華音

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1/23/2026, 2:01:32 PM

こんな夢を見た

こんな夢を見た。
大学で一番頭が良くなった。
毎回テストの順位は一桁だった。
こんな夢を見た。
大企業からスカウトが来た。
小さい頃から憧れていた仕事だった。
こんな夢を見た。
職場で初恋の人と再会した。
流れるように仲良くなった。
そんな夢を、見ていた。
現実は夢と違うのだ。
大学ではなあなあな成績だった。
働く先は地方の会社だった。
初恋の人は、今どこにいるのかも分からない。
何もかも、あの日思い描いた夢とは似ても似つかない。
その頃の僕が僕を見たら、きっと僕は悲しむだろう。所詮この程度の人間だったって。
たまにあの頃を思い出して、胸が苦しくなる時がある。劣等感か、それとも思い出かは、分からないけど。あの頃に戻れたら、無責任なままでいられたら、そう考える時はある。
じゃあ、そんな自分を変えようと努力はしないのか、なんて思う。
だけど、僕はこんな生活を捨てて、あの頃の夢になりたいとは思わない。ちっとも。
大学の時だってそうだ。成績はそこそこだったが、サークル活動やバイトに力も入れることができた。
地方の会社だが、家から近くて、人混みに飲まれることはない。
初恋の人はいないけど、プライベートで仲のいい同僚と上司ができた。
あの頃想像した将来とは違うけど、
あの頃見た夢とは違うけど、
この生活を、好きになってしまった。
こんな人生でも、今の僕は僕を愛せる。
それは大人になったからか、現実主義になり過ぎたかのどちらかは分からないけど。
明日も早い。今日はもう眠らないと。
布団に潜って、スマホでアラームをかける。明日は仕事仲間で飲みに行くんだ。体調は整えておくのに越したことはない。食いたいものは決めてないけど、行き当たりばったりでいいじゃないか。スマホの明かりを消して、僕は目を閉じる。
こんな夢を見る。
明日の飲み会が楽しくなるようにと、
明日の食うものが美味いものであるようにと、
明日も一日を終えられるようにと、
こんな生活が、少しでも長く続くように、と。

1/20/2026, 1:15:22 PM

海の底

眩しい。
朝から浴びる太陽も、
通学路にある湖の水面も、
大きなランドセルを背負った小学生も、
何もかもが眩しい。
鬱陶しい。
教室という空間に響くクラスメイトの声も、
容赦なくじゃれてくる生徒Aの手も、
生きた年数だけが違うだけで上からものを言う教師も、
何もかもが鬱陶しい。
帰りの時間になることだけをひたすらに願って、ただ大きいだけのリュックを背負って帰路に着く。
見慣れた家が立ち並ぶ場所に着くと、ようやく息ができた。日陰ができて、吹き抜ける風が気持ちいい。
扉を開けて、2階へと上がり、電気をつけた。
ここだけが、自分の居場所。
締め切ったカーテン、無機質な白色の電気、小さなベッド、机に置かれたゲーム機と少しの本。
今流行りのゲームなんてない。
みんなが好きな作品もない。
全部、自分好みの物しかない。だからここでしか息をできないんだ。
ここでなら、もう何も気にしなくていい。上下一緒のグレーのスウェットを着ていたって、髪がボサボサだって、誰も何も言わない。風通りが死ぬほど悪くても、空気がなんとなく重くても、良かった。むしろ心地いいくらいだ。
片手で持てる布みたいな荷物を投げ飛ばし、椅子についた。
私はそう、深海生物。
流行りの服は着ない、
流行りの食べ物は知らない、
流行りのアニメは見ない、
好きな物だけを小さく集めて、自分だけの居場所を作っている。皆が知らない海の底で。
私は、そう、深海生物。

12/19/2024, 1:52:29 PM

夫婦

澄み渡る水色の空。
 雲一つない晴天に、柔らかく差し込む太陽。
 白いレースカーテンを照らし、自然と背筋が伸びるような気持ちにさせてくれる。
 小さなウォールナットのローテーブルに、私と、もう一人彼が向かい側に座っている。
 晴天から一点、私たちは今後について考えていた。
 別れるとか、そういうことでは無い。
 むしろその逆だ。もう付き合っている期間が長い。そろそろ結婚も視野に入れるべきか、どうかという話し合いをする。
「俺ははっきり言うと、お前と結婚したいって考えてるよ。」
 真面目な顔をして、照れる様子を一ミリも見せることなく私に言った。
 彼の気持ちは、とても嬉しい。私の事を考えて、そしてずっとそばにいてほしいと願ってくれているのだから。嬉しくないわけが無い。
 彼に対する好意を疑ったことは無い。それは事実だ。
 デートしたり、プレゼントを貰ったりあげたり、自分たちの限られた時間の中で、合間を縫って連絡をしたり。そういうちょっとした事が、私は楽しかった。
 しかし、それはカップルという関係だからであるからだ。
 勿論カップルで同棲している人達もいるというのは知っている。しかし、私は実家暮らし、彼は一人暮らしなので、一緒に住んでいる訳では無い。
 今ここで会話している場所は、彼のお家だ。
 私達がここまで続いたのは、それぞれ自分のために使う時間があったからだろう。
 私には私の、彼には彼の生活があり、趣味がある。
 二人で会う時間と、その時間がはっきり区別されていたから、今があるんだろう。
 しかし、結婚するとなるとそうはいかなくなる。
 お互いの認識では、同じ家に住むことになり、今の生活からだいぶ変わる。
 生活を共に送り、日常の中に彼がいるということになるわけだ。
 寝る時も、食事をする時も、休んでいる時も。
 それが苦痛に感じるとかではない。ただ、それによって今の関係にヒビが入り、もう二度と今のように話せなくなってしまうのではないか。そう考えてしまうのだ。
 慣れてしまうから、逆に慣れずにいつまでも他人行儀になってしまい、疲れてしまわないか。
 そんな不安が頭にもわりと浮かび上がった。
 軽い埃が溜まっているような頭では、安易に「うん」と頷けなかった。
「……あのさ、聞きたいんだけど」
 私は彼の「結婚したい」という要望から少し方向を変えた。
「なんで、結婚したいの?」
 純粋な疑問だった。
 別に今の関係でも楽しいし、このままでもいいのではと思うふちが私にはある。
 しかし、彼はその一歩先を進んでみたいと、つまりはそう言っているのだ。
 なぜ一歩進みたいのか、今の関係ではいられなくなる不安はないのだろうか。
「えっ、なんで結婚したいか!?……うーん」
 予想外の質問だったらしい。彼は素っ頓狂な声を出して驚いた。
「逆に聞くけど、お前は俺と結婚したくない?」
「それが分からないんだよね。」
「分からない?」
「なんか、別に今の関係のままでもいいかなって……」
 怒られるだろうか、自分が思っているより、私の想いがそこまででは無いということを。
 そんな事じゃ怒らないと思うが、大事な話をしているのだ。心の中じゃ何を思っているか分からない。
「……俺はさ」
 私の考えを聞いた彼はしばらく考えた後、言葉を告げた。
「いやさ、確かに俺も今のままでも十分楽しいよ。全然今の関係に満足してないわけじゃないよ。もちろん。」
 怒られる、そんなのは杞憂だったようだ。
「でも、俺は…もう、付き合って期間も長いんだし、次の関係に進んでもいいと思うんだ。」
 お前が嫌なら、全然今のままでもいいんだけど、と少し零す。
「結婚したいとは言ったけど、俺だって夫婦ってのが、どんな関係なのか分かんない。だから、一緒に探していきたいと思ったんだ。」
「二人だけで分からなかったら?」
「俺の両親とかお前のご両親にも積極的に協力してもらおうぜ。相談乗ってもらったりとかさ。」
「……一旦距離を置く、とは言わないんだね。」
「夫婦になろうって言い出した本人が、距離置く前提で話進めているわけないだろ。」
 あ、一人の時間も大切か。と彼は呟いた。
「それにさ、夫婦になれば、もっと、守れると思うんだよな」
 守る。あまりにも抽象的で、どこかの少女漫画に出てきそうなセリフだ。
 しかし、今までの経緯を丁寧に説明してくれた彼だ。聞けばきっと真面目に返してくれるだろう。
「守る?」
「いや……もうそういう事言う時代じゃないって分かってるけど……夫婦になるってことはさ、もう好きだって気持ちだけじゃ生きていけないんだよ。」
「うん。」
「経済的にも、生活的にも、生きていくために、歩いていくためにはそういう事も考慮しなきゃいけない。」
 「だから……その、気持ち悪いこと言うかもしれないけど、お前とそういう関係になりたくなった。」
 歯切れが悪いように彼は言った。
「そういう責任が伴ってくる関係に、なりたいと思ったんだよ。『俺と結婚してるから、この人は渡せない。俺がこの人を守っているからだ。』みたいな……かっこわり、これじゃ酷い独占欲だ。」
 はは、と眉を下げて彼は頭をかいた。耳元がうっすらと色付いてるのが、短い髪から見えてくる。
 こちらも、少しだけ身が硬くなる。熱が少し帯びた気がした。
「……色々言ったけど、良かったら、前向きに考えて欲しい。俺は、本気だよ。」
 紅潮させた顔をそのままにし、彼は私と向かい合った。
 ……そうか、夫婦になるという事に、彼はそう考えているのか。
 私は、彼の考えを聞いてそうなのかとも思ったけど、やはり未だ自分の考えは纏まらない。けれど、一つだけ彼と違うところがあるのは分かった。
「守るのは、貴方だけじゃないよ。」
 机の上に結ばれた彼の指先を、自身の手で覆い被せた。
 私の手の大きさでは彼の手が少しはみ出してしまう。
「私も、守りたい。」
 この先、二人で過ごしていく時、どんな波乱が待ち受けているか分からない。
 その時、全て彼に任せっぱなしにして、彼だけが傷付いて行くのは、見たくない。
「傷は半分負うよ。一緒に痛いって叫ぼうよ。」
 貴方となら、それでもいい気がした。
 抱えた思いはそのままで、新しく覚えた少しの期待を込めて笑いかけた。
 彼は目を見開いて、覆った私の手と顔を、視線が行き来していた。
 カーテンがそよそよと横に揺れる。
 新しい季節を運びにきたような、優しい風だった。
 案外、夫婦になる日が近かったりして。
 
「え、待って、じゃあ今のは――」
「待って。やっぱもう少し時間ちょうだい。」
 前言撤回。まだ時間かかりそう。

10/7/2024, 3:53:35 AM

星座

最初は、関係の無い個々としての存在だ。誰の力も借りず、衝突で生まれ、自らが光だし、その光が何かに届いた時、初めてそれを「星」と呼ぶ。
 思えば、星座というのは人間の手で生み出されている。遠い昔の洞窟から真っ暗な空を見上げた人間から、望遠鏡を担いで観察をする研究者までも。彼らがいるから、いたから、伝説は生まれたのだろう。
 そうして、繋がりのなさそうな点と点を関数のごとく結び、星座へと成っていったのだろう。
 それは、星だけではないのだろう。
「えっ、お前もこのアニメ好きなの?」
 それは、とあるアニメショップでの一幕。好きな作品の新作グッズが出たから、学校帰りに寄った時。
 普段は多くの友達に囲まれ、教室の話し声の大半を占める彼が、1人でこの店に寄っていた。
 そうだよ、と僕は頷くと、「嬉しい」という表情を隠しきれず手に持ったグッズをそのまま、隕石の如く近付いてきた。
「まじか!!俺この話題話せるの誰もいなかったからさー、めっちゃ嬉しいわ!」
 意外だ。彼らの話をしっかり聞いていないが、このアニメの話をしているのかと思った。
「えっ、どの話が好き?てかさ、電車一緒だったよな?語りながら帰ろうぜ!」
 僕の意見を無視したまま、流星群のように話を畳み掛ける。
 でも何故かそれが、うざったらしくなくて、むしろ、輝いて見えて。
 僕も欲しかったグッズを手に取ると、うん。と頷いた。
 どうやら、人間がいないと星も縁も結べない。
 この作品も、生み出されなければ、もっと言うと作者、人間がいなければ、僕達はここで話さなかった。
 出会わなかった。そういう意味じゃ僕らも星なのかもしれない。
「ランダムグッズ、1個ずつ買って誰出たか見ようぜ。」
「いいねそれ。」
 星の見えない真っ暗な空と、眩しすぎる街灯を浴びながら、僕と彼は横並び1列になった。

8/27/2024, 5:32:28 AM

友情

広がるような青い空。
 ラムネに綿あめを乗せたようなもくもくした入道雲が、あの山の方を覆っている。
 下を見れば、ミニチュアが並べてある小さな街。
 あの大きな駅も、よく行くコンビニも、公園も、全部が小さく見える。
 学校の屋上で、私は2人分のベンチの端っこに座った。
 季節はもう進路相談の時期。
 大学なんてまだまだと思っていた私たちだけど、三者面談で「行きたい大学を決めておけ」と投げやりな先生の一言と共にプリントを何枚か渡された。
「んー」
 改めて、配られた進路調査表を目にする。あの雲と同じくらい真っ白なそこに、真っ黒に書いた夢が乗るのだろう。
 そこに、本当に幸せがあるのだろうか。
 幸せなんてご大層な言葉は良い。そこに本当にいい未来があるのだろうか。
 晴天とは似つかない乱層雲を隠して、はぁと一息風を吹く。
 すると、秋に吹く涼しくて軽い足取りで屋上の扉がばん、と開いた。
「三者面談、終わった!」
 小さい頃から見ているその笑顔にはもう見慣れたはずなのに、今の私にとっては羨ましくて眩しいほどだった。
 その太陽は許可もなく、空いているもう端っこの方に座る。
「どうだった?」
「無理」
 満面の笑みで買ってきたであろう炭酸を開け、勢いよく飲んでいく。
 プシュッと音が、セミの音と共に鳴った。
 ごくごくと喉を鳴らして飲んでいく。口を離した頃にはもう半分になっていた。
「今のままでも楽しいし、進路なんて考えたくないよ。」
「分かる。」
 分かる。なんて言葉じゃ語れないほどの同意を、上手く言葉に表せずそれだけ言った。
 まだまだやらなきゃいけないことがある。
 むしろ、これからが本番だ。
 夏休み中に分からなかった所を復習し、今より更に成績をあげなければならない。
 そもそもなりたいものも分からないのに学ばなければならないのか。
「どんな職業でもなれるように勉強をしろ。」なんて言うけど、それじゃ机に向かう気力もない。
「ね、見てみて」
「ん?……って、ちょっとなにこれ!」
 気持ちが雨模様な時、友達が不意に1枚の画像を見せてきた。それは、この間遊びに行った時帰りの電車で爆睡している私の写真だ。
「何で撮ったの!?消してよ!」
「やだ。だってこの寝方美しすぎない?」
「寝相を褒められても嬉しくないよ!!」
「いいじゃん。これは、あんたを脅す時に使う」
「何それ最悪……」
 今度からもう絶対に友達の前で寝ない。心に決めた瞬間だった。
「あ、卒業したら遊園地行こーよ。あ!大学生だからホテル泊まれるんじゃね!?」
「ホテルか。いいね。奢りなら行くよ。」
「何それ割り勘だよ!」
「冗談。」
 まだ行く約束すらしていないのに、もう行く前提で話が始まってしまった。
 そうだ。この子と話す時はいつもそう。
 大体は言葉だけの約束になるけど、「一緒に」という言葉を伝えてる。
 そんな無責任な約束が、今はとても心地よかった。
 さっきまで何で悩んでたか。それを忘れるほど軽くは無いけど、なんか声を出してスッキリした気がする。
 許せないけど。 
「ねぇ」
「ん?」
「卒業しても、仲良くしてよね。」
 漫画のセリフのようなことを言った。スッキリした勢いで行ったのかもしれない。さっきまでは、この言葉を言うのですら喉の奥に引っかかったように、出てこなかった。
 だって、お互い忙しくなって連絡をかける暇すらないのかもしれない。
 でも、この子が未来友達じゃなくなるほど疎遠になるのは、なんだか苦しくなってきた気がした。
 こんなにストレートで、気恥しいことを言ったことがなかったかもしれないな。
「当たり前じゃん?」
 不安になったその思いを一掃するように、彼女はそう答えた。
「毎日あんたにスタ連してあげるから。」
 ほら。また出た無責任な言葉。
 でも、きっと彼女も同じ想いなのだろう。
「さいあく。」
 ありがとうの想いを込めて、自然に上がった口角をそのままにして、悪態をついた。
 彼女は、カバンからもう一本ジュースを出して私に手渡す。
 受け取ると、私も同じように豪快に蓋を開けた。
 同じように、この不安な思いを、雨雲を、押し潰すように。
 プシュッと音を立て、私は思い切り飲み込んだ。
 鳴り響いたその音が、いつもより爽快に聞こえた。

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