるね」
「お前の認識には0か1しかないんですか」
「あのね、それは電子。ぼくはね、なまものなんだよ」
「ぐぅ……まだ喧嘩を売られたほうがマシです」
「きみは1か100しかないね」
「泣かせますよ」
バッと隠された旋毛。
「あのね、それはたいへん」
「……それで、お前は何に困ってるんです」
「きみのせいでもっとこまった。舟を編むみたいでこまった」
「何を言われたんです」
「それはひみつ」
ぐい、っと枝のような腕で突っ張られた。
それを見る目は、目の前の生物を検分するように細かく動く。
「なら、言う通りに足せばいい」
「足す?」
「システムをアップグレードするみたいに、お前に書き足せばいいでしょう」
「……」
ぱちん、ぱちん、グレイの目が2回隠された。
そうしてもう1度隠されて、遊色が戻ってくる。
「べんりだ。きみはたいへんべんり。とっても重要。すぐれてりっぱ。ぼくにはきみが必要。あのね、紅茶あたためてくる?」
「ゴマをするのは止めなさい」
ようやく手許にきた紅茶はぬるい。ズッと舌触りの悪いそれをじっと見て、「あのね、あたためる?」と。
まるで一辺倒だが、
「……まあ、いまはこれで良しとしましょう」
「あのね、なにが」
「いいえ。芽生えは重要ですから。今日はお赤飯でも炊きましょうか」
「あのね、ならケーキがいい」
「赤飯のありがたみも書き足しておきなさい」
「い、や」
#大事にしたい
大事にしたい
「孝、又トイレの電気つけっぱなしで!電気は勝手に送られるもんと違うんよ。何でも感謝して生きなきゃいけん」
倹約家で息子の俺から見ても、ケチだなぁと感じる母さんの元で育った。
大学を出て、のらりくらりしていた時友人と起ち上げた会社が当たって、俺は周りから「若社長、さすがアイデアマン」などと、もてはやされる存在になっていた。
気付くと俺の周りは、イエスマンしかいなくなっていた。
付き合う彼女もどちらかといえば派手なタイプで、ヴィトンの新作が欲しいとか、CHANELしか持ちたくないの、とか、そんな娘が多かった。
俺も調子に乗って、外車を乗り回した。
散々贅沢を尽くした後には、バブルも弾けて、ガランとした事務所だけが残った。
人生どん底かもな…と諦めかけたとき、彼女と出会った。
食事に行くと、いつもの癖で金も無いのに奢ろうとする俺に、「今大変なんでしょ。良いよ、困った時はお互い様」と2人分の定食代を払ってくれた。
彼女のアパートはとても狭かったけれど、キレイに整頓されていて、居心地が良かった。
「ボーナス出たから、ビール飲んじゃおう!」と彼女の得意なポテトサラダと発泡酒で乾杯した。
相変わらずトイレの電気を消し忘れる俺に、「電気は大切にね」とちょっと怒る姿に田舎の母さんを重ねた。
母親と似たタイプの人を好きになると聞いたことはあるけれど、俺はそうみたいだ。
先の見えない不安定なこんな俺を救ってくれた彼女。
大事にしたい。本気で思った。
先月、面接した会社からポストに通知が届いていた。
事務所も売り払った。採用だったら、彼女に告白しよう。
これからの人生をずっと一緒に生きていきたい、と。
良いんだか悪いんだかここまで親しい仲になるとさ、思ってること素直に言えなくなってくるわけ。
けど、肝心なことはちゃんと言葉にして伝えてほしい、って、アンタは言うだろ?
そーゆうの、オレ、得意じゃないって知ってるくせに。なんで女って好きとか言われないと不安がるかね?そんなにオレって信用できない?
……あーハイハイ分かりましたよ。ったく。
つーか、ただ言うだけじゃん、って何。そんな軽い感じで言ってほしいわけ?あのさ、いつも言い慣れてるわけじゃないんだからそんなおてがる感覚で強要してくんなっつうの。
言い慣れてねーよ、当たり前だろ。そんなの、誰彼かまわず言うもんじゃねぇし。つか、もしそうだったらアンタ傷つくっしょ?
じゃあ言うよ?
アンタが好き。ずっと大事にしたいと思ってる。アンタの代わりは居ない。
これで分かってくれた?……って、何その顔。なんでそこで泣くわけ。言えってすごんできたくせになんでそうなるんだよ。
はーあ。やっぱオンナゴコロって分かんね。いや別に、言って損したなんて思っちゃいねーけど。だってホントのことだし。けどここは喜んで笑うとこだろが。オレが泣かせたみたいじゃんかよ。え?嬉し涙?分かりづらっ。
まーいーや。腹減ったからなんか食いに行こうぜ。泣かしたお侘びに好きなもん奢りますよ、おじょーさん。
祖父が死んだ。
胸あたりの血管が爆発し、病院に運ばれたが、死亡。
あまりにも突然だった。
当時12…小学校6年生だった私。
ショックを受けた。
突然すぎて、驚きが勝った。
妹がいた。
小学校4年生と、小学校2年生の妹だ。
どんな反応だったかは分からない。
後々考えると、涙が出てきた。
その後、泣けなくてごめんなさい。
そう思った。
あんなに大切で、また、大切にしてもらっていたのに、涙は大量には出なかった。
痛かったでしょう?
苦しかったでしょう?
、、、孫に泣いても貰えず、悲しいでしょ、?
ごめんなさい、ごめんなさい、
でもね、悲しいのは本当なのです。
突然すぎて、しんじられなくて、
いつも散歩に連れて行ってくれました。
亀を探していたけれど、見つける前に亡くなってしまいました、
一緒にご飯を食べに行きました。
焼肉にも連れて行ってくれたし、私の大好きな鰻も食べたよね!
誕生日・クリスマスにはプレゼントを買ってくれたし、
お正月にはお年玉をくれました。
家を行っただけで500円くれたの、嬉しかった。
毎月買ってきてくれる朔日餅。
毎月楽しみにしていました。
あの優しさと、今まで注いでくれた愛情、決して忘れません。
ねぇ、そっちはどんな景色ですか?
こんな私でも、見守ってくれますか、?
泣けなくてごめんなさい、
大好きです。
5作目_
実話_
今を、この一瞬を大切にしないといけない事が分かりました。
じいじ、ありがとう。
ごめんね、
決して忘れません。
いつまでも大好きです。
オレはオマエに秘密がある。
そのせいでオマエをたくさん傷つけた
そのおかげでオマエはオレに気づいた
だからオマエを二度と
傷つけないオレになるから
そのときに何から何まで
オマエにだけは秘密を打ち明ける。
大事にしたい
オレのこの命
尽きるまで
本当は誰よりも
傷つきやすい
オマエを
大事にしたい
「大事にしたい」
#大事にしたい
大事にしたいもの……
それはいつかの手紙だったり
切ない思い出だったり
たくさんあるけれど
そもそも大事って何なんだろう。
大きなことって書いて、大事。
自分の中で大きなことが大事ってこと?
なくすと大事(おおごと)になってしまうもの?
ああでも、
「これ大事だな」って思うものは
なくすとたいへん。
大事(おおごと)になってしまう。
だから「大事にするよ」って言うときは、
なくさないように、なくすとたいへんになってしまうから、大事にしてなくさないようにするよって事なのかもしれない。
そう考えると、いつかの手紙も切ない思い出も
なくすと困るもの。
なくさないように「大事にする」「大事にしたいもの」ってことなんだろうな。
大事にしたい。
私は何もかも雑に扱ってきたようだ。
きっといろんな何もかもを傷つけた。
だから、こらからは何もかも大事にしたい。
壊れ物を扱うように優しく
常に先回りをして心配りをして
押し付けがましくならないよう
細心の注意を払う
そうすれば、何もかも傷つけない
私になれる。やったね!
大事にしたいのは私か。
妄想昔話 第4話
久々に弟との再会に喜んだのも束の間。
村長である翁狐と仲間たちが
鋭い目付きをして2人を囲んで威嚇をしました。
霊狐が事の顛末を翁狐たちに説明すると
はじめは信じられないという様相をしていましたが
源蔵の話し方や雰囲気から
天狐を感じ取ったのでしょう。
目付きがみるみる和らいでいき
2匹?を村へと招き入れました。
人間の姿ではありますが、死んだと思っていた天狐が帰ってきたことを祝う宴会が開かれました。食料も備蓄はほとんどないはずなのに、宴会では豪勢な食事が振る舞われ、歌ったり踊ったりして楽しむのでした。
宴会が終わりに差し掛かったころ
霊狐が口を開きました。
『あんたはこれからどうするの?この村で皆と一緒に暮らすのかい?それともあの村にいて、村長という立場を使って、村人に復讐するのかい?』
『人間の姿でこの村にはいれないよ……』
『実は…僕は村人たちを助けたいと思ってるんだ。そのために、夜にこっそり抜け出して皆に会いに来た』
『はあ?何を言ってるの?あんたは殺されたんだよ?仲間たちも!どうして助けるという発想になるのさ!』霊狐は激昂する。周囲にいる狐たちも相槌をうつ。
『僕もはじめは怒りに震えていたよ。許せないという気持ちしかなかった。でも、源蔵の身体に入って日々を過ごしているうちに、気持ちが少しずつ変わっていったんだ。僕や仲間たちを殺したのは、不気味で不吉な存在に対する"恐怖"から村人を守りたいという"愛"の気持ちから来ているんだって。狐族も人間も変わらないって感じたんだ』
『狐族は人間に危害を加えていない!一方的に迫害しているのは人間の方さ!一緒にされるのは不愉快だね!』
『確かに狐族は危害を加えていない。どころか一切報復することなく耐えてきた。ただ今回は今までとは状況が全くちがう。何も行動せずに黙って、人間が飢饉で苦しむ様を見ているという行為が、後に大乱を招くことになる』
『どういう意味だい?』霊狐が尋ねる。
『いま村人が飢饉で大勢死んだとしたら、天災が起こった理由を狐族のせいにする可能性が高い。そうなったら生き残った村人が狐族を殺しに来るだろう。それはもう徹底的に。すべては"狐は不吉な存在"という村人の間違った認識から起こっているんだ。この因果律を断ち切らない限り、悪果は永遠に続くんだ』
『村人の狐族に対する認識を変えること。且つ、飢饉を起こさないこと。以上2つが、狐族が後世に安寧を築くためには不可欠だと思います』
『一度は死んだ身なのに人間の源蔵としてまだ生きている。人間と狐族の後世へと和を紡ぐために神が与えたとしか思えない。神が与えたこの命、大事に使いたいんだ!頼む。みんな協力してくれ!』
弟の眼には"覚悟"が宿っていました。
覚悟ある眼差しと弁舌にいつしか皆、惹き込まれていくのでした。
次のテーマに続く
"大事にしたい"
久し振りに会った幼馴染みから男の恋人がいることを知らされたときは、案外とすんなり受け入れられたものだ。
恋人とはっきり言っていたわけじゃない気がするけれど、口数の少ない彼から滲みでる言葉の節々に、不思議なあたたかさを感じられたから。彼らしいと思った。
いつもの砂浜で腰をおろして、夜の潮風にあたっていれば、ぽつぽつと会話も生まれた。
「右腕を、こう、擦る癖があるんだ。その人。」
前から知ってはいたんだけれどね、と、彼は少しトーンを落とす。
ただの癖だと思ってた。それ以外の何でもなく。3年前に橋から飛び下りて、その時の後遺症が右腕に残っていたことを知ったのは最近だ。
知ってる、てだけで、大事なところは見落としてたんだ。何もわかってなかった。人の癖なんて、別に俺がその背景を知らなくったっておかしいことじゃないのに。でも俺は苦しかった。暗い台所でひっそりと腕を擦っているあの人に、どんな声をかけていいのかもわからない自分が虚しくて。
「それだけなんだけど。俺にとってその人は大事な存在なんだって。」
遠い空に月がでている。銀色の光が、波のゆらぎに溶けてゆくのを見つめていると、まだ幼かった頃や、彼に淡い恋心のようなものを抱いていた頃の
自分が、ゆっくりと暗い水面をめぐってゆく。
私は、何だろう。
いつか彼の恋人に、と望んでいたわけじゃない。
では、私が本当にほしかったものは何だろう。
「月がきれいだ」と彼が呟いて、私も静かに頷いた。月色の潮汐は足跡を消して、涙のあとだけ残してゆく。
好きな人
大事にしたいというより、されたいもんだ
大事にしたい と 思う
心から
でも 大事にするって なに?
どんなに愛しても
どんなに慈しんでも
どんなに大事にしていても
自己満足では意味がない
伝わらないのは 無いのと一緒
受け止めきれない愛は
時に脅威で
予期せぬ愛は
時として暴力的で 恐怖だ
大事にしたい と 思う
あたたかな愛を伝えたい
あなたに
それに わたしにも
#大事にしたい
残暑厳しい9月、私は父親と喧嘩して
日本を飛び出した。
もう、二度と帰らないつもりで、
パスポートと最低限の荷物を積めた鞄を手に、
当時付き合っていた彼の故郷であるスペイン行きの
チケットを片道分だけとった。
そこからは最悪な展開だった。
彼のとなりに眠る知らない女。
帰ることも、この街にいることも
出来なくなってしまった。
不運は続くもので、
財布を入れていた鞄を盗られて
警察に行ったが、
『ジャパニーズ?平和ボケしてるからね君たち』
泣きたくなった···。
道端に座り込んでいると不意に肩を叩かれた。
顔を上げると北欧系の50代ほどの男性。
全然似てないのに、父を彷彿とさせ、涙が溢れた。
そのまま肩を抱かれて泣きながら連れてこられたのは
彼の自宅だった。
同じ年代ぐらいの奥さんであろう女の人が、
男性に文句を言った後、豊満な体で私を抱き締めた。
落ち着きを取り戻し、食事をご馳走になりながら
それまでの事情を話すと、
『命があってラッキーだった。』
『家族の大切さが理解できてよかった。』
そのポジティブさに救われた。
ふと目についた、たくさんの写真。
子どもかと聞くと、そうだと笑顔で教えてくれた。
でも、先に神様のもとで私たちを待っているんだ。
せっかちな子だよっと······。
それから、夫婦の仕事を手伝い、
ホームステイさせてもらいながら、
なんとか帰るためのお金をためた。
また必ず会いに来ると約束して、
私は今、日本行きの飛行機に乗っている。
大事にしたい
大事にしたいもの、今、必死にコロナ対応している、老人施設で働く職員。
世間ではコロナの恐ろしさはそうでもなくなったけれど、高齢者福祉施設で働く職員は必死です。
一生懸命働いている職員を大事にしたい。
大事にしたい
「三笠くん、3組の飯沼さんと付き合ってるんだって」
ポトリ、とミニトマトが箸の先から転げ落ちた。
えーウソー、と歓声とも悲鳴ともつかない声が続く。
正面のサキがこっちを窺っている。右のリッコちゃんは紙パックのストローから口を離さない。
「大丈夫」
「そ、そうだよね! ただの噂だし」」
「そうだよ!」
「いやそれはわかんないけど」
え、と固まる2人に告げる。
「初恋、だから。叶わなくても、この気持ちを大事にしたいんだ」
ありがとう
捨ててしまいたいと思っていた僕の人生に
君が現れてくれたおかげで
君が寄り添ってくれたおかげで
僕は初めて僕の人生を
大事にしたいと思ったよ
【大事にしたい】
初めて会った時の感覚
初めて手を握った時の感覚
世界中のどこをさがしても
何回生まれ変わっても
同じ感覚を与えてくれるひととは出会えないだろうな
直感で思った
直感が大切なんだよ
うん
本当に
俺は直感を信じるよ
大事にしたい
うちにはね、なぜかいつからなのか分からないけど。
アロエが置いてあるの。
「ねえ、おかあさん。このアロエって、いつからあるの?」
「うーん……? 実は、お母さんも詳しくは知らないの。あ、でもおばあちゃんなら、知っているかもしれないわね」
「なんで?」
「あのアロエを、誰よりも大事にしてるのはね、おばあちゃんなのよ」
「ねえおばあちゃん。あのアロエ、いつからあるの?」
「ああ、それはねえ」
「あのアロエは、おばあちゃんのおばあちゃんが、遺してくれたものなのよ」
「おばあちゃんの、おばあちゃん……??」
うーんと……?
考えても、よくわからない。でも、なんだかおばあちゃん、嬉しそう。
「とにかくまあ、そうさね。あのアロエは、わたしたちよりも、ずいぶんと長生きなのは、確かだよ」
──アロエの寿命は、100歳はゆうに超えるのよ。
だからつまり、ずーっと遠い昔から、この家を見守ってくれてるのさ。
そんな、色んなことを、見てきたこの植物に、おばあちゃんは愛着を持ってるのよ。
「あいちゃく」って、なんだろう?
──遠い未来に、私もおんなじようなことを、孫に話すのは、この時はまだ知らない。
大事にしたい
夏休みは田舎の祖父母の家で過ごしていた。
あるのは海と山と少しの店、というような典型的な田舎だったけど、実家が都会にある僕にとっては未知の宝庫だった。
そこで、ある男の子と女の子に出会った。すぐに仲良くなって、小学生の夏休みはずっと彼らと遊んでいた。海に飛び込み、山で虫を捕り、祖母にすいかをもらって三人で食べ、祭りの日には花火も見た。
本当に楽しい、宝物のような夏だった。
変わったのは、僕が中学に上ってからだ。
サッカー部に入って、休日はほとんどなくなった。夏休みだって同じこと。ほぼ毎日学校まで自転車を漕いで、ボールを蹴る。試合がある日は自分が出してもらえなくても現地まで行く。祖母の家に行く時間はなくなった。
練習終わり、自転車にまたがった時、よく彼らを思い出す。僕がいなくて寂しいと思ってくれるだろうか。それとも怒っているだろうか。彼らは優しいから、忘れられてることはないだろうけれど。
もっと、彼らと過ごした時間を大事にしたかった。