華音

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夢が醒める前に

「やったー!!!!春休みだー!!」
 家へ帰って即こうなる。誰もいない部屋で俺は叫んだ。
 横にあったプラモデルが「うるせぇ」と睨んでいる気がした。
 ようやく、終業式が終わった。学校という名目からは逃げられないが、とりあえず今年度は終わった。よくやった俺。
 新学年まで期間はそこそこある。無論夏休みより短いが。
 とにかく、あの学校から一時的に解放された。最強になった気分だ。長ったらしい先生の話も、ライブで使うスピーカー並の声を出すクラスメイトの声も、しばらく聞かなくて済む。
 自分が最強になった気分だ。
 せっかくの休みだ。俺は引き出しの奥にしまっていた大きい箱を取り出す。
 ずっと組み立てて見たいと思っていた新しいプラモデルだ。作りが複雑で、いつもの10倍くらい集中力が必要になりそうだと思って、作らなかったのだ。
 疲れている中じゃ、手元が狂ってしまいそうで。
 それから、机の上に置いてある本にも手を伸ばす。
 本自体はそこまで分厚くないが、自分が読むにはかなり大変な文章が書かれている。
 内容じゃなくて、文字の大きさ。
 好きだった漫画の番外編が、小説で出版されたのだ。ずっと気になっていて、まだ1ページも手につけていない。
 そういや、この漫画に出てきたパンケーキが家の近くのカフェに似たようなのものがあった。ぜひそれも食べてみたい。
 新学期の文房具も買わなくちゃいけないしな。それ買うついでに食べてこようかな。
 ……あ、あの漫画にでてきた武器、かなりかっこいいから自分で作ってみようかな?
 やりたいことが次々と浮き出てくる。またそうやって追い詰めて、大変になるのは自分なのだが。
 だが、こうやって簡単に思い付いたものほどすぐに飽きてしまう。飽き性な俺の悪い所だ。
 ……なら、善は急げってことだよな?
 やりたいことが思いついている間に、無関心になってしまう前に、飽きてしまう前に
「夢が醒める前に」今やれるべきことをやろう。
 ……とりあえず部屋片付けるか。

3/22/2024, 12:01:38 AM