『二人ぼっち』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ふたりぼっち、と聞くといつか流行った歌を思い出す。当時もよくわからなかったけれど、今もよく考えてみないと、いまいちピンと来ない。
語源を「ひとりぼっち」で探してみたら、「独り法師」なのだそうだ。どの宗派にも属さず或いは離脱して、ひとりでいる僧侶。これだけ見るぶんには現代で言う「ひとりぼっち」の寂寥感や孤独感は薄い気もする。そういえば、以前はたまに、街の中に虚無僧が歩いているのを見かけた。あれは修業のひとつだそうだ。
「ふたりぼっち」で単純に浮かぶ印象は……うーん、寂しいものだ。夕暮れのなかにこどもふたり、寄る辺も心細いような不安感。ただの迷子ならおうちへ帰るためのつなぎをしてあげれば解決だが、それも大丈夫なのか心配になってしまう昨今…というような、なんだかモヤモヤしてしまう感じ。ふたりぼっち反対。
昔、実家の向かい側のアパートには、お母さんと小さなきょうだいが暮らしていた。お仕事か所用か、夜に出かけている日も多かったようで、何度か下の子が暗い中お母さんを探しに外へ出て、上の子が追って来て連れ帰ることがあった。一度だけ、強い雨降りの夜遅くに、下の子が傘も持たず靴も履かず(本当に小さな幼児だったからだろう)、道に出ていた。それを見つけたうちの母が大判バスタオルでその子を包み、抱っこしながら家の外で子どもたちのお母さんが帰って来るのを待った。ほどなくお母さんが帰って来て、頭を下げ下げ、子どもたちと家に戻って行った。念のため言い添えるが、このお母さんは子どもたちに優しい、常識的でコミュ力のある人である。
とにかく、小さな人たちの「ふたりぼっち」は、見ていて不安感がある。心配感を通り越して不安感なのだ。
『二人ぼっち』
夜7時、お隣のおばあちゃんが慌ててやって来て
お母さんと深刻な顔で話し出した。暫くして
「優花、ちょっと来て」と呼ばれた。
「お隣のおじいちゃんの具合が悪くてね、これから
お母さんが車で病院まで連れて行くから、お父さんが帰って来るまで真衣と留守番をお願いね」
保育園の妹と二人ぼっちになった。
いつも喧嘩ばかりしているがこの時ばかりは
それどころでは無い。心配顔の妹に大丈夫だよ
と言う私も本当は不安だ。外に強い風が吹く。
家がきしむ。それだけの事なのに、何か恐ろしさを感じて肩寄せあった。
「あらあら‥」
リビングで座りながらひとつの毛布にくるまるって
寝るふたりの姿を見て、お父さんとお母さんは
よく頑張ったねと小さく声を掛けた。
「雨だ」
彼女の声につられて私も窓を向く。
彼女の木管楽器のような声が、窓ガラスに柔らかくぶつかって反射する。
降り始めた雨がガラスに水玉模様をつくっていた。
図書室には私たちしかいなくて、この細やかなお喋りを咎める人は誰もいない。
「私、傘持ってきてないや」
と続けた彼女に、私は今朝のニュースで気象予報士が言っていた内容を脳内に反芻する。
「午後から降水確率70%だったよ。天気予報見てないの」
と手元のノートに視線を落としながら言うと、
「見たよ。見た上で30%のほうに賭けてんの」
と彼女は子供のように笑った。
はあ、とわざとらしく吐いた溜息に、感情がのってしまわぬように気をつける。
「今日、折りたたみ傘だからいれてあげないよ」
と、言いながら、参考書をめくる。もう内容は入ってこない。
強くなった雨音が図書室ごと世界から孤立させていく。
「じゃあさ」
彼女の喉から新しい音が奏でられ、私は思わず顔をあげると、そのまま細められた瞳に射抜かれる。
「いっしょに濡れてふたりで風邪引くか、雨がやむまでふたりでここにいるか、どっちがいい」
心臓の音と雨音が加速していく。
3/22 二人ぼっち
空想上の世界
君と二人だけの深夜2時
酔いから覚めないで
「二人ぼっち」
一人で机に突っ伏している私に、誰かが話しかける。
「ねえ、あなた、ぼっち?」
(何だよ。いきなり失礼な奴だな。)
「…そうだけど。何?君も同じぼっち?」
不機嫌そうに聞くと、笑いながら答えが返ってくる。
「アハハハ!そうだよ!私もぼっちなんだ!ねえ、私たち、二人ぼっちにならない?」
冗談混じりに誘われたが、何だか頷いてしまった。そうすると、すぐに返事が来て、何もわからないうちに、私たちは二人ぼっちになった。
「じゃあ、これから私たちは二人ぼっちって事で!」
名前も知らない君と、私たちは二人ぼっちだ。
でも、実は君の名前はずっと昔から、知っているんだ。
だって、「二人ぼっち」の君は、7年前、私の目の前で事故に遭った、「あかね」なんだから。
「二人ぼっち」になったのは、10年前のあの日、あかねは名も知らない私に、「二人ぼっち」になろうと話しかけてきた。
私はもちろん断ったが、知らないうちに、あかねと話すうちに、私たちは知らず知らずのうちに「二人ぼっち」になっていたのだ。
あかね、君は私にまた、「二人ぼっち」になってほしいの?だったら、私はよろこんで「二人ぼっち」になるよ。「二人ぼっち」は、死んでも尚、離れる事はないから。
オニロ。
「可愛く描いてよね」
彼女の言葉に私は曖昧に笑った。
放課後の美術室にはスケッチブックの画用紙と鉛筆が擦れる音だけが響いている。椅子に座り窓の外を眺める彼女と彼女を具に観察しデッサンを進める私の間に会話はない。
そうして数十分が経った頃___デッサンはもう仕上げの段階に入っている___彼女がぽつりと言った。
「どうして私だったの?」
「え?」
「デッサンのモデル、どうして私に頼んだの?」
それは至極当然の問いだった。デッサンのモデルを依頼した時、即答で快諾したものだから事情や何やらを説明するのをすっかり忘れていたのを私は思い出した。
私は答えに迷ってしまった。本当の理由をそのまま伝えてしまったらきっと彼女は困るだろうと思った。なかなか言葉の出ない私に彼女は仕方ないという顔で「まあ、いいや」と言った。
私を見つめていた目が再び窓の外を向いた。首を動かしたと同時にさらりと揺れる長い黒髪。痛みなどひとつもない艶のある柔らかな絹。
私が彼女にモデルを依頼した理由は、この髪だ。
美しいものを形に残すことが私が絵を描く最たる理由である。私は彼女の髪を美しいと思った。
なのに。
彼女は明日、髪を切るのだと言った。教室で友人にそう告げる彼女の言葉に私は耳を疑った。あんなに綺麗な髪なのに!しかし彼女に髪を切るななどと、言えるはずもない。
風に揺れるあの美しい黒髪をどうにかして形に残したかった。悩みに悩んでデッサンのモデルという体でなけなしの勇気をもって私は彼女に談判したのだ。
ぴたりと筆が止まる。自分の思う通りの出来になった。止んだ音に彼女が「終わった?」と聞いた。私は小さく頷き、使った鉛筆やらを仕舞い始める。
その時、一際強い風が吹いた。換気のために開けていた窓から吹く風に彼女の髪が靡いた。
降り注ぐ太陽の光がキラキラと反射してそこだけ映画のワンシーンのように輝いて見えた。
運動部の掛け声も最終下校を伝えるチャイムも何もかもが遠くで聞こえる。今、世界で彼女と私しかいない錯覚に陥ってどうしてだか無性に泣きたくなるのだ。
静寂を打ち破り彼女は私に言った。
「ねぇ、可愛く描いてくれた?」
夢が醒める前に
「やったー!!!!春休みだー!!」
家へ帰って即こうなる。誰もいない部屋で俺は叫んだ。
横にあったプラモデルが「うるせぇ」と睨んでいる気がした。
ようやく、終業式が終わった。学校という名目からは逃げられないが、とりあえず今年度は終わった。よくやった俺。
新学年まで期間はそこそこある。無論夏休みより短いが。
とにかく、あの学校から一時的に解放された。最強になった気分だ。長ったらしい先生の話も、ライブで使うスピーカー並の声を出すクラスメイトの声も、しばらく聞かなくて済む。
自分が最強になった気分だ。
せっかくの休みだ。俺は引き出しの奥にしまっていた大きい箱を取り出す。
ずっと組み立てて見たいと思っていた新しいプラモデルだ。作りが複雑で、いつもの10倍くらい集中力が必要になりそうだと思って、作らなかったのだ。
疲れている中じゃ、手元が狂ってしまいそうで。
それから、机の上に置いてある本にも手を伸ばす。
本自体はそこまで分厚くないが、自分が読むにはかなり大変な文章が書かれている。
内容じゃなくて、文字の大きさ。
好きだった漫画の番外編が、小説で出版されたのだ。ずっと気になっていて、まだ1ページも手につけていない。
そういや、この漫画に出てきたパンケーキが家の近くのカフェに似たようなのものがあった。ぜひそれも食べてみたい。
新学期の文房具も買わなくちゃいけないしな。それ買うついでに食べてこようかな。
……あ、あの漫画にでてきた武器、かなりかっこいいから自分で作ってみようかな?
やりたいことが次々と浮き出てくる。またそうやって追い詰めて、大変になるのは自分なのだが。
だが、こうやって簡単に思い付いたものほどすぐに飽きてしまう。飽き性な俺の悪い所だ。
……なら、善は急げってことだよな?
やりたいことが思いついている間に、無関心になってしまう前に、飽きてしまう前に
「夢が醒める前に」今やれるべきことをやろう。
……とりあえず部屋片付けるか。
墓地にお墓参りに行こう( ´∀`)
意味が違うわ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
お題は二人ぼっちじゃあ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
私はその時あったことを忘れない。
ある日のこと。
私は自分に自信があった。お願いすれば大抵の願いは叶ったし、男も私に夢中になっていた。
だから今回も同じようにお願いすればすぐに聞いてくれると思っていた。
息抜きに散歩に出た先にいた彼の整った顔立ちに目がいき、彼と一緒に過ごそうと思い声をかけた。
私の声気付かず通り過ぎる彼に焦り、腕を掴み漸く彼を振り向かせた。
そこで彼は自分に声をかけていたのだと気づきぱちくりと目を瞬いた。思ったより幼い反応に少し驚きつつ一緒に共にしてほしいと声をかけた。
いつもなら大抵の男性は、意図を読み了承し一緒に店に入る流れだが、彼は意図を理解できず困惑した顔で私を見た。
彼は連れがいるのでと断り、私の手をやさしく外し離れようとしていたので追いすがろうとした。
ら、彼の後ろから彼の名であろう少女?少年の声がし、彼は振り返った。
彼の連れであろう、私よりも美しい少女?少年は一瞬私を鋭い目で見てきた。
身をすくませた私に興味をなくした少女?少年は彼の腕を掴み無邪気に笑いながら、離れていった。
彼も仕方ないと言いながらも柔らかい笑みを浮かべ一緒に離れていく。
あまりにも二人だけの世界に、この日初めての敗北と新たな胸の高まりに私は混乱した。
二人ぼっちという言葉があることを初めて知った。
一人でも理解者がいてくれれば、それはもう孤独ではないんじゃないかとも思うけど、一人ぼっちとは別の寂しさがあるのも確か。謎の耽美さを感じるのも確か。
二人ぼっち
大草原に寝転がってみる。
綺麗な桃色の茜空は何故か鼻がツンとするような思いをさせる。
横にいる彼女を見つめる。
「もう誰もいないんだね」
彼女が呟いた。
優しく手を握ってやる。
もうじきこの世界も終わるだろう。未来は発展しすぎた。そして滅亡するのだ。
お母さんもお父さんもみんな死んじゃったと嘆く彼女。その姿は愛らしい。
遠くでサイレンが聞こえる。
最期に僕たちはキスをした。
火がこの大草原を焼き尽くす。
(最期にきみとふたりだけで、僕はー)
うれしかった、という前に、僕の意識は途絶えた。
二人ぼっち
黄昏 息を 呑んで
もうすぐ くれる
線路 通りが 鳴っている
君と 二人ぼっち 星空が もうすぐ
街を 包んで
君となら ずっと 二人で
体の どこかを 流れる 体温の
君となら ずっと 二人で
生まれる 前から 不思議な 関係の
どこか 遠くで
君と 出逢ってた 君が いる 世界が
こんなにも 好きだから
朝方 見つめ あっては
急いで 着替えて
駅の ホームへと 走ってく
君と 二人ぼっち 帰りまで お互い
声が 遠くで
君となら ずっと 遠くで
街角 何処かで 響いて 聞こえてる
君となら ずっと 二人で
つぶやく 声まで 遠くで 聞こえてる
いつか 何処かで
君の そばにいて 君と いる 世界を
歩いてた 気がするから
もっと もっと 呼吸の そこに 君が 笑ってる
もっと もっと 感覚 大事にして きみと
二人ぼっち 離れていても
深海に 息を 潜めた
真夜中の 星は 何を 祈っているの?
月光に あなたを 重ねる
いつか 消えてく 儚い 存在が
それでも 太陽が 満ちるまで
何かの 意味が あるのだろう
音階が 伝わる 心の 奥に
二人ぼっち 君と 空を 見る
今 希望は 朝の 方へ
今 悲しみは 捨てて
深い 霧を 祓って
この先 輝く 明日を 願う 星に
例えば 夢を 見ている
浅くて 眠り つけない 夜の長さに
月影に 囁く 声さえ
いつか 消えてく 星たち 輝いて
それでも 太陽が 満ちるまで
何かを ずっと 待つのだろう
運命が 必ず 迎えに 来てる
二人ぼっち 君と 空を 見上げる
ふたりぼっちの檻の中
外に出るのはわたしだと
刃を振り翳す
二人ぼっち
あなたと二人ぼっち
あなたにはわたししかいなくて
わたしにはあなたしかいなくて
なにも知らないままなら
ずっと幸せなはずだった
僕はふらふらりと宇宙を漂っている。
そう、僕は惑星。
この宇宙にはいろんな星がたくさんたくさん散らばっている。
その中でも僕は珍しいんじゃないだろうか。
僕らの名前は『JuMBO 24』。
僕と弟、二人(二星)あわせてそんな名前をしている。
僕らは他のみんなとは少し違うところがある。
それは、僕らは誰かの周りを回ったりなんかしない。地球という星は太陽という恒星の周りを回っていると聞いたことがある。つまり、僕らはそういうものではない。誰かに縛られて生きていない。
自由で、孤独に、宇宙を漂う『自由浮遊惑星』だ。恒星からはぐれてしまった、別名『はぐれ惑星』とも呼ばれている。
誰かに縛られないのは気楽だ。好き勝手できるし。
でも宇宙は、暗くて、広くて、たまに寂しくなる。
そんな時に思い出す。僕と一緒にいる弟のことを。
他の浮遊惑星ならそうはいかない。あいつらは大体みんな一人ぼっち。二人ぼっちの僕らは特別なんだ。
もしも、この宇宙の遠く遠くに広がっている全ての星々が消えてしまったって、僕には弟がいる。
僕らだけの特別。
『二人ぼっち』
厳しい言葉は愛情の裏返し
強い言葉は虚構の裏返し
マメ豆腐
#3
私は二人ぼっちというのをあまり経験したことがない。
二人きりというのが気まずくて、すぐに話題も尽きてしまう。きっと私は、一方的に話すのが得意なのだ。大勢の前で話すのはできるのに、1対1になると急に緊張してしまう。自分の話に自信が無いからこうなってしまうのかもしれない。発表というのは、テンプレートがある。こういう場面ではこう話せば良い。という、だいたいの説明書のようなものがあるのだ。そのテンプレートに合わせて自分の話を作って行けば良い。しかし、会話というのはキャッチボールだ。相手の言葉に合わせてこちらが柔軟な対応をしなくてはならない。最初から用意しておいた物を読み上げるだけの発表とは違い、相手の性格なども考慮して、自分の話を推敲しなくてはならない。「臨機応変な対応」が、今の私の課題である。
(テーマ:二人ぼっち/コンルリ)
【眠りましょう、眠らせましょう】
「一人ぼっちは寂しいけど、二人ぼっちだとワクワクしない?」
そうでしょ、と同意を求めるような君の目を見つめ返せば、恥ずかしそうに逸らしてしまった。いつも表情豊かな子だな、と好ましくは思っていたが、こんな状況は望んでいない。
「ねえ先生、此の儘二人で死んじゃうのかな?」
「バカ言うな。ドラマの見すぎだ」
いや、ドラマならどっちかだけ助かるのか? どうでもいいが。
「ねえ先生、心中って来世でも一緒になりたい男女がするんだって」
「前も言ってたな。そんなこと」
うん。と可愛らしく頷く君は、矢張り聖母より小悪魔の方が似合うと思う。学校の男子共はもう少し見る目を養った方が良さそうだ。それだからこんなのに騙される。
「あ、なんか悪口思ったでしょ」
「……思ってない」
一歩近づいてきた君に、一歩距離を取れば悲しそうな顔をされた。そういう所がずるいのだ。
「今だけだからな。あんまり離れると寒くなる」
「照れ隠し〜?」
嬉しそうにニマニマとする顔が憎たらしい。が、どうも可愛く見えてしまうのはこの緊急事態だからだ。そうでなければ、自分の教え子に想いを揺らされるなんて有り得ない。
「救助が来るから、それ迄な」
「はーい」
随分良さそうな機嫌を最後に、君は眠ってしまった。これでも疲れて緊張していたのだろう。俺なら教師と二人きりで遭難なんて絶対嫌だ。
「大人は狡いから、お前なんかコロッと転がされちまうぞ」
頭を緩く撫でた。もし起きていたらセクハラだと騒ぐかもしれない。俺の想像の中の君は、現実の君より元気だから。
眠った君を見ていたら、俺も段々眠くなってきた。君の言っていた通り、此の儘二人ぼっちで死んじまうのかもしれないなんて、非現実的なことを考える。
次第にカクカクと頭が揺れ、俺の意識も夢の中へと旅立った。
眠りましょう。眠らせましょう。
テーマ:二人ぼっち
祖母の見守り(テーマ 二人ぼっち)
1
毎週日曜日に、両親が家を出て、合唱団の発表の練習をする。
歌は仕事を退職した両親の趣味、生きがいと言っていい。
その間、私は90を超える祖母と二人で留守番だ。
祖母はまだ歩ける。
食事もトイレも自分でできる。
いわゆる介護はそこまで必要ない。
しかし、認知が進み、火が扱えない。食事の準備ができないし、今何をしていたかを忘れてしまう。
また、この前は転倒して肋骨を折った。
歩行器を使うようにしたが、これも忘れてしまう。
見守りがいるのだ。
2
私の生活は仕事中心で、土曜日も休日出勤している。
日曜日もしていたが、祖母の見守りをするようになってからは、不可能になった。
その分、平日勤務を遅くまでしている。
日曜日は、朝、24時間空いているスーパーに行き、お昼の惣菜を買って、9時前に実家へ向かう。
私が実家についたら両親は外出する。
祖母はあまりしゃべる方ではない。
私もしゃべる方ではない。
母はその分喋り始めると止まらない方だが、今はいない。
祖母の見守りは、おおむね静かな時間だ。
3
寒い、と祖母がいう。
祖母は座っているが、足が固まるのか、立ち上がるのも歩くのもかなり時間がかかる。
私はお茶を淹れる。
綿入れを持ってきて掛ける。
ストーブの温度を上げる。
寒いと言わなくなったら、私は持ってきた仕事をして、祖母は新聞をずっと読んでいる。
静かな二人の時間だ。
4
平日も休日も仕事。
私の人生は仕事ばかりだ。
一方、祖母の人生はどうか。
結婚して子育てをして、子どもも結婚して孫(私)を生み、その孫は大きくなって仕事をしている。
私から見たら、人生、頑張ってうまくやったように思う。
独身で、今後も一生独身だろう私と比べると特に思う。
結婚しないことも、非正規雇用も、給料が上がらないことも珍しくない現代とは条件が違うのだろうけれど。
そもそも、現代の高齢者はほとんど『そう』なのだ。
みんな結婚している。
5
寒い寒い、とまた祖母は言った。
口癖のように。
寒いとは、気温ももちろん低かったが、それだけだろうか。
孫たちは結婚せず、ひ孫の望みがない。
お寒い我が家の末期に思わず出た台詞なのかもしれない。
ただ、まだこうしてその言葉を聞く私はいるのだ。
私がさらに歳をとって高齢者になった時、私の言葉を聞く相手は居ないのだろう。
そのときは一人ぼっちだ。
まだ、今は二人ぼっち。
とりあえず、私は仕事を片付けつつ、お昼に何を食べるか考えるのだ。
【二人ぼっち】
お前、なんで学校来ないの?
だって…学校行っても一人ぼっちなんだもん
……笑
何よ…
な〜んだ、そんなことか
そんなことって…
私はこれでも悩んで…!
ねぇ、学校来なよ
一人ぼっちじゃないからさ
何言ってんのよ…
おれと二人で学校行って、二人で授業とか受けて、
二人で帰ろ!
始めの方はだるいかもしんないけどさ!笑
おれと二人ぼっちしよーぜ!
なにそれ…笑
…考えとく。笑